第4話 神秘のポーション
毎日更新1週間目。
休まず毎日ってのは本当に大変です。
ずっと1年とか続けてる人は尊敬します。
今日は朝から、ギルドコアの部屋で、何かいい施設はないかとカタログに目を通していた。
やっと時間的余裕ができたので、死者の街で手に入れたGP(俺の取り分)の使い道を考えていたのだ。
何を作ろうか?
温泉や露天風呂のためだけに箱庭世界みたいなのを作ろうか?
沢山GPがあって夢が広がる。
そんな時、マユさんから突然連絡が来た。
「マユ(ギルド):クロさん! た、大変なものが出来てしまいました。急いできてください!」
なにやらすごい興奮した声で、此方の都合も聞かずに一方的にそんな事を言って来る。
マイナス方向にやばいものが出来たって感じじゃなくて一安心だが、いったい何が出来たんだ?
マユさんは、今何処に居るかも言い忘れていたので、適当にリビングから探してみた。
「あ、クロさん。こんなものが出来ました!」
俺がその部屋に顔を出した瞬間すごい勢いで何か薬の入ったポーションの小瓶を見せてくる。
何か珍しい薬でも作ったのかと軽い気持ちで『アイテム鑑定(M)』してみる。
「どれどれ? おお、すごいな。この回復量とバフ効果。よく作れたな」
そのアイテムの鑑定結果がこれだ。
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神秘のポーション
神秘的なポーション。
最大HPの50%回復、一定時間最大HPが100%UP。
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なかなかの性能だ。
素材の制限が厳しい中でこれだけのものを作ったと言う事は、マユさんの腕が上がってきたのか?
「って、待ちなさいよ! ちゃんと調べたの? 割合回復のアイテム、それも5割なんて高い割合なのよ!」
なんか俺の反応が薄いのが不満だったのかシーナが怒鳴り声を詰め寄る。
「50%回復だろ? 今ある素材で作った点はすごいけど。そこまで騒ぐ事か?」
他にリビングに集まっていた、アン、リーフさん、レナさん、ミルファさんなんかもシーナに賛同しているようだ。
もちろん、作ったマユさんもだ。
賛同していないのは、俺と、なにやら青い顔をしたティナだけだ。
「割合回復なのよ、部位欠損に効くじゃない! それも5割の回復量よ! 最高級の回復アイテムじゃない!」
「うん? おれは最大HP100%の方が効果時間次第ではすごいと思ったぞ」
「そりゃ、そっちもすごいけど、部位欠損の治療薬ってのはすごいわよ!」
う~ん、材料さえあればエリクサーが作れるからな、ピンとこないんだよな。
部位欠損も『フルヒール』使えば一発だろうし。そういえば、『フルヒール』の部位欠損試した事無かったな、一度試した方がいいのか?
「で? マユさん。それどうやって作ったんだ? 回復アイテムって結構種類があるから代表的なやつしか作り方知らないんだよ」
神秘のポーションの価値がこの世界では相当たかいっぽいってのは解ったけど、それよりも俺は作り方の方が気になった。
初めて聞く名前の回復アイテムだったからだ。
まあ、WMO時代市場に並ぶのは回復効果とコストパフォーマンスがつりあったものだけだったからな。
ゴブリンの傷薬でも、謎の液体でも、回復効果と値段がつりあってさえ居れば売れたからな。
だから、生産コストが割高のものはまず市場に並ばなかったんだよな。
「あ、あの……それが、ポーションを普通に作っていたら出来てしまって……」
「え!? ポーションを?」
「はい……」
マユさん自信もどうしてこんな物ができたのかわかって居ないようだ。
もしかしたら、アンの『恐ろしい才能』みたいにレシピ外のアイテムが作れる素質スキルでも生えたのか確認してもそういうわけでも無さそうだ。
なので、調合室に行って神秘のポーションができた時と同じように作らせる事にした。
「こんな感じです」
10本ほど作らせて見たのだが、2本ほど最高品質が混ざっていたができたものはただのポーション。
「う~ん、極低確率で作成成功だとかだと、検証しようが無いな。一つ可能性があるとしたら、妖精達か……」
マユさん自体の手順に特に気になる点は無かった。気になる点はお詫びの為に手伝っている妖精達だろう。
あの妖精達の効果なんだろうか?
「今、薬草はどのくらい残ってる?」
「200ほどです。どうしましょう?」
「俺とマユさんで100ずつ作ってみて、神秘のポーションが出来るか試してみるか」
「はい」
と作ってみたのだが……。
「普通のポーションですね」
「品質が少し上がりやすいといった感じはあるが、ただのポーションだな」
なんか、俺の作ったポーションで最高品質を外れたのが3本しかなかったのだ。
妖精さん達の手伝いが成功率補正とか、品質補正にプラス効果があるのは確かだろう。
「う~ん、こうなると、極低確率にアイテムが出来る可能性とかしかないのか?」
「そうなのでしょうか?」
俺と、マユさんで他に可能性はないかと考えてみるがこれと言って可能性が浮かばない。
「つまり、ポーションの大量生産をしてると、稀にあの回復アイテムが出来るわけ?」
俺達の話をずっと聞いていたシーナが口を挟んでくる。
「ま、そうなんだろうな……」
「あんた達、絶対に間違えて店に並べたりするんじゃないわよ! 鉄装備どころじゃない騒ぎになるから」
めちゃくちゃマジな様子でシーナに、「は、はい」「わかった」俺達は頷く事しかできなかった。
今度から検品はしっかりやらないとな。検品要員確保の為にだれかに『アイテム鑑定』スキル取らせた方がいいのかもな。
「ところで、その回復アイテムはどうするのですか?」
シーナの忠告が一段楽した所で、レナさんが聞いてきた。
「まあ、俺達で使うしかないだろうな。誰に持たせるかは別にして……」
「それがいいと思います」
「市場に出してエリクサーの二の舞は嫌よ!」
ミルファさんやシーナもそれに賛同する。
「装備なんかを作るときの素材とかにはしないでありますか?」
アンの言うとおりそっちの方向性もあるか。
でもな、サンプル数が少なすぎでぶっつけ本番になりそうだしな。
もう少し量が確保できてからかな。出来るかどうかはわからないけど。
「では、どうしましょうか?」
「ま、保留にしておくか。効果を検証するにもサンプルが少なすぎるしな」
と言う事でお開きになった。いや、なるはずだった。
「ティナ? さっきからどうしたのですか? 顔色が悪いですよ」
「え!? そ、そんな事無いよ。リーちゃん」
リーフさんから指摘されたティナの目がおもいっきり泳いでいた。
怪しすぎる。
そういえば、あいつにしては終始大人しかったよな。
「ティナ? お前何か心当たりがあるのか?」
「え? え? そ、そんな事無いよ? ま、間違えたとか絶対無いよ!」
「ティナ、正直にいいなさい」
「リ、リーちゃん。なんか怖いよ? よくないよ!」
それから、あまりにも怪しさ爆発してたので、リーフさんに別室でティナの尋問を頼んだ。
――数分後――
「ごめんなさい、もうしません! ごめんなさい。ごめんなさい」
皆に頭を下げるティナ、特にマユさんには、何回も頭を下げている。
リーフさんがティナから聞き出した内容は、薬草を収穫したあと厩舎前でサボってたら薬草を馬にたべられて、それを隠す為にティナの薬草畑から持ってきたって事らしい。
ティナの薬草畑なんかあったのかと疑問に思って聞いてみると、冒険者ギルド加入クエストで拾った薬草を妖精達に任せたまま忘れていたらしい。
あったなそんな事。
「まあ、調べてみましょうその薬草畑。変なものが生えてたりすると怖いから」
シーナの意見には俺も全面的に賛成だ。
なので、その場に居たリーフとティナ以外で砦にあるティナの薬草畑に飛んだ。
残った二人はお説教タイムだ。どちらがどちらにお説教するかは言うまでも無いだろう。
「おい、ここ本当に砦なのか?」
「そうよ? 何か変な事でもある?」
砦の中央の建物から一歩外に出るとおかしな景色が広がっていた。
一言で言うと、森って感じだ。
砦の外に森があるのではなく、砦の中が森になっていたのである。
「あんた、ちょくちょくこっちに顔出してなかった?」
「時々畑や倉庫に行く事はあったけど、移動が面倒だからこっちに飛んできた場所から直通の通路作ったんだよ」
うん、いちいち砦の中心の建物から畑のある建物までいどうして、地下に降りていくとか面倒だったんだよな。
拠点内だと、少し高めのGP払えば位置関係無視して通路が作れるしな。ワープゲートみたいなやつが。
「前の砦よりは好きですよ、この木が一杯になった砦は」
「軍事拠点としては使いにくくなっている気がしますが。好き嫌いでいうなら、好きですね今の状態の方が」
レナさんとミルファさんは、それなりに来て知っていたようだ。
「それよりも、ティナさんの畑に急ぎましょう!」
と言う訳で砦の片隅の畑(?)というよりは、薬草の群生地って感じの場所にやってきていた。
特質すべきは、妖精達が楽しそうに世話をしている事だろうか?
(また、薬草とりにきたの~?)
(今日はもうダメだよ~)
(ティナちゃん一杯とって行ったから~)
(うちどめ~うちどめ~)
「ちょっと、何が生えているか見せてもらうだけってのはいいか?」
(見るだけならいいよ~)
(取ったりすると罰金だよ~罰金~)
(あとリーフさんのカミナリ~)
(((ガタガタガタガタガタ)))
リーフさん……。まあ、それはともかく変なものが生えてないかの確認だからな。
「シーナ鑑定って出来るか?」
「薬草か毒草かとかなら見分けもつくけど……流石にマユは、見分けがつくようなものを間違って使ったりしないでしょ」
ああ、一見して解るような違いは無い可能性もあるのか。
「それじゃあ、俺とマユさんで鑑定していくか。沢山あるから大変だろうけど……」
「はい、がんばります!」
そうして、一本一本鑑定していく。
薬草の群生地が地味に広がっていて数が多くて心折れそうになっていたところで、マユさんが声を上げる。
「ク、クロさん。普通じゃない薬草がありました!」
マユさんが指差している先を見てみると、見た目は殆ど薬草と変わらず、良く目を凝らすと淡く光ってるのが辛うじてわかる感じの薬草だ。
俺も鑑定してみると、
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神秘の薬草
特殊な条件下で極稀に生まれる極めて貴重な薬草。
栽培などは無理と言われている。
使用すると、HP5000回復。
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こんな結果が。
「これ、神秘の薬草じゃないか!」
「知っているんですか?」
「あんた、これ知ってるの?」
確かに、俺は、この神秘の薬草を知っている。WMOでは結構有名な薬草なのだ。
実際手にした事は無いが、廃人連中がすごい高値で買いあさっているのだ。
「ああ、知ってはいるけど。話に聞いただけで実際目にするのは初めてだ」
「どんな話なんですか?」
「ドーピング薬……つまり、能力をUPする薬の素材だって話だ」
「能力増やす薬なら山ほどあるじゃない。何でそんなのが有名なのよ」
「シーナ、それって一時的に能力強化するやつの事だよな」
「え? そりゃ一定時間しか効果ないわよ。当然じゃない!」
「これで作った薬は永続的に能力値を上げるんだよ」
「え!? 永続って魔力とかがレベルもあげずにパワーUPするって事?」
「そういうことだ」
「それって「そんなすごい薬が作れるんですか!?」」
シーナを遮ってマユさんがすごい勢いで尋ねてくる。
「ああ……ただ、ここだと、他の材料が手に入らないだろうな」
「そうですか……そんなすごい薬ですものね……」
WMOだと、他の素材は神秘の薬草に比べれば簡単に手に入ったんだけどな。
ドラゴンの住みかを治める長とかのドロップだったからな。こっちだと……きついよな。
向こうだと、神秘の薬草の流通は完全に運営が管理してたっぽいからな。
運営イベントの大会とかの入賞商品とか、運営管理のクジ系統から出現報告がある程度だったから。まあ、入手法を見つけても隠蔽して独占とかされそうだけどな。
あと、あの神秘ポーションはこの神秘の薬草を材料にしたで間違いないだろう。
エリクサーと同様のものが出来ても驚かない。
WMOではそんなもったいない使い方するやつは居なかった……たぶん。
まあ、ネタに走るやつは何処にでも居るからな。
その後、他にないかと、丁寧に調べていくと。
最終的に合計3つの神秘の薬草が見つかった。
群生地に生えてる薬草は、5000は軽く超え手たと思うから、確率0.1%も無い。
そうだとしても、神秘の薬草が入手できる可能性が出来ただけで喜ぶべき事だ。
だが、本当に使い道に困るぞ。
下手に売り出したりしたら大混乱だし、アンの言うように素材として使ったら、怖い性能の装備とかできそうだしな。
回復薬にして使うのももったいないよな~。
贅沢な悩みだって事は解るけど、本当にどうしよう?
次の話は、使い道に悩みます。
ラストエリクサー症候群ってゲームが現実になっても治らない気はします。




