第5話 思わぬ壁
大分、遅くなりました。
やっと更新です!
何か作るにしても道具が無いと始まりませんよね……。
トトン トン トン トトン
いつもとは違い、力加減がすごく難しい。
スキルに頼らない鍛冶がここまで難しいとは……。
それに何時も作るものより小さいってのも原因かもしれないな……。
でもまあ……こんなものか……。
後は、仕上げだな。
焼き入れ……。
焼き戻し……。
自然冷却……。
そういえば、自然冷却ってこの鍛冶部屋の中だと何故か早く済むんだよな。
スキル効果とか、設備のこうかとかあるんだろうか?
「出来たでありますか?」
ずっと俺の作業を見学していたアンが作業が終わったタイミングを見計らってだろう話しかけてきた。
すごい色々質問したそうにウズウズしてるな。
「ああ、一応な……ただ……出来は……」
今作っていた物に『アイテム鑑定(M)』をかけてみる。
う~ん、やっぱりだめだな……。
小さな細長い金属の塊としか鑑定されない。
素材については、銅で作ったのが2本、鉄のが4本、鋼が4本、他の作業であまった銀で作ったのが1本だ。
「それで、これは何でありますか?」
「ああ、針だ。裁縫とかするためのな……」
まあ、鑑定しても針と認めてもらえないんだがな……。
「針でありますか? 確かに針の形であります。でもどうしたでありますか? 今まで作ったことはなかったと思うのであります」
「ああ、それは――」
俺は、アンに針を作ることになった理由を説明してやった。
問題は、昨日の護衛クエストで手に入れたワイバーンだった。
鱗とか肉とか骨とかその辺はまた使い道を考えるとして、羽の所の皮膜は後衛職のマントやローブなんかの素材に丁度いいと思ったのだ。
セリカが魔法使い系の職業に転職するのもあるし、元々装備品の防御力に不安があったのもあるからな……。
で、丁度いい手ごろな素材だと思ったんだよ……作り始めた時は……。
それが……。
実際始めてみると苦戦しまくった。
生産スキル的には十分加工可能な物だったのだが……問題は道具だ。
まず、普通のハサミでは皮膜であってもびくともしない。
あまっていた高品質の鉄のナイフを使ってもほんの少し切れ目を入れるだけでボロボロになる。
鋼鉄のナイフでも直ぐにだめになってしまう。
結局、持ち込み品の剣を使って裁断する事になった。
ま、そこまではいいんだ……何とか作業は終わらせられたのだから……。
最大の難問は……。
裁縫の作業だ。
うん、針が通らない素材をどうやって縫ったらいいんだろうな……。
ストックしてあった針を10本ほど無駄にした時点で普通の針を使うのは諦めた。
「そんな訳で、鍛冶で針を作ろうとしたんだが……」
これまで生産系の設備はともかく道具で困った事がなかったからな……意外に盲点だった。
WMOの中ではNPC売りの道具で特に問題がなかったからな。
プレイヤーメイドの道具なんか使ってるのは生産系の上位のプレイヤーが品質を追求した最上品を作るときぐらいだったからな……。
それに、こっちに来てからは扱う素材の質自体低いのと生産設備の関係で道具に困る場面がなかったからな……。
持込の素材は、設備の方がまずネックになって殆どかまえなかったしな。
「こんな感じだな……」
出来上がった針を次々にワイバーンの皮膜に突き立ててみる。
銀の針もどき……当然の如くグニャリと曲がる。
銅の針もどき……これも2本とも簡単に曲がる。
鉄の針もどき……3本がポキリと折れて、1本が曲がってしまう。
鋼の針もどき……曲がりはしなかったが全部折れてしまった。
「う~ん、やっぱりだめか……」
「残念なのであります」
う~ん、そもそも、針になってないからな……。
生産設備を作る【生産設備職人】、【家具職人】や、色々な道具を作る【道具職人】、【生産道具職人】なんかの系統は全くノータッチだったからな……。
NPCで買えばよかったし、戦闘系の職業で前提に必要なのもなかったからな……。
「これは、後々問題かもしれないな」
この先、設備が良くなっていったとしても道具の関係で扱えない素材が出てきそうだ。
今回、一応鍛冶場とかの道具を見てみたのだが、マユさんが最初から使っていた物にしても、設備を作ったときについていた奴にしても。
最低ランクかその一つ上の品質だった。
GPのラインナップ見ても道具類は殆どなかったしな。
あっても、どっちかと言うとインテリアに近い……狐っ娘姉妹の使ってる狐のフライパンとかみたいなのだけだったからな……。
当然実用的なものではなかった。一応使える程度だ。
「今でも困るでありますよ! ワイバーンの皮膜を加工できないであります!」
アンは不思議そうに俺の呟きに答えてくる。
まあ、今回の皮膜については切断は一応出来てるから他にやりようはあるにはある。
それよりもだ。
「じゃなくて、今後もっと上位の素材を使って鍛冶なんかをしようとした時に道具が追いつかなくなるって事だ。アンも後々はオリハルコンとか使って鍛冶をしたいだろ?」
「もちろんであります! やってみたいであります!」
オリハルコンって言葉にすごい食い付を見せるな。
「今のままだと、上位はもちろん中位の素材ぐらいからでも加工がきつくなりそうだ」
「そんな! であります! 何とかならないのでありますか?」
「う~ん……」
こうなってくると、道具の方の自作を考えないといけないだろうな。
その場合、現状俺が職業を変えられそうにないから、アンかマユさんにそっちの職業をマスターしてもらうか……。
マユさんの方でもすり潰せない素材とかが出てくるだろうしな。
いや、いっそのこと二人とも道具を作成する職業に付いておくのがいいのか?
道具の手入れとか調整とかのスキルもあるだろうしな……。
「後でマユさんとも相談だけど、アンかマユさんのどちらか、もしくは二人共に生産道具を作成するような職業になってもらう事になりそうだな」
「道具を作る職業でありますか?」
「まあ、今作ってた針みたいのとか、鍛冶で使うハンマーや金床とかそういうものを作る職業だな。まあ、まずは今の職業のマスターが先だろうけどな」
「わかったであります! がんばるであります!」
う~ん、持ち込み品の修理に関しても色々問題が出てきそうだな。
今まで修理の必要があるほど使ってなかったからな。
そのまま、道具の問題を色々考え込んで時間がすぎていたのだろう。
セリカに渡すプレゼント用のナイフ作成に詰まったアンが気分転換がてらなんだろう、声をかけてきた。
「ところで、師匠! 昨日のクエストで手に入れた光の宝珠で装備を作らないのでありますか?」
ああ、加工するところを見せてくれと言う催促だなこれは……。
見学したい! と全身があらわしている。
「う~ん、色々考えたんだがな……今回は細工とエンチャントの方を中心に作ろうと思うんだ」
「鍛冶じゃないでありますか?」
「今日最初に最高品質の銀のインゴット作って、銀の丸い板をいくつか作っただろ」
針の前に、まいどの通り銀貨をつぶして最高品質の銀のインゴットを作っていたのだ。
浄化とかには銀ってすごく相性がいいからな。
「そういえば、作っていたのであります!」
「あれを後で彫り込んだり色々魔法的な処理したりしたものに光の宝珠を取り付けてペンダントにしようと思っている」
「そうなのでありますか……」
アンは少し残念そうにしている。
たぶん、銀に添加して神聖属性のインゴットを作る方向性で加工すると思っていたのだろう。
まあ、俺もそれは考えたんだが……。
あれは、リカバリーが全く効かない一発勝負だからな……。
流石に生産系は齧った程度だからそこまで成功率に自信がなかったんだよな。
だから、光の宝珠の力を増幅するような形でペンダントを作ることにしたのだ。
これなら、細工部分で失敗してもやり直しが一応効くからな。
まだ成功率が高いだろう。
「まあ、でも武器なんかでも細工やエンチャントも必要になる場合もあるし見学しても無駄にならないと思うぞ」
「わかったであります! 見学するのであります!」
「とは言っても、マユさんにも見せたいから夕食の後だけどな」
「それまで、セリカさんのプレゼントのナイフ作りをしてるであります!」
「ああ、がんばれ」
一応、アンも1つ2つ作れてるみたいだが、少しでも性能の良いのをと考えてるんだろうな。
ま、邪魔をしても悪いし俺は、夜の準備をしておくか。
夕食の時に、マユさんに光の宝珠を使ったペンダント作りの話をしたら、即座に、
「見せてほしいです! よろしくお願いします!」
何て答えが返って来た。
その後、生産に使う道具に関しての話をしてみたら、現状は特に問題は無いけど将来的には必要でしょうと言う事で、二人が今の職業をマスターするまで保留と言う事になった。
その間、食卓を囲んでいた他のメンバーはと言うと……。
興味がないんだろう、まったく気にせず食べたり、今日の出来事なんかを話してたりした。
ただ、俺の隣に座っていたレナさんだけが、話に参加したそうに指をくわえて見ていた。
そして、夕食も終わり、アンとマユさんを連れて作業場に入ろうとしたところで、ちびっ子達5人が駆け寄ってきた。
「出来たんだよ!」
「これだニャ!」
「こっちだワン!」
「…………(できた~)」
「…………(できた、できた)」
それぞれの手に何か絵の描かれた紙を持っている。
一つずつ詳しく見てみる。
まずはティナの描いたのだ。
角が取れた長方形みたいな枠の中に、ミミズがのたくっている絵……。
う~ん、何だろう……。
「これが、私、隣がポチちゃんタマちゃん、両端がテンちゃんとチーちゃんだよ!」
ああ、このミミズみたいなのはちびっ子達なのか。
そういわれてみれば人型に見えるな……。
次は、ポチの絵だ。
ティナと同じような枠の中に……魚の絵……。
うん、リアルな感じじゃなくデフォルメされた魚だけど……良く描けてるな。
タマのは……。
同じような枠の中に、肉の絵。
マンガ肉ってやつだ。
う~ん、もしかして肉を食べさせろと要求してるのか?
ポチの方は魚か?
そして、狐っ娘姉妹は……二人で1枚の紙を出してくる。
こっちは何気にすごいな。
5弁の花びらみたいな感じの枠に、それぞれデフォルメしたティナ、ポチ、タマ、天狐、地狐が描かれている。
それにしてもすごく上手いな!
完成度でいえばダントツだな。
「で、何なんだ? お絵かき競争?」
「違うんだよ! これの設計図だよ!」
ティナがそう言って取り出したのは前に交換したドラゴンの鱗。
そういえば、どんなアクセサリがいいか相談しろと言っていたな……。
でもさ……これは違うだろ!
どんなデザインかは聞いてないぞ!
機能的なものなら生産スキルで何とでもなるだろうけど……デザイン的なものは補正とかないぞ!
WMOでもそういうデザインはプレイヤースキルが必要だったからな。
まあ、スキルが提供するのはお絵かきソフトって感じのもので、絵を描けるかどうかは本人のプレイヤースキルだったからな。
絵の具があったからって芸術的な絵を描けるかどうかは別問題だからな……。
特にその辺は俺には自信がない、ティナよりは良さそうだけど……。
「う~ん、どんなアクセサリにするかは決まったのか?」
「見てわからない! バッジだよ! バッジの絵を描いていたんだから!」
うん、解らなかった。
「バッジはいいんだが……さっきの絵の模様をつけるのは無理だぞ!」
「ええええ~~~~」
「ニャ~~~~!」
「ワ~~ン!」
「…………(ええええ~)」
「…………(どうして~~)」
「今の道具だと、ドラゴンの鱗に彫り込むなんて無理だ」
あえてここは本題からずらす。
あんな絵を彫り込むなんて道具があっても無理だ!
「まあ、バッジにするのは問題ないからそっちはやっておくぞ」
「ええええ~~せっかく考えたのに……」
「うニャ~」
「ワゥゥ」
「…………(いっしょうけんめい)」
「…………(かんがえたのに……)」
う~ん、そっちのデザインセンスとかの話は他の人に頼め……。
「で、どうする?」
「今はそれでいいよ~お願いするよ~」
「お願いニャン!」
「お願いワン!」
「…………(よろしくおねがいします)」
「…………(よろしくおねがいします)」
「了解~じゃあ、バッジに……」
そこで服のすそが引っ張られるのに気づいて後ろを振り向くと、一枚の紙が落ちている。
ティナ達と同じような枠にデフォルメされた妖精さんオールスターズって感じの絵が……。
妖精さん達……もしかして、彼らに任せればデザインの面はいけるのか?
絵としては一番うまかった。
ちびっ子達の襲撃もひと段落して、改めて作業場に入る。
そこにはすでにアンとマユさんが待っている。
「二人とも待たせたな、早速始めるか」
「はい、お願いします」
「お願いするのであります!」
そうして、作り上げたのは、丸い枠の中に六芒星のライン、その真ん中の六角形のなかに光の宝珠をはめ込んだ形のペンダントになった。
効果としては、なんとか即死無効化を持たせる事ができた。
ただし、最大MP-5%のマイナス効果がついてしまった。
う~ん、無理やり増幅させたせいだろうからしょうがないか……。
「これで、『死者の都』の攻略の準備も整ったな。あとはセリカのお祝いの品だな」
「セリカさんへのお祝いは何にしたんですか?」
「ああ、魔法使い系の職業の装備品にする予定だ。杖は一応出来ている」
「あれ? お祝いのパーティはセリカさんの転職の後になるんでしたよね?」
「ああ、その予定だったはずだけど……マユさん何かあるの?」
「いえ、ダンジョンで転職するならその時に装備品は必要ではないのかと……」
「あ…………」
そういえば、そうだ……う~ん……どうしよう……。
次の話は……ところ変わって漂流生活中のあの人が……。
※アクセサリとかのデザイン
結構自由度があります。
ただ、特殊な効果が欲しい場合は素材そのものにその効果をもたせるか、ある一定の法則にしたがって模様などを描く必要があります。
まあ、法則にしたがっていればそれ以外の部分のデザインは自由ではあるのだけど……。




