第4話 冒険者の卵を護衛しよう!
大分遅れましたが、更新です。
今回は、とあるDランク冒険者の視点です。
ついに、ついにこの依頼を受ける時が来た!
10歳の時に冒険者の街に来てから、5年。やっとやっとこの依頼を受ける時が来た!
ギルド加入希望者の護衛依頼だ!
あの街の冒険者にとって、この依頼は特別なモノなんだ!
参加するのは、基本的に、Dランク以上、主力はAランクのこの街でもトップクラスの冒険者達だ。
あの街では、Dランクになって、この依頼を問題なくこなせて初めて一人前の冒険者と認められる。
ある意味一人前の冒険者かどうかのテストのようなものでもあるんだ!
そして、試験官および護衛の主力がトップクラスの冒険者達なのだ!
そう思って参加した。
それなのに……それなのに……。
なんで、ランクEやFの奴らが参加してるんだ!
その上、あのPT一番高ランクの奴でもランクCなのに、なんであんなに大きな顔してるんだ!
僕達のPTのリーダは、Aランクでそれも【軽戦士】Lv38なんだぞ!
それを……それを……。
あのPTは、すき放題やっている!
「リーダー! 良いんですか? あいつら好きにさせて! ギルドマスターからの紹介だっていっても……あまりに酷すぎませんか!」
「あん? 何か問題でもあんのか?」
御者台の隣に座っているリーダは、たぶん聞き流してたんだろう、適当な答えを返してきたので、もう一度説明しようとする。
「だから、あいつら――」
「いや、聞き流しちゃいねぇよ! あの店のチームの事だろう?」
リーダーは、丁度カーブに差し掛かった所で、先頭を走る馬車の方に目を向ける。
何かすごいゴツイ馬が引いた馬車が先頭を走っている。
普通の馬ではなく、モンスターをテイム(飼いならした)モノだろうってリーダーは言っていた。
まあ、馬はいい! だけど、本来先頭はうちのPTが走るはずだったんだ!
この護衛は、全員馬車に乗って移動する。
冒険者、護衛対象、冒険者……って感じで交互に馬車を配置するのだ。
特に先頭は、一番の強いPTが、そして最後尾は次に強いPTが担当するんだ!
「そうです! 何であんなチームが参加してるんですか! それは百歩譲っても、何で先頭やらせたんですか!」
「はぁぁぁ~。順番決めてきた時にも話しただろ、俺達リーダーが相談して決めたって……」
うんざりしたように、ため息を吐いている。
「だから! 何でそんな勝手を認めるんですか! あいつら――」
僕が指を指した先では……。
「よ~し! 次は誰が最初に倒すか競争だ~~~」
「…………(えんきょりこうげきは)」
「…………(ずるい~~~)」
「ニャン!ニャン!」
「ワン!」
「え~~ずるくないよ~」
「ティナ、貴方はこれを使いなさい!」
「えええ~~~う~んと……う~んと……あ! 弓だ! じゃなくて~」
「リーフさん、まって。護衛依頼でティナに弓使わせるとか危なすぎるだろ!」
「確かに……」
「ふ~~~それじゃあ、気を取り直して出発だ~~~」
「…………(まって~~)」
「…………(はなしおわってない~)」
「ずるいニャ~」
「ズルだワン!」
「あいつら……遊びに来てるんじゃないんだぞ! 真面目にやれよ!」
本当に分かってるのか? あいつら!
この依頼は、普通の依頼とは違うんだぞ!
冒険者ギルドとしても失敗できないからこそ高ランクの冒険者を破格の報酬で雇ってるんだぞ!
どれだけ大事な依頼か分かっているのか!?
「別に良いんじゃねぇか? 報酬分はきっちりやってるぞやつ等」
「好き勝手に遊んでるじゃないですか! これは討伐依頼じゃなくて、護衛依頼なんですよ!」
「いや、やつらの提供戦力は2人だ。他のやつ等は一緒に来てるに過ぎねぇよ。それでも緊急時には全員の力貸すっていうんだから文句の言いようがねぇ。それに移動ルートのモンスターを減らすって言うなら文句のつけようもねぇさ」
あくび交じりに、説明してくれるリーダーだけど……。
「それです! 何でそんな依頼が認められるんですか!」
「そりゃ、2人分の報酬を支払うって依頼だからだろ?」
「え?」
あんなに来てるのに、報酬は二人分?
あのチームで2人分の仕事しか出来ないだろうって事なのか?
でもそれなら……。
「あいつら今回の依頼、金じゃなくて、素材で報酬もらうみたいだからな」
「え? 素材で報酬なんてあるんですか?」
「ああ、低ランクの依頼ではめったに無いけどな。高ランクになると、貴重な装備品なんかが報酬だったり、納品する素材の一定割合で武器を鍛えてくれたりと言った感じの報酬もあるぞ」
「そ、そうなんですか……」
「そういや、あのチームの店は、必要材料の何倍かを持って行くと完成品と交換とか依頼出してなかったか?」
あのチームと言う所で、先頭の馬車に目をやるリーダー。
そういえば、薬草持って行くと、手数料分だけ引かれて完成品のポーションにしてくれるとか聞いた事あるな。
今は薬草が殆ど品切れで採取も禁止だから、まともに手に入らないんだけど……。
「確かにそんな話を……じゃなくて、アイテムで報酬払うってのはわかりましたけど、何で2人分になるんですか?」
「ああ、何でもギルマスが結構レアな素材出したって話だな。ただ、その素材相当扱いが難しくて割に合わないってんでギルドの倉庫で埃かぶってたらしいぞ」
冒険者ギルドの買取カウンターは、よっぽど大量に在庫抱えてるとかじゃなければ基本何でも買ってくれるからな……。
そういうのもあるのかもしれないな。
「…………あれ? それって2人分になる理由になってないような……」
「ああ、そりゃ簡単だ。参加人数×報酬額って計算じゃないからな。人数の交渉の余地はあるだろうよ。参加人数減らせばそれだけ報酬は高くなるわけだしな、逆にすりゃ安くだな」
ああ、レアな素材って事はそんなに個数はないわけだから、人数増やしただけ増やす事もできないんだ……。
「? じゃあ何であの人数で来てるんです?」
「そりゃ、見ての通り狩りのついでなんじゃねぇのか? 少なくとも狩りに出てるメンバーの休憩場所は確保できるんだからな」
そういうものなのか……。
まあ、護衛依頼で警戒してる場所ならゆっくりと休めるのか?
「そういうものですか……。って、違います! 何であいつらに好き勝手させてるかって話です! ランクEやFでこの依頼参加したり、リーダー達を差し置いて先頭になったり……」
「はぁ……だからお前は、まだランクDのひよっこのままなんだよ」
「は? どういうことですか? リーダ?」
ふと、その時リーダーの目が真剣なものになる。
強敵と戦う時のリーダーの目だ!
「向こうの空をよーく見てみろ」
あいつらの場所が進む場所よりもはるか前方の空を指差すリーダー。
僕も、よく目を凝らして見る。
うん? 黒い影? 鳥か? いや違うモンスター?
「小さくてよく分かりませんが……モンスターですか? あ! 落っこちた!」
「ふぅ……恐ろしいな、あれでランクEとかほんとバカげてるぜ」
「え? え?」
「少し馬車を横に移動するから、先頭の御者台のところを見てみろ」
あいつらの馬車の御者台には、弓を片付けている綺麗な女性が……。
「って、まさか! あの距離から命中させたって言うんですか!? そんな……」
「そのまさかだな。辛うじて矢が片方の羽を打ち抜いたのが見えた」
そんな、先頭と言ってもそこまで前を進んでいる訳じゃないのに!
あんな、見えるか見えないかの獲物を打ち抜くなんて……何かの間違えじゃ!
「リーフさん、馬頼む。いまいちうまく動かせない」
「そうですか? 特に問題なかったと思いますが……」
「ま、それより、あのモンスターの素材を回収しないとな。ティナー聞こえるか~ちびっ子達と一緒にリーフさんの落とした奴回収して来い」
「わかったよ~~~」
「…………(きょうそう~)」
「…………(はやいものがち~)」
「負けないニャ~」
「あっちだワン!」
なんか子供達が獲物の回収に向かってるな……。
あれ? なんか速度がおかしくないか?
ゆっくりとは言え僕達は、馬車で進んでるんだぞ!
軽々と追い抜いてあっという間にさっきのモンスターの落下地点に駆け抜けていく。
「何だ!? あの速さ!」
僕は、リーダーと同じ【軽戦士】だ。
シーフ系なんかの職業には劣るけど、どちらかと言うと速度重視の職業だ!
だけど、あんな速度で移動は出来ない。
やったとしても逃げる事に全力を傾けた時ぐらいだろう。
それに、まだまだ余裕がありそうだったあの子達……。
「ま、冒険者ランクってのはあくまで目安ってこったな。そもそも、奴ら真面目にギルドの依頼受けてねぇみてぇだしな」
「は? 真面目にやらないって……そんな、少々力があってもダメじゃないですか!」
「ああ、そういう意味じゃねぇよ。ギルドの依頼で稼ごうって気がねぇんだよ、あいつら」
「は? それじゃあ何のために冒険者になってるんですか? 意味ないじゃないですか!」
「ここで一発で答えにたどり着けりゃ、ランクCぐらいいけてる気はするんだがなぁ。わからねぇか?」
そんなこといわれても……。
冒険者ギルドに加入するのは普通依頼を受けてお金を稼ぐためだよな。
あとは、街に入る時の税金を払わないためとかだけど……。
「う~ん……わかりません」
「まあ、わかんねぇからこそ、まだDランクなんだろうけどよ。理由は簡単だ。情報だ!」
「情報?」
「そうだ、冒険者ギルドには、何処にどんなモンスターが居たとか。何処のダンジョンで冒険者がやられて帰って来ないとかそういう情報が集まるからな。あいつらが欲しいのはそういう情報さ。まあ、依頼の方はそれに対する情報料とか便宜を図ってもらうための貸しとかなんだろうよ」
確かにそういう情報は、ギルドに集まるけど……それでどうやって生きていくんだ?
生活費を稼ぐだけでも結構大変なのに……。
「それじゃあ、どうやって生活してるんですか? あいつらは……」
「そりゃ、あいつらあの店の専属PTだろ? 店の売り上げからだろうよ」
あ、そうか!
素材は結局は生産者に売られるんだよな。
それも、ギルドのマージンとか乗せられて。
それだったら、自分でとって加工した方が安く済むのか!
「それに、あの店、装備や回復アイテムもあるから補給も基本タダだろうしな」
あ……言われてみれば……。
「じゃあ、あいつらが冒険者ギルドに加入してるのは、本当に情報を得るためだけ……」
「ま、そういうことだな。ただ、まあ今回の依頼は相当楽できそうだぞ。モンスター狩った分は、狩った奴が取るって約束になってるからそっちは殆ど見込み無いけどな」
「え? 楽?」
僕が聞き返してもリーダーは適当にはぐらかして答えてくれなかった。
その意味は、護衛依頼が終わった時にようやく理解できた。
「一度も、モンスターに出会いませんでした。これが普通なんですか?」
「いや、出会っては居たさ。馬車の所に来るまでにあいつらが全部狩りつくしただけで……。狩った人間が狩った獲物を手にするってルールは当然だな。下手に分けるなんて言ってたら相当もめてたぞ」
僕は、その時、初めて知った。
モンスターが現れていたことに……そして、僕が気づく前に倒されていた事に……。
うちのリーダーだけでなく、他のPTの高ランクの人達も全く文句を言わなかった理由が分かった。
それだけの実力があると分かっていたからだったのだ!
もしかしたら、その場で、見ただけで力量を見抜いたのかもしれない。
事前に調べていたのかもしれない。
だけど、あのチームの実力を最初に会った時点で理解していたのだ。
ひと目で力量を見抜くというのは僕には無理だろう。
でも、情報を集めておく事なら出来たはずなのだ!
だけど、集めることなくあの依頼の集合場所に行ってしまった。
「ふ、おめぇに足りないものが分かったみてぇだな。ま、それだけで今回の依頼に行った意味はあるさ」
「リーダ……」
「ま、分かったならまず第一歩だ。ギルドで奴らが素材売るところを覗いてみるといい。いい素材は自分で使うだろうがな」
「はい!」
その後、買い取りカウンターにモンスターを渡してるあの子供達を見ている。
何処から取り出したというような大量なモンスターの死体が出てくるが、あれは収納系のアイテムだろう。
魔法の掛かった袋とかで大きさや重さなどを軽減する事が出来るものでピンからキリまである。
あの量だと相当に高価なものを使ってるんだろうな……。
「この量は……」
買取カウンターのおじさんが、何か達観した表情で黙々と処理していく。
もしかしたら、こんな事が何時も行われているのかもしれない。
「こ、これは!? まさか……ワイバーン!?」
そんな買取カウンターのおじさんの驚愕に満ちた声が聞こえてくる。
「おいティナ、何時の間にそんなもの狩ったんだ?」
「う~ん、何時だろう? あ! リーちゃんが打ち落としてた奴だ!」
「そうか……。すいません。このワイバーンは持って帰ります」
「……そ、そうか……できれば売って欲しかったが……」
「色々といい素材が取れそうなんですいません」
そんな、買取カウンターの様子に驚いていたのだが……。
ふと、横を見ると……。
「ワイバーンが……居ただと!?」
ピンチの時でも殆ど顔色を変えないリーダーが脂汗かいてるのが印象的だった。
後で知った事だけど……ワイバーンというのは、AランクPTですら苦戦を免れない強敵らしい。
低ランクとは言えドラゴンの一種の事だけはあるみたいだ。
本当に、あのチームのレベルは冒険者ランクとはかけ離れてたんだと改めて分かった。
次の話は、手に入れた素材で製造します。
※冒険者ギルドのランク
S:事実上の最高ランク
A:トップクラス
B:相当の実力者
C:ベテラン ※このランクで止まる人が結構多い
D:一人前
E:駆け出し
F:初心者
G:加入クエスト中




