第3話 素材を探して……
今回は、即死無効化するアクセサリの素材を探します。
シーナが見つけてきた、 『死者の都』だの『呪いの都』だの色々物騒な呼び名が付いてるダンジョン。
まあ、面倒だから、『死者の都』でいいや。
その場所についての情報はあまりないらしい。
その少ない情報と言うのは……。
物騒なものが前についてはいるが、都と言う名の通り、それなりの大きさの都らしい。
まあ、住人はアンデットなんだが……。
その上、アンデット達は相当高レベルらしく、奥まで探索にいって戻ってきた記録は無いらしい。
俺達にとって強いか弱いかは、いまいち不明だ。
ただ、高レベルのモンスターが徘徊するこのダンジョンがあまり問題になっていないのは、アンデット達がこの都に縛られているかららしい。
いわゆる地縛霊っぽいものなんだろうか?
都から離れた場所に遠距離攻撃してくる事はあっても、外に出てくる事はいっさいなく、見物だけなら比較的簡単に出来るらしい。
こういう場合、当然の如くあらわれるのは、射程外から遠距離攻撃すれば安全に倒せるだろうって奴なんだが……。
実際の結果は……呪いで殆ど射程を無視した反撃が飛んできて命を失ったとか……。
超遠距離まで届くようなスキルもしくは、射程距離無制限のカウンター系のスキルでもあるのかもしれない。
特に呪い系だと攻撃された時相手を呪うなんてのは色々あったからな……。
建物とかはについては、伝説とか御伽噺とかいうレベルの昔の話のはずだが結構原型が残ってるらしい。
これは、定番の呪われた洋館のボスを撃破したら、廃墟になったとかそういう話だと思う。規模が違うが……。
「ま、情報としてはこんな所ね。少なくとも、準備無しに突撃なんかは無謀ね」
昼食後に、情報を俺たちに説明してたシーナがそう締めくくる。
小さな声で、「このダンジョンに挑戦自体無謀な気がしないでもないけどね……」と呟くのはスルーしておこう。
「すぐに行きましょう! 師匠!」
おい、セリカ……お前聞いてたのか?
最低でも準備が必要ってシーナも言ってただろう!
「ダメだ、まだ準備が終わっていない」
「あと、あんたに頼まれてた物の方は見つかってないわね。そういえば、あんたは午前中なにやってたの?」
まあ、素材の方は、素材名で探してもらってる訳じゃないからな。
素材の特徴で頼んでいるから……こういうのはどっちかと言うと生産職の範疇だろうしな。
あと、午前中は……。
「この店の倉庫の中や、アイテムボックスの中の素材でどうにかならないかと色々考えていたんだが……やっぱり無理そうだ」
まあ、一つ方法があるにはあったのだが……。
対象をアンデット化する装備品や消耗品の類が……。アンデットなら当然の如く即死魔法や即死スキルは無効だ、浄化系スキルで即死するけど……。
ただこの方法は、この世界で元に戻れるのか? っていう大問題があって却下した。
「ま、私にはその辺わからないからパスね。で、午後からはどうするの?」
そう言って、セリカ、俺、マユさんを見回す。
「お店の買取で、その手のアイテムを募集してみます」
と言うのは、マユさん。
「何をすればいいですか? 師匠!」
「セリカは先走らず、装備品なんかの準備しててくれればいい」
くれぐれも先走るなと念押しする。
「私は、もう少し色々探して回るわ」
市場なんかで物を探すならシーナが一番適任か……。
「俺は、冒険者ギルドで依頼をいくつか出してみる。内容については、おっさんと相談したいけど……いるかな?」
おっさんこと、冒険者ギルドのギルドマスターガロウズ。
色々な情報を握ってそうだから……問題は、暇があるかどうかだな……。
「あ、ギルドマスターね……。朝行った時は、暇そうに冒険者のPTと雑談してたから大丈夫じゃない?」
「それなら、大丈夫そうか。じゃあ、早速行ってみるか」
そんな訳で、午後から冒険者ギルドにやって来た。
予想通りと言っていいのか悪いのか……。
冒険者のPTと真昼間から酒を飲んでいた。
「おっさん、ちょっと相談があるんだが……今いいか?」
「おう、おめぇ久しぶりだな~。あのネーちゃんや、チビどもはよく見るが。おめぇは殆どきてなかっただろ?」
ネーちゃんってのはシーナかセリカだろうな。
チビどもは、そのままちびっ子達だろうし。
「ちびっ子達のギルド加入以来かな? まあ、で時間はありそうか?」
「おうおう、今は、俺達と酒のんでんだ! あとにしろあとにしろ!」
「そうだそうだ~」
「にいちゃんも飲むか~?」
「おごれよ~おごれ~~」
一緒に飲んでた酔っ払いたちが騒ぎ出す。
まあ、俺を酒の肴にしようとしてるっぽいけどな……。
「う~ん、ギルドの依頼でちょっと真面目な話がしたかったんだが……」
「そんなのは、あとだ、あと! 酒がまずく――」
おっさんの言葉が不自然に止まる。
同時に極寒の冷気じみた物が受付の方から流れてくる気がする。
恐る恐るそっちを見ると……。
キツイ受付嬢のダリアさんだった。
ちなみに、彼女の名前は色々な噂で耳にする事になった。
曰く、冒険者ギルドの影の権力者だとか……。
曰く、冒険者ギルドの実務の実質的な責任者だとか。
曰く、怒らせてはいけない人物だとか……。
まあ、少なくとも、おっさんよりは、実務を真面目にやってそうだよな。
「わ、わかった……受付の方で話は聞こう」
おっさんは、酔い覚ましの薬を口に放り込んで受付カウンターの方に歩いていく。
この世界だと、アルコール抜くのに状態異常回復魔法とかその手の薬とかで一発なのが便利だよな。
「すみません。飲んでるのを邪魔してしまって……」
一緒に飲んでいた冒険者のPTに一応頭を下げるが……。
「いや、いい」
「ダリアの姉さんは敵に回せねぇ」
「マスターを敵に回しても、姉さんだけは敵に回すな!」
「敵にまわしちゃ~いけない相手ってもんがあるんだ~」
返って来た忠告に、色々と手遅れかもしれないと冷や汗を流す事になる。
受付の方に移動すると、3人娘がそろっているのが見えた。
ダリアさんに、ローザさんにリズちゃんだ。
ダリアさん以外の二人の名前は、非公式ファンクラブの噂で知った。
ギルドのアイドルのような感じになってるローザさんの方は、抜け駆け禁止とか彼女の恋愛の邪魔はしないとか……男女関係のトラブル防止みたいな意味合いが強そうだった。
受付見習いのリズちゃんの方は……見守る会って感じだった。保護しよう的な感じのファンクラブのようだ。
「おい、俺に話があったんじゃねぇのか?」
3人娘の方に意識を飛ばしてたのに気づいたおっさんが、不満げにこちらを見てくる。
3人に用があるなら、そっちで済ませ! そう言ってる気がした。
「すいません。ちょっとギルドの方に素材系の依頼をしようと思って……」
俺は、一言あやまったあと本題に入る。
出来るだけ高レベルの神聖な力が宿った素材が欲しいのだが、どのような依頼を出したらいいかという感じだ。
もしくは、その手の素材に心当たりはないかと言う話もした。
「素材の特性による依頼か~それはちょっと難しいかもな~」
俺の話を聞き終わった後の第一声がこれだ。
生産者ギルドに出す依頼ならともかく、冒険者に対して素材の特性を見極めろと言うのは酷だという話だった。
言われてみればそうだ。
冒険者が素材を手に入れても、どれくらいレアなものかとか言うのはともかく、どんな使い道とかどんな効果があるかとかは殆ど知らないだろうからな。
「ま、具体的なアイテム名を挙げて募集するしかないだろうな。もしくは、生産者ギルドに依頼する……でもなぁ」
具体的な名前を挙げて募集するってのは、手に入りそうな物はおっさんが知っていたので、特に問題なく依頼ができそうだった。
ただ、持ち込まれたものの中で一番いい物と言った依頼は出来ず、個数制限などして持ち込まれた順に買い取るしかないといわれた。
まあ、それはいい。買い取り資金には有る程度余裕があるし。集まりすぎても加工して売れば普通に利益が出るしな。
生産者ギルドの方に依頼するってのは、最初に言った様な感じで依頼はできるけど、基本的に素材を取りに行かずに加工品を提出する形だから、俺達が作った方が早いといわれた。
そっちも納得だ。欲しいのは加工品じゃなく元の素材だからな。
「そうか……じゃあ、該当しそうな素材と適正な依頼価格を教えてくれ少し高めにして良さそうなのを全部出してみる」
俺が依頼の内容の話に行こうとした所で、おっさんが「ちょっとまってろ」と言って事務所の奥に入って行ってしまう。
そして、数分後……。
「おう、またせたな」
「いいけど、なんだったんだ?」
「ちょっと、ギルドの倉庫を探してみてなぁ」
それにしては、行って戻って来る程度の時間しかたってなかったような……。
「もしかして、俺が来る前に探してたとか?」
「ふっ……」
「良くわかったな」と言わんばかりに口に笑みを浮かべる。
そうだよな、シーナも情報収集で色々聞き込みしてるはずだからな。
当然冒険者ギルドでもだ……。
「で、肝心の物は?」
「ああ、これだ。『光の宝珠』ってアイテムでダンジョンの宝箱からぐらいしか手に入れれない相当レアな代物だ。ただ、使い道が殆ど無くてな……」
おっさんの話によると、そのまま装備品やアクセサリに埋め込むくらいしか使い道が無かったらしい。
それでも多少の守りの効果がでるらしいけど、費用対効果としては微妙すぎて死蔵していた代物らしい。
見ただけでも、それなりの代物っぽいのだが……。
素材として微妙ってのはどういう事だ?
「『光の宝珠』か……」
『アイテム鑑定(M)』で調べてみると……。
上級とまでは行かないが、中級レベルの光属性の素材のようだった。
大本の素材ではなく、鉄鉱石に対する鉄のインゴットの様に多少加工された感じではあるのだが……。
それでも、素材としては何とか目的のものが作れそうだった。
「どうだ?」
「これって何個ある?」
「ギルドの倉庫漁ってみたが、2つだけだな。まあ、死蔵されてホコリかぶってたんだがなぁ」
2つか……ギリギリ数としては足りるな。
失敗が出来ないのはきついけど……何とかがんばるしかないか……。
「その二つを買い取りたい。いくらぐらいになりそうだ?」
「いや、とある指名クエストの報酬にしようとおもってる」
指名クエストね……。
「つまり、そのクエストを受けろってことか?」
「話が早くて助かるな」
「で、内容は?」
「簡単に言うと護衛依頼だ。前に話した事があったような気がするんだが、冒険者の卵達をこの街まで無事につれてきて欲しい」
とある街で集まった冒険者の卵達を乗せた馬車をこの街まで護衛するという内容らしい。
俺達以外にも冒険者ギルドで高ランクのPTがいくつか参加予定と言う事だ。
「そういえば、そんな話を聞いた覚えがあるな」
ああ、なんかあったな。
最初に冒険者ギルドに来た時の話だったか?
冒険者になりたい人を他の街や村から連れてくるとか。ただ、その護衛は高ランクの冒険者を使い、安全に相当気を使ってるとか……。
まあ、冒険者になりに行く途中でモンスターに襲われて街につく前に……ってのはあまりに外聞が悪いよな。
それに、応募してくる人間も減りそうだしな。
「で、どうだ? 受けてくれるか?」
「まあ、2つほど条件をつけていいなら構わないが?」
「どんな条件だ?」
「1つめは、倒した人間がその素材を手に入れるというルールにして欲しい。だめなら、俺達が倒したぶんは俺達で、その代わり他の奴が倒した分はこっちも要らない」
依頼内容の中で、護衛中倒したモンスターの素材を山分けにするって内容があったのだ。
これだと色々面倒そうなので、倒したものをそのまま手に入れたい。
「う~ん、まあ……おめぇらは低ランクとは言え……教える側になりそうだからな……」
どうやら、この護衛依頼は、ランクが低い冒険者の護衛の訓練と言う意味合いもあるらしい。
やけに護衛にしては人数が多いと思ったら、そういう裏もあるようだった。
そのため、色々討伐などでかたよりが出るので全員で山分けになってるらしい。
あと、俺達が教育とか無理だと思う。
あ……リーフさんに丸投げなら……。
「で、2つ目は、請け負う人数は1人にして欲しい。ぶっちゃけるなら、1人以外は護衛中好き勝手に狩りをしてても良くして欲しい。まあ、緊急時には出来るだけ皆で対応するけどな」
「それだと、1人分の報酬しか……そうか、報酬は固定だったな。それに人数も指定してなかったか……」
「そういう事だ、どうだ?」
「そうだな……2つの宝玉だ。1人一つずつと言う事で、常時2人以上の護衛なら……」
「分かった。護衛のメンバーは適時変えても構わないな?」
「お前達のPTから護衛中常時2人の人員を出すということなら……」
常時2人の人員を出す……ああ、休憩時間中は別のメンバーが護衛しろって事か。
実質休憩時間分も働けって事だな。
まあ、それはいいか。
「了解。夜の見張りとか俺たちのメンバーが誰か起きてろってことだろ?」
「そういう事だ。ま、それでいいなら正式に依頼の内容をまとめるか。向こうの街までは何か依頼受けていくか?」
「いやいい、向こうに現地集合で。場所はちゃんと教えてくれよ」
「そりゃ当然だ」
そんな感じで、うちのPTメンバーが護衛に参加する事になった。
う~ん、護衛そのものはあんまり心配してないのだが……。
他のPTとのトラブルとかの方が心配だな……。
う~ん、大丈夫だろうか?
次の話は……冒険者の卵達の護衛です。
ただ、視点は、一緒に護衛する冒険者の方にするかもしれません。




