第4話 整理と図書館
あのバカの部屋が大変な事になっていました……。
コン コン コン コン コン コン コン
夜もだいぶん更けてもう直ぐ日付が変わる時間帯。
そろそろ寝ようと準備していた所で、部屋のドアがノックされる。
今日もまた、レナさんが来たのかと返事を返す。
「おう、開いてるぞ~」
レナさんと街に買い物に出かけてから数日。
もうそろそろ寝ようとする時間に、毎日決まってレナさんが俺の部屋にやってくるようになっていたのだ。
どうやって寝ようとする時間にあわせてるのかは微妙に謎だったりもする。
結構気分でばらばらなはずなんだが……。
ちなみに、ここ数日は一緒に朝までベッドを共にする事まではない。
寝る前に少し話した後、彼女の部屋に送り届けて「おやすみ」って挨拶して分かれている。
そのまま、一緒に朝までだろう! とか世の男達から言われるような気もしないでもないのだが、このまま流されるにまかせていると、何かが決定的に決まってしまうような気がして躊躇するのだ。
あとは、もしかしたら、この頃毎日夢で見る幼馴染のせいかもしれない。
何か毎晩説教される夢を見るのだ、何を説教されてるのかはいまいち覚えていないのだが……。
ドン ドン ドン ドン ドン ドン ドン ドン ドン ドン
「って、そんなに叩くな! 入っていいから!」
声が届いてなかったのか、扉を叩く音が強くなったので、少し大きめの声をだす。
それにしても、レナさんの扉の叩き方って、こんな風だっけ?
「あ、よかった~~クロちゃん、おきてた~~」
そんな事を言って部屋に入ってきたのは、なんとティナだった。
「え? ティナ!?」
「というわけで、今日はクロちゃんの部屋に泊めて~」
「は? 何が? どうして、そうなる?」
俺が、あっけに取られている間に、ティナの奴ダッシュでベッドにダイブしやがった。
そして、そのまま布団の中に潜り込む。
「ちょ、まて、ティナ、説明しろ!」
「今日は、寝不足ですご~く眠いから。明日起きた後で~」
それじゃ、意味ないだろ!
まて、寝るな!
そんな事をしてる時だった。
コン コン コン
「クロさん~また今日も来ました~」
あ、今度こそ、レナさんだ。
だが、今入られたら……まずい気がする。
すごくまずい気がする。
「あ、レナちゃんだ~入っていいよ~~」
ベッドで横になっていたティナが体を起して勝手に返事をする。
おい、ティナ! 色々まてよ! こら!
その声が聞こえたのだろう、慌てた感じで扉が開かれる。
「え!? え!? ティナ……さん!? なんで!?」
混乱したような、信じたくないと言ってる様なそんな表情で俺たちを呆然と見つめるレナさん。
「まて、これは違う!」
うん、何が何に対してどう違うのかわいまいち解らないが、とにかく違う!
「どうしました? レナ? ………………レナというものがありながら! クロさん……」
廊下で様子を見ていたのだろう、ミルファさんまで部屋の中を覗き込んでくる。
そして、放たれるすごいプレッシャー。
何か色々やばい!
俺は慌ててティナにアイアンクローをかまし持ち上げ、ペイっと床に放り出す。
「痛い痛い痛い痛い、クロちゃん痛い――ぐべ」
「ティナ、ちゃんと説明しろ!」
「クロちゃん酷い……」
「ティナ! せ・つ・め・い・し・ろ!」
俺が様子に気がついたのか、慌てて正座し姿勢を正すティナ。
「寝る場所が無いんだよ!」
寝る場所がない?
俺の行動にあっけに取られて動かなかったレナさんとミルファさんもその答えに疑問の表情を浮かべる。
「部屋で寝ればいいだろ?」
「あ……え……うん、寝る場所が異次元に飛ばされちゃったんだよ!」
うん、それ、今適当に考えたよなティナ。
「で、何で部屋で寝れないんだ?」
「す、すごく、ふくざつな、む、難しい理由があって寝れないんだよ!」
「で、その理由は?」
「宝物がベッドを占拠して寝る場所がないとかじゃないんだよ! ただちょっと……」
「…………」
うん、理由はわかった……。
ちょっと、ティナの部屋を確認しなくちゃな……。
だけど、パンドラの箱って注意書きがされてる気がするのは気のせいなのか!?
確認したくねぇ~~~~~。
だけど、そのまま、確認せずに放置するとトラブルが拡大拡散しそうで怖かったので、ティナの部屋を検める事になる。
「いったい……どうなってるのでしょうか?」
「レナ、危険なので私の後ろに隠れていてください!」
レナさんは、ベッドで寝る事が出来ない状況ってのを想像でき無い事と、怖いもの見たさもあいまって興味しんしんって感じだ。
ミルファさんの方は、そんなレナさんに危険が及ばないか気にしている。
う~ん、ただ部屋を確認するだけでそこまでは……とは思うが……ティナの部屋だからな……。
「本当に開けるの!?」
「開けて確認しないといけないだろ!」
まあ、ギルドコアの機能で覗く事も出来るけど……。
開けるだけで爆発とかはしないはずだから……。
しないよな?
「本当~に、ほんと~に、開けるの?」
「だから早くしろ!」
「うう……しょうがない。振動とかあたえちゃだめだからね! そうしないと崩れちゃうから!」
うん、振動与えるなとか……崩れるとか……めちゃくちゃ不穏な感じなんだが……。
ティナもまるで爆弾処理の如く慎重に扉を開けてるし……。
そして、開かれた扉の先には……。
(もう、げんかい~~~だめ~~~~)
荷物の山を支えていたシルフ達が、今まさに力尽きる所だった。
その結果は当然。
「うわ~~~くずれてきたよ~~~~~」
その荷物の雪崩に巻き込まれるティナ。
俺や、レナさん、ミルファさんは事前に少し離れていて難を逃れている。
「た、たすけて~~~」
その後、荷物の山からティナを掘り起こした。
流石に、部屋の整理は今からやるのはきついので明日の朝からする事にして今日は寝る事にした。
ティナの部屋の明かりをつけっ放しにして、荷物に気がつかずつまずいたりしない様にした後部屋に戻る。
ちなみに、ティナは3階の大広間の真ん中に予備の布団をひいてやった。
「おお~~ひろ~い」とか喜んでいたが……明日からあの場所でいいやとか言いそうだな……ちゃんと明日は整理させないと!
レナさん達は、ちゃんと部屋に送り届けてた。
はぁ、やっと寝れるな。なんかすごい疲れたぞ。
明日は、面倒なティナの部屋の整理があるし。
はぁ……。
本当に疲れた……。
そして次の日。
はぁ、今日もまたあいつの説教の夢をみた。
なんか、疲れが殆ど取れなかった気がするぞ……。
まあ、それはともかく……俺は指先にこめた力を強める。
「痛い、痛い、痛い、いたた、いたい! ごめん、クロちゃん、許して、もう逃げないから! 痛い!」
完璧に決まったアイアンクローがティナの頭を締め付けていた。
「うん、そうだな。ちゃんと整理しないとな!」
「ティナ、後で私もお話があります。ですが、その前に整理です」
すごい笑顔のリーフさん。
俺もたぶん笑顔だ、指にこめた力が強まるほどの笑顔だ。
「いだ~~い、いだい、それだめ! つぶれちゃう~~」
廊下にそんなティナの悲鳴が響き渡った。
さて、ティナを捕獲した所で、改めて彼女の部屋の整理を始める。
参加メンバーは、ティナ、リーフさん、レナさん、ミルファさん、俺だ。
ちびっ子達は、今回は呼ばなかった。
ティナと一緒に遊び始めそうだったからな。
「それにしても、この量どうするのですか?」
「捨てれば……」
「ダメだよ! 大事な宝物なんだよ!」
捨てるという意見は即座にティナに却下される。
まあ、GPさえ使えばスペースの確保は容易だからな、それはそれでいいか。
「少しずつでも整理していきましょう。何時まで掛かるかわかりませんよ」
ミルファさんの言うとおりだ、物量に慄いて始めなければ一向に終わる事は無いからな。
「あ、でも。ハズレの本は捨てちゃってもいいよ~」
ティナが指差した先には、大量の本棚が重ねられている。
あの本棚の山は……。
WMOでは、色々な家具が販売されている。
もちろん、ギルド拠点でもGPを使って色々購入する事が出来る。
基本的に、ゲーム的に実用的な効果があるもの、例えば台所などの生産設備などはそれなりの値段はする。
しかし、ただのインテリア品、何の効果も無い置物とか鏡とかそういったものは、すごく安値で売られていた。
本棚も基本的にインテリア、まあ見栄えのための家具で普通のものはすごく安く売られている。
ただ、インテリアの為には、空っぽの本棚よりも、ちゃんと本の詰まった本棚の方が見栄えがいいって意見もあり、本つき本棚なんてものも売られていたのだ。
たぶん、ティナの集めていたのはこの本付の方だろう。
基本見た目重視なので、中身は選べないが、一応ちゃんとした本が入っている。
確か、無料ライブラリの本とか、宣伝用に企業が1巻だけを提供されたものとか、同人誌なんかで登録されたものから、詰め込んだ時の見た目を考慮された中からランダムに選ばれるって話だった。
う~ん、ティナの興味が無い本でも、有用な本があるかもしれないからな……本を捨てるのはもったいないな……。
「本は別の部屋にまとめてしまって皆で閲覧できるようにするか。ティナそれでもいいか?」
「本を入れる部屋作ってくれるの!? いいよ~いいよ~これで大分広くなる~~」
ティナ喜んで居る所わるけど……。
「ティナのGP使ってな……」
「ええええええ~~~~」
ま、足りなかったらギルドのGPを使ってもいいだろう。
さて、その部屋だけど……。
ただの部屋に本棚詰め込むか……それとも……。
ギルドコアで調べてみた所、二つほど都合のいい設備が見つかった。書庫と図書館だ。
書庫は、本の保存機能と自動整理機能がついている。
本が傷みにくくなる保存機能はともかく、整理機能は便利そうだ。
図書館の方は、書庫の機能に追加して、本の購入機能と検索機能がついている。
検索は、すごく欲しい!
購入の方は、指定の本を買えるとはあったが……在庫とかはどうなってるんだろうか? その辺次第だよな。
う~ん、機能としては図書館が欲しい!
GPの値段としては、図書館は書庫の3倍ぐらいの値段だ。
さて、どうするか……。
「後々を考えると図書館がいいのでは?」
「ティナの事だからまだまだ本は増えると思います」
「図書館ですか~」
「プールの為に貯めたGPがなくなっちゃうよ~~~」
今居るメンバーは皆賛成のようだ。
いつもなら、皆が集まった時にするんだけど、ちょっと整理を急ぎたいので、ギルドチャットで確認を取る。
すると、賛成と言う意見と、どちらでもかまわないって意見だけで、反対がなかったので、即座に作り始める事にする。
「さて、図書館の建築中に、本以外を整理するぞ! 本棚は俺がアイテムボックスに入れていく」
そんな感じで、ティナの部屋の整理が行われる事になった。
色々ものがありすぎて、結局砦の方の一室をティナの倉庫にする事になってしまった。
う~ん、このままだとティナの倉庫が色々増殖しそうだから、ティナ用のギルド設備の倉庫を作らないとな。
というわけで、ティナのGPはしばらく倉庫作成のために貯金されることになった。
「プールが~~~プールが~~~~」
うん、自業自得だろう!
そこでふと思って聞いてみた。
「プール作るのにGP貯めてるはずなのに、何で物が増えて寝る場所が無くなったんだ?」
「GP使わないように、街で買い物をメインにしたんだよ!」
ああ、冒険者ギルドで討伐クエスト結構やってたからな……金の方も溜まってたんだな……。
どんな使い方してるのか少し不安になるが……まあ、ティナのお金だし、いいか。
その後、完成した図書館に本を仕舞う。
カウンターの返却ボックスに本を入れるだけで自動で整理整頓して配置されるのには驚いた。
めちゃくちゃ便利じゃないか!
そんな感じでアイテムボックスから取り出した本棚から返却ボックスへ本を放り込むのを皆で一緒にやった。
結構な量があって、ちびっ子達も呼んでみんなでやって、夕方頃にはやっと整理が終わった。
空の本棚は、拠点の外にも問題なく持ち出せたので、一部M&Mの商品として売り出し、残りは砦の一室にまとめて放り込まれた。
街で下取りしてくれる店がないか探せばいいや。
まだまだ、増えるだろうしな。
そして……。
今回図書館が出来て一番恩恵を受けたのは……。
「…………(ゆでたまご~~~)」
「…………(あじつきたまご~~~)」
「「…………(おんせんたまご~~~)」」
料理本が見つかって卵料理のバリエーションが増えた狐っ娘姉妹かもしれない。
「うう、GPが……プールが……」
ティナの方は、自業自得だ!
次回の話は……食材不足?




