第3話 レナさんのターン!
ついにやってきた姫様のターン!
何がどうして、こうなった!?
あの後、まずは頭を冷やそうとお風呂に入りに来たのだが……。
あれ? お風呂じゃ血行が良くなって頭に血が上るのか?
「痒い所はありませんか?」
「ああ……特にない……」
何故か生まれたままの姿のレナさんに頭を洗われていた。
ちょ、背中にあたってる、あたってる!
「シャワーで流します熱かったら言ってください」
「特に……問題ない……」
なんだろう、外堀が着々と埋められていってる気がひしひしと……。
救援は……。
今、お風呂に居るのは、俺たち以外は、シーナとミルファさんの二人だけだ。
シーナは楽しそうに見物モードだし。
ミルファさんは、レナさんに協力する事こそあれ邪魔はしそうにない。
こんな時こそ、ティナ! お前の出番だろ! 色々ぶち壊してくれ!
しかし、こういうときに限ってあいつは現れない。
まあ、大広間のあの惨状じゃ……無理だろうな……。
まさに死屍累々って感じだったから……。
「では、次はお背中流しますね」
「って、何をやってるんですか!?」
レナさんは、自分の体に泡立てた石鹸をまとい、その体で……。
「男の人の体っはこうやって洗うんだって、ティナさんの本に書いてありました」
ちょ……何の本を読んだんだ!
「間違っていたのですか?」
「いや……それは……」
「ミルファもそういうものだって……」
ちょ、ミルファさん何吹き込んでるんですか!
「違うのですか……?」
「いや、えっと……」
「違ったの……です……ね……」
「あ~」
「違った……の……です……ね……」
「いや、俺はうれしいよ」
うん、悲しそうなレナさんを拒否する事は出来ずにそのまま体中隅々まで洗われてしまいました。
「ふ~いい湯だな~」
「そうですね~~」
もう、色々思考を放り投げて、ゆっくりとお湯に浸かる事にした。
肩にしなだれかかってるレナさんの事はもう気にしない事にした。
色々当たってるのも気にしない……気にしないったら、気にしない!
「クロさん、今日は予定とかありますか?」
「特に無いな~」
「では、お買い物に付き合ってください!」
「ああ~いいぞ~」
半分上の空で答えていたが……お風呂上がって朝食のあと、気合入れた服装のレナさんを見て……。
そういえば二人っきりで買い物ってデートみたいだよな。
ふと、幼馴染のあいつの姿が浮かんだ……。
何かめちゃくちゃ怒ってたような……。
あいつは、関係ないはずだ……よな?
何でいきなり浮かんだんだろう?
雲ひとつ無い青い空!
まさしくデート日和といった感じだ。
着々と、フラグを回収されているような気がするのは気のせいなのか!?
そんな中俺とレナさんは二人っきりで門をくぐって街の中に入った。
「では、まずは、普通のお店が開くまで朝市に行きましょう!」
まずは、どこに向かうかレナさんに尋ねたら、あらかじめ用意してたようにそう答えてくる。
なんか、相当前から練られた計画のような……決まったのは今日だし……そんな事はないよな?
あと、レナさん……この街に朝市なんてあったか? まあ、露店の立ち並ぶ通りの事かな?
「ああ、了解」
「う~ん、おかしいです……もっとオシャレなアクセサリとか可愛い小物とか売ってる物じゃないんですか?」
レナさんが少し残念そうに肩を落としている。
露店をめぐり、徐々に開き始めた店舗もまわり色々見ていったのだが……。
レナさんのお気に召すものは無さそうだった。
まあ、ここは冒険者の街で、売られるのは戦闘に使える実用品がメインでデザインは二の次だからな……。
ダンジョンなんかからの発掘品は、実用品はともかく、装飾用なのは他の大きな街なんかに売ったほうが需要がありそうだしな。
「この街では、そういうのは、無理そうだぞ。もし何だったら俺が何か作ろうか?」
「本当ですか!」
本当にうれしそうだな。
まあ、欲しいデザインがあるなら作るのはそう難しくないしな。
「はい、で……どんな物が欲しいんだ?」
「クロさんの作ってくださったものなら何でもかまいません! すごく楽しみです。期待していますね」
あの、レナさん「俺、デザインとかそういうのはチョット」とかいえる雰囲気じゃなかった。
だって、彼女の瞳がキラキラ期待に輝いていたから……。
それをぶち壊すなんて……。
うん、こうして追い詰められていくんだな……。
家にもどったらがんばって作ろう。マユさんやアンに協力を仰げば……何とかなるだろう……。
「次は、映画館に行きましょう! 映画鑑賞をしましょう!」
ちょっと……映画館ってこっちの世界には無いだろ!
「流石に映画館は無いと思いますよ……」
何か想定外の事で困っている感じだが……う~ん映画館か……。
「え!? 確かに本に……」
「本?」
「いえ、なんでもないんです! でも、どうしましょう……予定が……」
そうだな、映画館は無理でも、そういう娯楽系は何か……。
映画鑑賞、芸術鑑賞、クラシック、音楽鑑賞……あ!
「吟遊詩人の人に一曲おねがいしますか?」
「このあたりにも居るんですか? 吟遊詩人って……」
う~ん、何故驚いてるんだろう。
何か、俺よりもこの世界の常識的なものに疎い気がするぞ……。
「少し早いですが、一緒にお昼をとってしまいますか」
「はい? 一曲聞くという話は……?」
広場で歌ってるのを探すよりも、酒場なんかで歌ってるのを探した方が早いと思うし。
あと、酒場の方がうまい気がするからな。
ま、偏見かもしれないけど……。
そして、近くの比較的綺麗な酒場に入る。
軽く昼食をとりがてら、酒場の端の方でハープを持ったいかにもって感じの人に銅貨を数枚渡して一曲頼む。
それは、ある騎士とお姫様の物語だった。
騎士の少年は、お姫様と結ばれる為に努力して、魔物を倒し、ドラゴンを倒し、魔王を倒し、英雄となって結ばれるという良くある話だった。
俺の感想は、この世界にも魔王って居るんだって感じだったのだがレナさんは違うようだった。
「素敵な話です。わたくしもきっと……」
ぼーと夢に浮かされたように余韻を楽しんでいるようだった。
そんな穏やかな空気が流れていたのを騒々しい集団がぶち壊す。
隣の席にやって来た冒険者の4人PTが、真昼間から酒を手にして大声で話し始めたのだ。
う~ん、酒場だからしょうがないとは思うが……レナさんも少しうんざりした様子だ。
昼食も食べ終わったしそろそろ出ようと思った時、隣の席の話が耳に止まる。
「おう、知ってるか王国で戦争が起こりそうだとかって話があるんだが」
「ああ、王国と帝国がきな臭いって話だろ?」
「王国で内戦が起きるって聞いたぞ?」
「帝国が内戦に干渉するって話だろ?」
彼らの話にレナさんがピクリと反応する。
このあたりで、ただ王国とだけ言った場合、一番大きな王国のセントリナ王国を指すからな。
一応レナさんは、そこの王女だしな、気になるのだろう。
「内戦って誰と誰がやり合ってるんだ?」
「第一王子、第二王子、第一王女らしいぞ。一番優勢なのが第一王子で、第二王子は商国とつながりを持って傭兵集めてるって話しだな」
「それじゃあ、王女はどうなんだ?」
「そいつが、帝国と組んでるって話だぜ。うらで皇帝との婚姻の約束とかあるんじゃねぇか?」
「そういや、他の王族はどうなってるんだ?」
「第三王子以下の王子は全員殺されるか幽閉されたって話だぜ。王女の方は元々二人で、第三王女はずいぶん前に死んでるからな」
第三王女って確かレナさんの事のはずだが……。
「えっ!?」
あ、ここで余計な事を口にさせるのは、まずい気がする。
『クロ:レナさん、PTチャットの方で話そう。聞かれるとまずい』
『レナ:え? あの……はい……』
良かった、レナさんもPTチャット使えるな。
【ビギナー】のマスタースキルを使わずにチャットするのは結構訓練が必要だってシーナの話だったが、問題ないようだな。
『クロ:大丈夫ですか?』
『レナ:はい……大体予想していましたから……』
う~ん、そりゃそうか、”王族としての常識”については彼女の方が当然詳しいよな。
「おい、第二王女はどうなってるんだ?」
「は? 道楽王女の事を知らないのか?」
「なんだそりゃ?」
「たまに、この街にも遊びに来てるのを見るぜ」
「マジかよ!」
「結構有名だぜ、道楽王女。権力よりも遊び歩く方を取るダメ王女だってな。王や他の家臣たちなんかからも見捨てられてるって話だぜ。ま、本人よろこんでそうだけどな」
「ああ、変なものを買いあさる姫さんか! そういやこの頃見ないな。そろそろ来るころじゃねぇか?」
『クロ:レナさん、第二王女って?』
『レナ:お姉様の事ですね。ほとんど城に寄り付かず何時も何処かに遊びに行っていました。たまに変わったお土産を持ってきてくれたのを覚えています』
少し気をつけたほうがいいかも知れないな。
なんか色々厄介事に巻き込まれそうな予感が……。
「でもよ、帝国も王国もここから結構遠いだろ? 関係ないんじゃねぇか?」
「いや、商人たちが物資を集め始めてるって噂があるから、色々値上がりするかも知れねぇ。特に回復アイテム系はただでさえ品薄で高いからな。買い溜めも必要かかもな」
「ちっ、新しい装備に貯めた金でそっちを買って置いた方がいいか。また、新装備が遠のく」
「ま、しばらくはそれでがんばれ!」
「そろそろ、ガタがきそうなんだよな」
「門の外のあの店で探すのはどうだ?」
「あの店って最初に大放出してから装備の類売らなくなったんじゃ?」
「いや、素材の採取依頼の報酬として交換用のチケット配り始めたとか聞いたぞ」
「そうなのか?」
「ああ、だがどれも結構面倒な感じのものばかりって話だぞ」
「まあいいや、ダメ元でちょっと依頼を見てくるか」
「それなら俺も行くぜ!」
「俺はここで飲んでる」
「動きたくね~」
う~ん、また物不足に逆戻りか……。
それに家の店の話も出てたな。素材が集まってくれるとマユさんは喜ぶんだが。
『レナ:クロさんごめんなさい、今日は……』
『クロ:そうだな戻るか。色々気になる事があったしな』
『レナ:はい……』
そのまま俺たちは、M&Mまで戻った。
う~ん、面倒ごとにならなければいいのだが……。
ちょっとシーナに頼んで調べておいてもらおう。
ずいぶん離れているからこっちまで火の粉は飛んでこないだろう。
………………。
飛んでこない事を願おう。
それにしても、今日は中途半端な感じになっちゃったな……。
今度は、俺の方から街へさそってみるか。
う、何でだ!?
また、一瞬幼馴染のあいつの姿が浮かんだぞ!
今まで見た事も無いくらいに悲しげだったぞ!
あいつ、元気にやってるだろうか?
心配してそうだよな……。
そういえば、俺向こうではどうなってるんだろう?
神隠し? 昏睡状態?
考えても仕方が無いか。
次の話は、バカがトラブルを?




