第5話 未来の……
やっと天使さんが始まります!
M&Mに戻って来てみると、店の前にシーナが立ってなにやら探しているようだった。
「まさか、シーナ。俺を出迎える為に待っていたとか?」
まあ、そんなことはありえないよな。
「そんなはず無いでしょ。ちょっとバカどもの様子を探っていただけよ」
生産者ギルドで、金に目がくらんでいたやつらか。
「ま、気にしてもきりが無いわね。問題になりそうなのは居ないし。それより、勧誘は逃げ切れたの? それともつかまったの?」
人事だと思って凄く楽しげだな。
「断固として断ってきた」
「そ、でもこっちは断るのは無理っぽいわよ。アンとか言ったっけあの子、あんたの作った武器を見て目の色変えてたわよ」
「そっちは受ける事にしたよ。生産者ギルドの方でちょっとあってな……」
シーナに、あの後マイルドさん達と話した内容を伝える。
「200万Gね……美味しい仕事じゃない! 何に使うか迷うわね……」
俺が育成できないとは思ってないんだな、シーナは……。
それはともかく……。
「お前の懐に入るわけじゃないだろ」
「ま、そうね~」
そんな事を話しながらM&Mの中に入る。
店内にはカウンターでお客さんからお金を受け取っているミルファさん。
マユさんと、彼女に店の中を色々説明されているアンジェリカさん。
あと、お客さんが数人商品を見ている。
何気に繁盛してるようだな。
あと……アレは気にしないで置こう。
「あ、お帰りなさい。どうでした?」
「勧誘は断ってきたよ」
俺の答えに、マユさんが苦笑いを浮かべている。
「師匠! 弟子にしてほしいであります!」
アンジェリカさん……。
弟子になりたいとか言いつつ……もうすでに師匠とか言ってるじゃないか……。
まあ、彼女を弟子にする事は、生産者ギルドの件も込みで決めてたからいいけどな。
「まあ、どれだけ教えれる分からないけど、みっちり鍛えてやるさ」
「ほ、本当でありますか! 師匠、よろしくお願いしますであります!」
うん、俺の場合技術を教えるとか、そういう方向性で鍛える事にはならない気がするんだが……。
そもそも、俺の生産能力って職業スキル頼りだしな。
俺は、「ああ」とアンジェリカさんに頷き返した後、マユさんに尋ねる。
「で、マユさん。店の方の説明は終わったのか?」
「あ、丁度今終わった所です」
「そっか、じゃあミルファさんに店番たのんで……他の皆で話を…………」
だああ~~やっぱりダメだ! やっぱり気になる!
「あの二人は……一体どうしたんだ?」
俺は、スルーしようと思いつつもしきれずに、気になっていた二人を訪ねる。
1人目、レナさん。
OTZと言うのをリアルに……両手を地面についてうなだれてるってやつだな。
2人目、ティナ。
店の片隅に死体の様に死んだ振りをしている。
振りと分かるのは、お客さんのうち特に女性の一部が声をかけて餌付けしてるのに反応してるからだ。
「ああ、レナの方は、新人の方が物覚えが良くて打ちひしがれてるのよ。ティナの方は、リーフがあんな感じで連れ帰ってきたのよ」
シーナが後ろから答えてくれたので、事情は解った。
だけどさ、お客さん達があの2人の事を問題にしないのは何故だ?
もしかして、ティナが店番もどき(店番としては役に立ってない)をしてる時の奇行に慣れてしまってるのか!?
深く考えたらだめな気がしてきた。
「あ! アンさん。今までの事で何か質問はありますか?」
シーナとの話の途中で思い出したのかマユさんがアンジェリカさんに尋ねていた。
「1つ気になっていた事があるであります! この店は何の店でありますか?」
アンジェリカさんは、何気に残酷な質問を躊躇無くあげる。
「それは、もちろん……」
「何でも屋よ!」
「雑貨屋よね?」
「面白い物を売るお店だよ!」
「石鹸を売るお店じゃないの?」
「本屋?」
などなど、お客さんも混じって答えている。
その答えに、見事にマユさんが撃沈していた。
「マジックアイテムのお店……」
最後に、何か呟いていた気がするけど……。
そんなこんなで、3人を復活させた後、店番はミルファさんに頼んで、ダイニングに今いるメンバーが集まる。
アンジェリカさんは、俺の対面の席に座り緊張している。
シーナは壁にもたれかかって見学モードだ。
レナさんは、ティナが店でお客にもらったお菓子を彼女に渡されて、慰められている。
マユさんは、台所にお茶を入れに行った。すぐにこっちに来るだろう。
あと、ちびっ子四人は、合宿中。
リーフさんは、エルフの村にもう一度戻って用事を済ませてくると言う事だったらしい。
ミルファさんは、店番だし……。
「あれ? セリカはどこに行った?」
「あ、そう言えば見てないわね。朝には居たような気がするけど……」
「ああ、そういえば風呂で一緒になって、ティナのトラブルで呼ばれて一緒に来たな」
なんか急いで風呂に入っていたような気がするんだが……。
「お風呂……お風呂……ああああ! すっかり、忘れていました! お腹が空いて限界っぽいセリカさんに、直ぐにご飯が出来るからお風呂で汗を流すように言ったんでした」
お茶を用意して戻ってきたマユさんが声を上げる。
ああ、言ってたな。
お腹すいたから急いで体を洗おうとか何とか……。
「あの後、ティナさんが戻ってきて……セリカさんに悪い事をしたかもしれません」
ま、食糧求めて旅に出たんだろう。
「夕方には帰ってくるんじゃない? ひょっとしたら、ご飯の途中で面白いモンスターの噂でも聞いて突撃してるのかもしれないし」
シーナの言うとおりだな。
それはあるな~。
ギルドメンバーの一覧には特に酷いダメージ受けた様子も無いから放っておいても大丈夫だろう。
まあ、セリカの事はひとまず置いておいて、早速始めるか。
まずは、先ほどこっちに来る前に、アンジェリカさんをギルドに加入させていたので、ギルドについての簡単な説明をしてしまう。
それに加えて俺たちの説明もする。
「今までの話で、何か問題はあるか?」
「無いであります!」
ここまではいい。
う~ん、あの件について中々聞きづらく伸ばし伸ばしにしてきたが……そろそろ限界だな。
よし、ここは単刀直入に行ってしまおう!
「アンジェリカさん……」
「アンでいいであります! 師匠!」
アンジェリカさんが、そう言うならこれからはそう呼ぼう。
「それじゃあ、アンさん。契約した時に気がついたんだが……天使ってどういうことだ?」
俺が意を決して爆弾を投げ込むと……。
「な!? どうしてばれたでありますか! 困ったであります! ばれると、私の言う事をまともに聞いてくれなくなるであります!」
アンさんが急に慌てだす。
「まともに聞いてくれない?」
「そうであります! 何故かこっちの言う事をまともに聞いてくれずに、一方的にお願いをしてくるであります! 困ったで……あれ? 何で話が通じているでありますか?」
途中で気がついて、アンさんが不思議そうに尋ねてくる。
「ここら辺だと、天使ってどういう扱いなんだ?」
そんな感じで他のメンバーに聞いてみる。
「神の使い魔? みたいなもの? 神と話をするためのマジックアイテム? そんな感じじゃない?」
シーナが凄い表現で説明している。
神様と人間の間を橋渡しする存在?
そういうシステム的なものと思われてるって感じか……。
マジックアイテムという表現は、種族というより機械的な装置と言う感じが強いのかな?
「シーナさんそれは、あまりに酷い説明じゃないですか?」
「でも、実際そんな感じでしょ?」
そんな感じで議論になっているが……。
まあ、1つ解ったシーナが宗教的な事を全く信じて居ないのが……。
で結局、凄く大雑把な理解ではあるが、何となくこの世界の天使と言う物について理解した後、ずっと黙っていたアンさん本人に聞いてみる。
「私は神様とか知らないであります! 私達の種族が昔、今で言う、シャーマンとか巫女とか神官みたいな事をしていたと聞いたとこはありますが……」
へえ……。
神に仕える巫女(?)の一族みたいな感じなのか……。
「で、昔ってってどういう事なのよ?」
シーナが疑問に思ったのだろう尋ねている。
「ずっと昔に、神様が居なくなったと聞いたことがあるであります。詳しくは、興味が無かったので聞き流してたであります!」
実在してたのか神様……。
あと、アンさんは、興味が無い事には、まるでダメなタイプか……。
「私達の種族と言う事は、一緒に仲間とくらしていたのでしょ? 他の皆さんはどうしたのですか?」
ああ、確かにマユさんの言う事も気になる。
「それはで……あります。私達は空に浮かぶ島で暮らして居たであります!」
ほぉ……浮遊大陸とかそういったものがあるんだ。
それなら、M&Mを飛ばすことも出来るかもしれないな。
ちょっと、行ってみたいぞ。
そして、素材を分けて欲しい。
「え? 空飛ぶ島なんて伝説とかであるだけで実際見たなんて話聞かないわよ」
よく知ってるなシーナ……と思ったら結構有名な話らしく、俺以外の皆が頷いていた。
「そ、それはであります……。不幸な……事故がおきたであります! 脱出用の装置が……誤作動を起して1人飛ばされたであります!」
うん、なんか色々歯切れが悪いな。
「操作をミスったとかじゃないの?」
「そ、そんなことないであります! 間違って脱出ボタンを押したなんて事ないであります!」
間違って脱出装置を作動させたんだな。
「だったら、今も空の上に島が飛んでるんじゃないの?」
シーナが当然の疑問を口にする。
「脱出装置には、コールドスリープ装置がついていたのであります。目が覚めたときには、島がみつからなかったであります!」
何百年か何千年かしらないけどずっと寝ていたんだな。
その間に空飛ぶ島になにかあったと……。
「居なくなったのに探してくれなかったの?」
お前もこの頃エルフの村では中々探してもらえないようになってるんじゃないか?
「たぶん、私の意志で島を出たと思われたであります! ドワーフに鍛冶を教えて欲しいと言っていたであります!」
はぁ……そのころからやりたかったのね物作り……。
ある意味立派だな。
そんな感じで、コールドスリープが解けた後の苦労話がしばらく続く。
町を見つけて入ると、天使様が降臨されたとかで色々大騒ぎになるのを何度も繰り返したそうだ。
まあ、それだったら正体を知られる事に対して警戒するのもわかるな。
「で、天使の姿に戻ることは出来るのですか?」
レナさんが少し期待した感じでアンさんの方を見ている。
「できるであります! いまからやるであります!」
そうして、一瞬アンさんの体が光に包まれたかと思うと……次の瞬間には……。
真っ白な輪っかを頭の上に浮かべ、純白の羽を持ち、金色の長い髪に整った顔立ちの、凄くきれいな……まさしくイメージどおりの天使の姿がそこにあった。
「きれ~です」
「これはすごいわね……」
「かっこいい~~」
「すごい……」
マユさん、シーナ、ティナ、レナさんがそれぞれ感想を漏らしている。
一部おかしいのがある気がするが……。
「師匠、どうでありますか!」
うん、その一言で色々ぶち壊された感じがするが……。
「すごいな……」
「そうでありますか!」
凄くうれしそうにしている。
そうして、アンさんを皆でしばらく眺めていた後……。
「でもまあ、元の姿に戻った方がいいわね目立ちすぎるわよ」
そのシーナの一言で人型モードに戻る事になった。
まあ、後で他のメンバーに自己紹介するときに見せてもらうぐらいで普通は人の姿でいてもらった方がいいよな。
一通り、天使についての話が終わった所で、個別の質問タイムに入る。
「空を飛ぶって楽しい?」
最初にティナがそんな質問をしているのを眺めながら、俺はアンさんのステータスの確認をしてみる。
『アンジェリカ:大天使Lv83』
【大天使】ってのは、天使の階級で下から二番目のやつだっけ?
まあ、天使の固有職なんだろうな。
それでも、レベル83は、流石というかなんというか高いな。
他に気になる点は……。
素質スキル(○○の天才などの個人の才能を現すスキル。職を変えても保持されたままである)っぽいのが2つもあるな。
それも、何気に生産関係のじゃないか2つとも。
1つ目は……『未来の匠』だ。
うわ~『未来の~』シリーズか!
これはまた……厄介な素質スキルを……。
『未来の~』シリーズ。
一般プレイヤーには、「永遠に未来の……」なんていわれてめちゃくちゃ嫌われている素質スキルで、ついてしまったらキャラデリとか言われてすらいるモノだ。
ただ、逆に、廃人プレイヤーには、場合によっては垂涎の的となるスキルである。
『未来の○○』と言う感じの名前の○○の所には色々な才能が入る。
○○に入っている分野の成長速度は極端に落ちる(必要経験値が10倍以上とか……)が、レベルアップ時の成長率(2倍とかもあるらしい)が上がるスキルなのだ。
同じレベル99の時、素質があるなしで大幅にステが違うらしい(1.5~3倍とか聞いたことがある)。
WMOでは、経験値は隠しダンジョンなんかで簡単に溜められたので、その辺はあんまりデメリットにならなかったのだが、色々な熟練度や隠しステなんかの成長で地獄を見るのだ。
そっちの方も、成長速度が極端に遅くなり、レベルが上がった時の成長率が上がる。
凄く癖の強いスキルであることは間違いない。
アンさんの持ってるのは『未来の匠』だが、これは装備品の生産全般に補正があるようだ。
極めれば至高の存在を目指せるだろうが……。
「永遠に未来の……」と言われるように、届かぬ未来となりかねない可能性もあるな。
まあ、天使は長寿種っぽいので時間だけはあるからいつか……たどりつけるかもしれないな。
少なくとも、才能はある!
極端に大器晩成っぽいけど……。
2つ目は……『恐ろしい才能』だ。
こっちは、WMOでも聞いたことが無い。
説明を見ると……。
『恐ろしい才能』
作成レシピとは全く違う物が完成することがある(超極低確率)。
とだけ……。
生産系のスキルであることは解るんだが……。
超極低確率……何か色々表現がおかしい気がするが、凄い低確率って事だろう。
う~ん、これは実際に発動した時に確認するしかないな。
そう簡単に発動するとは思えないが……。
「師匠、師匠、どうしたでありますか?」
アンのステータスの確認に没頭していた間にみんなの質問が終わってたらしい。
考え込んでいた俺を、不安そうに見つめてくる。
「ステータスを確認してみたが……極端な大器晩成型ではあるものの、才能はありそうだぞ」
「本当でありますか!」
アンさんの瞳は、期待に輝いている。
「だが、修行は普通よりも茨の道になると思うぞ? それでもやるか?」
「当然なのであります! よろしくおねがいしますであります!」
こうして、正式にアンが俺の初めての弟子になったのである。
「師匠は、私の師匠です!」
誰かの叫びが遠くから……。
何か忘れてるような……。
次回は……鍛冶の修行? レベリング?




