第4話 厄介事
うん、天使の事を書こうと思ったんです……。
その前に、少し話をするぐらいの予定だったのです……。
でも何故か……どんどん長くなって……。
という訳で、今回は生産者ギルドでのやり取りが続きます。
思わず、「天使ってなんだ!」って言葉が口から飛び出しそうになったが無理やりに飲み込む。
危ない、危ない。
この場所には沢山のギャラリーが見物してるんだ、こんな場所で天使なんて話を出したらどうなるか解らない。
そもそも、この世界の天使の扱いが判らない!
神の使いであってるのか?
そうなると、神様が実在!?
魔法とかもあるし実在しても……あ、神の力を借りる系統のスキルがあったような気もするな……コストがバカみたいに重い奴が……。
どっちにしてもこの話はここではまずすぎる、店に戻ってからゆっくりとしよう。
「あ、あの……アンジェリカなのであります! 知り合いからはアンと呼ばれることが多いのであります! これからよろしくお願いしたいのであります!」
突然考え込んだ俺に、何か失敗したのかと心配になったような不安げな顔をして、アンジェリカさんが簡単な自己紹介と共に、力いっぱい頭を下げている。
「あ、俺はクロだ。M&Mのオーナーをしている。マユさんとは、お互い紹介は終わってるよな」
マユさんの方に目線をやって確かめる。
「はい、であります! マユさんとはさっき沢山話したであります!」
ま、面接みたいな感じもあっただろうな……。
ここで出来る紹介は、特にないだろう。
あとはシーナの方だな。
「それじゃあ、こっちがシーナ…………まあ、専属の冒険者みたいなもんだ」
シーナの肩に手を置いて紹介する。
職業についてはここで話さない方がいいよな。
「シーナさん、よろしくお願いするであります!」
うん、そこまで力いっぱい頭下げなくていいと思うぞ。
「はいはい、よろしくね」
シーナの返事は軽い適当な感じだし。
アンジェリカさんのノリについて行けないだけかもしれないけどな……。
「じゃあ、細かい話は、店に戻ってするとするか」
「了解であります!」
そのまま、その場を抜け出せればよかったのだが……。
「ちょっと待ってもらえないでしょうか? クロさん」
あの声は、さっき聞いたばかりだぞ、生産者ギルドのギルドマスターの……あ、マイルドさんだ。
「なんでしょうか?」
振り返ると、マイルドさんとガロウズのおっさんが、近寄ってきていた。
うん、モーゼの話みたいに、人だかりが割れている。
そうか、ギルド同士の話し合いは終わったんだな。
「二度手間になってまことに申し訳ないのですが……もう一度お話できないでしょうか?」
う~ん、なんかいやな予感がするな。
うん、シーナに押し付けよう。
「それなら、シーナをここに置いて行きますが?」
シーナが「厄介事押し付けるな」と視線でいってくるが無視する。
「いえ、M&Mに対してではなく、クロさん個人に対して話したいことが出来ましたので……」
「それに、俺の方もちょっと聞きたい事があったのを忘れてたんだよ。頼めるか?」
マイルドさんの言葉につなげるようにガロウズのおっさんまで引き止めてくる。
というか、おっさん……顔がにやけてるぞ!
面白そうだから見物しようと思ってるだろう!
「クロオーナー。マユとアンジェリカさんは責任をもってM&Mまで送りますので、ゆっくりしていってください」
シーナが普段は絶対に使わないような言葉遣いでおっさん達に加勢しやがった。
うん、「いい気味だわ!」って声が聞こえるような気がする。
はぁ……しょうがない。
「解りました、さっきの会議室までもどるのですか?」
「いや、その奥の商談用のスペースに行こう」
「じゃあね~がんばりなさいよ~」
うん、シーナ凄く楽しそうだなお前!
で、やってきた商談スペース。
4人も入れば狭い感じがする小部屋だった。
まあ、普通は2人ぐらいの人数で商談をまとめるような場所なんだろうな。
「まあ、挨拶とかは先程したので、さっさと本題に入りましょう」
う~ん、厄介事の気配しかないぞ……。
「はぁ……一応、聞くだけは聞きます」
そんな反応も織り込み済みなのか、マイルドさんは少し笑顔を浮かべている。
「先程の話を聞いていましたが……あの装備品を作ったのはクロさんで間違いないでしょうか?」
ヤッパリその話か!
勧誘されても入らないぞ!
弟子を取る義務とか冗談じゃない!
「黙秘で!」
彼は、俺の返答に苦笑いを浮かべる。
「生産者ギルドに加入してもらえませんか?」
「もちろん、断ります!」
即答で返した俺の言葉に。
ガロウズさんが腹を抱えて笑っている。
「ま、そうでしょうね……それは、気が向いたらと言う事で……」
あれ? マイルドさんの反応が薄い。
てっきり、熱烈な勧誘とか、粘り強い説得とか面倒な事になると思ったんだが……。
「前置きはこれくらいで改めて本題に入りましょう」
「まってください。さっき本題に入るとか言ってませんでした?」
「勧誘も本題ですよ……受けてもらえた……ならね……」
はぁ……俺が断ったから前置きにされたのか?
なんか違うような……。
俺の視線を感じてか知らないが、話を続けるマイルドさん。
「まあ、話を進めましょう。実はお願いしたいのはアンジェリカさんの件なのです」
「彼女の? あんな形で引き取ってしまったのは問題だったのでしょうか?」
「いえ、逆です此方には願っても無いことでした」
そんな事を言いながらマイルドさんは説明を始めた。
それは、アンジェリカさん自身ではなく、弟子入り奴隷の説明の時にホラルドさんがちょこっと話題にしていた彼女の師匠だった職人についての事だった。
簡単にいうと、弟子にパワハラ、セクハラなんかは当たり前で、そもそも育てることを目的にせずに弟子を取っていたり、問題が多い職人ということだった。
本来であれば、最終手段のはずの弟子入り奴隷の販売も何人も行っており問題視されてたらしい。
ただ、一応は何人か、名目上ちゃんとした弟子を育ててる……金を出して職人を雇ってると言う噂もあるらしい……ので強くは言えなかったとか。
また、売りに出された弟子入り奴隷を他の職人が育てて、問題の職人の無能を証明しようにも、つけられる値段が高すぎて誰も動けなかったらしい。
そんな時、いい腕を持った職人の俺達がアンジェリカさんを購入したのだ。
「つまり、アンジェリカさんを職人として育てて欲しいと?」
マイルドさんは大きく頷く。
「はい、弟子入り奴隷を売るという行為は相当な制限……リスクと言い換えてもいいでしょう……が、ある行為なのです。生産者として使い物にならないと断じた奴隷がちゃんとした生産者になった場合、色々とペナルティがあるのです」
ああ、だからホラルドさんは最終手段って説明してたのか……。
そして、その辺を悪賢く立ち回る、件の職人に色々思うところがあってあんな感じの歯切れの悪さだったのか……。
「そうなった場合、アンジェリカさんの立場はどうなるのでしょうか?」
「奴隷として売られていた倍額を、元の師匠が支払う規則になっています。クロさんとの奴隷契約についてですが……そのお金で解消と言う事もできる事になっています……」
う~ん、それは少し問題だな。
M&Mの色々な秘密を守るための奴隷の店員なんだが……。
「ですが、契約内容の変更は可能でしょう。クロさんほどの職人は探してもそうそうみつかりませんから……」
その件は要相談だな。
まあ、あの様子だと本当に弟子入り出来るんなら、喜んでどんな条件でも飲みそうだけど……。
「了解しました。まあ、やれるだけはやってみます。その代わり、うちのメンバー……アンジェリカさんも含めて、こっちに弟子入り希望者が来る様な事がないようにお願いします」
「いいでしょう、その辺は生産者ギルドとして対応しましょう。しかし、本当に弟子は……」
「取りません!」
「残念です……」
そんな感じで俺とマイルドさんの話は終わる。
今度は、終始楽しそうに見物していたガロウズのおっさんが話し始める。
「ま、こっちも単刀直入にいくぞ。商業ギルドの件の顛末って聞いてるか?」
ああ、俺達がオークションやったあとトラブルが起きてたって言ってたよな。
こっちに火の粉が飛んでこなかったから気にしてなかったんだが……。
なんか危なそうならシーナがなんか言ってくるだろうしな。
「いえ、特に聞いては……」
「そうか、じゃあ。そこから説明するぞ」
そんな感じで始めた説明は……一言で言うと、欲望にまみれた醜い争いだった……想定以上に……。
まず、あのオークションから数日後、あの時買って行った幹部の一人が死体で発見されたらしい。
事故なのか事件なのか不明な案件って言うやつになったらしい。
大方の見方は暗殺だろうと言う事だった。
理由としては俺達が売ったあの装備品が全部忽然と消えていたからだそうだ。
忽然と消えるってそりゃ、あの装備につけたマジックアイテムの効果は……あ、公表するの忘れてた!
「お? 何か気になる事があったか?」
「いや、続けてくれ……」
「ああ、その後がまた大変な騒ぎになってな~」
その件で、幹部連中は気づいたらしい。
所有者が死ねば、俺の『所有者の刻印(M)』で設定した所有者設定をクリア出来るんじゃないかって事を……。
で、その後は……購入した幹部連中が全員消えたらしい。
財産を全てかき集めて行方が解らなくなっているから、隠れたと言う説が有力らしいけど……。
今はもう裏で殺し合いが起こって何人か死んでいるのではないかという事らしい。
まあ、これを幸いに、冒険者の街は商業ギルドの健全化に一気に動き出せたとおっさん達、マイルドさんも一緒にうれしそうにしていたが……。
「でだ……商業ギルドの幹部連中の件は俺達にとってはもろ手を上げて喜べる感じなんだがな~ちと冒険者ギルドの方にも飛び火してな……」
ああ、そこからが本題か……。
「運よく手に入れた、低レベルの冒険者を殺して奪おうってぇ奴らが出始めているのさ」
それは……まずい……やばいぞ……。
「ただまあ、運だけで実力の無い冒険者がレアアイテムを手にいれりゃあそれなりにある事ではあるんだがな~今回は数が多すぎてちと問題がな……」
ああ、お宝を守るってのも冒険者としての能力って訳か……。
「でだ……奪われた装備品を追跡できるようなもしくは、調べれるような手段って何か無いか? あったら教えて欲しいんだが……。それだけで多少は抑止になるだろう」
う……やばい……ここは正直に言っておくべきか……いや、丁度いいからここで公表しておっさんに丸投げするか。
うん、それがいいな。
「いや、少なくともオークションで売った分はその心配は無いぞ」
おっさんが驚いた顔をする。
「は? どういう事だ? 所有者が死んでもあの制限はかかったままなのか?」
「そっちは、正直わからないんだよな。さすがに、実際に試してみるとかやる訳には行かないからな……」
「は? 話が良くわからねぇんだか? それでどうして心配はねぇんだ?」
「その辺ちょっと心配だったからな。保険をかけておいたんだよ」
「保険だと? どういうこった?」
「特定の条件化で発動するマジックアイテムにも、して置いたんだよ」
「マジックアイテムだと! そんな事が簡単に出来るのか!?」
おっさんが、生産者ギルドのギルドマスターのマイルドさんの方に顔を向ける。
「マジックアイテムにすること自体は、それなりの技量があれば可能ではあるのですが……それをやった場合……あっまさか!」
さすが曲がりなりにも生産者ギルドのギルドマスターだな。
「そうです、どんなくだらない効果でもいいので死亡時に発動するマジックアイテムとしてあるのです。ちなみに商業ギルドの幹部連中に渡した奴は、数分間光るだけです」
マイルドさんはそれに驚いた顔を浮かべる。
「使い捨てで光らせる程度のマジックアイテムなら簡単ですが……所有者の死亡時という条件付けなど出来るものなのでしょうか?」
流石と言うべきか技術的な疑問を持ったようだ。
「有名な所で言うと、リバースドールとか知っていませんか? まあ、蘇生関連の効果はともかく、死亡時の条件付けが出来るというイメージは出来ると思いますが」
まあ、リバースドールは材料があれば作れるんだけどな……知られたらまずそうだからな。
「え!? アレを作れるんですか!? ダンジョンなんかで稀に見つかって相当な高値で取引されてるのを知っていますが……」
うん、やっぱりまずそうだ。
「いや、流石にアレは……。ただ、発動条件の設定は比較的自由度があるんですよ」
「そうなんですか……。やはり、生産者ギルドに……」
「断ります!」
マイルドさん本人が弟子になりたいような雰囲気で尋ねてくるが途中でぶった切って断る。
「ごぉほん」
俺達が生産談義に進みそうになったのをおっさんが止める。
「で、なんだ? 所有者が死んじまうと使い捨てのマジックアイテムみてぇに砕け散るのか?」
「マジックアイテムみたいではなく、マジックアイテムそのものです!」
律儀にマイルドさんが補足する。
「て……なんで今までそんな大事なことを黙っていやがった!」
おっさんが凄い迫力で怒鳴る。
「あまり公開したくなかったと言うのと……状況がここまで動いていたのを知らなかったからな。あと、下手に公開してマジックアイテムでも鉄製装備と同じ様な騒ぎになるのは遠慮したいからな」
うっと、おっさんが黙る。
「確かに、商業ギルドのどたばたの最中にそれをやられたら困る事になったでしょうね……」
忘れてたなんて言えねぇ~~~~。
ただ、そこまで罪悪感がわかなかったな……。
やっぱり、武器や防具というのは殺し合いの道具でそれが原因で命を落とすのは当然だと言う事なのか?
もしかして、生産職には、武器なんかを作るジレンマってやつを解消する隠し効果とかないだろうな?
少し気になるぞ。
「まあ、いい。で……今話したって事は公開してちまっていいんだよな?」
苦い顔でおっさんがたずねてくる。
「ガロウズさんに、その辺は任せます。色々面倒な事が起こらないようにお願いします」
「くぅ……でも、まあわかった。何とかするさ。まあ、そもそもが装備の作者に文句を言うよな筋合いの話じゃなかったわな。すまん」
「いや、こっちも、もう少し早く伝えるべきでした」
そんな感じでガロウズさんの用件も終了した。
それにしても、色々疲れたな……。
そうして、挨拶をした後、部屋を出ようとする帰りがけ。
「あ、ちょっと気になったんだが一応、さっきの奴隷の嬢ちゃんの身の周りに気をつけておいたほうがいいかも知れねぇぞ」
そんな気になる一言をかけられた。
言われてみれば確かにそうだ。アンジェリカさんが職人として一人前になったら件の職人は色々不都合があるから狙われる可能性もあるな。
「まあ、あの店の警備の凄さはいやって程知ってるし、お前らを敵に回して無事な奴らは想像つかないけどな」
俺達の強さはともかく、警備の事はなんで知ってるんだ?
尋ねると、シーナがM&Mに盗みに入ろうとして進入できなかった奴らの情報をおっさんに……と言うより冒険者ギルドに売っていたと言う事だった。
何時の間にそんな事をやっていたんだ?
それに、盗みに入るバカはそんなにいたのか?
色々思うところはあったが、「ありがとう、色々気をつけるよ」と返事をしてその場を後にする。
思った以上に時間をくったな、アンジェリカさん達はどうなっただろう?
早く店に戻るか!
次回こそは……天使の話!




