第3話 弟子入り奴隷
今日も何とか更新です。
いいペースで書けてます!
この調子で行きたいです。
生産者ギルドの会議室で交渉を終えた俺とシーナは1階まで降りてきていたのだが……。
「なんだこの人だかりは?」
「冒険者ギルドみたいに混雑する時間とか?」
来る時にはなかった人だかりが生産者ギルド1階の片隅に出来ていたのだ。
確かあそこら辺は……素材売り場だったよな?
マユさんは大丈夫なのか?
そう思いつつ近寄って行くと、ちらほらと声が聞こえてくる。
「おいおい、即金で100万とか、あの嬢ちゃんは何者だ?」
「それより俺は、生産ギルドのメンバー以外があの店使えるなんて聞いたことが無いぞ! そのためにギルドに入ってるやつも多いだろう! どういうことだ!?」
「あ、それならギルドマスター許可があればよかったはずだ。他のギルドからの要請なんかで素材を売るのを見たことが何度かある」
「おい、あの女って確か街の門の外の店の奴じゃないか?」
「ああ、どこかで見たと思ったら。確かにそうだ!」
「は? そんな場所に店なんかあったか?」
「前のモンスターの襲撃のちょっと後に出来たんだよ。お前知らないか? 妙に高品質な装備を捨て値で売りまくってた店の噂」
「S&M違う……N&Nだっけか?」
「ああ、オークションやって大盛況だったってやつか!」
「俺、クジ引いたけど……参加賞だった」
「参加できるだけいいじゃねぇか! 俺なんか街を離れてた間に終わってたぞ!」
「ところでよ、あの店って何の店なんだ?」
「そりゃ、武器防具の店だろう?」
「いや、今あの店に、装備品の類は殆ど無いぞ! 装飾用のアクセサリぐらいだぞ!」
「そういや何の店なんだ? 回復アイテムの類は殆ど売り切れだったしな」
「まあ、それは襲撃後はどの店も同じだろう。大分ましになってきているけどな」
「え? あそこって素材の買取の店じゃないのか? ものによっては破格で買ってくれるぞ!」
うん、な~んか色々いやな予感が……。
「シーナ……」
「あんたもそうなのね……私もよ……いやな予感がするわ」
放置しておいても、トラブルが解決する訳でもないので、気は進まないが集まってる人を掻き分けて進んで行く。
そして、最前列までやって来た俺達が見た光景は……。
アイテムボックスから大量の硬貨を取り出し素材売り場の購入カウンターに積み上げて行ってるマユさんだった。
それを見て、そんな大金で何を買うのかとか、アイテムボックスをそんなに堂々と使っていいのかとか色々といいたい事はあったのだが……。
一番気になったのは、高額硬貨を使ってやれよ……生産者ギルドの職員が3人ぐらいで必死に数えてるぞ!
この世界のお金は基本的にGで統一されている。
まあ、多少例外があるらしいがそれは今はいい。
それよりも、貨幣についてだ。
ゴールドと名づけられているが、すべてが金貨な訳ではない。
まあ、1G金貨とかやったら使いにくいほどの小ささか、潰して儲けが出るから潰してインゴットにされるよな。
というわけで、普通に流通してるのは、金貨、銀貨、銅貨でそれぞれ3種類の大きさがある。
銅貨は、1G、5G、10G。
銀貨は、50G、100G、500G。
金貨は、1,000G、5,000G、10,000G。
これ以上は、一応あるらしいけど……この世界に来て一度も目にしたことが無い。
シーナによると、不滅の硬貨とかいう大昔の硬貨だったり、白金だったりがあるらしいって事だった。
なんとシーナですら白金硬貨までしか見たことが無いらしい。
う~ん、マユさんよ……せめて金貨だけで払ってやれよ……。
そんな事を考え込んでいたからだろう。
シーナがチャットで話しかけてくる。
『シーナ:安心しなさい。あの出し方ならアイテムボックスとばれることは無いわ。精精、サイフ系のマジックアイテムからお金を取り出してると思うわよ。まあ、それはそれで微妙に問題があるんだけど……』
確かに、一見マユさんは腰につけた袋から金貨を取り出してるように見えるな。
そっちの方は大丈夫そうか?
『クロ:ちょっとまてシーナ。問題がなんかあるのか?』
最後に呟いていたセリフが気になってシーナに問いかける。
『シーナ:あの手のマジックアイテムはそれだけで相当高価な代物なのよ! バカな事を考える奴がね……』
そんな事を言いながら幾つかの場所に目線を走らせるシーナ。
欲望に染まった目線で金貨を見つめる奴が何人かいるな……。
『シーナ:ま、少しは牽制しておきますか……』
そういいつつシーナはマユさんに近づいていって。
「何やってるのよ、マユ!」
ズペシと音を立てて彼女の頭を叩いていた。
「あ、シーナ……って、いきなり何をするんですか!」
「何こんな大金を持ち歩いてるのよ!」
「欲しい物があったら直ぐに買えるように……」
「無用心だといってるのよ! 店に戻ったら倉庫にちゃんとしまうのよ! いえ、私が仕舞うわ!」
「え、でも……」
「厄介事の種をこれ以上作らないで!」
「え……はい……」
あ、シーナの剣幕に押されてマユさんが頷いている。
あと、「ちっ」とか言いながらその場を離れていく奴が数名居るな。
この場でいきなり説教を始めたのはそれが理由か。
「で? 100万Gとか聞こえてきたけど……何にそんなに使うつもりなのよ!」
ああ、そうだ色々わき道にそれてたけど、そんな大金で何を買うつもりなんだ?
「アンジェリカさんを引き取ろうと」
???
誰だ???
「は? アンジェリカって誰よそれ?」
シーナもいぶかしげに尋ね返す。
「あそこで奴隷として売られていたのです!」
マユさんの目線の先には透明な結界で覆われた部屋のような場所で一人の少女がぽつんと座っている。
彼女がアンジェリカさんなのか?
見た目はマユさんと同い年ぐらいの普通の町娘って感じの少女だ。
「生産者ギルドってのは奴隷の売買もしてるの?」
シーナがカウンターで必死に硬貨を数えている職員に尋ねる。
「ああ、彼女はちょっと特殊な事情がありましてね……」
人ごみを掻き分けて一人のヒョロヒョロのおっさんがやって来ていた。
う~ん、太陽に全く当たってなくて真っ白な不健康そうなおっさんだ。
まあ、部屋に閉じこもってひたすら物を作ってる職人にはありがちではあるが……。
「あんたは?」
「私は、生産者ギルドの人事を受け持っている。ホラルドです。あ、人事と言っても職員の管理と言うより、ギルドメンバーの管理のほうですが……」
「それで、ギルドメンバーの管理をする人間がどう関係があるの?」
「それを今から説明しますね」
そう言ってホラルドさんは説明を始めた。
アンジェリカさんは、”弟子入り奴隷”というものらしい。
職人の弟子になるには色々な方法があるが、この生産者ギルドは、ある意味俗物的な方法が取られているそうだ。
つまり、人数的(人気で沢山集まったりする場合)に問題がなければお金さえ払えば弟子入りできるシステムなんだそうだ。
これは、生産者ギルドのメンバーの義務でもあるようだった。
必要金額を設定するのは、職人なのでその辺で実質的に断るとかは出来るみたいだが……。
まあ、学校の授業料みたいな感じと考えれば、いいシステムと言えるのか?
場所によっては、職人にテストされ気に入られないと弟子入りできないとか、弟子入りを却下するとか、子供にしか伝えないとかそういう事もあるらしいからな(シーナ情報)。
それで、弟子入りするにも、冒険者の街で稼げずにドロップアウトした冒険者なんかではそのお金を払えるはずもない。
そこで出てくるのが、”弟子入り奴隷”と言う制度らしい。
お金を納める代わりに自分自身を奴隷として一定の労働力で支払うと言うのだ。
基本的に、弟子入りしてから、技術を身につけてしまえば1~2年で完済して奴隷から開放されるらしいが……。
たまに、能力的に全然だめだったりすると、雑用なんかの奴隷として結構長い期間の労働して完済することもあるらしい。
で、やる気がなくなって全くの役立たずだったり、手伝いとかの役に全く立たないとなると最終手段として生産者ギルドで売られる事になるらしい。
娼婦なんかとして買われたり、普通に労働奴隷として買われたり最終的に売れ残ったら鉱山に売られるらしい。
まあ、奴隷として売られるのは本当に最後の最後で、殆ど起きないことらしいのだが……。
その点を疑問に思った俺はホラルドさんに尋ねてみた。
「と言う事は、彼女には相当問題があるという訳ですか?」
俺の質問に当然の疑問だろうと言う感じで返してくる。
「そう思われるのは当然なのですが……彼女に関しては……どちらかと言うと職人の方に問題が……」
なにやら歯切れが悪い答えが返ってきた。
彼の話を信じるなら彼女自身の問題ではなさそうだけど……。
そんな感じの説明を一通りホラルドさんがしてくれた。
説明のあとシーナが、
「何の特徴もない奴隷が100万Gってのはちょっと高すぎる気がするけど……」
表情を曇らせているが……マユさんの方を見て諦めていた。
うん、なんかマユさん相当気に入ったようでアレをやめさせるのは骨が折れそうだ。
とはいえ、100万か……今のマユさんの財力なら払えない額ではないかもしれないが……。
いや、個人資金ではなく、お店の資金で購入するつもりなのか?
俺達は、色々秘密も多いから簡単にバイトのような感じで店員を雇う事も出来ないからな……。
奴隷を手に入れて店員にするのはある意味正しくはあるか……。
で、実際の所どうして彼女を引き取ることにしたのかをマユさんに尋ねてみた。
すると……。
「どんなに下手だろうと! どんなに才能がなかろうと! 物を作りたいという気持ちは大事なのです!」
何て事を皮切りに、演説めいた事を言い始めた。
曰く、作りたいという気持ちは何にも変えがたい物だ!
曰く、これだけ物作り熱意のある彼女を気に入ったのだ!
曰く、物作りは利益なんか関係ない!
曰く、
・
・
・
なんて事を延々しゃべっていた。
終わった時には、俺とシーナを置いてきぼりにして、回りで聞いていた人達の拍手喝采を受けていた。
うん、職人というか……、趣味人というか……、とんでもない共感を生んでいた。
俺とシーナは、奴隷の購入を諦めさせるのは無理だと悟った。
お金が足りないとかならともかく、お金は足りるだろうしな……。
と言う事で……。
アンジェリカさんを引き取ることになったのだが……。
何故だ?
何故俺の奴隷になるという話になっているのだ?
アンジェリカさんも俺の方を見て不安そうな表情に変わっている。
「なんで、俺の奴隷にするんだ? マユさんのじゃないのか?」
「M&Mのオーナーはクロさんですから! クロさんの奴隷で正しいんです!」
あ、店の資金の方を使う気だったのか……まあ、全く無関係の出費でもないから、それはいいんだが……。
「私は、マユさんの奴隷になりたいのであります! 色々教えて欲しいのであります!」
アンジェリカさんが捨てられた子猫のような目をしてマユさんに訴えかける。
「私よりも、クロさんの方が生産者の能力は高いですよ! 特にアンさんが習いたいと言う鍛冶なんかは、私は限定的にしか出来ませんから!」
ああ、マユさんは鍛冶に関しては、アクセサリの小物ぐらいしか出来ないよな。
そもそも、【マジッククリエイター】は職業的に、そういうものを作る職業ではないから当然なのだが……。
「本当なのでありますか?」
少し疑うような感じでアンジェリカさんが俺の方を向く。
「ああ、一応、M&Mの装備品関連は俺が作ってるな……」
その俺のセリフに、周りで見ていたギャラリーが騒々しくなる。
「おい、あの装備つくったのはあいつだったのか!?」
「まじか!?」
「たしかに、あの嬢ちゃんが作ったと言われるよりは納得できるが……」
「専属の職人が別に居ると思っていたぞ! 若すぎるだろ!」
「俺の方が弟子にしてもらいたいぞ!」
「でも、ギルドメンバーじゃないんだよな、あいつは……」
う、ちょっとまて、俺はむさくるしい男が大量に弟子入りしてくるなんていやだぞ!
それに、そこまでまじめに、鍛冶に打ち込むつもりはないぞ!
自分達の分を作れれば十分だと思ってるから……。
『シーナ:さっさとみとめちゃいなさい。下手に長引くと、厄介事になりそうよ! あと、マユの言ってるのもある意味正しいわよ』
シーナがチャットで、奴隷について説明を追加してきた。
奴隷の奴隷といった、契約は行えないらしい。
奴隷の身分では契約を遂行する事が保証できないからとか言う理由のようだ。
まあ、雇う側の奴隷が主人からの強制で、契約を破るような命令をされた場合に矛盾が発生しかねないからだと言うことだ。
国の規則などで決まっていると言うよりは、契約を行おうとすると、契約の儀式にはじかれると言うことらしいが……。
あと、同様に奴隷の主人が奴隷になる事もできないようだ。
一旦すべての奴隷契約の解除が必要との事だった。
まあ、そういう訳で、しぶしぶ契約を行うことにした。
契約の儀式は、ホラルドさんの作成した契約書を使って行う。
この契約書はマジックアイテムで、奴隷契約に使う専用のものらしい。
奴隷の契約には何種類かあるらしいが……コレが一番、強制力が軽い方法らしい。
ホラルドさんが人事の仕事をしていたのも、この特殊な書類作成能力を生かしての事だそうだ。
内容的には、100万Gを返済するまで奴隷とする。
仕事内容としては、労働奴隷とし、それにたいする懲罰の権限を持つ。
契約内容の変更は双方の合意があれば可能である。
などなど、それ以外にも細かい項目がびっしり書かれている。
俺は、5回ほど読み直して確認し、『アイテム鑑定(M)』でも確認し、シーナにも問題は無さそうか久しぶりに『命令』スキルまで使って確認させた。
そして、契約を行う。
契約自体は、マジックアイテムである契約書に双方の名前を書き込みそれぞれの血で拇印を押すだけで完了した。
『アンジェリカ(天使・女)を契約により、奴隷にしました』
あ、この契約方法でもシステムメッセージが表示されるん……。
え!?
天使!?
次の話は……。
成り行きでな奴隷が増えたクロ。
その奴隷、アンジェリカには秘密が……。




