第2話 交渉
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なんとか間にあいました。
「オークションの費用はそっち持ちで、当然手数料とかも無しよ!」
「それはちょっと困ります。せめて落札金額の5%の手数料を……」
「そんなのあるわけ無いじゃない! そもそもオークションするってなら前みたいに店の周りでやってもいいのよ!」
「一つお聞きしますが、オークションの会場運営はこっちが全て請け負う事になるんですよね?」
「入札ルールとか入場料とかの事なら、一つ条件を飲めるのならそっちの自由にして良いわよ」
「条件じゃと?」
「落札金額以上の値段なら店においても良いってことにするのよ」
「それは……」
「せめて、落札額の5倍として欲しいの」
「売りに出されては困るからの交渉でしょう!」
「ついでに、落札されなかった時は、0Gで落札されたとみなすわよ!」
「それでは、オークションの会場運営はどのような条件なら飲めるのでしょうか? 落札額で販売するという案以外でですが……」
俺とマユさんとシーナは、午後から生産者ギルドにやってきてM&Mの装備品の取り扱いについて交渉をしていた。
この交渉に現在参加しているのは、M&Mからはシーナ、俺は彼女の交渉を見てその内容に承認を与える感じだ。
生産者ギルドからは、ギルドマスターを勤めているマイルドさん、副ギルドマスターの第12代目ロドニーさん、会計のジルバさんだ。
冒険者ギルドからは、ギルドのカウンターのおっさんこと、ガロウズさんだ。
なんとあの人は冒険者ギルドのギルドマスターだったらしい。どうりで妙に色々影響力があるわけだ。
まあ、現在は、ガロウズさんも冒険者ギルドとしての交渉を終了したので、俺達の……いやシーナ達のやり取りを面白そうに見物している。
冒険者ギルドとの取り決めの内容は、素材収集クエストを依頼する時に、M&Mが例の鉄製装備で支払いをするというものだ。
こちらが、欲しい素材と量を冒険者ギルドに告げると、依頼料込みで鉄製装備どれだけに相当するかを査定してくれて、ギルドとして素材を集めてくれるのだ。
査定に関しての生産者ギルドとのやり取りは全て冒険者ギルドに丸投げ出来る。
まあ、冒険者ギルドとM&Mで素材の取引をする感じになるな。
それに、冒険者ギルドにうちが、細かい依頼内容を決めて依頼を出すような面倒な事が無くて楽だしな。
そんな感じで、冒険者ギルドとの交渉が終わって次は生産者ギルドと販売に関する交渉を行っている所なのだ。
「私達の取り分は入場料の2割よ!」
「それは困ります! せめて5%ぐらいに!」
「1割5分!」
「会場設置費用を同じだけ持つならそれでも……」
「それは出せないわ!」
シーナはガンガン攻めの交渉をしてるな。
まあ、実際は相当無茶な要求をしてるのは生産者ギルドの方でもあるのだから、それも当然なんだけど……。
それをいまいち理解できてない人が居たからな……。
その人は、本来この場でM&Mの代表として交渉すべき立場だったと思うんだが……。
今は、この会議室にすら居ないからな。
それは、交渉が始まって5分とたたない頃の話だ。
「それじゃあそれ――」
ズベシ!
シーナが慌てた様子でマユさんの発言を止める。
「な、何をするんですか! シーナ! 痛いじゃないですか!」
マユさんが叩かれた頭を痛そうにさすりながら文句を言う。
「何をって……それはこっちのセリフよ! 何で相手の言値でOKしようとしてるのよ!」
うん、流石に俺もシーナに賛成だな。
ありゃ、交渉の手段として結構な条件を吹っかけてるぞ。
「え? 特に問題はなさそうでしたよ?」
少し不満げな様子なマユさん。
う、なんか凄く不安になってきたぞ……。
「少しでも有利な条件を引き出す事を考えなさい!」
シーナが怒鳴りたくなる気持ちも良くわかる。
で、そんな事を3~4回繰り返したあたりだった。
「マユ、さっきこの建物の一階の素材売り場を見たいとか言ってたわよね?」
そういえば、生産者ギルドに入ってすぐのところに素材の販売所があったな。
時間が無かったので素通りしたけど……マユさんが結構後ろ髪ひかれてたよな。
「はい、沢山の素材が並んでいたので帰る前には少し寄りたいです」
帰りに寄っていくつもりだったのか……。
でも、あれって生産者ギルドのメンバーしか購入できないとかあるような気がするぞ。
「ここの交渉は、私とこいつでやっておくから、今から見てきても良いわよ!」
シーナは俺を指差しながらマユさんに、邪魔だからそっちに行ってと言う感じで告げている。
「え!? いいんですか!?」
マユさんは全く気がついてない様子だし……。
てか、店の事はいいのか!?
まあ、彼女が交渉したら相手の言値そのままになりそうだったけどな……。
「マイルドって言ったっけ? 生産者ギルドのメンバーじゃないけど、当然融通してもらえるんでしょ?」
「それでしたら、加入していただけば……」
「生産者ギルドのメンバーとしての義務を全て無くして貰えるならいいわよ!」
「はぁ……解りました。今回だけですよ。うちのギルドのメンバーと同じ扱いにするように連絡します」
「と、言う事だから。マユゆっくり一階の販売所を見てらっしゃい」
「はい、ありがとうございます! では、行って来ます~~」
凄くうれしそうにマユさんが会議室から出て行く。
彼女自身も交渉とか苦手に思っていたんだろうな~。
そもそも、お金儲けよりも自分の作った物が売れる事が大事そうだからなマユさんは……。
と、そんな感じで、シーナがマユさんを追い出して交渉を引き継いだのだった。
「一割一分一厘!」
「9.5%で!」
「一割一分!」
「9.6%!」
うん、交渉の方は白熱してるな~。
俺には、全くやることが無いぞ……。
あ、そうだ。
このチャンスにこっそりと生産者ギルドの上位の実力を探っておくのもいいよな。
最初の自己紹介の時、生産者ギルドのそれぞれの分野のトップが幹部になるとか言ってたけど……。
『シーナ:上の方ではあるけど一番じゃないわよ。一番上の奴はギルドの運営よりも物を作るのを優先するようなのばっかりって話だし』
こっそりとシーナがそんな事をチャットで耳打ちしてきて居たから本当のトップではないんだろうけど、それでも上位の実力者と言うのは間違いないだろう。
斥候技能とか生産者には無いからばれないだろうし、例えばれても今ならそうそう文句は言って来れないだろうからな。
というわけで『人物鑑定(M)』のスキルを使ってみる。
まずは、生産者ギルドのギルドマスターのマイルドさん。
名前:マイルド・ストーン
職業:アクセサリ商人Lv13
種族:ヒューマン
備考:………………………………………………
………………………………………………
………………………………………………
え?
【アクセサリ商人】!?
それもレベル13!?
なんか凄く低くないか?
他の人も調べてみる。
名前:第12代目ロドニー
職業:武器商人Lv29
種族:ヒューマン
備考:………………………………………………
………………………………………………
………………………………………………
ロドニーさんは【武器商人】!?
レベルは少し上がって29か!?
それでも低いな……。
名前:ジルバ・ジルン
職業:薬屋Lv21
種族:ヒューマン
備考:………………………………………………
………………………………………………
………………………………………………
ジルバさんは【薬屋】か……。
レベルは21でマイルドさんよりは高いけど……ヤッパリ低いよな。
これが、生産者ギルドでも上位の実力者なのか!?
WMOだったら、駆け出し以前じゃないか!
レベルの事はいったんおいておくとしても、職業が純粋な生産職じゃない!
【アクセサリ商人】、【武器商人】、【薬屋】はどれも、商人系のベース職から昇格して、扱う物にそれぞれ特化した職業じゃないか。
一応生産も出来るには出来るが最低ラインのものしか作れなかったはずだ。
もう一回昇格すれば、【アクセサリ職人】、【武器職人】、【薬師】なんかの職業になれたはずだよな?
昇格条件もそれほど厳しくなかった気がするんだが……。
ちょっとまてよ、そういえば……マユさんも出会った頃はレベル10台前半だったよな。
それでも売り物はあの辺りでは相当な高品質だって話だったけど……。
それはともかく、もしかして生産職のレベル上げってのはこの世界ではほぼ絶望的なのか?
【武器商人】から【武器職人】の昇格条件はたしか、レベル20~30ぐらいだった気がする。
他にもクエストみたいなものはあったけど……。
【アクセサリ職人】、【薬師】も同じような感じか……。
となると、ロドニーさんが昇格可能かどうかのラインって感じなのか?
マイルドさんはまず無理だろう。ジルバさんは、もしかしたら可能かもしれないって感じか……。
あと、昇格するとレベル0だしな。
マスターしてなければ、熟練度とか引き継がないだろうし……。
となると迂闊に昇格もできないか。
下手すると上位の職業になって生産能力が落ちかねないぞ。
一応生産職は生産でも経験値は取得は出来たはずなんだけどな?
なんでだ?
………………。
…………。
……。
ああ、素材だ……。
少し上の素材を無理してレベリングに使うなんてマネは出来ないよな。
当然ながら死に戻り前提の無茶狩りでレベリングなんてやれるはずもないし。
転職が出来たなら、他の戦闘職をいくつかマスターしてその能力で戦う事もできたんだろうけど……それも不可能だし。
これは……長寿種族の転職が出来た頃から生きてる生産職以外、殆ど絶望的な生産能力なんじゃないか!?
そんな事を考えている間にシーナ達の交渉は終了したようだった。
「ふぅ……こんな所でいいわよね?」
何かやりきった表情でシーナが笑顔を浮かべている。
生産者ギルドの3人がどことなく疲れた表情をしてるのとは対照的だ。
「そうですね……」
「やっと終わったのぉ……」
「相当厳しい条件でしたが……一応、合意となりました。他に確認事項はありますか?」
「あ、今回の件って鉄製の装備だけなの? 木剣とか銅の剣とか他の素材は自由に売ってしまっていいの? それともそれもオークションに出す? 練習用も込みで相当量になるわよ?」
「あ、そこまでは要求しません……と言うか、その辺の物までオークションで売る事になったら生産者ギルドが破産しますよ」
「そうよね……流石にその辺までは制限しても利は無いわよね。こっちで適当な値段で売りに出すわ」
マイルドさんは、軽い様子で答えてるけどいいのか?
シーナが俺に確認のするように此方を向いた時。にやりと悪そうな笑みを浮かべていたぞ!
何でだ? 木製装備や銅製の装備なんて、作って売る気はあんまりないぞ?
何をたくらんでるんだ?
シーナ……?
うん、いや違う! 木製を売りたいって言ってるんじゃないぞ!
鉄製以外を自由に売ると言ってるんだ!
そうか……生産者ギルドの普通の感覚だと、鉄以上で装備品を量産するなんて考えがそもそも無いんだな。
うまく誘導してるなシーナ……まあ、本当に売りに出したらひと悶着おきるだろうけどな。
「ま、こんな感じでいいわよね?」
シーナが最後に契約書を俺に見せて確認してくる。
まあ、この場だとM&Mのオーナーって立場で最終決定権持ってるからな。
契約書は念のため2度ほど読み直して確認する。
一応、妙な仕掛けが無いか『アイテム鑑定(M)』で確認もしておく。
よし、問題ない。
そのまま、契約書に調印する。
生産者ギルドの3人と冒険者ギルドのガロウズさんは、他にも話し合う事があるらしいので、俺とシーナはそのまま会議室を後にする。
さて、マユさんは、どうしてるかな?
何かいいものを見つけたのだろうか?
この時、マユさんが予想外のモノを買おうとしてるとは、俺達には知る由も無かった。
次回、マユさんの購入しようとしていたモノとは!?




