嘘をつく日
今日の主役は、ギャグ担当のティナです!
――これは、クロ達が冒険者の街で生活を始めて大分たった頃の話である――
ティナは突然、ザバ~ンと立ち上がる。
「嘘をつくんだよ~~~」
だよ~だよ~だよ~と、早朝の大浴場に響き渡る。
「いきなり何なのよ? それよりリーフの所の朝の特訓行かなくていいの?」
あきれた表情を向けているのはシーナだ。
(ゆっくり朝風呂を堪能したかったのにまずいやつに出くわしたわね)
「今日は、4つ目の月の、最初の日なんだよ! 嘘をつく日なんだよ! あと、リーちゃんには『お腹が痛くて休みます』ってお手紙置いてきたから大丈夫」
(また変な本でもよんだわね。それと……お腹が痛いって、完璧に仮病じゃない)
「だから嘘をつくんだよ!」
「ああ、それなら知ってるわよ。嘘をつく日でしょ?」
「おお~~さすがシーナちゃん!」
うん、うん、さすがだよ~と頷くティナ。
「でも、それって昨日だったわよ。あんたが、またバカやりだすだろうからって、クロの奴が日付いじってたわよ」
「え……今日じゃない?」
ピシリという感じで固まる。
「昨日ね」
「ええええええ~~~~~そんな~~~~」
ガックリとうなだれてお湯の中に沈んでいくティナ。
しばらく沈んでいたかと思うと、
「クロちゃんに文句言ってくる!」
ザバーンとまた立ち上がって急ぎ足でお風呂を立ち去って行く。
「はいはい、いってらっしゃい」
シーナは、興味なさそうに適当に手を振って送り出す。
(これで静かになるわね)
「クロちゃんひどいよ! 嘘をつく日が昨日だったなんて」
ダイニングで朝食を待っていたクロにくってかかる。
「はあ? 何を言ってるんだティナ?」
困惑の表情を浮かべ尋ね返すクロ。
(またなんか変なことやりだしたな)
「シーナちゃんに聞いたよ! 昨日が嘘つく日だったって! 4番目の月の最初の日だったって! 日付にいたずらしたって! ひどいよ~~~」
「確かに、4月1日のエイプリルフールって……こっちの暦だと今日って事になるのか」
ああ、そういえばと、思い出しているクロ。
「そうだよ昨日だったんだ……あれ? 今日?」
ティナは、途中で気づいてあれ? って感じで首をかしげている。
「自分で言ってるじゃないか? 今日だって」
「え? え? でもシーナちゃんが昨日だったって」
クロはため息一つ。
「お前騙されたんだよ、シーナに」
「ええええええ~~~~騙すなんて酷いよシーナちゃん!」
驚愕するティナ。
(お前なんか忘れてるだろう)
「ティナ、今日は何の日だって言ってた?」
「今日は、嘘をつく日……ああああ~~~~そうだった!」
ティナはやっと気がつき悔しそうに唇を噛み、
「く、今日中にシーナちゃんを騙すんだ!」
と決意を新たにする。
(お前じゃたぶん無理だと思うぞ)
「と、言う訳で何かシーナちゃんが騙されそうな事って無い?」
(人頼みか!!!)
クロはため息一つつくと、
「お宝で釣ったらいいんじゃないか?」
と適当に答えを返す。
「おおお~~なるほど~~~じゃあ、行って来るよ~」
「がんばれよ~」
「シーナちゃん、街の近くにお宝いっぱいのダンジョンが発見されたんだよ!」
脱衣所で扇風機に当たっていたシーナに突撃する、ティナ。
「ああ、それなら今朝行ってきたわよ。色々面白い物がいっぱいあったわよ。宝物庫の入り口に使わない物置いといたから好きなのもって行っていいわよ」
「ええ~~~本当!? 直ぐ行って来るよ~」
ティナはそのまま、宝物庫へ全速力で走り去っていく。
(ちょろいわね)
「あれ? おかしいよ! お宝がないよ?」
「どうしたんですか? ティナさん」
「あ、マユちゃん」
ティナは、宝物庫にしまってある素材を取りに来たマユに説明する。
「え? 今日はシーナ何処にも出かけてないはずですよ」
「あれ? おかしいな」
首を傾げるティナ。
「マユさん~あった?」
なんていいながらクロも宝物庫に入ってくる。
「素材はあったのですが……」
マユは、クロに説明する。
「ティナ、お前また騙されたんだよ」
「…………ああああ~~~~~~~~」
「お前じゃ、シーナを騙すのは、無理だよ」
「クロさん、騙すって……」
クロは、マユさんに今までの経緯を説明する。
「嘘をつく日ですか……」
「そうだよ~~なんか、シーナちゃんをギャフンといわせる嘘って無いかな?」
「セリカさんが、探してるって言えば少しは慌てるんじゃないでしょうか?」
「それだ!」
ティナはそのまま、走り去っていく。
「それって……嘘になるのか?」
「あ、確かに……」
シーナを探してM&Mや砦のほうまで走り回り、途中ダイニングで用意されてた朝食を食べたりしていたティナ。
「あ! シーナちゃん居た~~~」
やっと、外に出かけようとしていた彼女を見つける。
「今日は何よ、あんた……」
答えるシーナは少し疲れた表情を浮かべている。
「セリカちゃんが、新しい技の試し切りだ~ってシーナちゃん探してたよ!」
「ああ、それならさっきそこで会って、近くに居たリーフにあんたの特訓メニューに追加するよう頼んでおいたから。今頃あんたを探してるはずよ」
「な! 何てことするんだよ~~~」
「ま、死な無い程度にがんばりなさい」
「た、大変だよ~どうしよう~~」
(聞いてないわね。まあ、これで今日は静かになるでしょう)
30分後……。
「セリカさんなら朝から狩にでかけましたよ」
ミルファと一緒に廊下を歩いていたレナが、セリカの居場所をこう答えた。
「…………あれ? …………ああああ~~~また騙された!!」
ガックリと膝を突くティナ。
「大丈夫ですか? ティナさん」
「大丈夫? ティナ」
心配するレナとミルファ。
ティナは、訳を二人に話して何かいい方法が無いか尋ねる。
「シーナさんなら……掘り出し物とか好きそうですね」
「ああ、街で掘り出し物があったら直ぐに飛んでいきます」
何かティナの説明が微妙だったのか少し方向性がおかしな事になっているが……。
「掘り出し物か~~~ありがと~~探しに行ってみるよ~~」
そうして、昼飯の時間まで街で遊んでくるティナだった。
「ティナ、そういえば、もう諦めたのか?」
「モグモグモグ?(なにを?)」
口いっぱいにパンを詰め込みながら答えるティナ。
今、M&Mのダイニングには、レナ、ミルファ、クロそれにティナの四人で昼食をとっている。
ちびっ子四人はお弁当を持ってエルフの森に出かけている。
セリカは、居ないなら狩に出てるのだろうと思われてる。
シーナも同じく、適当に出かけていると心配されては居ない。
マユはM&Mの店番だ。
リーフさんは、怖い空気をまとっていたので、今日は触れようとする者は居ない。
「嘘をつくぞ~とか言ってたやつだ」
「あっ! ………………だ、大丈夫だよ! 取って置きの嘘があるんだよ! シーナちゃんが帰ってきたらつくんだよ!」
「そ、そうか……まあ、がんばれよ」
(絶対わすれたたな)
(わすれていましたね)
「ついに対決の時だよ!」
夕方までずっとM&Mの入り口を見張っていたティナがついに帰ってくるシーナを発見する。
帰還の指輪を使ったら入り口を通らないとかは完全に頭から抜けている。
「今度はなによ?」
待ち構えていたティナに、シーナがうんざりしたように尋ねる。
「街に行ったら、すっごい掘り出し物があったんだよ! 直ぐに行かないと売り切れちゃうよ!」
「ああ、あれね。さっき買ってきたところよ」
何だそんなことかと平然と答えるシーナ。
「え? そうのなの?」
「それより、あんたは行かなくていいの? あんたの好きそうな物が沢山あったわよ」
「ほ、本当!?」
「残りが殆ど無くてもう売り切れそうだったけどね」
ティナは沢山あったのに残りが殆ど無いとか言う矛盾には気がついていない。
「え~~急がなくちゃ! ありがとう! シーナちゃん」
「…………はぁ」
(こうも簡単だと張り合いが無いわね)
「ううう~~~負けたよ~~~~」
夕食後、のんびりお風呂に使っていたクロはティナに泣き付かれていた。
「まあ、これでも食べて元気出せ」
アイテムボックスから丸いチョコレートを一粒取り出すとティナの口に放り込む。
「あっま~い。これ美味しいね」
(これじゃあ、シーナを騙すとか無理だよな)
次の日、ティナの目の前には鬼が居た。
「少し甘くしすぎたみたいですね……今日からビシビシいくから覚悟しなさいティナ!」
「なんか怖いよリーちゃん!」
「口答えするんじゃありません! 返事は『はい』か『YES』か『了解』だけです!」
「ええええ~~~そんな~~~~」
「罰として、100発連続命中のを1セット追加です!」
「ええええ~~~追加されたら終われないよ~~~」
「もう1つ追加ですね」
「!!! 了解しました!」
(ううう~~~リーちゃんが物凄く怖くなってるよ~~~なんで~~~)
説教をされそうな時にごまかす嘘ぐらいしかつかないティナでは、
騙す事を武器の一つにするシーナには勝ち目が最初から無かったような……。




