第3話 ティナを倒せ!?
リーフさんの考えたトラウマ克服法、それは!?
他のトラウマでトラウマを塗りつぶす事……(違う!)。
「好きなところからかかってきなさい!」
リーフさんが弓を手にしながらちびっ子達にめい――声をかける。
ちびっ子達はお互の顔を見ながら悲壮な決意を決め一斉に突撃する。
「それでは、ダメです!」
リーフさんは手にした弓を即座に構え閃光のような四連射。
ちびっ子達の脳天を貫き、4人が外へと転送されていく。
情け容赦ないというか……ちびっ子達には無理ゲーすぎるだろうありゃ……。
俺は闘技場の中央で仁王立ちしているリーフさんを眺める。
アレで大丈夫なのか? 新しいトラウマ作ってるようにしか見えないんだが……。
そう思いながら、俺は数日前の事を思い出す。
あれは……。
2~3日前に計画を前倒しにするするとかリーフさんが言ってたが、動きが無いので少し安心していたのだが……。
夕食後、俺とちびっ子達がリーフさんの部屋に呼び出された。
俺たちは今、リーフさんの部屋の床に車座になって座っている。
俺、狐っ娘姉妹、リーフさん、ポチ、タマ、俺って感じで一周している。
みんながそろって落ち着いた所で、開口一番、
「特訓をしようと思います」
とリーフさんが宣言する。
「??」
「??」
「わん?」
「にゃ?」
一斉に疑問符を浮かべるちびっ子達。
俺も、狐っ娘姉妹のトラウマ克服の為にやるんだろうとは予想できるが……。
「何をするんだ?」
特訓でトラウマ克服とか……どう考えても穏当な手段じゃないと思う。
「この子達のティナに対する苦手意識を克服する為の特訓です」
リーフさんは立ち上がり狐っ娘姉妹の後に行き、その頭を優しくなでているが……。
俺には、「にげるなよ!」と言うプレッシャーを与えてるようにしか思えないんだが?
現に狐っ娘姉妹は、顔を青くしてるぞ。
「具体的にはどうするんだ?」
でもまあ、話を進めさせてもらう。
俺だって今のリーフさんに逆らいたくは無い。
すまない……狐っ娘達。
俺が二人に視線を向けると……。
「!?」
「!!」
「私達を見捨てるの!?」と言ってるような気がする。
改めて……すまない……。
「簡単な事です。二人には闘技場でティナを倒してもらいます」
「!?!?!!!!!」
「!!!!?!?!?」
真っ青な顔で動けない狐っ娘姉妹……いや逃げようとしてるが、リーフさんが二人の頭の上に乗せてる手で拘束してるのか!?
「…………(ウルウル)」
「…………(ウルルル)」
自力では逃げ出せないことを悟った彼女達は、俺の方に涙目で救援の視線を送ってくる。
うん、何を言いたいのか凄く良くわかる。
だけどな……俺にも無理だ……今のリーフさんに意見するのは……。
「!!!」
「!!!」
俺の意思が伝わったのだろう最後の砦を失った二人は絶望的な表情に変わる。
そういえば、ポチとタマはどうしたんだ?
そっちの方を見ると、何故か背筋をピンと伸ばした正座になっている。
狐っ娘姉妹が助けを求めようとしなかったのも良くわかる。
まあ、それよりも、少しでも狐っ娘姉妹の助けになろうと口を開く。
あくまでリーフさんには逆らわない形で……。
「今、狐っ娘達がティナに戦いを挑んでも倒す以前に勝負にすらならないんじゃないか?」
「……(コクコクコクコク)」
「……(コクコクコクコク)」
狐っ娘姉妹が凄い勢いで賛成している。
「だからこそ特訓をするんです!」
え……特訓って……トラウマを克服する特訓じゃなくて、ティナを倒す為の特訓だったのか!?
「安心してください、二人とも。私がティナを倒せるように特訓してあげます」
リーフさんはそう言ってにっこり笑うが……。
「ティナを倒せるまで地獄の特訓を続けます」って言っているようにしか思えないんだが?
「…………(ウルルルル)」
「…………(ウルウルル)」
狐っ娘姉妹もそれに気づいたようで、最後の望みとして俺に助けを求めてくるが、すまん力になれない。
俺はそっと視線をはずす。
「!!!!!????」
「!!?!!?!?!」
そっと横目でみた狐っ娘姉妹は絶望に打ちひしがれたようになっていた。
「では、明日から特訓開始です! 朝食を食べた後闘技場に集合してください」
俺たちに拒否権は元々無かったのだろう……俺も含めてコクリと頷く。
しかし……。
あれ? ポチとタマは頷いてないぞ?
よく見ると、二人は座ったまま気絶していた。
うん、おそろしいプレッシャーだったからな……。
そんな事を考えながら、闘技場に視線を戻すと、復活してちびっ子達がまた転送されていく所だった。
ちなみに、闘技場を貸切にしても、何時も使っていたティナとセリカが文句を言ってこない理由は簡単だった。
ティナの方は……。
特訓の当日、朝食の時に姿を現さないからちょっと様子を見に行ったら……。
『さがさないでください。
ティナ』
なんて手紙が、枕元に置いてあった。
手紙の文章は、また変な漫画にでも影響を受けたと言う事でいいんだろうけど……。
特訓の話はティナに伝えてないはずだよな?
反応が早すぎないか!?
リーフさんに伝えたら、
「特訓が終わってから探しましょう。直ぐに見つかるわ」
と、にっこりと答えていた。
まあ、ギルドメンバーだから簡単に探せはするんだがな……。
セリカの方は、喜んで参加しようとしたのだが……。
ちびっ子達の特訓の邪魔になると言う事でリーフさんに追い出されていた。
その時ボソッと、リーフさんがセリカに呟いていた事が気になったが……。
「あの子達がティナと戦えるぐらいになったら、模擬戦の相手が増えるでしょ」
うん、勝手にちびっ子達をセリカの標的に加えるなよ……と突っ込みたかったが無理でした。
ティナが時々妙にリーフさんを恐れている理由の一端を理解した気がする。
したくもなかったのだが……。
「次は接近戦よ! 私は弓は使わないわ!」
考え事をしている間に、特訓の内容が変わるようだ。
リーフさんは、ナイフを一本右手に持って力み無く立っている。
一見、隙だらけだと思うのだが……。
「…………」
「…………」
狐っ娘姉妹が同時に突っ込んで手にした剣で攻撃してくるのを紙一重で避けていく。
彼女達の連携は相当なレベルだとは思うのだが、残念ながら武器を扱うレベルが低すぎて生かせてない感じだな。
あと少し攻撃が鋭かったら、リーフさんの顔色を変えるくらいは出来たかもしれないのだが……。
「ワン!」
「ニャン!」
ポチとタマも参戦して、4人で囲んでいても、紙一重で避け続けるリーフさん。
連携の問題だと、ポチとタマが一緒になって精度ががた落ちになるなやっぱり。
少しは前衛とか後衛とか役割分担ができればまだましな戦いが出来そうなんだけど……。
全員戦士だからな……。
そんな感じで5分ほど続けていて、ちびっ子達の息が上がった所で、リーフさんが急所に一撃ずつ打ち込んで4人が転送されていく。
やっぱり、実力差がありすぎで無理ゲーだな。
本当に訓練になっているのだろうか?
そんな虐待とか言う言葉が浮かぶような訓練が1週間ほど続いた後。
「そろそろ、外でモンスター相手に訓練を始めても良さそうですね」
リーフさんはちびっ子達にそう告げる。
「~~(♪)」
「~~(♪)」
「ワン~~~」
「ニャ~~~」
4人は凄く嬉しそうにしている。
モンスターと戦う恐怖よりリーフさんの方が怖かったんだろうな。
うん? そう考えると、リーフさんのしごきも悪くなかったのか?
もしやそれを狙っていたのか?
「最初は半日ほどで外にいけると思ったのですが……」
そんな事をボソリと呟いているのが聞こえた。
うん……ちびっ子達、喜んでいる所悪いが……外が楽とは限らないぞ。
あと、今まで俺がやる事と言ったら、時々ちびっ子達に回復魔法をかけていただけだったからな。
闘技場で、外に転送される時は、HP50%ぐらいに回復するが全快にはしてくれない。だからリーフさんの指示で回復魔法かけてたんだよな。
これまで、呼ばれたのはそんな事の為だけだったのかと疑問に思っていたのだが、外の引率に付き添ってほしかったのか……。
まあ、初日から外で狩する予定なら確かに呼ばれていたよな……。
だけどさ、リーフさん半日の戦闘訓練のあと、即座に実戦とかスパルタ過ぎないか?
まあ、彼女のやり方を見ていると今更な気がするが……。
そんな感じで、モンスターを倒しに出た訳なんだが……。
最初のモンスターは……。
リーフさんが森の中から一匹引っ張ってきた熊型のモンスター。
キリングベアーだった。
初陣でそれは無茶だろおい!
俺は慌てて全力の支援スキルをちびっ子達にかけていく。
俺もわかってきた気がするぞティナ。
リーフさんの恐ろしさが……。
次回は、くまさんとの戦いです。
くまさんなんて感じの、かかわいらしい感じのモンスターではありませんが……。




