第6話 オークションとクジ引き
ついに始まった
M&M在庫一掃!オークション&クジ引きセール!
クロ達は、無事に終われるのでしょうか?
「――前半のオークションの詳細な説明はこんな感じよ! 質問ある奴は居る?」
シーナが急遽設置されたステージ……ティナが妖精に頼んで土を盛り上げただけなのだが……の上で声を張り上げる。
「さっさとはじめようぜ~~~」
「そうだそうだ~~」
「絶対に競り落としてやる!」
「おおお~~~」
何か結構今の時点でヒートアップしてる気がするが……。
「その前に、オークションとクジ引きの進行役を紹介よ! ご存知! 粉砕のガロウズよ!!!」
「おう! おめえら~ズルなんかするんじゃねぇぞ!」
「ガロウズだ!」
「粉砕じゃねぇか!」
「よく依頼なんか受けたな」
ギルドのカウンターの男だ、只者じゃないとは思っていたが、何か二つ名を持っていたようだ。
シーナが売り上げの1%で雇うと言った時は少し半信半疑だったが、集まった人々の様子を見る限り結構悪くない人選だったのかもしれない。
俺たちは、殆ど名が売れてないから、群集が暴発して……なんて事もありえたからな。ガロウズとか言う男なら、そういった心配は無さそうだ。
「じゃあ、さっそくはじめるぞ~~~まずは~~~この鉄の剣だ!!! 1Gから開始だ~~~!」
「10G」「500」「15G」「13」「50G」「22」「110G」「250G」
一気に皆が口々に値段を上げて騒然となる。
「一斉に言っててわからねぇ~~~。面倒だ! 一瞬聞こえた250Gより上の奴はいるか?」
「430G」「450」「500G」「444」「320G」「270G」「390G」「333G」
結構うまく捌いてくれているなうん、コレなら安心できそうだ。
俺はそんな事を思いながら、開店までの地獄のような時間を思い出した。
オークションとクジ引きで販売すると言う事を決めた後。
それからが大変だった。
まず最初にやったのは、実際にこの世界でも【名を刻むモノ】のスキル『所有者の刻印(M)』が効果を発揮するかの確認だった。
『所有者の刻印(M)』は、装備品の所有者を刻み付けるスキルなのだが、WMOでの具体的な働きはというと……。
1.所有者本人以外は装備できなくなる。
2.トレード、露店、売却などの時に、その装備品を選択できなくなる。
3.特殊な方法で召喚が可能になる。
4.装備品の能力の上昇
5.一部例外として、装備を目的としないレンタルは可能。
の、5つだ。
装備目的以外の一時的なレンタルは、それが出来ないと、自分以外は修理とかが、出来なくなるからな……。
で、問題は……この世界だと、システム的な装備とかトレードとかをやってるわけじゃない点だ。
システム画面すら開けないこの世界の人々には、そもそも、システム的な装備は不可能だしな。
その辺はどうなってるのかと調べてみた。
実験台はシーナとティナだ。
俺たち用に取っておいた鉄のナイフの1つに、『所有者の刻印(M)』で所有者をシーナに設定した後実験を始めた。
結果は……。
1.所有者本人以外が装備しようとすると、武器にはじかれる。
ただ拾うだけならば、問題は無かった。
装備するという意思や、武器として使おうといった意思に反応してるっぽい。
2.譲渡などは、自分の物だという意思を持って、所有者以外が触ろうとするとこれもはじかれた。
こっちもどうやら意思に関係してるっぽい。
3.召喚は止めておいた。触媒関係がもったいなかったからだ。
4.能力に関しては『アイテム鑑定(M)』で確認が出来た、1割弱ぐらい強くなっていた感じだった。
5.試し切りとかをしなければ、修理などには支障がなかった。
う~ん、この世界の装備ってのは、意思が関係してるっぽいな……。
そうなると、呪いの武器(外せなくなるやつ)を装備した時は、どうなるのか少し気になった。今度試してみよう。
あと気になった事は、死亡時の取り扱いが不明な事だ。
WMOでは死に戻りするだけだからな。それにこれだけは、試すわけにも行かない。
う~ん、これはちょっとした細工を装備品に仕込んでおく事にする。
まあ、使用者にマイナスには、ならないからいいだろう。
売るときは、「”この商品を”売ります」だから文句のつけようも無いよな。鑑定されると微妙に面倒になるからそっちの細工もしておいて……。
と言う訳で、『所有者の刻印(M)』の方は、問題は無さそうなので、次はクジ引きのクジだ。
そもそも、どういった方法でクジをやるかとかも決めなくちゃいけない。
結構コレに苦労した。
結局は……。
1.まず、100人ずつA~?(幾つ組が出来るかわからない)に分ける。
2.それぞれの組は、10×10で並んで座ってもらって、それぞれの位置に番号を割り振る。
3.番号をこちらで抽選して、組毎のあたりを決める。
4.組毎のあたりの人で、順番の抽選をしてもらって、最終的な順番を決め商品の購入をしてもらう。
5.1.~4.を、品物が売切れるまで繰り返す。
と言う事になった。
最終的に何人になるかわからないので、ずら~~と100人の集団が城壁に沿って並びそうな気がするが、まあしょうがないだろう。
クジの方法を決めた後、俺たちは、急いで100枚のクジを作り上げた。
6と9とか、上下のわかりにくいクジに、区別出来るようにするのを忘れている事に気がついて、一度全部クジを開けて、書き加えた時は間に合わないかと結構あせったが……。
まあ、なんとか開店までに終わらせる事ができたのだ。
ほんと……始める前から結構地獄を見た……。
「12,650G! 他にはないか? よし、落札だ!」
考え事をしてる間に、どうやら結構進んでいるようだ。
落札した商人っぽい男が、引き換え用の札を取りに進み出ている。
会計に関しては、オークション終了後まとめてする事にした。
理由は、会計作業中に他のオークションに参加できないからと言う事にしたが、実際は商業ギルドの奴らにオークションの途中で『所有者の刻印(M)』の効果を知らせない為だ。
「う~ん、商業ギルドの奴ら、裏で組んでるわね……あいつら同士で競り合っていないわ」
確かに値段の伸びがいまいちだった。
周りの冒険者の予算を把握した商業ギルドのやつらがそのギリギリ上でどんどん落としていってる。
商業ギルドが独占してるのは計画通りだが……それ以外のお客の予算の少なさは少し想定外かもしれない。
まあ、いきなりポンと大金を用意できる冒険者ってのは少ないんだろうな。
「あんた、ちょっとここの事任せたわちょっと行って来る。あと、前に作ってたマジックアイテム借りるわよ」
なんて言い残してシーナがどこかに行ってしまう。
まあ、何かたくらんでいそうなので彼女の好きにさせる。
数分後……。
「何やってるんだあいつら……」
オークション会場の一角、姿を変えるマジックアイテムで、別の姿に変身したシーナとティナが居た。
わかった理由は、何をするのかとMAPで様子をみていたからだ。
よく耳を済ませてみると……。
「オークションだよ! 参加だよ~~! アイテムGETだよ!」
うん、凄い笑顔のティナの大声がはっきりと聞こえる。
相当参加したかったんだな。
シーナはこそこそと何かティナに耳打ちしてるようだけど……。
多分、オークションのやり方を説明とかしてるんだろ。
「12,650G! 他にはないか?」
「12750Gだよ~~~」
ティナが、凄く楽しそうに声を張り上げる。
おおお~と、会場からどよめきの声が聞こえる。
まあ、10歳もいってない様な子供の姿の、今のティナがそんな額で入札すればな……。
「お、おい、オチビちゃん……お金はあるのか?」
ガロウズさんがついついそんな事を尋ねている。
「うん、ここに50000Gあるよ~~~」
なんてティナが金貨のはいった袋を掲げる。
おい、ティナ……所持金を教えたらオークションにならないだろう……。
予想通りというか……。
「50000G!!!」
「50,010Gです」
「ああああ~~~また負けたよ~~~」
そりゃな……。
あれから、ティナは、50,010Gの入札に負け続けた居た。
ただ……なんとなくシーナのたくらみは読めた気がした。
大幅な入札額の吊り上げに成功してる。
ぶっちゃけ、一度ティナに落とさせてしまえば、安くなるだろうにと思うのだが……。
その1つがもったいないとでも思っているのだろう……。
その後最後まで、ティナは負け続け、途中でかわいそうになった周りの冒険者が微妙にカンパして金額は増えたが……。
結局は落札できなかった……。
だけど……俺たちにとっては、順調すぎるほど計画通り。
完璧すぎて怖いぐらいだった。
そして……。
装備品の受け渡しと、代金の受け取りの時間になる。
落札した時に渡した引き換え用の札を大量に抱えた商人達がやってくる。
転売禁止というルールの元にやっていたオークションでそれを明らかに守る気が無さそうな様子に周りの冒険者から白い目で見られて居ても気にする様子が無い。
もし、オークションの進行をガロウズさんのような二つ名持ちの冒険者がやっていなかったら、批判が噴出して進んでいなかっただろう。
確かに、シーナの人選は適切だったな。彼が、少し睨みつけるだけで冒険者が黙っていたからな。
「最後にもう一度確認です。転売や譲渡などを行わずにこれらの品を、自分で使っていただけますね?」
「もちろんです」
全く微塵のためらいも無く、そう答えを返す商人。
俺は、売り物の最終確認をする振りをしながら、『所有者の刻印(M)』で装備品に、目の前の商人の名前を刻んでいく。
名前は『人物鑑定(M)』で取得している。
俺の方の確認の終わったあと、商人に手渡して向こうの確認をしてもらい、代金を受け取る。
「確かに……」
「いい取引でした。これからも末永くお付き合いしたいモノです」
商人の営業スマイルに、そんな気は無いがなと心の中で呟く。
その後、量が量なので、向こうの用意した馬車の中にシーナ達に運び込ませる。
念のため、此方がサービスで用意した木箱に詰め込んで運ばせた。
この場で他の人物が装備品に触れて、『所有者の刻印(M)』の効果がすぐにばれるのを防ぐ為だ。まだ他の商人と取引が終わっていない。
そうして、商業ギルドの商人達全員と無事取引を終了させた。
あいつらが店にもどってからの顔が見物だな。
まあ、その場で見れないのは残念だが……。
さて、気を取り直して、後半だ!
今度はちゃんと装備品が冒険者たちに渡って欲しい。
こっちも、転売とかは禁止のルールはそのままだ。
それでも、千人以上がクジ引きに参加したのには驚いた。
オークションで騒ぎを聞きつけた奴もいて、オークションの開始時より相当増えていたのだ。
うん、消耗品の類をオークションに出さなくて良かった。
最初は、そっちも出す予定だったのだが、販売単位を考えるのが面倒だったので見送ったのだ。
消耗品を1個単位でオークションなんてしたら流石に日が暮れる。
それにこっちは、装備品じゃないから『所有者の刻印(M)』は、あんまり意味がないしな。
クジ引きは、凄い熱狂的な有様になった。
うん、こっちでもガロウズさんがクジを引いてなかったら、相当な文句が出てそうだったな。
こっちでも感謝だ。
1%の報酬は安いくらいかもしれない。
そして最後は、装備品が全部完売した時点で、急遽人数分のポーションを確保し、クジに当たらなかった人に1つずつポーションを、5割引で販売する事にした。
そのためもあってか、当たらなかった人もある程度満足したようで、特に混乱無く完売する事となった。
その後、警備の依頼を受けてくれた冒険者達やガロウズさんを誘って、酒場を貸切で打ち上げをした。
当然、俺達のおごりだ。
みんなで大いに飲んで食べて騒いだ。
途中、商業ギルドの奴らが、真っ赤な顔をして怒鳴り込んでくる騒ぎがあったが、ガロウズさんが、
「オークションやクジ引きでのルールが元々、転売禁止なんかでルールに沿う限り問題ない」
と、言って叩き出した。
商業ギルドの奴らは結局、怒鳴り散らしながら逃げ帰っていった。
その時、周りから「おおお~~」と歓声交じりの拍手が巻き起こっていたので、街の人達には相当恨まれていたのかもしれない。
その後、結構野次馬が集まっていた事もあり、商業ギルドに一泡吹かせたという噂が広まりM&Mの評価が上がる事になる。
しかし、開店3日目で在庫切れで、長期の休業を迫られる事になり、マユさんが暫くの間すすけていた。
売り上げよりも、お店を開く事が大切なようだ……。
現実世界の近所に、マスターの趣味でやってる喫茶店があったのを思い出した。
マユさんもあんなノリなのかもしれない。
こうして、M&Mは冒険者の街で知らない者がいないほどの有名店になる。
在庫切れで休業が多い店という注釈がついていたのは、なんとも言いようがなかったが……。
次章は……。
冒険者の街らしく、周に冒険に出たりしたいところだが……。
さてクロ達はどうなる?




