一日目 ⑦ オーガ
完全に正気を失った中尉は……赤く染まった眼を歪ませて……一帯の鏖を宣言する。その様子を見た帝国兵達が戸惑っている所を見ると……
(彼等にも中尉が何をするつもりなのか……分からないのか?? いやそれにしても……)
中尉は周りの事などお構い無しに、開いた蓋から中身を器用に取り出した。遠目に見えるその物体は……
(……あれは??? 何か植物の種子?? それとも毒薬の類か??)
口から涎を垂らした中尉は……その何かを躊躇事なく口に入れた。そのまま……奴の喉が上下して……何かが奴の身体の奥に達した時、
「クククッ……鏖だ……私に逆らう者も……そうでない者も……全てを殺し尽くしてやるぞ!!!」
奴の身体が瘧の様に震えだした。既に目的であった筈の聖杯の事すら忘れ……狂気に蝕まれた頭は歪んだプライドを満足させる事だけを求めている。
「アンジー君……皆を連れて裏口から私の住む洞窟へ! 奴が何をしたのかは分からないが……どうせろくでもない事に決まっている。さあ……今のうちに!!」
「……イヤです。フォーティを置いて行くなんて……」
「気持ちは分かる! だが、フォーティ君がああなったのも帝国兵の狼藉も全て私の責任だ。だからこそフォーティ君は私が責任を持って君達の所に連れて行く……それに……君達の誰か一人でもまた帝国兵に捕まったりしたら……」
私の言葉にハッとして……子供達を見やるアンジー君は……一瞬ギュッと握った手を開き、本心を押し殺して子供達に言った。
「先生……フォーティの事……よろしくお願いします」
「全力を尽くす……君達は僕の研究室に隠れていなさい。扉の閉め方は分かるね?」
「……はい!! さあ、みんな行くわよ」
慌ただしくアンジーと子供達が裏口から出て行った時には……
中尉の身体には既に変化が起き出していた。最初は少し手足が伸び……今度はみるみる内に筋肉が盛り上がって彼の軍服を引き裂く。大幅に拡がった体表面はみるみるドス蒼く変色して……残った衣類は腰回りに引っかかった軍の制服のみとなっている。
「なんてこった………あれは……オーガじゃないか!!! いったいどうやって……いやそれよりも……あの中尉……本気でチチブ地方を壊滅させるつもりか!!」
私には眼前の光景が信じられなかった。そこには……以前、練馬遺構に突然現れた大型敵性変異体……通称『鬼人』が立っていた。
「そんな馬鹿な……だがあの姿……間違いない!」
その中尉は……体高約2.5メテル、体重は200ギーロは下るまい。蒼く染まった皮膚が、全身を覆う発達した筋肉を覆い、その額にはどんな獲物であろうと一撃で仕留められそうな一本の角が生えていた。
我々現代人は古代遺構を発掘して、そこから様々な物質を調達している。そして遺構には地上のそれとは全く違う種が現れる事がある。大抵は大型の齧歯類等で普通の人間でもなんとか対処が可能な代物なのだが……稀にとんでもない化け物が現れる事がある。
「あの時は、帝国陸軍遺構練馬駐屯基地に居た精兵が、オーガ一匹を仕留めるのに全滅の憂き目に会ったと聞く……あの中尉がいったい何を飲んだのかは知らないが……正規兵が配属されて居ないこのチチブ地方では……」
その時……不意にオーガが動いた。巨体には似つかわしくない俊敏さで帝国兵の一人をその手に鷲掴みにして……
『ひいっ?! 止めて……ヤメテーーー!!』
― バツンッ ―
そのひと噛みで……捕まった帝国兵の胸から上が消えた。
中尉が立ち上がってから固唾を飲んで状況を見守っていた帝国兵達は……一噛みで3分の2になってしまった同僚をぶら下げた化け物を見た瞬間に……
『にっ…逃げろーーー!!!』
負傷した仲間を置き去りにして……先を争う様に逃げ出してしまった。
オーガは……無造作に腕を振るって、食べ残しを逃げ出す帝国兵に投げつけた。運の悪い数人の帝国兵が3分の2の巻き添えを食って……更に細かくなってしまう……
― ゲキャキヤキャキャッ ―
その様を見て哄笑を上げたオーガの後ろに……
― ゴフォオオオォォォ ―
無造作に歩を進めたフォーティ君が拳を振るうが……
― ドンッ ―
振り向いたオーガがその拳を受け止めた?! オーガはそのまま……受け止めた拳を掴むとフォーティ君を引き寄せ……新たに放ったフォーティ君の拳をも掴んだオーガは両手を開いてフォーティ君を引き寄せると……
― ガッ! ―
その首元に牙を突き立てた……が?!
― ギィン ―
牙は硬質な音と共にフォーティ君の纏う鎧に阻まれ……同時に、包み込まれていた拳を強引に開いてオーガの両手を逆に掴んだ?!
― ミシィッ ―
首筋に噛みつかれたまま……奴の両手と手四つに組んだフォーティ君の腕が……徐々に身体に向かって引き絞られて……
― バキィイイッ!!! ―
とうとう……腕の付け根と肩が乾いた音と共にへし折れた!!
― ジャアァァァ?!!! ―
既に人の色をしていない骨と血液を見ても……自分の身体に起こった事が理解出来ないでいるオーガ……同時にフォーティ君は一歩下がり、右手を上げて手刀を作る。
「……まさか……?!」
振り上げられたフォーティ君の手刀は、明らかにさっきまでとは違う形に変形して……
― ピゥウゥゥゥン ―
オーガに向かって振り下ろされた。空を割く音を残してオーガの足元で止まったフォーティ君の手刀は幅広の刃物の形状から既に元の腕の形に戻り……オーガの頭頂から股間まで一本の線が走ると………
― ズルンッ…… ―
真っ二つに分かれた身体が、不気味な音を立てて地面に沈んだ。
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