一日目 ⑥ アクセスキー
眼の前に転がった……ドングリ型の礫から薄い煙が立ち昇る……
私は……フォーティ(?)とドングリを何度も視線で往復して何とか気を落ち着けようとしたけど……正直、兵隊が踏み込んで来た時よりもパニックになっている。
「フォーティなの??」
眼の前に佇む黒銀の鎧(?)を纏った騎士は……私の問い掛けには無言のまま、手を差し出す。
私は恐る恐るその手を取って立ち上がろうと膝に力を込め……
― バッ ―
「キャッ」
― ギンッ! ―
彼は私の身体を強引に懐に収め……同時に彼の背後から弾丸をはじく音が聞こえた。彼は私をその身を盾に私を庇ったまま、いち早く次弾丸を装填・発射した兵隊を振り返った。
「ヒッ?!」
彼の相貌が青く輝いて……彼は私の身体を抱えて家の中に飛び込んだ。家の中の物影に隠れてこっそり顔をのぞかせていた子供達が、飛び込んで来た鎧(?)姿の人物に驚いて顔を引きつらせたが……鎧姿のフォーティ(?)が私をそっと立たせるのを見て一斉に駆け寄って来た。
「「「アン姉ちゃん!!!」」」
「バカ! 何で逃げてないのよ……」
言葉とは裏腹に……皆を抱きしめて……でもその時には……フォーティは既に扉の外に飛び出していた……
――――――――――
子供達が全員無事なことを確かめた後、私は子供達を連れて逃げるかを悩んだが……どうしてもその場から離れる事が出来ずに窓から外を覗いた。
「フォーティ……あれが本当にフォーティなの??」
落ち着いてその姿を見ると……彼の姿はとてつもなく異様だった。他に説明出来ないから鎧と言ったが、彼を包む黒銀の装甲は普通の鎧とはシルエットも構造も全く違う。全体のシルエットは鎧よりずっと細く引き締まっていて……鎧というより……まるで昆虫の殻に見える。その殻の隙間にはすこし青みがかった……生き物の筋肉の様な、紐状の物が………
「撃て!! 撃てぇ!!!!」
外の兵隊達は……扉から現れたフォーティをが再び自分達に向かって歩いて来るのを見て、半狂乱になって銃を構えた。幸いこの小屋の母屋は太い丸太を積み上げた頑強な構造なので多少の銃弾ならびくともしないが……
「みんな伏せて!」
窓から飛び込む流れ弾はどうしようもない。銃声が響く中、私は子供達と共に分厚い壁の下で身体を丸めた。外からはさっき撃たれた時より更に長い間銃声が響いたが……その音が途切れた直後……
『駄目だ……まるで効いてねぇ!!』
帝国兵達の悲鳴が銃声の変わりに聞こえて来る……私がもう一度窓に飛び付いて外の様子を見ると……
― ブンッ!! ―
「えっ?」
こちらに帝国兵が迫って来た!! ただ……自分の意志ではなくフォーティに吹き飛ばされて!
― ドカッ! ―
彼は……そのまま壁に激突して私達の家を激しく揺らして……ズルズルとその場に落下した。私は激突した痛みを想像して思わず顔を顰めた。
「アンジー君……皆……」
たった今激突した兵隊のせいで気付かなかったけど……いつの間にかドアの側にクロムウェル先生が立って……??
「先生?!」
先生は肩と太ももから血を流して……よろめきながらこちらに歩いて……
「すまないアンジー君……君達を巻き込んで……」
先生は酷い顔色で……そこまで言うと、その場に倒れこみそうになる。フォーティが暴れている隙をついて逃げて来たの??
「アルト! 桶に水を組んで! ミレイは布を持ってきて!!」
「分かった!」
「はい!!」
私は、先生の肩を支えて子供達に手当の準備を頼んだ。
「すまない……とりあえず縛って止血すれば大事ないだろう。幸い骨には異常は無い」
私は、泥だらけになった先生を何とか椅子に座らせて桶の水を含ませた布で傷を拭った。
「分かりました。でも……先生………先に一つだけ教えて下さい。外で暴れているのは……本当にフォーティなの??」
「あそこで暴れているのは……確かにフォーティ君だが……おそらく今の彼に意識は無い。敢えて言うなら……あそこで暴れているのは“聖杯”の防衛機構そのものだと思う……」
先生の言葉に……私は思わず目を丸くしてしまう。
「そんな……物に意志があるなんて……そんなおとぎ話みたいな」
困惑して口をついた私の言葉に先生は……
「驚くのも無理は無い。詳しい事は省くが……太古……我々が遺構と呼ぶ施設が実際に使われていた頃……世の中には物質に意思を込める技術が、それこそそこかしこにあったらしい。私は……帝国でその時代の事を研究する学者だったんだよ……」
――――――――――
アンジー君に応急手当を受けた私は……彼女の肩を借りて窓から彼の様子を確かめた。外では……フォーティ君に銃が効かないと悟った帝国兵達が戦斧や戦鎚等を振り回して踊りかかっていたが……
― ガン!! ―
『クソ!! なんだよ!! なんで効かねえんだ??』
― ズドン!!! ―
『やめろ!! うわぁぁ………寄るな!! 近寄るんじゃねぇぇぇ!!!』
フォーティ君よりも遥かに体躯の大きな男達が重量武器を振るっても、彼はまるでそよ風程も感じずに歩を進め……その歩みが進む度に帝国兵が吹き飛んで行く……
「なんという事だ……帝国の魔導ゴーレムでもあんな事は出来ない。聖杯は……古代文明は導きの聖杯にいったい何を残したんだ?」
『がぁあ!!! ふゔぅざぁけぇやぁがぁっっっってぇぇぇぇ!!!!!』
突然……右手を潰された中尉が絶叫と共に立ち上がった。
磨き抜かれた徽章の付いた軍帽は何処かに吹き飛び……泥に塗れた制服は片手から滴る血液のせいで斑に染まっているが………奴の脳には痛みなんかとっくに届いていないのはその狂相を見れば明らかだろう。
『もう許さねぇ……糞壺の底を這い回る虫よりも下劣な愚民の分際でぇ!!! お前を打ちのめして四肢を引き抜き!! 泣き叫ぶテメェの眼の前で……あの女にガキ共を吊るさせてやるぁああ!!!』
帝国士官は皆……厳しい士官学校を卒業し、その教育の過程で一定の品格を叩き込まれているはずなのだが………
「なるほど……奴の出自は旧華族か……」
未だに……先代の皇帝が滅ぼした筈の……暗黒の血脈は絶えてはいなかったらしい。
「ハハハ!!!」
奴はけたたましい哄笑を吐き出しながら、ポケットから懐中時計の様な物を取り出し……竜頭を押し込んで撥条仕掛けの蓋を開けた?
「ハハハハハハ!!!! お前のせいだぞ……ここら一帯の生き物が死に絶えるのはな!!!」
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トランスファー “空間とか異次元とかってそんなに簡単なんですか?”
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