二日目 ③ 適合者(アダプター)
(何なんだよ……畜生……)
俺は暗くなっていく視界の中で悪態をついた。
(“アンジーちゃんや子供達を連れて関所を抜けるにはこれしか方法は無いわ”だって?)
護衛の女隊長に説得されて、必死こいて覚えた内容と俺の渾身の演技は……あっさり見抜かれちまったじゃねぇか!
(いや……俺が拙かったワケじゃねぇ! だいたい筋書きがザル過ぎんだよ! 関所の頭目がどんなボンクラだって……こんな茶番で通してくれるかってんだ!)
既に視界は完全に閉ざされ……下半身に感じていた生暖かい血のぬかるみすらも感じられなくなって……
『ソウカナ?? マアマア頑張ッテタト思ウヨ? マァ所詮ハ素人仕事……ッテ感ジハイナメナカッタケドネ』
俺の顔が図星をさされて赤く染まる……と同時に、
(うるせえよ……そんな事は分かってらぁ!)
と叫んだ……???
その瞬間……覚醒した俺は、弾かれた様に地面の上で半身を起こし……自分の身体を見て更に驚く事になった。
『俺は……確か半裸のおっさんにドテっ腹をぶち抜かれたはず……』
だが、起こした身体には傷跡どころか……服の破れすら見あたらねぇ?? 俺は思わず周りを見渡したが……暗がりに広がる荒れ地の他には、俺以外の人や関所の門など“そこに在るはずの物”は何一つ無かった。
『クソ……さっきから何だってんだよ!』
『オハヨウ……ト言ウノモ変カナ? トリアエズ尋ネルガ……今ノ体調ハ?』
何だこの声……どっから聞こえんだ??
『誰だ?!』
『ソレハ現状二必要ナ情報トハ言エナイナ。現時点デ私ハ君ノ全テノ情報ヲ取得済ダガ、君ノ主観的ナ認知ハもにたりんぐ出来ナインダヨ。モシ我等の認知境界ガアヤフヤニナリデモスレバ最悪……人格ガ融合スル可能性モ……』
『おい!……それは今必要な情報なのかよ?』
俺は自分勝手に喋りだそうとする声に嫌味を返してやった。ただでさえ訳が分からないのに……これ以上ややこしくされてたまるか!
『………失礼、久シ振リノ適合者ヲ前ニ興奮シテシマッタヨウダ。話ヲ元ニ戻ソウ……』
『……身体は特に問題無いぜ……頭の中は定かじゃないけどな。ちょっと聞くけどよ……お前……もしかして“聖杯”なのか?』
俺はどう考えてもおかしな事を言ってる。それは分かってるが……他に心当たりがまるで無い以上そう考えるしかない。だいたい……さっきの事もそうだが、奴等の銃弾で穴だらけになっていた俺が、意識が戻るとピンピンしてるなんて……今のおかしな状態も含めて“聖杯”のせいだとしか思えないじゃないか。
『近イ……ガ、正確ニ言ウト僕ハ“プロジェクト・ノア”ノ鍵ノ一ツ……現行人類ニ残サレタ“知識ノ方舟”ヲ解キ放ツ鍵デアリ、ソノ権利ヲ行使スル“適合者”ヲ守護スルしすてむ……ソノ端末ノ一ツダ』
何だこいつ……何を言ってんだ??
『………何だそれ?』
不思議な事に……俺は影も形もない相手が頭を抱えるのを感じた……?!
『おーけー! 詳シイ事ハ後ニシヨウ。君ノ処理能力ヲ加速シテイラレルノモアト僅カダカラネ。今、君ハ普通ナラ即死シテイル攻撃ヲ喰ラッテ……意識ガ無イ。分カルカイ?』
『……ああ』
『ヨシ……ソノ傷ハ既ニ修復済ダカラ、今カラ君ノ意識ヲ覚醒スル。アア……外ノ状況ナラ心配ハ要ラナイ。敵対スル勢力ガ少々居る様ダガ……今ノ君ナラ障害ニモナラナイ程度ノ小物ダ。強化装甲もーどヲ含メテ個人使用出来ルしすてむニツイテハ既ニ記憶野ニ直結サレテイル』
『おいっ! ちょっと待て……どういう意味……』
『ジャア……トリアエズ、コノ状況ヲ切リ抜ケタラマタ話ソウ。アトハ宜シク……』
『待てよ……話はまだ……』
聖杯を名乗る声が慌ただしく話を打ち切った瞬間……
俺の居た暗がりが……爆発する様に光った。
――――――――――
「フゥ……ナカナカヤルジャナイカ?」
最初に目に入ったのは……意識の無い護衛隊長が、狼に片手で持ち上げられている姿だった。いや、おかしな事を言ってるのは分かってるが……そうとしか言ようが無い。そりゃあ狼は二本足で立ったりしないし、人間みたいに手を使って隊長の足を掴むなんて出来る訳が無いんだが……
周囲には既に事切れた護衛のおっさん達の姿と、片膝を着いて息を乱すクロムウェル先生、馬車は少し離れた所で立ち往生して……状況が甚だ拙い事は一目で分かった。
「コイツハ驚イタ……テメェタダノ人間ジャァネエナ?」
立ち上がった俺を見た狼人間(?)は酷く分かりにくい発音でそう吐き捨てると、隊長を無造作に放り捨てた。
「くっ!!」
そのまま地面に激突する所を、かろうじてクロムウェル先生が受け止める。
「一つ聞くけどよ……お前も改武兵とか言うヤツなのか?」
「ホウ……ソノ言葉ヲ何処デ聞イタ? イヤ……オ前モ改武兵カ? ソウカ……極稀ニ不良品ガ交ジルト聞イタガ……」
訝しげに俺を見るに狼人間……おい、ちょっとは歯磨きに気を使えよ。牙が真っ黄色じゃねえか。
「一緒にすんなよ。だいたい、お前ら帝国は何考えて……いや……いいわ。どうせお前等の考えなんか理解出来ねぇに決まってるしな。とりあえず、お前をぶっ飛ばして俺らは帝国を出てくわ」
俺は……そのまま無造作に狼人間に近づいて、軽く拳を握るとそのまま奴の腹に一発お見舞いしてやった。
奴は……多分自信ががあったんだろうな。俺みたいなチビ(狼人間と比べて!)の拳を喰らっても傷一つ付かない自信が。でも……俺には分かってた。
― ゴオフゥ-/j@rjyy!!!! ―
眼の前に居る2.5メデルはあるだろう狼人間より……俺の方が圧倒的に強いって事が……
みぞおちにめり込んだ俺の拳は、一瞬遅れて狼人間をその場からふっ飛ばした。ほぼ一直線に水平飛行した奴はそのまま関所の大門に突っ込んで……
― ドギャッッ!!! ―
閂を吹き飛ばして……ついでに大門その物も粉々に砕いてしまった。
俺は……自分の拳を握ったり開いたりしてその調子を確かめた。
「ふーん……凄えな……ちょっとは痛かったりすんのかと思ったけど……」
俺が自分の拳の頑丈さに呆れている間……俺以外の奴等……国境の警備兵も門扉の衛兵も……ついでにクロムウェル先生も……口をポカンと開けて粉々に砕けた大門を見つめてた。
「よう……で、お前等もヤルのかよ?」
俺が全員に聞こえる声でそう聞いてやると……奴等一斉に振り返って……そのうちの一人が、顔を引き攣らせながら叫んだ。
「うっ……撃て……撃ちまくれぇ!!!」
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トランスファー “空間とか異次元とかってそんなに簡単なんですか?”
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マシニングオラクル “AIが神を『学習』した世界”
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