世界が想像の5倍はひどい件
「はぁー……」
深い溜息を吐いて気分を落ち着かせる。
1,2,3,4,5,6。
よし、リセット。
「よし、じゃあ聞くんすけど」
「う、うん」
「まず、おっさんの名前を教えてもらえる?」
長い付き合いになるんだ。
まずは名前からだろう。
「前世の名前も?」
「一応聞いとく。ちなみに私は山本薫」
「女の子の名前みたい」
言うと思った。
「コロスゾ……って前世なら言ってたけどもう私女だしもういいや」
もうおっさんと私だけしか識別しない名前だ。
どうでもいい。
「……で?おっさんは?」
「俺の名前は渋沢栄一」
「万札の人じゃん。あ、おっさん万札が渋沢栄一になったときに生きてた?」
「生きてた。職場でめっちゃいじられてた」
そりゃそうだ。
私だって職場に居たらいじるわ。
「渋沢栄一って愛人まみれだったっていうし、ある意味前世も種付けおじさんだったのでは?」
「前世はただのキモデブ童貞だったけどね」
あ、おっさんがバッドに入っちゃった。
「ごめん私が悪かったっす。はいこの話題止め」
「うぃ」
「で、今世の名前は」
「ブーデス伯爵」
「貴族か、まあ屋敷でけぇしな」
「記憶取り戻した時はテンプレ気味のバカ貴族だった……」
すんごい低いテンションの声で回想するおっさん。
「よくあるやつじゃん」
「まぁ転生の時点でこのキャラ選択したの自分だしキャラ設定は知ってたから覚悟はしてたけどさー」
「あれ?でも風呂入ってる時、記憶戻った時ショック受けたっていってなかった?」
キャラ選んだならなんでショック受けるんだろう?
覚悟してた以上の何かがあったのだろうか。
「……キモデブキャラ選択したら前世そのまんまの容姿だったからね……ゲーム準拠のキモデブだったらまあそういうキャラだしなで納得できたけど、自分の容姿そのままで転生して何の齟齬もなかったから……」
「あぁ、前世の容姿がゲームでキモ扱いされるのと同等レベルって事実を突きつけられてへこんだわけか」
まあそりゃへこむか。
「うん」
「というかこの世界ゲーム由来だったんすか」
「割とやりこんだゲームだった」
とするとアドベンチャーゲームとかじゃなくてやりこみ要素がある系統のエロゲか。
なんでエロゲだってわかるのかって?
主人公がセックスして強くなるゲームなんて全年齢ゲームでやれるわけないだろ。いい加減にしろ。
たとえヒットしたところで全年齢化とか無理な設定だろ。
「私前世でやりこみエロゲーとかあんまりやったことないから原作しらんと思う」
「そこは俺が何とかするんで安心して!」
「おけ」
まじおっさん選択したのおっさんの強さなんだから頼んますよ。
「で、フルネームは?」
さっきわざと隠したよね?
「……必要?」
「基本魔王倒すまでは確実に一緒にいるんだから必要でしょうよ。おっさん呼びし続けるのも周りに良くないだろうし」
「うーん……笑わない?」
笑うような名前なんだ。
「……そんな人の名前で笑わないっすよ」
「キーモ・デ=ブーデス」
「キwモwデwブwデwスwwwwww」
おっさんの言葉に私は思わず吹き出す。
「笑わないって言ったのに!
「その名前は無理でしょwwwwww」
今日日バラエティ番組の小芝居でもそんな名前ないぞ。
「草生やさないでくれる?」
「むーりーーーあはははは――んぅ❤」
あ、やばい。
ツボに入った。
おなかに力入るちょっとやばい! イきかける。
まだ痙攣収まってないんだって。
今おなかに力はいるとやばいんだって――ヒッ❤ くっそ!!
「そんなこと言ったら君の名前だってひどいよ!?」
「あ、私も原作キャラなんだ?」
頭の中の注意がキモデブの名前から外れておなかの力が抜ける。
助かった。
「オリヴィア・ナント=ホール」
なんか高貴そうないい名前じゃん。
そんなに酷い名前には聞こえないけど?
「公式の愛称がオナホ令嬢」
「なんで!?」
「『オ』リヴィア・『ナ』ント=『ホ』ールで『オナホ』」
「原作ゲームの制作者インフルエンザか何かで高熱出てる時にキャラ名考えたん?」
「ここまでひどい名前は俺たちと他一部くらいだけど、大体ふざけた名前のキャラが多い」
いやそれにしても攻略ヒロインに対しての愛称としてひどすぎない?
「まぁそんな名前つけられても一切同情されない程度にひどいキャラでもある」
「なんかろくでもない原作な気がしてきたぞ」
「大当たり」
嫌な予感当たっちゃった。
「原作について聞く?」
「その前に現状のやばさが知りたい」
「歴史詳しい?」
「割と」
「1944年夏ごろのドイツ」
滅亡寸前ってことじゃねえか。
「ま、まぁ原作基準だと魔王軍との最終戦争まであと2年あるからダンジョンでパワレベやれば俺なら十分間に合うから」
私の絶望感を察したのか補足するおっさん。
いや、それでも2年か……短くない?
「つまり私たちはここから入れる保険扱いとか一発逆転のロケットとかそんな扱いなんすか」
「うん、まさに最後の希望ってやつ。追い詰められてるから断絶した家の魔術回路で人体錬成したりするし、君の外の人みたいなド外道でも割と黙認されてたりする」
人体錬成とタメ張れるレベルのろくでもないことしてるの? 私の元ネタ……。
「悪役令嬢的な?」
「まぁ君、知っての通り錬成された人造人間なんだけど、使った魔術回路の家(断絶済み)に背乗りしてるんで令嬢っちゃー令嬢だし口調とかのキャラ属性も令嬢っぽい感じだったけど……悪役令嬢属性というより純然たる悪というか悪鬼羅刹の擬人化というか」
つまりどういうことだってばよ。
「俺と君の元ネタさんね、2週目以降の対魔族ハードコア編用の周回用強キャラなんだけどさ。イケメンと男の娘の時は怠惰なサポートキャラ的立ち位置なんよ」
「うん」
うん。
「でもサポート方法が問題でね……。戦略ゲー系のエロゲだからいろんなサブヒロインがいるんだけど……そのサブヒロインを君に捧げると数日後になんかいいアイテムがもらえるんだ」
……うん?
「なんかこの時点で嫌な予感しかしないんすけど?それおっさんに使い潰されてね?」
多分おっさんのマジチンで廃人になってね?
「うん。その予想当たり。使い潰した後に対価としてダンジョン潜ってアイテム取ってるっぽい。でもまだひどい要素は前座みたいなもんで、続きがあるんだ」
「……聞こうか」
「アイテム貰った後の魔王軍との戦闘時にね、もう一つ使えるアイテムが増えてるの」
「まさか……」
「デコイとして君に捧げたヒロインが相手のターンを一回潰す消費アイテムとして出てくる。廃人化した専用画像付きで。DLC課金すると廃人になる過程のエッチシーンも見れるよ」
人の心ぉぉぉぉぉぉ!!!!
私がオナホになるやつかと思ったらお前に使い捨てオナホ提供する役だからオナホ令嬢かよ!
「ちなみに2週目で俺を使うと君もオナホになるよ。RTAだと序盤で廃人にするまで使い込むと攻略難易度がダダ下がりする」
その情報今いる!?
「あ、い、いや!俺は君をそんな使い捨てなんかには絶対しないから!!!」
頼むぞマジで。
その傾向出てきたら流石になんもかんも放り出して逃げるからな?
「このゲームの原作者畜生道直行RTAでもしてるの?」
「シナリオライターのインタビュー記事によると俺の心はこれで温まるからハートフルストーリーだそうです」
もうそいつ畜生道帰りで温度感ないんじゃないっすかね。
「まぁ、そんなかんじで主人公サイドでさえこれなんで、ちょいちょい人の醜さが際立つイベントがあったりするよ」
「この世界って救う価値あるんすか?」
適当に逃げて人里離れたところに隠遁したほうがよいのでは?
勇者の能力発揮が脳みそスペルマな世界観な時点で全体的に酷い世界だろうなとは予想してたけど、予想の5倍はひどい世界だ。
「ま、まあ人口比で言えば善人の方が気持ち多めだし……魔族はもっとひどいし」
そうだ、なんだかんだ言って人類は善サイドなんだ……これで?
「……敵はどんななんすか?」
「敵は魔族でいろんな種族がいるんだけど……100%人類を家畜としてしか見てない。種族全体がサイコパスって考えて差し支えないよ。見た目幼女の魔族がおかあさんたすけてって命乞いしてきて躊躇したらぐっさりとかがデフォ」
「不倶戴天じゃん」
「男の娘主人公が最初に魔族と和解しようとする死にイベントがあるんだけどね」
「今死にイベントって言った」
「魔王がそれを受け入れて和解のあかしとして魔王城に招いて晩餐会を開くんだけど……次の瞬間四肢切断された主人公が機械に埋め込まれて勇者と魔族のハーフ量産用の精液タンクにされるバッドエンドに」
この原作ゲーム販売してる会社のメンバーは全員倫理観に親でも殺されたの?
そしてそんなゲームやりこんでるおっさん、本当に善の者か?
ちょっと不安になってきたんだけど。




