どう見ても邪教の儀式
女神との問答の後、再び視界は白。
まばゆい光が視線を焼いて視覚すべてが白一色に染まる。
聴覚もかん高い高音に遮られ、平衡感覚すら怪しい。
死の淵にいた人間としてはそれらがうれしいが、激しい互換の波はうれしいだけではすまずにすぐに不快感が取って代わる。
それは、ゆっくりと、どれくらいの時が経ったのだろうか。
数秒か数分か。
わからないが『私』が正常判断が可能な五感を取り戻した時に見えたのは薄暗い光とねずみ色の冷たい雰囲気の大広間。
身体は火照っており、何かを纏っている。
それが肉のような血液のような何かだと把握するのには数秒の時が必要だった。
「うぐっ……ぐぇ……」
肺の中から何かがこみあげて吐き出す。
それは真っ赤な鮮血。
立ち上がってあたりを見回す。ぼやけてほとんど見えない。
私の周りには何人もの人らしき何かが倒れており、一見して絶命しているのが分かる。
見下ろすと青い魔方陣のようなものが光っている。
これは、私は生成されたか、どこからか召喚された……?
それにしても禍々し過ぎないだろうか。
これどう見ても邪教の儀式というか、悪役のそれというか。
少なくとも正義の勇者と勇者に力を与える女神の巫女の誕生シーンでは無くないか?
徐々に戻る視界に現状が認識できる。
地下牢のような空間。
しかし空間そのものは広く、バスケットコートほどの広さがあるだろうか。
私の周りに倒れているのは人らしき何か、ではなくて人だった。
赤を基調とした細かい金の刺繍が施された、一見して高貴な身分とわかるような服装をした老人たちが倒れており、その服を中心に赤黒い水たまりが広がっている。
いやどう見ても邪教の儀式では?
そんな疑いが強くなる頭を理性で抑え視線を上げる。
クッソ醜いクソデブのおっさんと目線があった。
「――――――!!!?」
恐怖に思わず自らの体を自分自身の腕で抱きしめる。
その時に前世とは異なる感触がし、頭が混乱した。
両手で抱きしめた体の中央には豊かな双丘が形をゆがませ、下を見ると前世であったはずの臓器がない。
それどころか体つきも異なり、血に濡れた状態でも客観的に整っていると認識させるくびれとそこから流れて美しいウェーブを書く臀部。
女神のセリフが脳裏に浮かぶ。
前を向く。
クソデブが顔を真っ赤にしてこちらを見ている。
鏡がないのが憎らしい。
まあ多分絶世の美少女なんだろう。
デブの反応で分かる。なんかちょっと目を離したすきに股間が膨らんでるし。
なに勃ててんだよボケ!
デブの周りには騎士らしき数人がデブを取り巻いている。
そいつらは一様に私を警戒している様子。
そうだよね、血まみれの女がいたらふつうはそうだよね。
でもこの状況はそちらさんが作った状況っぽいのでその反応はひどくない?
まあ股間おったててるそこのデブがおかしいんだよね。
呼んだにせよ見つけたにせよ何人もの死体の中心で血まみれになって立っている女がいたら警戒するよね。
そして多分あのデブは転生者なんだろう。
女神が言っていた特徴に合致するし。
すげえ巨漢なんだけど脂肪だけじゃなくで中にちゃんと筋肉がありそう。
まあセックスするにも体力はいるからな。
動けないタイプのデブだと種付けおじさんスペック的にはだめなんだろうな。
しっかし脂ギッシュでキモいな。
パーソナルスペースに入ってこなければオッケーなんだが、顔を近づけられるとなんかこう鳥肌が立ちそう。
さて。
……どうやって確認する?
多分あのデブは転生者だろうけど、どの程度の転生者かによって対応は変わるよな。
同郷だと色々やりやすいんだけど。
そもそもデブ登場前のモブデブの可能性もあるしなぁ。
何か、何かいいかんじに転生者って把握する何かはないか?
こういうシチュエーションを知っているかを確認できるようなワードは……!
そうだ!
「じゃあ、死のうか」
言って、ゆらりと立って、にこりと笑顔。
「なっ!?き、貴様!巫女ではないのか!!」
「ファッ!?」
警戒態勢に入るデブの取り巻き。
素っ頓狂な悲鳴を若干のにやけ顔で上げるデブ。
よし、こいつは同郷だ!




