理性ではわかるけど感情が嫌だからイヤ
帝都に向かうマジックミラー付きトラックの中、ケイさんから元老院の反応について詳細を聞く。
そしてよくよく聞いていると、元老院側の言い分にも確かに理があった。
そもそも現在の所元老院が把握している作戦案は数日前に私によるバフ効果が判明した直後にモッさんが送ったたたき台が元になっている。
その段階で元老院側が把握しているのは、モッさん、ケイさん、翔太さんのカンスト時の推測ステータスと一部の亜人連合アーコロジー操作権限が奪取できそうという情報のみ。
そして元々のプランA、プランBではどちらも亜人連合を攻撃することが前提になっていた。
そもそも魔王のステータスは現状不確定情報で、わかっているのは四天王のステータス情報と、大侵攻時に倒れた勇者たちから推測した現勇者の伸びしろのみ。
我々が転生者だから知っている情報を開示したところで元老院が納得するのには時間がかかる。
なんせ転生にしろ魔王のステータスにしろ、根拠が私たちの頭の中にしか存在しないのだ。
前世で軍高官が急に「俺は実は未来人なんだ!だからこの作戦が正しいんだ」とか言い出したらどうだろうか?受け入れられるわけがない。
元老院から見た既存作戦は『勝てるか確証がないがそうしないと滅ぶからそうするしかない』というものなのだ。
そこにアーコロジー操作権限がでたらそら色気を出し始める。
さらに更新された情報『都市管理システムが受肉して亜人連合の全アーコロジーの管理者権限を保有した』という情報が出たらどうなる?
「だから!万一のための人類の最終防衛戦としてアーコロジー確保は必須だろう!?なぜわからん!?」
そうだね、元老院は保険確保のためにアーコロジー確保に固執するようになるよね。
「だが、それで亜人連合が徹底抗戦モードになってしまっては元もないぞ!?そもそも不可侵が締結できるのは向うにリスクを見せてこちらへ手出しするのをためらわせることが目的だぞ?」
「では見せしめに何個かアーコロジーを壊滅させればよいではないか!!2P殿、できるのだろう!?」
「できますわよー」
「俺に大量虐殺者になれってのか!?」
「管理者様がやりたくないならやりませんわ~」
ここは元老院議会議場、俺たちに大声で詰め寄っているのは元老院議会の中でも主流派となる大都市を有する若手の高位貴族の一人。
今はモッさんが亜人連合のアーコロジー確保を詰め寄る貴族連中に反発しているところ。
2Pカラーは乗り気だが、モッさんがやらないと言った事はやらないので風見鶏状態。
帝都について早々、私たちは元老院に召喚され激しい追及にあっていた。
「人類のために亜人どもが何人死のうとかまわんではないか!!!」
別の貴族がろくでもないことを言い放つ。
まあわかるよ?人類と亜人は隔絶した種族なんだし、今は人類滅亡の瀬戸際。
そんな時に敵対的な種族に対して配慮することはできないのはわかるよ。
「アーコロジー管理権限は使って楽しいおもちゃじゃないんだよ。一度それをやっちまえば脅しじゃなくていつか使う前提の凶器になっちまう!亜人がこっちを滅ぼすか人類が亜人を滅ぼすかしかカードがなくなる可能性が高いだろう?そうしたらどちらにしても人類終了だぞ?わかってんのか!?」
「だとしても貴様らが倒れれはお終いの案は到底元老院としては許容できませんわ!」
「元の反抗作戦とてそれは同じだろう!?」
「今は保険がかけられるようになったのです!保険が掛けられない状態だった以前の話とは変わるでしょう!?」
「っぐ」
ケイさんが貴族連中に反論するものの別の女性貴族に痛いところを突かれて言葉に詰まる。
「亜人連合がアーコロジーを割譲しないというのであれば2P殿に滅ぼしてもらえばいいだろう!!すでに我らは一度行ってしまったのだ。もうとっくの昔に賽は投げられているだろう!?」
「だから俺は大量虐殺者になるつもりはない!!!」
「人類と亜人、どちらが大事なのだブーデス伯!!」
「とにかくこの案だと話にならん!元老院議会としてはとてもじゃないが承認できんぞ!最悪でも亜人どもからアーコロジー1都市は割譲させなければ元老院としての派兵は承認せん!」
「「「「異議なし」」」」
そう言って私たち勇者巫女案を否決する元老院貴族。
まぁ言い分はわからんでもないけど、ちょっと一方的すぎないか?
そもそも、あんたら自分たちの立場分かってんのか?
「なぁ――」
「だいたい、デコイも廃案にするとはどういうことだ!それこそ安全マージンだろう」
そう私が発言しようと立ち上がったとき、最初にモッさんとやりあっていた若手の高位貴族が私の言葉にかぶせるように言い放ってきた。
「……は?」
「なんだナント=ホール子爵夫人。今私が発言して」
「おいお前なんつった?」
「だから、デコイは作るべきだといったのだ!!」
私の目線に若干たじろぎつつ言を引っ込めない若手高位貴族。
そいつに私は目線を固定したまま発言する。
「………まぁ、魔王の戦力が想定以上だった時のために必要というのはわかる」
「ヴィーさん?」
「だろう!?よくわかっているではないかナント=ホール子爵夫人」
そう、亜人連合を恫喝できるカードを持った以上、万一今作戦で敗退した場合に備えた最終防衛ラインとして、亜人連後のアーコロジーを一つは欲しいと考えるのは理にかなってはいる。
魔王という不確定要素についてはケイさんも同じ認識を持っていたのだろう。
そのため、元老院の動きに真っ向から反対できないでいるように見えた。
そしてその認識に反論できるものは私たちの中にもいなかった。
確かに、もし今回我々が全滅すれば負ければ人類バットエンド一直線なのだ。
しかし、もし少しでも生き残れれば、わずかな可能性であるが次の勇者が現れる『かもしれない』。
大侵攻時に勇者が死んだすぐ後にモッさんたち三勇者が出現したのだ、元老院――いや人類がそこに縋るのは無理はない。
うん、理性ではわかるよ理性では。
だーけーどー
「でも私たちが嫌なんだ。採用するわけないだろ?」
「なっ!?」
私の言葉に若手高位貴族が絶句する。
「そもそも今回の作戦の決定権は元老院にないし、嫌だっていうなら無視するしかなくない?」
デコイは拒否。断固拒否。私に被害が来るとか来ないとかじゃなくて拒否。
感情的にやっちゃいけない一線なんよ。
命は賭けるし貞操も差し出すけど其れはだめ。
私たち勇者や巫女に善性がなくなったらそれもうただの意思のあるだけの兵器だよ?
だからデコイ並みに倫理観のない亜人殲滅案も拒否。
「何を言って……人類の軍事計画はすべてこの元老院議会で―――」
「いや、今回の作戦、後先考えなかったら私たち7人で決行できるし」
「許可を出すと思っているのか!?」
「え?止められるの?」
我ら勇者&巫女ぞ?純粋な武力で言えば今この瞬間元老院議会灰にできるよ?
「ぐ……ぬっ……」
言外にそうにおわせると若い高位貴族は黙り込む。
そう、プランAやプランBと違って今回の作戦は私たち単体でできるし、最悪元老院の許可なんていらないのだ。
でも、じゃあなんてケイさんたちがこんなに元老院を説得しようとしているかというと。
「だが、承認しない以上軍は動かさないわよ」
女性高位貴族が絞り出すような声で反論する。
そう、通常戦力がなければ被害が拡大するからだ。
「それ、私たちがやるって決め込んでたらただ足引っ張る行為って理解してます?」
「何とても言いなさい、元老院議会の案を受け入れない以上、我々は軍の派兵を承認しません」
完全に意固地になってしまったのか私の問いに完全な拒絶の反応を示す女性高位貴族。
交渉は決裂、魔王は倒せても同時派兵ができないことで被害は軽くならない。
そんな現実にモッさんの顔がどんどん暗くなる。
そんな様子を一瞥しながら私は別の方法を頭の中で考えていた。
あーそう。理屈で説得する風だったけどこっちを説得できないとそういう反応するんだ?
結局メンツなんだ。
そうか、そうか、つまりきみらはそんなやつらなんだな。
だったら私も遠慮しないよ。
議論が良き詰まって静まり返る議場を無視し2Pカラーに寄り私は耳打ちする。
「なぁ、お前の撮影スキルって今使えるの?」
「使えますわよ」
「動画とかは?撮る対象は選べる?」
「動画ももちんできますわ。撮れる対象は私の視界の範囲ですわ」
オッケー。行けそう。
私はそのまま2Pカラーに耳打ち。
「わかりましたわ~」
私に対して物分かりの良い2Pからは特に反論することもなく納得してくれる。
さて次は、
「モッさん、みんな。ちょっと話し合おっか。元老院の皆さんも、一回クールダウンしませんか?」
「う、うむ。希望が見えていただけに我々も熱くなってしまったようだ。謝罪しよう。一旦30分ほど休憩をはさんで再度議論を行う形ではどうだろうか?」
私の言葉に若手高位貴族が同意し、後ろの数十人の貴族たちも頷く。
その反応を受けて私はモッさんたちをこっちに手招きし、元老院議員と私たちでそれぞれいる場所が分かれた。
それを見た後に、私は息を吸い込み―――。
――傾国の美女Lv3使用――
「モッさーん、パブリック・ファック発動!」
取得したばかりのあのスキルを使ってモッさんにスキルを行使させた。
「パブリック・ファック!!―――――え?」
「!?」
スキルを叫びながら私の後ろに回り込んで私が着ている服を剥くモッさん。その表情は自分が何をしているのかを理解していない顔。
モッさんの唐突な行動を見て驚愕の表情をする貴族たち。
貴族に全裸をさらす私。
絶世の美少女の裸だぞ?煽情的だろう?
何人かの股間がさっそく反応してるね。気持ちよさそうだね?
うん、よかった。
じゃあ、死のうか?(社会的に)
「パブリック・ファック」
本来は防御スキル。発動中なぜか目撃者は攻撃できなくなる。
それどころか同志撃ち(意味深)を始めてしまう、恐ろしいスキル。
ちなみにこのスキルと関係ないが、2Pカラーは視界に映るものを撮影できる。
あとは……わかるね?




