究極の三択
神は全能。
そんな信仰が人類に芽生えるほどには神々は人類を愛している。
神が全能だから人類が信仰するのではない、人類が神を全能と信じるから神は力を得て全能に近づくのだ。
そして神は人を、世界を愛している。
しかしそれは必ずしも人類一人ひとりの人生に向き合っているとは限らない。
人類を愛するがゆえに人に試練をという名の無茶ぶりをする事などしょっちゅうだ。
むしろ人に試練を受け入れさせてこそ一人前という神も多い。
特に今の私とかそれ。
「TS異世界転生前にチートな仲間をあげる」
地球世界の成人男性魂に対して空中で足を組み、後光を発光させ見下ろしながら告げる。
この時にやってはいけないのは懇願。
この個体は特に多神教地域特有の神と人が近い地域の出身。
主導権を少しでも握られるとまずい。
呆然とする魂に対して矢継ぎ早にパートナーの条件を告げる。
1.男の娘勇者。結構強い。
2.イケメン勇者。男の娘より強い。
3.巨デブ種付けおじさん勇者。圧倒的最強。
「なお、勇者が力を発揮するには女神の巫女であるあなたとの性交渉が必要。誰がいい?」
「あの、俺、男……」
男の魂の表情に困惑が浮かぶ。
まぁ死後いきなり同性に抱かれろと言われれば男色文化圏以外の男性魂ならそうなる。
「だからTS転生。すっごい美少女になるしいいじゃない?」
そのため、男性魂を揺らがすために努めて興味の薄い視線を魂に向けて流し告げる。
「だから、俺は男なんだけど」
「記憶はそのままだけど脳が女になるから安心して、ちなみに性交渉は基本毎日くらいが望ましいわ」
「あの、それ以前に、俺別にTSしたいとかそういう欲望はないと言うか」
……近代魂は百数十年前に比べて信仰心が薄れてきている。
そのため、多神教文化圏においても神の言葉はうのみにせずに抵抗を試みる場合がある。
「あなたの要望を叶えるためじゃなくて、それがあなたの定めなの」
「……」
「OK?」
そんな場合は少し神格を見せつけて自らにかなわない存在であると見せつける。
そうすると、
「いやダァあああっああ!!俺は!!俺は可愛いねーちゃんとイチャイチャしたいんや!!乳!尻!太もも!何でチンコついた生き物といちゃつかなアカンねん!!」
半数が受け入れ、半数が死の受容の四段階のように「怒り」を表明する。
受け入れればそのまま転生、怒りを表明した相手には……――
「乳も尻も太もももすごくいいのがいつでも触れるようになるから安心して。まぁTS後は別に嬉しくもないだろうけど」
取引を持ち掛ける。
言っていることは間違っていない。同性から見ると自分の胸なんざ脂肪と乳腺の固まりでしかない。
社会的な自尊心は満たされるかもしれないが、ただもむだけだと何もうれしくない。
私だってそうだぞ。好きな人以外にもまれても自分でもんでも何も感じんわ大体からな――
ちょっと落ち着こう。
そうそう魂の反応よね。
まぁ大体はここで抗うつになるので――
「そっか。俺に乳と尻と太ももがつくんか。ほな、ええか」
「納得するんだ。自分のだから好きなだけ触っていいのよ。夢のようよね」
「まぁ、そう考えると……」
あれ?この個体は受容になってしまったようね。
おかしいわね。……まぁいいか。
じゃあそのまま次のステージに行きましょう。
「女の脳になってるから触っても興奮しないだろうけど触り心地は絶対いいわ」
「はぁ。いいや。割り切ります。じゃぁ勇者の説明を」
「割り切るの早。すご」
ここまであっさりと割り切れる魂は珍しいわね。
まあじゃあ次。
「まずは男の娘勇者。美少女にしか見えない可愛い美少年。実力的には勇者としては下の方だけど、敵の上級兵士よりちょっと強いくらいだからかなり強いわ。見た目がマジ美少女で可愛いのがポイントね。TS直後でも喜んでヤレると思う」
魂には言わないけどスキルとしてインキュバス系統のスキルもある。これは性別や種族に問わずに性的欲求を想起させる物で、私とかでも舌なめずりをするような容姿特性を持つ。
……なんとか転生回避して天界に連れ込めないかしら。
「あ、ホントだマジ可愛い」
おい待て私の獲物だぞ。
あぁいけない。
まだこの魂の獲物の可能性も残っているもの。
自重自重。
「次はイケメン勇者。勇者としての実力は並だけど、脳が女になった後は選んでよかったと思えるガチイケメンよ。敵の幹部よりちょっと弱いくらいだから普段は無双できるわ。」
これも私欲しい。役得として余った男の娘かこのイケメンかは私が貰おうと思っている。
過労労働の臨時賞与として丁度良いのでは?
「レディコミに出てきそうな線の細いイケメンだな。脳が女になったらコイツのチンコしゃぶりたくなるんすか?」
「最初は男としての記憶が邪魔して抵抗あるだろうけど、体と脳が女になるからね。今、女の口から股まで全部舐めろっていわれたらできる?」
「喜んで」
「男の口からチンコまでだったら?」
「絶対やです」
「それが逆になるわ」
「マジかぁ……」
ドン引きしてるけど生物なんてそんなもんよ、生物由来神の私だってそうなんだし。
私レベルの神でも舌なめずりする容姿がこの勇者よ。何文句言ってんのよ。贅沢よ。
心の中で贅沢ものに毒づきながら次の説明に移る。
「そして最後はお待ちかね、巨デブ種付けおじさん勇者。陵辱系エロゲの種付けおじさんそのもの。絶倫でねっとりイかせてくれるし、敵のラスボスと同格に強い。世界最強。ただ率直にキモい。TS後は何でこんなん選んだんだって思うでしょうね」
客観や利害関係ならばよいのだろうが異性としてのプライベートなら無理、というのがこの勇者だろう。
美女と野獣は野獣がイケメンに戻るから救いがあるのだ。
醜くても心が美しければ?寝言は寝て言え。
こいつはイケメンに戻らないので救いはない。
前世で何したらこれになるのだろう。
いや、この勇者は前前世はこれなので前々前世?
民族浄化でもした?
「うっわ。見た目キッツ」
TS魂君もドン引きしている。
「さぁ、誰がいい?」
「あの、その前にこの勇者たちって、俺がTSした元男だって知ってるんすか?」
「ええ。彼らも転生者だから。」
むしろ彼ら自身も容姿は選択権を持たせているわ。
世界を救う使命を背負わせるのだから最低限それくらいの誠意は必要だし、そもそもその程度の便宜すら図れない状況なら世界は滅んでいる
世界を救うには転生者自体の士気もある程度必要なのよ。
「ああ、そうなんだ。微妙に同情心が湧いてきた。性格とかはどんなもんなんです?」
「全員、中身は普通に良い人よ。」
そもそも使命感なり善良さなり自己犠牲の心がなければ世界を救う使命など背負えない。
そこは最低限転生の際に見極めるようにはしている。
それに耐えられない魂は最初から異世界に呼ばれない。
転生もできない。
間違って転生したとして、物語を紡げずに世界ごと滅んでしまう。
つまり、ある意味では私が相対しているような魂は等しく勇者と言ってもよい。
「ああ、そうなんすか。じゃぁ……」
巫女になる男性魂は私に選択を告げる。
……目の前のこの魂は大英雄の器だったかもしれない。




