窓際クランの決戦当日
新人戦当日。ユーリは医務室で目を覚ました。
まぁ。ここで寝たのだから当然だ。昏倒したのを寝たといっていいのかははなはだ疑問だが。
ざっと周りを見回してみたが、フィーとレイラは見当たらない。二人とももう起きているにだろう。
そこで、ふと初めてこのクランハウスにきたときのことを思い出した。
「知らない天井だ」
そう呟いても今日は当然、返事が帰ってくるわけではない。
自嘲気味に少し笑い誰もいない寂しさと、仲間として認めてもらっている嬉しさを感じながら上体を起こした。すると、パサリと毛布が落ちた。毛布がかけられているのは、フィーかレイラがかけてくれたのだろう。
ユーリは丁寧にその毛布をたたんでベッドの上に置いた。
「あー。頭いてー」
頭がいたい理由はわかっている。昨日のことはしっかり覚えているからだ。そう、昨日の・・・。
「あ、ユーリ起きた?」
「フィーさん!おはようございます!」
ガチャリと扉が開いて、フィーが扉から入ってきた。ユーリは背筋をピンと伸ばしてハキハキと返事をした。
フィーはそんなユーリの様子を不審に思い、目を細めて感情の消えた顔でユーリを見つめた。
「ユーリ。今エッチなこと考えてたでしょ?」
「か、考えていません」
フィーはユーリに咎めるような目を向け続ける。
そして、息を吐き出して、表情を戻した。
「はあ。まあいいわ。朝食の準備できてるからすぐにきてね」
「わかった」
ユーリは大きく息を吐いて、軽く服装を整えて食堂へと向かった。
食堂では、レイラが朝食の準備をしていた。
「・・・おはよう。ユーリ」
「おはよう、レイラ。今日は結構豪華だな」
食堂のテーブルにはいつも以上に豪華な食事が並んでいた。
レイラは自信満々に胸を張った。
「・・・せっかくだから頑張ってみた」
ユーリは席につきながら質問した。
「二人はちゃんと寝れた?」
「・・・あの後、すぐに寝た」
レイラは席につきながらそう答えた。レイラからはリラックスした様子が感じられ、しっかり寝れたのだろうと思えた。昨夜馬鹿騒ぎしたのが聞いたのかもしれない。ユーリが犠牲になったのも無駄ではなかったということだろう。
ユーリは安心したように微笑んだ。
「そっか。ならよかった」
「はー。さっぱりした」
そんな話をしていると、レイラが入ってきた。どうやら、ユーリを呼びにきてからシャワーを浴びてきたらしい。ユーリと違い、朝の鍛錬もちゃんとしたのだろう。
「・・・フィーも席について」
「はーい。今日は豪華ね」
いつも通りの朝食風景があった。
***
朝食後、クランハウスを出て、ギルドに向かっていると、街全体から浮かれている様子なのがうかがえた。王都全体がお祭りでもしているようだった。
「今日はなんか賑やかだな」
ユーリがそんな感想を言うと、フィーは自慢げに胸を張った。
「当然でしょ?今日は新人戦なんだから」
「・・・新人戦は新人探索者のお披露目も兼ねてる。街を挙げたお祭り。色々なところで中継が観れるようになってる」
レイラが大通りの一箇所を指差すと、その先には昨日まではなかった水晶板のようなものがあった。
「・・・あんなふうに水晶板が街のいたるところに設置されてて、あれで映像を観れる」
「へー」
辺りを見回すと、確かに同じような水晶板がいくつも設置してあった。
「大広間での中継だけだと思ってたよ」
「それがメインだけどね。あそこの水晶板はここよりもっとすごいわよ!大体の人はそこで観戦するわ!」
どうやら、大広間にはここより大きな水晶板が設置されているらしい。
「じゃあ、どうしてこんなにいたるところに水晶板があるんだ?」
「・・・仕事がある人のため」
確かに、衛兵とかは休めない。よく見ると、衛兵の詰所や今日も営業している店の近くにモニターが置かれている。
そうやって周りを見回していると、一人の衛兵と目があった。その衛兵はユーリの方へと走ってきた。
よく見ると、その衛兵はラルフだった。ラルフはユーリに話しかけてきた。
「おはよう、ユーリ。調子が良さそうだね」
「あ、ラルフさん。おはようございます」
ユーリが頭を下げると、ラルフはユーリの肩にポンと手を置いた。
「今日は頑張りなよ」
「はい」
ユーリは元気よくラルフにそう返事すると、ラルフはニコリと笑ってユーリたちを送り出した。
***
ユーリたちは探索者ギルドの前まできていた。三人は探索者ギルドがいつもより大きく感じていた。
今日、『紅の獅子』にとっては重要な日だ。今後、クランを存続できるかどうかが今日決まるといってもいい。ユーリは昨夜はフィーにまだ手はあると言うようなことを言ったが、今回ほど恵まれた環境はもう来ないと思っていた。
ユーリもフィーもレイラも緊張した顔をしていた。
ユーリは頬を両手で強く叩いて気合を入れた。
「ちょ、いきなり何より!?」
「・・・ユーリが自分を傷つけて喜ぶ変態になった」
フィーはユーリに冷たい目を向け、レイラはユーリから一歩引いた。
ユーリは目を大きく見開いてレイラとフィーを見た。
「違うよ!?気合い入れてるだけだよ!?」
いつものやりとりに安心したのか、誰からともなく笑い出した。
少し笑った後、三人は探索者ギルドを見た。殺気感じたようなプレッシャーは感じなくなっていた。
「よし行くか」
「行きましょう」
「・・・うん」
俺たち三人は探索者ギルドに入っていった。
まだ始まりません。こう言う本番前の感情の動きはかなり好きなので、もう少しお付き合いください。
後二、三話以内には本番が始まります。
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