狼の襲来
僕は勢いよく表に飛び出したが、辺りは真っ暗で狼の姿を確認する事は出来なかった。
何処から来る?
前か、右か、それとも左か、意識を周りに集中して狼の気配を探ろうとしたが、今の僕には無理だった。
飛び出したのは良かったが、狼の姿が見えない事にはどうしようもなく、少し咄嗟に飛び出してしまった事を後悔していた。
そんな時、突然周りが明るくなった。
突然の事で何が起きたのか、一瞬、分からなかったが、後ろを振り向くとアイリが光輝いている杖を構え何かを唱えていた。
それで気付いた。
これはアイリの魔法か、範囲はそこまで広くなかったが、僕の周り半径10メートルの範囲は明るくなり、その範囲は見えるようになった。
だけど10メートルより先は、相変わらず真っ暗だが、僕の周りが見えるようになった分、大分ましになった、
10メートル内に近づく物が有れば何とか対処出来るだろうと、ガーゴイルを倒した事があるから、きっと今回もやれると甘い考えをしていた。
周りが明るくなった分、少し気が楽になったは確かだが狼の姿はいまだに見えなかった。
本当に狼はいるのだろうか?
暗闇の中から僕達が隙を見せるのを、息を潜めて狙っているのだろうか?
遠くの方で、遠吠えは聞こえていたけど、本当に僕達の近くまで来ているのだろうか?
第一、周りは断崖絶壁、道など無いはず、それとも獣が通れる道があるのだろうか?
そんな事を考えていたから、周囲の探索が疎かになっていた。
突然、セナが、
「レン、左!」
僕は叫び声に反応して左側を見た時には、既に暗闇から勢いよく飛び出して来た狼が目の前まで来て、大きな前足の爪で襲いかかってきた。
咄嗟に剣で防いだが、狼の勢いとその大きさ、僕の3倍は有りそうな大きな体に負け、地面にそのまま叩きつけられた。
「グハッ」
叩きつけられたから、背中がジンジンと痛みが走り、とても痛かった。
けど、そんな事いっていられなかった。
僕は剣で防いでいるつもりだっけど、狼にしてみれば、唯一の武器の剣を僕の体ごと前足の爪で押さえつけ、後は強力な牙で頭を一噛みすれば、大人しくなりただの餌となる。
狼はヨダレを滴ながら必死で、僕の頭を噛み砕こうとしていた。
それを僕も噛まれないように必死で交わす、一回、そして二回目だった。
突然、狼から叫び声が上がった。
「キャン、キャン」
そんな悲鳴のでような叫び声を上げながら、僕から離れ一定の距離を保っていた。
よく見ると狼の横腹に矢が2本刺さっている。
セナか、思わず、
「セナ、ありがとう」
と叫んだら、
「まだ終わってない。
気を抜くな、次が来るぞ!」
と言われてしまった。
そう、あと2匹いるはずだし、まだ目の前の1匹も倒せていない。
そして2匹目が僕の背後から、素早く走って来たが、今回はセナの弓矢の方が早く、1本の矢が狼の肩辺りに命中、そのまま僕の方には向かって来ずに暗闇の森の中に消えていった。
そしていつの間にか最初に襲いかかってきた狼も姿を消していた。
今回は様子見に来ただけだったのか。
暫く辺りを確認していたが、襲ってくる気配が無かったので僕は樽の中へと戻っていった。
「どうだ、セナ、まだ狼の気配はあるか?」
「近くにはいないようだけど、遠くの方に気配を感じる」
「レン、大丈夫?今、回復してあげるからちょっと待ってね」
「ありがとう、アイリ。
でもかすり傷だから大丈夫だよ」
「ダメ!ちゃんと治療しとかないと」
「そうだぞ、レン。
アイリの言うとおり、きちんと治療しとかないとそれが命取りになるぞ。
傷から菌が入り、それが元で命を無くすなんて事よく有ることだからな」
狼で受けた、かすり傷程度の傷だったがセナとアイリの言うとおりに回復してもらうことになった。
出来ればもっと瀕死になった時、回復魔法で治療して貰いたい。
だからこの程度の傷で回復魔法を使ってほしくない。
いざというとき魔力が足りないから回復魔法使えませんでしたでは、話にならない。
だけど、今日はもう狼は襲って来そうになさそうという判断で治療を受けていた。
「しかし、狼達は何故引き返したのだろうか?」
「う~ん、今回は確認しただけなんじゃないかな」
「確認?セナ、分かりやすく説明してくれよ」
「狼は通常群れで生活するから、3匹しか居なかったというのはおかしいんだ。
考えられるのは、人間で言ったら偵察部隊、3匹で獲物を探していたんじゃないかな。
そこにたまたま僕達がいて、小さな人間の子供なら、自分達でも殺れるだろうと判断して襲ったが意外に抵抗されたから、一度引き返した。
だけど次来るときは仲間を引き連れてやって来るだろう」
「それならレン、セナ、早く逃げなくちゃ」
「そう焦るな、アイリ。
狼達もそう思っているだろう、直ぐに襲う必要はないと」
「それはどうして?」
「この断崖絶壁に囲まれた場所、逃げられはしないと...」
「でも早目に逃げた方がいいよな」
「ああ、今日は襲って来ないかも知れないが、聞いての通りいまだに狼の遠吠えは続いている。
僕達が疲れはてて疲弊するのを待っているんだ。
だから、疲弊する前にこの場から逃げないと」
「そうだね、セナは頭が良いからきっと上手くいくわ」
「うん、そうだなセナの言うことに間違いない。
明日、日が昇ったら逃げ道を探しに行こう」
僕達は三人で当番で見張りをしながら、次の朝が来るのを待っていた。
結局、その夜、狼達の襲来は無かった。




