漂着
『ザザッ、ザザー』
遠くの方で波の音が聞こえる。
あれ、僕はどうしたんだろう。
ここは何処だろう。
少しずつ意識の戻りつつある中で聞こえてくるのは砂混じりの波の音。
僕は砂浜にいるのだろうか?
体の感覚が戻ってきたので、手を少し動かすと砂の感触。
やはり砂浜だろう。
僕はゆっくりと目を開けようとしたが、ま、眩しい。
太陽の光だろうか、眩しくて目を開けられない。
「......んん」
「お、アイリ、レンが気が付いたぞ」
「え、本当?」
僕の側にはセナが、そして遠くから走って来る足音が、アイリだろう。
「レン、大丈夫?」
「あ、ああ、まだちょっと体がおかしいけど、何とか」
「良かった~、心配したんだからね。
レンだけなかなか起きないし、このまま起きないんじゃないかと思ったじゃない」
アイリはそう言うと泣き出してしまった。
「全く、アイリは泣き虫だな」
「だって、だって...」
「ごめんごめん。
ところでここは一体何処なんだ」
「見ての通り砂浜に打ち上げられたようだ」
「まだ、眩しくて見られないって」
「そうなのか」
ようやく目が周りの明るさに慣れ、体を起こして周りを確認すると入り江の中にある砂浜にいた。
周りは断崖絶壁、高さ50メートルほどの岩に囲まれている。
広さは直経1キロくらいの円形、半分が海で半分が森、その間に砂浜が延びていた。
外海に行くには、海側にある壁に空いた洞窟を抜けて行くしかなさそうだ。
砂浜には木片や残骸が沢山散らばっている。
船の残骸だろうか?
そうか、樽に入れられて僕達は…、そのあとの記憶がない。
「ここは何処なんだ」
「分からない」
「船はどうなった」
「分からない」
「あの残骸は僕達の乗っていた船か?」
「分からない」
「どうして分からないんだ!」
「分かるはずないだろう。
僕だって、レンと一緒に流されて来ただけだし、僕が聞きたいよ!」
「二人とも冷静になりなさい。
助かっただけでも有りがたく思いなさい」
「そうだな、アイリの言うとおり助かっただけでも感謝しないとな」
「僕達の他に生存者は?」
「それも分からないわ。
ただここにある残骸の中には死体はなかったから、望みはあると思うわ」
僕は壊れた残骸を見て、船が破壊されたことを確信していた。
死体がないと言ったけど、あのクラーケンや他の魔物に襲われた可能性もあるし、救援隊が来て助け出された可能性もある。
「取り敢えず、この後どうする」
「まずはこの断崖絶壁を越えないと行けないんだけど」
「その前にほら」
アイリが見せたのは、樽の中に入った大量の食料。
「これは?」
「一緒に流れて来ていたのを見つけたの。
これだけあれば何日間は食料の心配はいらないわ」
「これから何が起きるか分からないから、ここで体力を温存しながら、この断崖絶壁を抜ける道を探さないと。
まずは寝る場所を作らないとな」
三人で寝床となる場所を作ろうと思うが、道具もなければ子供三人しかいない。
僕達は船から脱出した時に入っていた樽を横にして転がし、海辺の近くだと潮の満ち引きで流されてしまうので、森と砂浜の境目辺りに
転がらないように固定し、入り口は雨風が入らないように流れ着いていた板を立て掛け固定した。
長く住むわけではないから、こんなものだろう。
あとは火を起こす為の竈作り、食料と一緒に流れ着いていた鍋を見つけていたので、それに合うように周りから手頃な石と燃やす為の木を集めてくる。
石を積み重ね竈が完成し、これで料理が作れる。
「アイリ、出番だ」
「うん」
アイリは静かに呪文を唱えると、小さな炎が生まれた。
その炎を木片に移し、木が大きく燃え出す。
次々に木片を投げ入れ大きな炎となり、これでやっと料理が出来る。
「アイリが居てくれて良かった」
「ほんとほんと、大助かりだよ」
「そうかな、えへへ」
アイリは照れ笑いを浮かべていたが、本当に助かっている。
アイリの得意は魔法呪文、火の魔法と回復呪文、と言ってもまだ子供だし本格的に勉強した訳ではない。
元々持っていた才能と言うべきかも知れないけど、自学で火と回復魔法を覚えていた。
火の魔法と言ってもまだ小さな火種を作る程度、攻撃魔法とは呼べないし、回復魔法も擦り傷を直す程度、だけどこれから本格的に魔
法を習えば、素晴らしい魔法使いとなると思っている。
僕はまだ魔法が使えず剣のみしか使えない、羨ましい限りだ。
以前にガーゴイルとの戦いで魔法剣が使えたが、それ以降僕が魔法を使える事は無かった。
あの時は必死だったからなのか、それともただの偶然だったのか、今では分からなかった。
魔法と言えばセナも少しは使える。
セナの得意は弓、今も大事に持っている弓矢は自分のお手製だ。
自分で命中力、飛距離など工夫しながら作り、今の弓矢の形になっている。
森の中での狩りはセナの得意分野、離れた獲物も逃がさないし、飛んでいる鳥も逃がさない。
僕はセナが弓矢で外したのを見たことがなかった。
セナの魔法は風魔法、まだそよ風程度だけど、暑い日には涼しく僕にとっては都合の良い魔法だ。
だけどセナは「レンの所為で魔法の使いすぎた」と言っていつもげっそりしていたけど...。
魔法を使えないのは僕だけ、学校に行けば魔法が使えるようになるのかと思っていたりもするけど、僕に魔法の才能はないのかも知れない。
料理と言っても皆、覚えていないし得意でもない。
見よう見まねで、材料を鍋に入れていく。
まず水が無かったので海水をそのまま使用した。
沸騰させれば、微生物も死に殺菌の役割になるだろう。
野菜も包丁が無かったので剣で大雑把に切り、鍋へと投入する。
味付けもしたかったけど調味料が無かったので素材だけの味付けとなった。
料理が出来上がり、皆で食べ始めるが一口目を食べた瞬間、無言になり口が止まっていた。
「し、しょっ~ぱ~い!」
「何だ、この塩辛さ」
「もう、何よこれ~、スープじゃないわ」
何故か笑いが込み上げてくる。
それはそうだろう。
海の水をそのまま使っているし、味付けは何もしていない。
ただ海水に野菜をぶちこんだだけのスープ、とても食べられた物ではなかった。
塩辛さの為、喉が渇いて仕様がなかったが飲み水がない。
幸いにも果物があったので、今日は果物で我慢する事になった。
明日はここから抜け出す為の道探しと一緒に飲み水を確保しときたいところであるが、子供達だけで未知の場所を探索するのには勇気がいる。
道と飲み水、無事に探すことが出来るか不安ではあるけど、こんな訳の分からない所で長く暮らせる訳ない。
もう辺りは暗くなり始めているので、考えるのは止めて明日にしよう。
明日になれば、きっと夢から覚めて船が港に着いた所から始まって欲しいと願いたいが、世の中そんなに甘くない。
今日はいろいろ有りすぎて、樽の中で横になるといつの間にか眠りについていた。
夢の中で、遠くに微かに聞こえる犬の遠吠えが聞こえたような気がした。
『ウォーン、ウウォーン』
「おい、起きろレン」
「ん、もう朝か?」
眠い目を擦りながら、大きな欠伸をする。
どのくらい寝たのか分からなかったが、まだ眠たさが残っていた。
外を見るとまだ暗闇が広がっている。
もう朝になってるとは思えないけど...。
「レン、武器を持て!」
「えっ」
セナの姿を確認すると既に戦闘態勢に入っていた。
右手に弓と矢を持ち、背中に何十本も入った矢筒を背負い、いつでも飛び出せる状態だ。
アイリは木の杖を両手で握っていた。
島を出るときに両親から立派なシスターになれるようにプレゼントされた物らしい。
「どうしたんだ?」
「周りを狼に囲まれている」
「何だって!」
僕は剣を右手に持ち、樽の入口からソッと外の様子を伺ったが、周りはまだ暗く良く分からなかった。
「セナ、本当に狼がいるのか?」
「ああ」
セナは森で良く狩りをするので、獲物の探知能力は僕らの中では、すば抜けていた。
そのセナが言うので間違いないだろう。
「セナ、狼の数は分かるか?」
「う~ん、数は多くないと思うけど多分三匹、でもまだ他に居るかも知れないな」
「三匹なら、一人一匹ずつ倒すか?」
僕は同意を求める為にセナとアイリを見た。
セナはやる気十分といったところだが、アイリは杖を両手でしっかりと握り締め震えているように見える。
そうだよな、アイリは女の子なんだし、狩りとか、ましてや戦闘なんてしたこと無いだろうし、今回が初めての戦闘になるのか?
アイリをなるべく戦闘には巻き込まないようにしないと...。
「ここは僕が囮になって三匹を引き付けるから、セナは弓矢で援護してくれ、アイリはここで僕達が怪我したときの為に待機してくれ。
これが僕達の初戦だ、行くぞ!」
僕は勢い良く、樽の外へと出たが外は真っ暗の暗闇が広がり、狼が何処に居るかも分からない、外へ出たのは良いけど少し後悔した僕だった。
1ヶ月に一度のペースで書こうと思いますので気長に連載待ってくださいm(__)m




