3 出島
ガーゴイルの襲来から、二年の歳月が過ぎていた。
こんな離れた島に、魔物が来ることなどなく、あれから魔物が現れる事はなかった。
はぐれ魔物があの一匹だけだったから何とか倒せたが、もし複数の魔物が現れていたら、撃退することは出来ずに島民は全滅していただろう。
もっと強くならないと…。
僕は父さんとクリスさんとで最後の剣術の練習を行なっていた。
明日、僕は月に一度来る定期船に友達三人と共に乗り、王都にあるユーランド育成学校に行くことになっていた。
「大分、強くなったなレン」
「そうそう、カールさんと互角に戦えるなんて才能を感じるよ」
「でも、お父さんの足が有れば、僕なんかよりずっと…、」
「レン、それは買い被り過ぎだ。
俺はオーパーツも使えない情けない奴だ。
足があったら、今頃何処かの戦場で死んでいるさ」
「カールさん、そこまでは…、」
「しかし、何故レンはあの時だけオーパーツを覚醒できたのだろうか」
「それは僕も不思議に思っていました。
レンくんには確かに魔力が有りますから、オーパーツが使えるはずなのですが、僕の剣を使ってオーパーツを発動させようとしたのですが全然反応しないんです。
何故、あの時だけ…、」
そう僕は、ガーゴイルを倒した時からクリスさんに何度か剣を借りてオーパーツを発動しようとしたけど反応しなかった。
僕の感情で動いたのか、それとも何か特別な力が加わったのか分からなかったがオーパーツを使うことは出来なかった。
そういう事もあり、ガーゴイルを倒したけど、その後オーパーツは使えませんでしたでは、嘘の証言をしているように思われるので、父さんとクリスさんでガーゴイルを倒した事になっている。
「それで使う剣は、それでいいのか。
今だったら、王都に行けばもっと良い剣が売っているかも知れないぞ」
「良いんだ、父さん。
この剣の方が手に馴染むというか、今までこれで練習してきたから扱いやすいし、それに…、」
そう、師匠達からもこの剣が良いと進められたんだ。
魔術の練習中だった。
「レン、もうすぐお別れだな」
「リクドウさん、長い間お世話になりました。
まあ、連休の時はまた帰ってきますよ」
「それでそれで、レン、剣は持っていくのか」
「シュントウさん、どうしようか悩んでいるんです。
この剣も僕が小さい時から持っていたものだから、何だか手放したくないんです。
だけど、今、王都に行けば新しい剣が沢山あるはずだと、父さんとクリスさんが言うのです」
「レンくん、確かに今は色んな武器が有るかも知れないけど、昔みたいな職人が少なくなって、本当の剣を打つ人がすくなっているわ」
「本当の剣ですか、ヒメホタルさん」
「ええ、だからレンくんには形に騙されないで欲しいの、この剣は良い剣よ。
だから大切にしなさい。
そしたら剣もきっと答えてくれるわよ」
そんな話をしていたが師匠達の事は内緒だから言えない。
「僕と一緒に育った剣だから大切にしたいんです」
「レン、お前が決めることだ。
好きにしろ」
剣の練習を終え、最後の夕食を家族で取る。
今日の夕食は今までで一番豪華な食事だった。
僕が取ってきた魚、貝、サザエ等が並び、島民でも滅多に食べない牛肉の特大ステーキがあった。
家畜をする場所が無いため数が少なく、豚や牛はとても貴重な物だった。
僕の目の前に置かれたステーキから『ジュジュ』と音をたてとても香ばしい匂いがしていた。
滅多に食べられない食材が目の前に、思わずヨダレが出そうになる。
「それでは頂こうか」
「頂きます」
僕は一番最初にステーキにかぶりついた。
やはり魚と違って牛肉はとてもジューシーで、一口食べた瞬間、頬っぺたが落ちそうになる。
こんな美味しい物が世界には沢山有るのだろうなと思ってしまう。
浮かんでくる顔が友達のセナの顔だった。
トレジャーハンターになって世界中にあるお宝を探して一攫千金を狙うことと、世界にある美味しい食べ物を食べ回る事だと言っていた。
こんな美味しい食べ物や料理が有るなら、一緒に世界を旅しても良いかなと思ってしまう。
そんな事を考えながら食事をしていたら、母さんが突然、涙をこぼし泣き出してしまった。
「ニス」
「ごめんね、レン、私が…、」
「母さん、泣かないで。これは僕が決めた事だから別に母さんの所為ではないから」
育成学校に行く事になったのはいろいろ事情があった。
一番反対されるのは母さんだろうと思っていたが、やはり話すと母さんは反対した。
何とか説得しようと何度も話をしたが、その度に逆に説教を食らって話を反らされていた。
ある日、僕に妹が出来たらしく、僕は大喜びをしていた。
だって友達には、兄弟がいるのに僕だけ居なかった。
兄弟ってどんなものか友達に聞いて想像していた。
可愛いだろうな、ちゃんと僕になついてくれるだろうか、僕の心は踊っていたが両親は深刻そうに悩んでいた。
「ごめんなさい、レン」
「どうしたの、母さん」
母さんは泣くばかりで話が出来ない状態だった。
そこで父さんが横から話を始めた。
「レン、実は家には二人を養っていけるほど預金が無いんだ。
見ての通り、俺は足がなく不自由しているから働き口がないし、俺にはこの剣術しか脳がない、まだ街中だと道場を開いて稼ぐ事も出来るが、この島では剣術は必要ないからな。
小さな畑を耕しながら自給自足で、騎士団を止めた時の退職金でほそぼそと暮らしてきたが、二人となると今の畑では足りないから、もっと広げなければならないが、それだとレンを学校にやれず家事の手伝いをして、一生この島で暮らす事になるから…、母さんには悪いが俺はレンの夢を奪いたくないんだ。
だから、レン、自分の好きな道を進みなさい」
「ありがとう、父さん、母さん、僕は最初から騎士団に入りたいんだ。
父さんのような立派な騎士になりたいんだ。
だから、まず育成学校に行って、いろいろ学んで騎士団に入るんだ。
騎士団に入れば、育成学校にかかる金額が無料になるから、父さん達に負担はかけなくて良いからね」
「別に騎士団とか危ない仕事で、無くても良いんじゃないか」
「それだと育成学校のお金を払わないといけなくなるし」
「返す方法はいろいろあるだろう」
「ん~、そうだね、取り敢えず学校で卒業するまでには決めるから」
「無理はするなよ。
死んでしまったら、どうしようもないからな。
何時でも帰ってきていいからな」
「ありがとう、父さん、そして母さん」
そして島で最後の夜を迎えていた。
島で起きたいろいろな事を思い出し、島の思い出を頭の片隅に記憶していた。
結局、師匠達の事、何も分からなかったな。
島の風景、島の人々、顔が一人ずつ浮かび名前は全員知っていた。
友達とも別れてしまうな。
親友の三人とは、一緒に明日の船で育成学校に行く予定になっている。
父さん、母さん、そしてこの島と別れるのは寂しい気持ちもするが、またきっと戻ってくる。
そう誓いながら眠りについた。
次の朝、最後の挨拶に師匠達に会いに行ったが、師匠達はいつもの場所に居なかった。
普段なら僕がいつ来ても、師匠達は待ち構えているのに今日に限って姿が見えなかった。
『最後に会いたかったな』
そう思いながら自宅へと戻った。
「レン、何処行っていたの、早くしないと船に遅れるわよ」
「大丈夫だよ。船が着いてからも荷物を降ろしたり積んだりするから、出発は昼くらいになるはずだから」
「そう言って、島の学校みたいに遅刻しないようにね」
「分かってるよ。流石に船に遅れたら1ヶ月待たないといけなくなるからね」
「分かっているなら早くご飯食べて支度しなさい」
「は~い」
そうこれが本当の最後の食事、山羊のミルクに自家製の焼きたてで発酵してない所為か固いパン、そして目玉焼きに山で採ってきた山菜のサラダ、簡単な朝食だけど僕にとってはいつもの当たり前の食事、もう味わえなくなると思うと何故か寂しくなる。
食事を終え、父さんのお古の剣と大きな荷物を構え、部屋を一通り見回し家を出た。
そこには、父さん、母さん、そしてクリスさんがいた。
「忘れ物はないか、レン」
「はい」
「気をつけて行くのよ、レン」
「はい」
「レンくんの剣術は、かなり強くなっているから、直ぐに学校でも有名人になるでしょう」
「そんな事はないですよ、クリスさん」
「井の中の蛙という言葉知っているか、レン。
学校に行ったら、他に強い奴は沢山いるからな」
「はい、分かってます。
それじゃ、行ってきます。
父さん、母さん、クリスさん」
「気をつけてな」
「ちゃんと帰ってくるのよ」
「強くなって戻ってくるのを楽しみに待ってるから」
「はい、行ってきます」
僕は父さん、母さん、クリスさんを見て、そして自宅を眺めていた。
船の汽笛の音が聞こえてきた。
『ブオー』
今、港に船が着いたのだろうか。
僕は最後に家族に手を振り、港に続く小道を駆け降りて行った。
港に着くと、そこは人々でごった返していた。
港には船で運ばれてきた荷物が沢山あり、定期船と一緒に付いて回っている出店が港に広げられており、それを目当てに多くの人が集まっていた。
島では手に入らない日用品や、食材、調味料を買うためだ。
港には長さ50メートルほどの大きな帆船が停泊していた。
人々の間をすり抜けて、僕は待ち合わせしている人を探していたが、島中の人々が集まっていた為になかなか探しきれずにいた。
その時、後ろから声をかける人がいた。
「レ~ン」
声のする方を見ると、そこには親友のセナとアイリがいた。
「遅いぞ、レン」
「そうよ、レン、今日遅刻したら1ヶ月待たないといけなくなるわよ」
「分かってるよ」
「いよいよだな、レン」
「そうだな」
「楽しみで昨日はなかなか眠れなかったわ」
「これから俺達の冒険が始まるんだ」
「大袈裟だな、セナ、まだ学校にも行ってないのに」
「なに言っている。
この島から出ることなんてないだろう。
だから、これからが新たな冒険じゃないか」
「そうだな、島から出たことないし」
「そうね、そういう事ならここからがスタートになるわね」
「それじゃ、俺はトレジャーハンターを目指して」
「僕は騎士を目指して」
「私はシスターを目指して」
三人で右手を重ねて想いを胸に誓いを立てた。
そして船の汽笛で二回鳴らされる。
『ブオー、ブオー』
乗船の合図だ。
僕達は、ここから乗る人達と一緒に船へと乗り込む。
といっても、ここから乗り込む人は僕達を入れて8人しか居なかった。
甲板には騎士達が武器の手入れをしていた。
船には騎士が33人、船員、コックや、船長等入れて46人、移動店員が5名、乗客が全部で28名乗っていた。
船は三本マストの帆船で、船の両側面に魔導砲門が二基ずつ、魔導高角砲が二基、魔導大型砲門が二基積んでいた。
普通の魔物なら、この船の装備で撃退出来るはずだ。
船に乗るとまず船室に案内された。
小さな小部屋で四人一部屋、寝るだけでハンモックが左右に二個ずつ付いていた。
僕達は三人で一部屋になったが、一人は女性だけど良いのだろうかと気にしていたら、アイリが、
「幼なじみが変な事するわけないでしょ」
と笑いながら答えていたので、仕様がないので同じ部屋で左側のハンモックをアイリが使って、右側の上のハンモックを僕が下のハンモックをセナが使う事になった。
それから、食堂、トイレを案内され、他は危険なので行かないようにと注意された。
そして船の汽笛が三回鳴らされる。
『ブオー、ブオー、ブオー』
いよいよ出発の合図だ。
僕達は急いで甲板へと上がっていった。
甲板には騎士達が、島に向かって敬礼を行なっていた。
船員達は、忙しそうに右往左往していた。
港を見ると島の人々に混じって、父さん、母さん、クリスさんの姿が見えた。
こちらに向かって手を振っていたので、僕も負けじと両手で手を振り返す。
セナ、アイリの両親も来ていたようで手を振っていた。
アイリは女性らしく泣きながら、両親に別れを告げていた。
僕も暫く会えなくなるので見えなくなるまで手を振っていた。
港を出て、
人が豆粒のようにしか見えなくなっていた。
「ああ、これで島とも暫くお別れか、故郷を出るなんて寂しい物だな」
「また、いずれ戻ってくるさ」
「そうね、また三人で戻れたら良いわね」
そんな話をしながら、離れて行く港を暫く見ていた。
港を出て船が島の横を通り過ぎようとした時、浅瀬の岩場に師匠達がいるのを見つけ手を振った。
向こうも気付いたらしく手を振っていたが、リクドウさんとシュントウさんの姿はあったが、ヒメホタルさんの姿がなかった。
どうしたのか気になったが、リクドウさんとシュントウさんに最後に会えたから良かった。
「おい、レン、誰に手を振っているんだ」
「え」
師匠の事は秘密になっていたので、師匠達に手を振っていたなど言えないから、
「最後に島にお別れを言っていたんだ」
「そうか」
そして僕達の冒険は、ここから始まった。




