第72話
「あ、藤田さん、悪いけどゴミ捨てお願いできる?」
掃除時間、私はクラスの子にゴミ捨てを頼まれたのでゴミ捨て場まで足を運んだ。
教室掃除で一番嫌いかもしれない、ゴミ捨て。
別にやってもいいけど積極的にはやりたくない。触りたくない。
でも教室掃除の人たちで手が空いていたのは私だけだし仕方ない。
一応「分かった」と何でもないように言ったが、内心嫌だった。
ぐちぐちと表に出さない程度に心の中で悪態をついていると、気が付けばゴミ捨て場までやってきていた。
さっさと捨てて帰ろう。
そう思って手に持っていた袋を一メートル先にあったゴミ捨て場にぽいっと投げ入れた。
きちんと辺りを見回して、誰もいないことを確認したから投げ入れても問題ない。
くるりと来た道を戻ろうとしたら、「いいんです!!」という声がした。
誰もいないはずだったのに、誰かの声がして肩が飛び跳ねた。
見られて怒られることでもないが、ゴミを放り投げている場面を見られたとなると後ろめたさがある。
声の主を確認するように、そろっと近づいて声がした方まで歩いてこっそり覗いてみる。
「空先輩!」
またこの展開か。
びっくりして損した。
今朝の片想い宣言をした住之江さんである。そして彼女は空とご対面していらっしゃる。
「好きです!本当に好きなんです!」
なんという大胆な告白。しかもゴミ捨て場のすぐ横で。
もっとこう、偏見だけど金持ちの子ってロマンを大切にするんじゃないのか。
例えば、バラの咲く園で告白とか。湖のほとりで告白とか。夕日で海が輝いているシーンで告白とか。そういう綺麗な場面で告白したいものだろう。
しかしまさかゴミ捨て場の隣でとは、思いもよらなかった。
「えっと」
「藤田先輩のことが好きですか?」
「まあ、幼馴染だしね。それと君、勘違いだったら申し訳ないけど話したことあったっけ?」
「ないです!」
「だよね」
「でも好きです!」
「そ、そう」
「藤田先輩が好きでもいいんです、この気持ちを伝えたかっただけなので!」
「へ、へえ」
空、たじたじだ。
それにしてもなんだか異様な二人だ。
一方は美形でなんだか金の匂いがする男。金の匂いのする理由としては、金をかけていそうなさらさらな髪の毛。綺麗にアイロンがかけられている制服。あまり汚れていない靴。そしてあの美肌を保つためには、なかなかの金が必要だと思うからだ。
そして一方は、どちらかというとお嬢様の雰囲気はあるが、顔立ちはまあまあな女。言ってしまえば、空の元カノの方がまだ顔は可愛かったような気がする。
「ありがとう。あ、俺、この後先生に呼ばれてるから、もう行くね」
「はい!告白を聞いてくださってありがとうございます!」
本当に告白を聞いてもらいたかっただけのようで、嬉しそうに手を振って空を見送っていた。
今時あんな子がいるのか。それともただの憧れを恋愛と勘違いしているのか。
好きになったら誰にもとられたくないし、自分のものにしてやろうという気になるはずだ。住之江さんにはそんなものが微塵もないのか。
あるいは、そこまで空を好きではないとか。
まあ、どっちでもいいや。
本来の目的であった、ゴミを捨てることもできたし、教室に戻ろう。
そう思って、その場を立ち去ろうとしたら、私がここにいることを知っていたかのように住之江さんがこちらを見た。
「藤田先輩」
ぎょっとしたが、そういえばゴミを放り投げてしまったため、そのときの音が聞こえたのかもしれない。ゴミを捨てた誰かがいることくらい分かっていたというわけか。
しかし、空に告白をする現場に私が居合わせたと知った今、私はきっと彼女の中であまり良い位置にいないだろう。
告白した相手の幼馴染が見ていた、なんて偶然にしてはできすぎている。
いや、まあ、今までだって数々の偶然に居合わせたわけなんだけど。
なんだろうか。私と空は修羅場に遭遇しないと死ぬ病気なのか。
「お恥ずかしいです、まさか見られていたなんて」
それはどういう意味だ。
喧嘩を売っているのか。嫌味のつもりだろうか。
それとも、本心で他意はないのか。
「こっちこそ、なんかごめん」
ゴミ捨てに来たら偶然見てしまった、と言ってもなんだか言い訳っぽい。
それに、理由を言うのも面倒だ。
見たのは事実だが、こんなところで告白をする方が悪い。
一応、他の目がある。ゴミ捨てなんて誰でもするし、バレたくなかったなら体育館裏など、人気がないとことがもっと他にあったはずだ。
だから私が申し訳なく思うのは違うのである。でも取り合えず謝っておくのが世間一般の常識とやらだ。




