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私と、幼馴染と、  作者: 円寺える


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第55話

今月中に三者面談が行われる。

私は国語の教員になると書いて提出した紙を先生に見せられ「三者面談ではこれについての話をするぞ」と、確認をされた。およそ二分も喋っていない。このためだけにクラス全員を呼び出すのだから迷惑極まりない。休憩時間にされるならともかく、放課後にされる側の身にもなってほしい。何が楽しくて放課後、自分の番が来るまで待たなければならないんだ。しかも私は最後の番を獲得してしまった。担任とは特に仲が良いわけでもないし、何なら二人で話をしたこともない。そんな人間が三者面談で何を話すというのだろう。教師になれる確率や、この大学に行けば近道だとか、パンフレットやパソコンを見れば載ってある情報をペラペラ話すだけの時間は、果たして必要なのか。


私は、なる予定はない国語教師と書いたが空は何と書いたのかそういえば聞いていない。

偏差値の高い大学へ行くというのはうっすら聞いたことがある。しかし具体的な進路は聞いていないような...。


なる予定はさらさらないが、この辺りで国語教師になれる確率が高い大学といえば、かの女子大学だ。あそこは就職率も良く、教師や薬剤師、公務員など様々な職種を数多く輩出している。全国的にも有名だ。

しかし空と同じ大学へ行くなら女子大学では無理な話。その大学へ行く気はないし、空の行く大学を聞いてからそれを三者面談で言う方がいいな。三者面談はまた何度も行われるのだから今のうちに行く先を示しておいた方が、今後は早く終わるだろう。


鞄を持って職員室に行っていたので、そのまま空の教室へ直行する。

扉を開けて中を見渡すと誰もいない。空もいない、トイレにでも行ったのか。

空の鞄は机の上に置いてあるので多分トイレだ。

教室に入り、空の机の前まで行くと鞄の横にノートの切れ端が目に入った。

どうやら置手紙のようで、右手で切れ端を持つ。


「一番奥の空き教室に行ってきます...?」


この階には空き教室が三つある。一つはたまに授業で使用する。残りの二つは以前までホームルームとして使用していた教室。少子化に伴い以前より減少した生徒数では、もう不要になった教室だ。奥の空き教室といえば不要になったうちの一つだ。

そこに行ったらしい。何のために、そんなところへ。可能性としては告白をされに行った、が高い。

待っていようと思ったが早くゲームがしたい。本来ならさっさと帰っているはずなのに面談の段取りのために待たされて、時間を無駄にしたというのに。

様子を見に行って、長くなりそうだったら間に入ろう。そうしよう。


そうと決まれば鞄を置き、ノートの切れ端を置き、さっさと教室を出た。

スタスタと普段より速足で空き教室まで行くと中の様子を窓越しにチラッと見る。

空がこちらに背を向けていたので咄嗟に隠れる。一瞬見えた相手の制服はスカートだったので恐らく告白だろう。危ない、女の子と目が合ったら気まずいとこだった。私だって鬼ではないので告白がさっさと終わるなら待つ。でも長ければ間に入る。


「あんた、本当に覚えてないの?」


声と口調で察した。瀬戸先輩だ。

彼女は空に興味があるようだ、まさかこんな空き教室で二人きりになるなんて。

耳を大きくしながら中の声を静かに聞く。


「俺と先輩、面識ないですよね」

「そうね、あたしとあんたは面識がないわ」

「なら、何のことを言ってるんですか?呑み込めないのですが」

「ハッ、本当に最低な野郎ね。」


怖いな。この先輩絶対モテない。顔は可愛いけど性格がキツすぎる。


「教えてやる義理はないけど、仕方ないから教えてやるわ。埒が明かないしね」


うわぁ、腹立つ。

この人どんな相手でもこういう感じで喋るんだろうか。嫌われているんじゃないの。

しかも三年生なのに、受験勉強しなくていいの。空に構っている時間なんてないのでは。


「この前あたしともう一人の子に街中で会ったでしょう」

「内海先輩、ですか」

「そうよ、その内海茜よ。本当に覚えてないのね」


どうやら瀬戸先輩が思い出してほしかったのは内海先輩だったらしい。

内海先輩といえばふわふわしていて、大人しそうな優しそうな人だった。瀬戸先輩とは正反対のタイプ。


「丁度四か月くらい前、あんたに告白して振られたのよ!!」


声を荒げる先輩。空を嫌いだった理由は内海先輩が振られたから、と。そこまで内海先輩のことを思っているなんてかなり仲が良いみたいだ、親友かな。

親友を振った男にここまでするなんて、美しい友情だ。


「蒼井が好きだからと勇気を出して告白したけど、振られたって泣いてたわ!そこまでは別にいいわよ!!問題はその後!!」


人がいなくてよかったと思う。瀬戸先輩の大声は教室を越えて、廊下にすごく響いている。

もうすぐ終わるかな。


「勇気出して告白したにも関わらずあんたはこれっぽっちも茜のことを覚えてなかった!どういうことよ!ふざけんじゃないわ!」


ヒステリックに叫ぶ先輩にため息を吐く。

自分が空の立場になったとき、お前は覚えているのか。

物心ついたころには女子に好かれ、告白なんて何回されたか数えきれない。

親しくない人間から愛の告白をされたところで記憶の片隅にも残らない。それを理解できているのか、いや、できていないな。だってこの先輩、可愛いけれどその性格故に告白なんてされそうにないし、男子に好意を持たれたところで告白をする勇気ある奴はいないだろう。酷い言葉で罵倒されて終わりだということが予想つくから。


親友を大切に思う気持ちは素晴らしい。

しかし親友のことばかり気にかけすぎて他人の気持ちが分からなくなってしまうのは如何なものか。


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