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私と、幼馴染と、  作者: 円寺える


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第48話

少し前に、俺と優の周りをうろちょろする女が現れた。

ちょろちょろする奴は今までにもいたので、今回も特別気に留めていなかった。


ただ、やりたくはない勉強会なるものを流れで始めたところ、そいつは俺を押しのけて前に前に出る。代わってくれるものなら代わってほしいが、生憎とその女、福永雅は評判が悪いらしく、皆の反応を見たら代わる選択肢なんてなかった。俺が勉強を教えるだけの会だと思っていたが、いつしか福永を抑える役目を担っていた。意味が分からない、ここは保育園なのか。少しは自重してほしいものだが、その女には「私が皆に勉強を教えてあげないと」という使命感があるようで、ひたすら前に前に出ていた。その場にいた全員がドン引きしていたのは空気で察した。

本人は気づいていないようで、勉強会の最中もクスクス笑われていたのを訳も分からず合わせて笑っていた。自分の説明のどこかが面白かったのだろう、とでも思っていたのだ。悪口を言われていることすら気づかずに、教師を気取って教える福永を見てさらに笑いは増えていった。


俺だって、優以外の人間に時間を割きたくないが、蒼井空のイメージがある。皆の蒼井空のイメージはとても大事で何かあったとき非常に役立つ。皆の蒼井空を壊さずに福永と接していたがどうも俺とこの女は馬が合わない。福永が喋るだけでイライラする。嫌いなタイプは山ほどあるがこいつは抜き出て嫌いだ。

それでも笑顔でやり通し、ストレスが溜まっている所へまたもや大きなストレスを与えられた。


勉強会が終わり、皆が帰った後だった。


どこぞの知らない女に告白のため呼び出され仕方なく空き教室まで行ったその帰り。教室では優が待っているのでなるべく早く足を進めていた。

優の待つ教室まであと少しの所で声が聞こえた。


「優ちゃんさ、絶対空くんのこと好きだよね」


それは嫌というほど聞いた声。高くなく低くなく、でもどこかねっとりしているような喋り方。常に鼻声であるその声を聞き、足を止めた。

声の主は福永雅であった。そして話の内容はどうやら俺と優についてらしい。

気になって扉の隙間から中を覗くと、福永の周りに数人の女子生徒がいた。見覚えのない生徒たちだ。容姿をよく見ると、福永と似た感じの顔である。化粧っ気のないそれは高校生らしさを感じなくはないが、お世辞にも可愛いとは言い難い。細い目や大きな顔、学年のヒエラルキーで言うなら最下層にいそうな女たちだった。


そのブス面で俺と優を語るのか、と鼻で笑いたい。


「だって優ちゃんさぁ、ずっと空くんの方を見てるんだよ。絶対好きでしょー」

「幼馴染なんだよね?」

「そうそう、でも空くんにその気はないよねー。だってあんなイケメンが優ちゃんみたいな子を好きになるかな。あ、別に優ちゃんを否定してるとかじゃなくて、わたしから見た二人のことだからね」

「あー、確かにそうかも」

「それでも優ちゃんが空くんのこと好きなら応援するなぁ」


その顔で言うのか。

笑いそうになる。


優はどこまで気づいているのか知らないが、この女は俺のことが好きだ。恋愛対象としてもただの生徒としても。

あわよくば自分のことを好きになってくれるかもしれないという、淡い淡い期待を抱いていることを知っている。勉強会のときだって、前に出るのは俺にアピールをしたいからだろう。私はこんなにできる人間なんだ、私は蒼井空に釣り合うんだ、そう主張しているのが伝わってくる。自分の顔を鏡で見てから物を言え。お前と俺の一体どこが釣り合っているんだ、俺とお前じゃ住む星が違う程の差がある。月とすっぽんという言葉ですら足りないのだ。


優ちゃんを応援する、と言ったか。

応援して優に告白させ、振られたところで選手交代といくのだろう。

優ちゃんは振られちゃったね、このまま空くんの幼馴染で横にいるのは気まずいでしょ、じゃあ今度は私が空くんの隣にいるよ。と、こんな感じに持っていく。どこにでもいる女だ。


応援してくれるのは有難い。優が俺のために頬を赤く染めて恥ずかしそうに「好き」と呟く姿を想像するとそれだけで鼻血ものだ。もじもじ袖をいじりながら下を向く優、俺が黙っていると不安になり上目遣いで涙を浮かべる優。可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い。


福永のことなんぞ忘れ、優が俺に告白をしてくれたならという妄想に浸っていると次の言葉で現実に戻される。


「優ちゃん、消えてくれないかなー」


多分そいつは冗談で言ったのだろう。周りの人間も楽しそうに笑っている。

優ちゃんがいなかったら空くんの隣空いてたのにねー、なんて笑うそいつに殺意が沸いた。

分かっている、ただの冗談だ。本気で言っていないのは百も承知である。空くんの隣が空いていればという仮定の話がしたいのだろう、分かっている。分かっているが、それでも俺は殺意の方が勝ってしまった。優をこの世からいないものとして扱いたいのか。俺から優を消すのか、俺から優を奪うのか。俺の優をなかったことにしたいのか。俺の優を殺したいのか。俺の俺の俺の俺の俺の俺の俺の俺の。

その感情は止まらない。






あぁ、こいつは散らさないと。


無意識に冷めた視線を送っていた。

その後はそこに留まることなく一目散に優の待つ教室へ向かった。


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