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星霊少女と妖精の騎士~Lost chronicle~   作者: すずしろ
祭りの始まりとその終わり
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星霊祭

 星霊祭。それはアルドラで執り行われる星霊達に感謝を伝える祭典……だったのだが、今では年に一度の国を挙げての大きな祭りとなった。勿論、本来の意味で星霊祭を行う人たちもいる事は間違いないが、星霊の存在を信じる人間が少なくなった今、それを行う人間はほとんどいない。

 星霊祭は7日かけて行われるが、学院で出し物が行われるのは3日目からの3日間。最終日は王族がここアルドラを訪れて式典を行う為、学院祭もその前日までの日程になっている。

 今日は星霊祭1日目。今日と明日の2日で出し物の用意を用意しなければならない。ただ、その分学院での授業は行われないので学生たちにとっては嬉しい事かもしれない。


「星霊祭って、シルフィ達にも関係あるの?」

「んー、多分あるかな。毎年ちょっとの間だけ使える力が増えてた時期があったし」

「お嬢様達にとっては私達は姿も見えていますから一人の人のように接して頂けていますが、私達霊姫は概念的な存在なので、人に認知される事によって使える力も増すんです。なので、星霊祭のような私達星霊の事を意識する出来事があれば多少は力が増すこともあると思います」

「そうなんだ……」

「はい。とは言っても大きな力を使う事が無いに等しいので誤差みたいなものですね」


 ルクスリアはそう言って部屋のカーテンを開く。朝日が差し込み、絶好の祭り日和であることを感じさせた。


「今日はどうするの?」

「うーん……とりあえず探索部に顔を出してみようかなって、やれることがあればお手伝いしたいなって思ってるんだけど……」

「それなら、私も一緒に行くわ」


 エリーはシエルの言葉に「わかった」と頷いて、準備をしてから部室へ向かうことにした。

 部室を訪れると、普段は姿を見ない生徒達がせわしなく動いて星霊祭での出し物の準備をしている。邪魔をしないように隙間を縫うようにして通り抜けながら知っている人がいないか探していると、


「シエル達、どうしたんだい? 見ての通り今日は普段来ていないような人間も総動員で用意をしているから大忙しだよ」

「わ、私達でなにか手伝えることないかなって思って来たんですけど……」


 シエルがそう聞くとアスティアは「う~む……」と考え始める。背後では作業音と共に誰かの叫び声やら怒号が飛び交い始めてかなりピリピリした空間になっていた。


「普段なら君たちに頼んでも余るほどの要件が溜まっているんだけどね……今日はこれだけの人数が集まってくれているから、問題は無いかな。だから、星霊祭を回ってくるといい」

「……わかりました。じゃあ、みんなで行こっか」


 シエルはアスティアにぺこりとお辞儀をして部室を離れる。学院から離れて町へと繰り出すと、町全体が星霊祭の準備の為に飾りを付けていたり、既に祭り用の特別な品を売っている店がちらほらと見受けられた。


「すごいね……私達がいた村でも星霊祭はやってたけど、こんなに大規模にはやらなかったよ?」

「私達の育ったところは山奥だし相当小さな村だから仕方ないわよ。ここは王都だし、これくらい大規模でもおかしくないんじゃないかしら」


 そんな話をしながら町中を歩いて、祭りの前の雰囲気を感じているといつの間にかギルドの前までたどり着いていた。


「あ、シエルちゃん達だ~やっほー」


 横から聞こえた聞き覚えのある声がしたため振り向くと、銀色の髪を揺らして両手に串焼きや飲み物を持ったレイラの姿があった。


「レイラさん。久しぶりです」

「ほんとだね、学院は楽しい?」


 レイラの質問にシエルは、はい。と短く答えると「なら、いいんだ」と微笑む。


「それで、今日は何しに来たの?」

「えっと、特に用事は無いんですけど歩いてたらここに来ちゃったっていうか……」

「そうだったんだ。じゃあ折角だし私と一緒に星霊祭回らない?」

「いいんですか? 依頼とかって……」


 シエルがそう聞くと、レイラはクスっと笑う。


「大丈夫だよ、私は星霊祭の期間は依頼を受けないようにしてるから。あ、良かったらこれ食べる?」


 レイラはそう言って新品の串焼きを小さく振ってアピールする。


「えと、じゃあ……いただきます」


 シエルはレイラから串を受け取って、それにぱくりと口に運ぶ。まだ作り立てだったのか、齧ったと同時に口の中に肉汁がいっぱいに広がる。


「っ! 美味しいです!」

「でしょでしょ~? この串焼きかなり有名なお店の屋台の物なんだ~」


 匂いに釣られてルリがピコピコとしっぽを振りながらシエルの食べている串焼きを見ていると、レイラはルリにも同じ串焼きを渡すと耳をピコピコさせて「ありがとうございますっ」と礼を言ってかぶりついた。


「お、美味しいでふ……!!」

「ふっふっふ~沢山買ってて良かった~」


 レイラは得意げに笑いながら自分も同じものを食べ始めた。近くのベンチに座って邪魔にならない程度に買ってきた物をレイラが広げて「食べて食べて~」とシエル達に振舞う。

 押しが強いレイラに根負けしてエリー達も食べ始める。学院の中でも噂に聞く有名なお菓子から、普段買わないような変わり種の食べ物、不味くは無いのだが形容しがたい味のする焼き物等、かなりの品数がベンチに広げられた。


「頂いてから言うのもどうかと思うんですけど……これって、リューベックさんと一緒に食べる物じゃなかったんですか?」


 エリーのその一言に、あれこれと自由につまんでいたルリとクオンが手を止める。


「うーん……別に構わないよ? リュー君は町中の警備任務を受けてるからギルドにいつ戻って来るか分からないし、私1人で食べれなかったらギルドの人たちにおすそ分けするつもりだったし」

「ならいいんですけど……」


 レイラの言葉にエリーが安心すると「あ、そう言えば」とレイラが再び口を開く。


「シエルちゃん達って、星霊祭についてどれくらい知ってるの? 学院の先輩としてテストしてあげる!」


 レイラはシエル達をびしっと指さしてそう言ってくる。シエルは少し考えてから、


「えっと……星霊祭は昔、魔法を作り出した存在とされていた星霊に対して感謝の気持ちを伝える為の祭り……だったはずです」

「そうだね、それも正解……というか、今では一般化した考えだね。うん、テストなら丸がもらえるかな」

「……他の意味もあるんですか?」


 エリーがそう聞くとレイラは得意げに、


「他の意味って言うより、昔の文献に書かれていた星霊祭に似たような儀式は、世界を作り出した6体の星霊を崇める為に行われた儀式って見たの。実は星霊祭の順番にも正しい順番があるんだ。それは2人とも知ってるかな?」

「そうなの?」

「私も知らないわ……」


 シエルとエリーがそう言うのを聞いて、レイラが自慢げに答えを教えようとした時、


「えっと……『闇より始まり、火を熾し、大地を産み、海を創る。風が巡り、地を照らす光を以てこれを世界とする』だったかな」


 ルリがポツリと漏らす。レイラはそれを聞いて驚いた表情をした。


「そう、だね。正解だけど……よく知ってたね?」

「昔教えてくれた人がいたんです。覚えてたのはたまたまだったけど……」

「そうなんだ。じゃあ、その人は研究者とかだったのかな……って言うのは置いといて、今回の星霊祭はその昔の文献になぞって行われるみたいなんだ。なんでかはよく分かんないけどね」


 レイラはそう言って残っていた串焼きを食べ終えると立ち上がって、


「今日、シエルちゃん達は特に用事は無いんだよね?」


 レイラの質問にシエルはこくりと頷く。


「それじゃあ一緒に行きたいところがあるの! どうかな?」

「じゃあ……お願いします」

「うんうん、それじゃあ決定っ」


 レイラは楽しそうに言って、シエル達を連れていく。そして、しばらく歩いた後に辿り着いたのはアルドラの中央広場。普段は人で賑わっている場所なのだが、今日は少し雰囲気が違った。そこには簡易的な祭壇のようなものが作られていて、周りには騎士が何人かで守っている。


「行きたいところって、ここですか?」

「ここも見ておきたかったところの一つかな。シエルちゃんなら見たら分かるんじゃないかな?」


 レイラの言葉に「私なら……?」と首をかしげながらも祭壇の方を注視してみると──


「これは……魔力、ですか?」

「うん。私には薄くしか感じられないけど、シエルちゃんなら分かるんじゃないかなって」

「私、レイラさんに魔力が見える事って言ってたっけ……?」


 エリーが不思議そうに聞くと、レイラは首を横に振って


「ううん、聞いてないけどシエルちゃんって物の見方が違うって言うか……違う視点から見てる……? っていう感じかな? って感じて、それで前に会った人で魔力で物を見てる人を知ってたから、それかなって思ったの」

「そ、そうだったんですね……」


 レイラが「納得してくれたかな?」と警戒させないような声音で言うと、こくりとシエルが首を縦に振る。


「嬢ちゃんたち、ここは星霊祭の開会式に使うからこれ以上は近づかないでくれよ?」


 祭壇の近くで話していると、兵士がやってきて私達にそう釘を刺してきた。レイラは「分かったわ」と兵士に返事をして、別の場所へと向かう。

 レイラについていった先にあった場所は、アルドラに造られている大聖堂だった。大聖堂の中に入ると、祭りの雰囲気が一気に遠ざかり静かで清浄な雰囲気に満たされる。


「ここって、大聖堂ですよね……?」

「うん。シエルちゃんは普段来たことある?」

「無いですね……」

「えっと、リュー君が普段の聖堂と雰囲気が違うって言ってたの。私には分からないけれど、シエルちゃんなら何か分かるかなって思って……えっと、分からなくても全然大丈夫だからね? でも、私達には見えないものが何か見えたら教えて欲しいな……?」


 レイラが申し訳なさそうに言うと、シエルは「分かりました」と困った風に笑って、意識を集中させる。

 すると、街中で見た祭壇よりも多くの魔力が壇上にある女神の像に集まっていた。像の上には小さな星霊が何匹かいて、踊るように飛んでいた。


「えっと……さっき一緒に見に行った祭壇よりも多くの魔力が集まってました」


 星霊の事は話してもいいのかと迷っていると、ルクスリアがふるふると首を横に振るのが見えた。


「なるほど……リュー君って昔から凄く勘が鋭いから、何かがあるのかもしれないわね……わざわざ付き合ってくれてありがとね、シエルちゃん達。これ、お礼にあげるね」


 そう言ってレイラが渡してきたのは、薄く虹色に光を反射する鱗だった。


「これは私の故郷に伝わるお守りだよ。何か悪いことが起きる時に、身代わりになってくれるって伝えられてるんだ」

「ありがとうございます、レイラさん」


 皆にもどうぞ、とレイラはエリー達にも同じものを渡すと「早く帰らなきゃだめだよ~?」と言って大聖堂を後にした。

 シエル達も大聖堂を後にして、学院へと戻っていくのだった。

今回もお読みいただきありがとうございます!


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