特訓、始めます!-2
先に仕掛けたのはレギスタ達、三者三様の武器を使ってシエル達に攻撃をしかける。その攻撃にシエル達は剣で、魔法で、体術で応じる。
数分の打ち合いの後立っていたのはレギスタ達で、シエル達は地面に倒れこんで肩で息をしていた。
「お疲れ様。その歳にしては随分戦えている方だと思うわよ」
ミリアはシエルを上から覗き込むようにしながら言う。
「あ、ありがとうございます……」
「それにしても……目が見えないから魔力で見てるって本当なの?」
「はい。なので多分普通の人と見えて居る景色はほとんど一緒なんじゃないかなって思います」
「へぇ、私も似たような事は出来るけど、ずっとそんな事が出来るなんて貴女の魔力量って相当多かったりするのかしら」
ミリアは興味深そうにシエルの方を見る。シエルはそんな視線に気づいたのか困ったような表情をして、
「どう……でしょうか、そういう測定ってやったことが無いので……」
「そうなんだ、じゃあ今測ってみてもいい? 測定用の物くらい正確にはいかないけどね」
シエルはお願いします、と言ってミリアに測定を頼むとミリアはシエルの背中にペタリと手を当てる。そして、ミリアは目を閉じて意識を集中させる。そしてシエルの魔力を感じた瞬間──
「っ!?」
ばちん、と弾かれるようにミリアは背中に当てた手を放す。
「うっそでしょ……何よこの魔力量……」
「え、なにかまずかったですか……?」
「いや、まずくはないわ。むしろ凄すぎて腰が抜けちゃったってだけよ。シエルちゃんの魔力量は私じゃ測り切れないくらい多い……Sランクの魔法使いは間違いなく多いわ、正直それくらいしかわからないわね」
「そ、そんなに多いんですね……」
「まあ、目が見えないからってずっと探知魔法を使っていたら自然とそうなっちゃうのかしらね」
ミリアはそう言う。周りを見るとルリやクオンも同じようにラドルフとガルナからアドバイスを受け取っていた。エリーはというと、悔しそうにレギスタの方を見ていた。一対一で勝てなかったのがよっぽど悔しかったらしい。
それからも、休憩を交えつつ四人は日が暮れるまで模擬戦を続けた。
「さて、今日はこの辺で終わっとくか」
レギスタはそう言いながら満身創痍になった四人を見る。エリーだけはまだ余力を残しているといった感じだが、シエル達は立っているだけでもやっとという状態だった。
「全員やるべき事は多分教わったはずだと思うから、明日からはそれを重点的に特訓していくぞ」
シエル達はレギスタ達と別れた後は家に戻り簡単な食事を取り、汗と汚れを流した後に倒れこむようにして眠ってしまった。次の日の朝、シエルが起床して顔を洗っているとレギスタの魔力を感じる。顔を拭いてレギスタに挨拶をすると、
「おはよう。昨日の疲れは取れたか?」
「あ、あんまりかも……」
「はっはっは、休憩挟みながらとはいえずっと模擬戦をしてたからな。疲れが取れてなくても無理はないさ」
レギスタは笑いながらシエルの頭を撫でる。エリーの手と違う大きくごつごつとした男性の手で撫でられて少し驚くが、レギスタは軽く頭を撫でた後すぐに手を離した。
「さて、今日も昨日と同じで君たちの弱点部分の克服をしていこうと思う。朝食を食べたら昨日の特訓場所に集まってくれ。俺たちも後で向かうよ」
レギスタはじゃあな、と言ってその場を後にする。シエルは家の中に戻ってまだ眠っていたルリ達を起こすと全員で朝食の用意をする。
シエルがレギスタから聞いた話を朝食中にエリー達にも伝えると、ルリ達は朝食を取りながらこくりと首を縦に振って返事をする。
シエルはエリーの作ってくれたホットサンドを食べ終えると、家を出て昨日の特訓場所へと向かった。
「お、来たな。じゃあ昨日の続きから始めるか」
シエル達は昨日と同じように個人個人での特訓を始める。
「シエルちゃんは魔力で相手の位置とかを確認しているのよね?」
「そうですけど……」
シエルはミリアからの質問にそう答える。その声色は改めて確認を取ろうとしているようにも聞こえた。ミリアはシエルの答えを聞くと、鞘から剣を引き抜く。
「今私の持ってる武器、わかる?」
「持ってる武器……えっと、長剣ですか?」
「そうね、正解。今シエルちゃんは、私の魔力と武器に伝わっている魔力で今の私がどんな体勢で、どんな武器を持っているかを確かめてる──だったら、これならどう?」
次の瞬間、シエルの視界からミリアの姿が消える。エリー達の視界にはシエルの目の前で普通に立っているミリアが見えるのだが、魔力で見ているシエルにはその姿が消えているように見えた。
ミリアはシエルの背後にゆっくりとした足取りで回ると、ぽんっと肩を叩く。
「ふわぁっ!?」
「今、シエルちゃんには私の姿見えなかったでしょ?」
「は、はい……」
「今の技は『陰身』って言ってね、魔力を完全に絶って行動できる技。魔力に反応する魔物とか、トラップとかを無力化する技なんだけど……シエルちゃんにとっては全く姿が見えなくなるから危険、かもね」
「その陰身って……他の人も出来る技、なんですか?」
シエルの質問にミリアはうーん……と少し考えてから口を開く。
「凄く特殊な技ってわけでもないから、使える人はそれなりにいると思うわ。冒険者だったり、それこそ暗殺者だったりね」
シエルはその言葉にピクリと反応する。ミリアは不安がるシエルを安心させるように軽く頭を撫でて安心させる。
「ま、安心して。シエルちゃんが陰身に対応できるように私がみっちり特訓してあげるから」
「は、はい……!」
「というわけで、私はこれから陰身を使ってシエルちゃんに攻撃していくからシエルちゃんは私の気配を読んで防ぐか回避するかしてね」
ミリアがあまりにも簡単にそう言うので、シエルは一瞬その意味を理解することが出来なかった。少し遅れてシエルの脳がその言葉の意味を理解すると、シエルはふぇえ!? と声を上げる。
「そ、そんなの無理ですよ!」
「今は無理でもやり続けてれば何とかなるわよ」
ミリアのその言葉にシエルは複雑な表情をしながらも、わ……わかりましたと返事をする。
「それじゃあいくわよ」
ミリアがそう言うと、シエルの視界からミリアの姿が消える。どこから来るかわからない攻撃に身構えていると背後からポコッと軽く叩かれる感覚があった。
「ひゃんっ」
「はいアウト。まだまだ行くわよ」
ミリアは間髪を入れずに再び姿を消し、シエルは急いで構え直して次の攻撃に備えた。いつ来るかわからない攻撃を待つ。少し離れたところで同じように特訓をしているエリー達の剣戟の音が僅かに聞こえてくる。その中で微かに聞こえた地面を蹴る音を頼りに杖を振るが、それはミリアに当たることはなく空を切り、振りぬいた後にミリアの攻撃がシエルの頭に振り下ろされる。
それを何度も繰り返し、昼になる頃には体力を使い切って地面に座り込んでいるシエルが出来上がっていた。
「はぁ……はぁ……」
「お疲れ様。一度お昼休憩にしましょうか」
「ひゃい……」
息切れしているシエルにミリアが水を差しだすと、ごくごくと一気に飲み干す。ぷはぁ、と息を吐いて水の入った容器をミリアに返す。遠くを見ると、エリー達も体力を使い切ってへたり込んでいる姿が遠くで見えた。
「立てる?」
「は、はい……」
杖を使って立ち上がろうとするが、杖がぶれてシエルのバランスが崩れ転びそうになる。ミリアは間一髪でシエルの手を掴むとぐっと引っ張ってシエルを立ち上がらせる。
「もー危ないわよ?」
「す、すみません……ありがとうございます」
「気にしなくてもいいわよ」
ミリアは優しくシエルの頭を撫でてからレギスタ達の所へと歩いて行く。シエルも服についた土ぼこりを払うとエリー達の所へと歩いて行った。




