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部活動に入ることになったけど…?

 ルリが、学園の寮内に入って初めて感じた視線は、


 ──なぜ、奴隷がこんなところにいる?──ここはお前のような下賤な奴が入れる場所ではない──獣人族ワービースト風情が──


 といった、敵意と憎悪をむき出しにした視線だった。

 ルリは身体をびくりと震わせて、シエルの後ろにそそくさと隠れる。


「大丈夫よルリ、貴女は私が守ってあげる」


 目は見えなくとも、ルリやエリー達一部の魔力ならすぐに分かる。逆に同じような魔力を持つ普通の人間は見分けるのにも少し時間がかかってしまう。


 (それにしてもおかしい話だよねエリー)

 (そうね、種族的な序列であれば獣人族ワービーストの方が上のはずだし、その力も高いはずなのに……)


 この世界には、数種類の種族が存在している。身体能力が優秀な獣人族ワービースト、水中に適応した水棲族マーメイル、空中での狩りに適応した鳥獣族ハルピュア、未だに謎が多い悪魔族イヴィリア、そしてあらゆる種族に一歩劣る人類族ヒューマニア、そして今はもういない妖精族エルフの6つの種族からできている。極稀に同じ種族の中から飛びぬけた能力を持ったものが生まれてくることもあるらしい。

 シエルは、ルリをつれて周りの視線は気にせず部屋へと帰る。



「ご……ごめん、なさいっ……!」


 部屋に戻った後、ルリがぺこぺこと二人に頭を下げていた。とはいえ、ルリに否が無いことは火を見るよりも明らかなので、二人は心配しないでとルリを諌めていた。


「しっかし、何で皆自分達が上だと思ってるんだろ……?種族的には自分達のほうが下のはずなのに」


 シエルの純粋な疑問にエリーも首をかしげる。


「そうよね……何であそこまで他種族を差別するのかしら……別に教科書を見てもそういう記述とかはないし……」


 う~ん……と二人で唸っていると、ルリがぼそぼそと意見を出してくる。


「あ、あの……もしかして……皆様は貴族の方ですし……両親の方たちの影響…なのでしょうか………?」


 ルリの言葉に二人は合点がいったかのように手をぽんと叩いて、それだ!と声をそろえて言う。それに驚いてルリはびくっと体を震わせていたが、シエルが頭を優しく頭を撫でて、


「ルリの意見が正しいのかもしれないね……そんな発想無かったから、えらいえらい~♪」


 撫でられてふみゅぅ……と尻尾と耳をパタパタさせているルリが可愛くて、エリーもつられてルリの頭を撫でていた。


「ふぁ……はうぅ……」


 ルリがふにゃふにゃと力を抜いて、床にぺたんと座り込んでしまったため、シエルが心配して、


「ルリ…だいじょうぶ……?」

「だ……だいじょうぶです……きもちよかっただけで……」


 ルリの言葉にシエルはじゃあ、もっとやってあげる~♪ と嬉しそうなシエルを、エリーは急いで制止させた。多分、あそこまでルリが感じていたのは、シエルの撫でる手に魔力が篭っていたからだろう。

 魔力に敏感な者ならば、触られただけでも感じてしまう。ということはある、ということはルリも例に漏れず、魔力に敏感なのだろうが、シエルはそのことに気づいていないのかまだ楽しそうにルリを追いかけて撫で回そうとしていた。



 あの後、シエルに事情を話して分かってもらった後は三人で大浴場──とはいかないので、小さなユニットバスに三人で仲良く入った。


「お休み~二人とも~♪」


 シエルはベッドに突撃する勢いでダイブ。そのまま、すぅ……すぅ……と小さな寝息を立ててもう眠っていた。あまりにも素早い就寝にルリが驚いていると、エリーはシエルは寝た後が大変なので、眠っているシエルの危険性について説明する。


「ルリ……今のうちに説明しておくわ。シエルは寝た後の方が危険なの」

「ど……どうして、ですか……?あんなに優しいのに……」


 ルリがちょっとびくびくしながら聞いてくる。エリーはシエルの動きを見ながらルリに危険性を説明する。

「シエルは寝相がとにかく悪いの……その辺の魔物よりもよっぽど危険よ……たまに魔法も使ってくるし」


 そう言っている時にも、シエルが不穏な動きを始め、むくりと起き上がる。単に寝ぼけているような感じだったが、それなのに何故か恐ろしいものと対峙しているような、そんな感じを起こさせる。


「ルリ、躱して!!」


 エリーが叫んだ次の瞬間、光弾がルリの頭を掠める。ルリは何が起こったのか、理解できていない様子だった。


「……え?」


「次、来るよ!」


 エリーの声に我に返ったルリは言われるがままにシエルの飛ばしてくる光弾を次々と躱していく。

 躱し続けること自体はまだ問題ない、だが問題はそれがいつまで続くのかだ。そう考えていると、


「いつもは大体十分くらいこんなことが続くけど……今日はルリがいるからどれくらいかはわかんないけど、多分その位だからそれまで耐えて!」


 エリーは光弾を紙一重の所で躱し続けながら器用に寝るための用意を整えている。ルリはそんな器用なことできるわけがなく、必死で躱し続けているが、何度か光弾がルリの服を掠め質素だが、丈夫な服がだんだんと削り取られていく。


「ひゃっ!?」

「集中!次来るよ!」


 エリーの声が聞こえた時には目の前に光弾が迫ってきていた。躱せない、そう考えた瞬間本能的に体が動く。

 自分の身体とは到底思えない最小限の動きで光弾を躱す。そして、シエルに走り出そうとしたが、自分の理性を振り絞って動きを止めた。


「エリー、さん…わ、たしもうダメ…です……」


 ルリはそう言い残すと、ばたっと床に倒れる。それと同時にシエルの攻撃も収まって、ぱたりともう一度大人しい眠りにつく。

 一人残ったエリーはため息をついて、


「はぁ……この部屋、いつまで持つかな……?」



◇◆◇◆◇◆◇



 次の日の朝、目覚めすっきりなシエルと、対照的に眠そうに欠伸をしているルリ、そして既に朝食を作り終えてすっきり顔のエリー、三者三様の人間(?)が部屋の中で学校の用意をしている。


「ご、ご主人様……わ、私も学校に行って、良いんですか……?」


 ルリがおろおろと聞いてくる。シエルは問題ないじゃない?と言った表情で、


「大丈夫でしょ、だって別に奴隷が勉強しちゃダメ何て校則は無いでしょ?」

「そ、それはそうですけどぉ……」


 ルリが難色を示しているので、シエルはいいから来る!と命令口調で言うと。


「ひゃ、ひゃい!」


 と、少し気の抜けた返事が返ってきてシエルはくすっと笑ってしまう。


 その後の授業は特に誰かがルリについて何か言うわけでもなく淡々と授業は終わった。

 何も言わなかったのは、前に上級生のリフィルと戦った時にあまりにも一方的に勝負を決めたことが、広まったからだろう。だから、あまり何も言ってこなかったのだろうと、エリーは思っていた。


「お!そこの新入生!!君たちだ!」


 突然女生徒に引き止められる。シエル達は何事かと思いそちらを振り向くと、男子生徒2名とリーダー的女生徒、恐らくシエル達より二年は上の先輩と思われる生徒が目の前に立っていて、


「さぁ、回収だ!!」

「「サー、イエッサー!!」」


 何が何だかわからないままどこかへと連行されることとなった。



 シエル達三人がおろされたのは何処かの部室だろうか、だが目立った備品なども無く、何の部室なのだろうと考えていると、女生徒の先輩と思しき人がやってきて、


「三人とも、すまないな手荒な歓迎だが許してくれ。私たちは『迷宮探索部』だ。君たちをスカウトしに行こうと思ってな。私は三年部長のアスティア・エクレールだ。まあ好きに呼んでくれ」


 自己紹介され、シエル達もつられて自己紹介を返そうとしたが止められ、


「君たちの事は知っている。学園長直々に迎えに行った超優秀生徒の二人だろう?」


 アスティアの言葉にシエルがそ、そんな事は……と珍しく初対面の人に口を開き、改めて自己紹介をする。


「そ、そんな事無いです……私はシエル・アークルーンです。隣の娘はエリー・フレイナイト、そして獣人族ワービーストの娘がルリです」


 シエルに続いて二人もぺこりとお辞儀をする。アスティアは、はっはっは!と高らかに笑い、


「すまなかったな、シエルにエリーそしてルリよ。君たちに『ダンサー』に入ってほしいんだ」


 ダンサー、と言われてシエルが首をかしげていると、


「ああ、ダンサーというのはうちの部の略称でね。『ダンジョンサーチング』を略して『ダンサー』だ粋だろう?」


 粋だろう?と言われても何とも言えないが、それでも正式名よりか幾分か入りやすそうな感じはする、と思っていたらエリーがアスティアに向かって、


「で、このダンサーが迷宮を探索するってのが部活の内容ってことは分かりました。でも何で私達なんですか?別にほかにも実力の高そうな先輩方もいるじゃないですか」


 エリーの疑問に男子生徒が答える。


「その質問は私が答えましょう。 ──まず、この学園には明確にはされていませんがランク付けがあるんです。そしてリフィルさんはランク付けの中でも上位といってもいいほどの実力者だったのです。そして、実力が高い人ほど部活などにもスカウトされやすい……ここまではいいですか?」


 その質問に二人は首肯すると、男子生徒は続けて、


「そして、この学校の校則には『兼部が出来ない』というのがあります。だから、実力の高い人間が自然に部活のスカウト争いでばらけてしまうんです。そして、どの部活も常に高い実力の高い生徒を待っている──」

「で、あの先輩を倒した私たちが連れてこられたのね。 ……でも、あの先輩を倒したのはシエルよ?私は何もしてないし、ルリに至っては名義上はシエルの奴隷、ってことになってるのよ?」


 エリーがそう質問すると、アスティアが自信満々に胸を張って、


「実力があるのはシエルだけではないだろう?その二人だって相当の実力者だと私は踏んだのだが」


 アスティアの言葉には曖昧さがあったが、それでも確かな自信のある言葉だったため、エリーは苦笑いしながら答える。


「まぁ……間違っちゃいないですけど……」


 シエルはそっとエリーに抱きついて、魔法を使わないと聞こえないような小さな声で、


「どうする……?いい人達そうだし……私たちの秘密──」

「それだけはダメ。シエルも私も人に知られたら確実に狙われる情報なんだから、絶対に言えないし、言わないわ」


 エリーの鋭い回答に、シエルはダメか……と少し残念そうに呟くとふふっ♪ と、楽しそうにエリーの背中から離れる。

 アスティア達には自分たちが話していたことは気付いてはいたが、聞こえてはいなかったようなので、少しほっとしていると、


「ところで、シエルはどうしてずっと眼を閉じているんだ?さすがに不便だろう?」


 いきなりシエルへの質問。しかも本当のことを言ってもそうでないことを言ってもかなりつらい質問だ。

 エリーがどうしようかと迷っていることを感じたシエルは、小さくエリーに向かって頷く。


 (良いの? だって、シエル……)


 エリーの悲しそうな声が頭に響く。シエルの魔眼の事を話した後、口を利かなくなった人間、距離を置く人間は腐るほどいた。それを横で見ているエリーにとっては見るに堪えないものだったのだ。

 それでも、話そうとするシエルはエリーに伝える。


 (言ったでしょ?あの人たちはいい人たちっぽいって、それに、嫌われたって私にはエリーたちがいるでしょ?)


 シエルの答えにエリーは仕方ないわね……、と呟くとシエルは閉じたままの瞳を静かに開ける。

 そして、今まで他の人間にはほとんど見せてこなかった魔眼を晒す。

 その濁った金の瞳を見て、二人の男子生徒は驚きを見せていた。だが、アスティア一人だけは


「……成程、魔眼か……私も初めて出会ったが何というか……とても、幻想的だ……」

「──っ!」


 そうアスティアが零した一言にエリーは驚く。何せ、嫌われるばかりの魔眼を『幻想的』なんて言う人間なんて一人もいなかったから、怖がらない人間なんて自分以外いなかったから、嫌われる覚悟でその眼を開いたシエルの方がきっと驚いているだろう。


「……そんなこと言ってくれる人もいるんだね……私は、この部活……入っても、いいかな。エリーはどうするの?」


 シエルが聞いてくるが、エリーには回答何てあってないようなものだ。


 (だって、私はシエルを守るために一緒にいるんだから───)


「もちろんOKよ」


 その答えを聞くと、シエルはルリの方向を向く。ルリは少し体を震わせると、


「わ……私は、ご主人様の奴隷ですから……たとえどこであろうと、ついていきます……っ!」


 その答えを聞いて、新たにシエル達は部活に、部活は優秀などという言葉では収まらないほどの逸材を3人も手に入れられることになった。

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