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火あぶり回避したい魔女ヒロインですが、事情を知った当て馬役の義兄が本気になったようで  作者: 廻り
第一章

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09 怖い魔女2

 ほどほどにボリュームのあるバストと、しなやかな曲線を描く腰のくびれからヒップのライン。ピンクの髪の毛が、悪い魔女な雰囲気を少しだけ緩和してくれている。

 ヒロイン補正のおかげで、何でも似合ってしまうこの容姿をリズは恨めしく思った。




 浴室を出たリズは食堂へ向かおうとしたが、食堂の場所を聞くのをうっかり忘れていたことに気がついた。

 それらしき部屋を探してみようと散策を始めてみたけれど、宮殿内は思いのほか広くて、どこが食堂なのか見当もつかない。

 途中ですれ違ったメイドに道案内を頼もうかと思ったが、「きゃー! 魔女!」と悲鳴を上げながら逃げられてしまった。


(そりゃそうよね。こんな格好の魔女に出会ったら、私も逃げ出すわ……)


 魔女の森に住んでいる魔女は、善良な魔女ばかりだけれど、世の中には本当に悪い魔女もいるらしい。そういった魔女は、悪いオーラを発しているから近づいてはいけないと、リズは母から聞いたことがある。

 リズは今まさに、その悪いオーラ(・・・・・)を発しているのかもしれない。


 空腹感よりも、がっかり感を覚えながら歩いていると、向かい側からアレクシスが、護衛や侍従を引き連れて歩いてくるのが見えた。

 アレクシスの横には、妙に機嫌が良さそうなメルヒオールの姿もある。

 それを目にしたリズは「あっ」と声を漏らした。


 昨夜はさすがに、リズが逃げ出さないか心配だったのか、アレクシスは「ほうきとも仲良くなりたい」と言い訳をしつつ、メルヒオールを連れていったのだ。

 今朝は寝起きに問題があったので、リズはすっかり忘れていたようだ。


「公子様、皆様、おはようございます。メルヒオールもおはよう」

「おはよう、リズ。昨夜はあまり眠れなかったよね。疲れていない?」

「お気遣いありがとうございます。先ほど湯浴みをさせてもらったので、良い気分です」

「それは良かった。ちょうど会ったことだし、メルヒオールを返すね」

「えっ。いいんですか?」


 ほうきさえあれば、監視の目をかいくぐって公宮から逃げられる。使用人達はリズと関わりたくないようなので、そのチャンスはいくらでもあるはず。

 これほどあっさりと返して良いのかと、リズは疑問に思いながらもメルヒオールに視線を向ける。


「あれ? メルヒオールが、つやつやしてる……」

「実は、魔法の杖などの手入れに使うワックスを見せたら、メルヒオールが塗って欲しそうだったから。勝手な真似をしてしまったかな……?」


(この高級感漂う、艶やかさ。きっと魔法具専用の、高級ワックスだ……)


 リズが顔を寄せて、じっくりとメルヒオールを観察すると、メルヒオールは自慢するように、その場でくるりと一回転する。ご機嫌だった理由がわかり、リズはクスリと笑った。


「いいえ、ありがとうございます公子様。良かったね、メルヒオール」


 リズの家では、魔法具専用のワックスなど買えなかったので、蜜蜂の巣から作る蜜蝋で代用していたが、高級ワックスの塗り心地はひと味違うようだ。メルヒオールはよほど嬉しいのか、猫のようにアレクシスにすり寄っている。


「メルヒオールは可愛いね」

「公子様のことが気に入ったようです」


(こんなに仲良くなるなんて。実は本当に、仲良くなりたいだけだったのかな?)


 メルヒオールをなでているアレクシスを見つめながら、リズがそう考えていると、アレクシスがリズに視線を戻した。


「ところで……、そのドレスはリズの私物?」

「えっ!? えっと……、侍女さんが私に似合いそうなドレスを、持ってきてくれたみたいで。びっくりするくらい、似合うと思いませんか? ははは……」


 似合っていないのなら侍女に文句も言えようが、この通りあつらえたかのように似合っているのだ。侍女も、嫌がらせで持ってきたのではないと思うしかない。


「そうかな……。リズには、もっと可愛いドレスを着てほしいな……」

「え?」

「いや……。それより、ここで何をしていたの?」


 ぼそっと呟くアレクシスにリズは聞き返したが、すぐに話題を変えられてしまった。

 しかし、その話題も一難去ってまた一難と言うべきか。侍女に食堂の場所を聞き忘れたせいで彷徨っていたとは、恥ずかしくて言いにくい。


「えーっと、朝食の前に宮殿内の散策でもしようかなーと」

「リズ一人で?」

「駄目でした?」


(まだ正式な養女にもなっていないのに、勝手に出歩いちゃダメだったかな?)


 まずいことをしたかもしれないと思いつつアレクシスを見ると、彼は考え込むように拳を顎に添える。


「宮殿内は好きに利用して構わないけれど……。ともかく、朝食がまだなら、一緒に行こう」

「はいっ、もうお腹ぺこぺこです!」


 進行方向へと向き直るリズを見ていたアレクシスには、あるものが目に飛び込んできた。

 髪の毛の隙間から見えた彼女の華奢な背中を、美しく結んであるであろう編み上げが、不自然に左右非対称でリボンも縦結びなっていたのだ。

 明らかに、侍女が整えたとは思えない着こなし。アレクシスは眉をひそめた。

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