表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
しょうもなおじさん、ダンジョンに行く  作者: 埴輪庭


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

88/280

日常26(歳三、権太、嬢×2)

 ■


「佐古さん、佐古さん!アレやって下さいよ!ビン切り!ほらぁ、君らも見たいよねぇ?佐古さんのかっこいい所!この人はこうみえて "グランドマスター" って呼ばれてる空手のタツジンなんですよ」


 ピンク色のパンティを頭から被った権太がひゃひゃひゃと笑いながら言う。権太はやすっぽいソファに座り、その膝には肌露出度98.5%の姉ちゃんが座っていた。


 照明はピンクだの紫だの次々色合いが変わり、店内はどうにも淫猥な雰囲気だ。そう、権太と歳三は "そういうお店" に来ていた。酒が出て、雰囲気があって、エロい姉ちゃんがいる店だ。


 時刻は既に午前をまわっていた。『超都会』からの二件目である。いわゆるハシゴという奴だった。


 歳三はこういう店は苦手で、とても一人では行けない。なぜならば自分の一挙手一投足の何が性犯罪に直結するか不安で不安で仕方ないからだ。


 しかし、保護者がいるならば話は別である。この場合は権太だ。歳三はとにかく自分一人で何かを判断する事が大の苦手なのだ。


 社会人としてどんな振る舞いが是で、どんな振る舞いが非であるかをいまだ自身で判断できない。ピンクなお店なのだからピンクな行為はOKなのだろう、だが胸を揉むのはOKだとしても尻は?下ネタを言うのは大丈夫なのか?


 この辺の是非は普通の人間なら自分で聞くか、もしくは雰囲気から自然と察する事が出来る。しかし歳三にはそれが出来ない。歳三という男はピンクな話だけではなく万事がそうである。


 一々誰かが見せてくれたり教えてくれたりしないと何も出来ないベビベビなのだ。歳三自身もそのままでは良くないとは思ってはいる。しかし、肉体を強くするのとは違い、精神を成長させるとは具体的にどうすればいいのか歳三にはさっぱり分からない。だが、歳三はこの言葉を知っている。


 ──"健全な精神は健全な肉体に宿る"


 この言葉を信じ、歳三は健全な精神を招来しようと肉体を鍛え続けている。健全な精神と健全な肉体を得れば、その時こそ晴れていっぱしの社会人として社会に参画出来ると信じているのだ。


 ・

 ・

 ・


「えーっ!?ビン切りって、ビンを切っちゃうの?割ったりするんじゃなくて?すっごーいッ。でも危ないからやめたほうが良いと思うよ、もしガラスで手とか怪我しちゃったら大変だし!あ!ほら、フルーツ来たよ、さくらんぼ好き?あーんしてね」


 歳三の隣に座っているバニー姉ちゃん…マコピーがアニメ声をあげる。肌露出度は60%といった所か。その手は歳三の膝、内腿を撫でまわしており、こういう店の従業員として正しく接客していた。


 だが内心はやや違う。酔っ払いは時としてフカす事があるという事を彼女は良く知っている。というかまさに先週、この流れでビン切りとやらをやろうとして小指を骨折、さらに吹き飛ばしたビンが他の客にあたってトラブルになった事があるのだ。マコピーとしてはどう見てもタツジンではない中年オヤジの蛮行を阻止したかったのである。


 マコピーがさくらんぼを咥えて、それをそのまま歳三の口に運ぶ。


 接吻!!!

 まあこういう店ではよく見る光景ではある。他の座席ではおっぱじめるかどうかと言う雰囲気のグループもあった。


 だが酔っぱらった歳三は特にテンションをあげもせずさげもせず、ふわふわした気分のままさくらんぼを食べながらビール瓶を眺めていた。


 ──確かに、少し酔ってるからな。怪我しちまうかもしれない…怪我するのか?ガラスなんかで?いや、酔ってると転んだだけで死ぬこともあるらしい…まとめサイトでそんな記事を見た。それは大変なことだ…葬式の時どう紹介されるんだろう。ころんで死んだ人です、とか言われるのか?やだな…そうだ、少し酔いをさまさねぇと…なんだっけ、チェイサーっていうんだったか?難しいことばだ、なんでもかんでも横文字にしやがって…それにしてもマコピーはなんでウサギでもないのにウサギの耳がはえている…?獣人?なろう小説によく出てくる…そう、怪我だ!!!!怪我をしないようにビンを切る…道具(ドーグ)を使うか、なんでもいいが…


 酔っ払い特有の支離滅裂思考を連ね、歳三はおもむろに口からさくらんぼのヘタをつまみだし、権太以外の誰にも見えない高速度でテーブルの上のビンを袈裟に一撫でした。


「ううむ…恐ろしくはやいヘタでの一撃…私でなきゃ見逃しちゃいますね…」


 頭部パンティおじさんと化していた権太の表情が暫時醒め、感嘆の声をあげる。


 え?と二人のねーちゃんが権太を見つめ、次に歳三へ視線を移す。当の歳三はといえばぼんやり天井を見つめ、ヒトという文字について考え、悩み、ブツブツ呟いていた。はた目からみれば完全に異常者である。


 酔っ払いはわけわからない事を考えるしょうもない生き物なので仕方がない。


「…ヒトという漢字は、互いに支え合ってると言うやつがいる…でも片方がもう片方に寄りかかっているというヤツもいる…だけどよ、手で書くのと端末に打ち込むのと、形が違うんだ。手で書くとどちらかがよりかかってるように見える…うちこむと支え合っているように見える…どっちが本当だか、俺にはわからねェッ…!ウッ、ウッ…ウッ…」


 歳三の様子に権太はゲラゲラと笑い、マコピーとほぼ全裸姉ちゃん…マナナンは首を傾げる。


 次瞬、音を立てて崩れるビール瓶。

 割れたのではなく、袈裟に斬られたせいで上半分が滑り落ちたのだ。


「斬り口が少し溶けてますね。摩擦熱か何かか…ビンの横に落ちてる焦げたモノはさくらんぼのヘタですか。マコピーちゃん、マナナンちゃん、旭真空手を知っていますか?ほら、マンディ・フグとかの…。この技こそ旭真空手の奥義、ヒート・ブレイドです」


 マコピーとマナナンは絶句する。


「ひええ…空手ってすごい…」とマコピー。


「え。これが空手なの?ヒートブレイドって英語の技名とかあるの?あるかな?あるかも…」と言ったのはマナナンだ。


 二人の女の子の呟きを聞いた権太は、"あるわけねえだろ" と思ってゲラゲラ笑っていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20250508現在、最近書いたやつ


最新異世界恋愛。ただテンプレは若干外して、父親を裏主人公としました。裏ではヤクザみたいなことしてるパパ。
完結済『毒蛇の巣』


先日、こちら完結しました。47歳となるおじさんはしょうもないおじさんだ。でもおじさんはしょうもなくないおじさんになりたかった。過日の過ちを認め、社会に再び居場所を作るべく努力する。
しょうもなおじさん、ダンジョンに行く



女の子、二人。お互いに抱くのは好きという気持ち。でもその形は互いに少し違っていて
完結済『好きのカタチ』

男は似非霊能力者のはずなのに、なぜかバンバン除霊を成功させてしまう
完結済 GHOST FAKER~似非霊能者なのに何故か除霊してしまう男~

他の連載作


現代ダンジョンもの。もなおじは余りメインキャラが死なないが、こちらはバシバシ死ぬ
【屍の塔~恋人を生き返らせる為、俺は100のダンジョンに挑む】

愛する母に格好いい姿を見せたいがために努力を重ねた天才──悪役令息ハインのマザコン無双伝
悪役令息はママがちゅき

戦場の空に描かれた死の円に、青年は過日の思い出を見る。その瞬間、青年の心に火が点った
相死の円、相愛の環(短編恋愛)

過労死寸前の青年はなぜか死なない。ナニカに護られているからだ…
しんどい君(短編ホラー)

夜更かし癖が治らない少年は母親からこんな話を聞いた。それ以来奇妙な夢を見る
おおめだま(短編ホラー)

街灯が少ない田舎町に引っ越してきた少女。夜道で色々なモノに出遭う
おくらいさん(短編ホラー)

彼は彼女を護ると約束した
約束(短編ホラー)

ニコニコ静画・コミックウォーカーなどでコミカライズ連載中。無料なのでぜひ。ダークファンタジー風味のハイファン。術師の青年が大陸を旅する
イマドキのサバサバ冒険者

前世で過労死した青年のハートは完全にブレイクした。100円ライターの様に使い捨てられくたばるのはもうごめんだ。今世では必要とされ、惜しまれながら"死にたい"
Memento Mori~希死念慮冒険者の死に場所探し~

SF日常系。「君」はろくでなしのクソッタレだ。しかしなぜか憎めない。借金のカタに危険なサイバネ手術を受け、惑星調査で金を稼ぐ
★★ろくでなしSpace Journey★★(連載版)

ハイファン中編。完結済み。"酔いどれ騎士" サイラスは亡国の騎士だ。大切なモノは全て失った。護るべき国は無く、守るべき家族も亡い。そんな彼はある時、やはり自身と同じ様に全てを失った少女と出会う。
継ぐ人

ハイファン、ウィザードリィ風。ダンジョンに「君」の人生がある
ダンジョン仕草

ローファン、バトルホラー。鈴木よしおは霊能者である。怒りこそがよしおの除霊の根源である。そして彼が怒りを忘れる事は決してない。なぜなら彼の元妻は既に浮気相手の子供を出産しているからだ。しかも浮気相手は彼が信頼していた元上司であった。よしおは怒り続ける。「――憎い、憎い、憎い。愛していた元妻が、信頼していた元上司が。そしてなによりも愛と信頼を不変のものだと盲目に信じ込んで、それらを磨き上げる事を怠った自分自身が」
鈴木よしお地獄道



まだまだ沢山書いてますので作者ページからぜひよろしくお願いします。
― 新着の感想 ―
[良い点] これ彼女とイチャイチャしてたって体で風俗三昧だった説まであるな……
[一言] 完全に異常者であるw
[良い点] 肌露出度98.5% [気になる点] 肌露出度98.5% [一言] ……グローブとかソックスとか……あ、防菌(防塵)マスクもあり得ますな!www
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ