秋葉原電気街口エムタワーダンジョン⑯
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快楽毒手の使い手は毒蛇に見立てた自身の腕に、致死の電流がまるで蛇の様に伝ってくるのを見た。勿論それは実際に見たものではなく、どちらかといえば幻視の類だ。
電流の伝わる速さは光速と同じであり、晨淫邪が如何に鍛錬を積んでいてもこれを知覚する事は出来ないだろう。しかし人間は限られた条件下で脳内に膨大な量の化学物質が分泌され、脳が異常活動を始める事がある。
限られた条件下にもいくつかあるが、例えば死に瀕している人生最期の30秒間などが有名だ。ある者はまるで時が停まったかのように錯覚し、またある者はこれまでの人生を振り返る。全ては脳の異常活動なのだが、そこにある種の神秘性を見出す者もいる。
そして今まさに死に瀕している晨淫邪は、自身の総身から幻想の杭が飛び出してくるのを見た。
白熱した杭だ。
骨を砕き、肉を焼き、皮膚を破り、耐えがたい苦痛を与えてくる悪魔の杭だ。
電流は彼の血管を通って全身に広がり、彼の臓器を焼いていた。心臓は異常な鼓動を打ち、肺は焼けつくような空気を吸い込んでいた。
眼球が破裂したのか、左目の辺りが生暖かい。
晨淫邪はもはやどこからどこまでが幻覚、幻想なのか、そしてどこからが現実なのかも分からなくなっていた。
それでもなお晨淫邪は鉄衛から手を引きはがす事ができない。感電により掌、指の筋肉が収縮し、広げる事ができなくなっていたからだ。
だが、せいぜいが2秒。
これはこの恐るべき中華ヤクザが、想像を絶する苦痛の渦中から自身を再構築するまでの時間である。
たったの2秒で晨淫邪の脳は苦痛の暴風雨から抜け出し、俯瞰視点で自身を見ていた。
明鏡止水の心地だった。
心頭を滅却すれば高圧電流もまた涼しと嘯けなければ黒組織の頭なんぞは張れないという事である。
──腕を切断し、一度撤退する
氷よりも冷たい思考で身の振りを定めていく。
だが、その様子をつぶさに観察していた鉄衛は悪辣なる一手を打った。
『助けてくれ!』
フロアに晨淫邪の声が響く。当然感電中の彼はこのように助けを求める事などはできない。つまり、その声は鉄衛から発生されているのだが、男たちはそれには気付かずに晨淫邪を助けようとした。だが感電中の者に触れるという事が何を意味するのか。
──連鎖感電
声すら上げる事も出来ずに男たちは2人、3人と感電し、結句、死体が2、3体増える事になった。
獣肉を網に乗せ、火にかけてその上から髪の毛を振りかけてみれば何となくその場の匂いが想像できるかもしれない。
この時、鉄衛に表情というものがあったなら、恐らくは底意地の悪い笑みを浮かべていただろう。そして、次の瞬間には顎を落として愕然とした表情を浮かべたはずだ。
なぜなら…
「て、てっぺぇぇぇぇ!!!」
THE・カラテが、いや、歳三が鬼気迫った様子で駆けてきて、馬鹿みたいなドロップキックを晨淫邪の背にぶち込んだからだ。
本当に馬鹿みたいなジェット破城槌の様な凄まじいドロップキックは、晨淫邪の背骨をブチ折るだけでは済まなかった。
ボッ、というなんだか間抜けな音を立てて胸部が突き破られ、血肉と骨らしき白いものがベチャベチャポロポロと床に落ちる。晨淫邪の命が床に落ちていく。
晨淫邪の胸から、歳三のトレッキングシューズの足裏が覗いていた。歳三愛用の靴、"兎丸アンバー01"の靴底だ。
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「すまねぇ、てっぺーが感電してるのかと思って…」
歳三はタオルで鉄衛のボディを拭きながら謝罪した。その黒々としたメカメカボディには晨淫邪の血肉が盛大にぶっかかっている。
歳三は晨淫邪の方が鉄衛を感電させていると勘違いしてしまい、守ろうとしたのだ。
まずは感電元をぶっとばして電流を断とうとしたが、つい胸をぶち抜いてしまった。"兎丸アンバー01"は歳三が愛用する探索靴だが、底の部分には軽いスパイクがついており、これが胸部貫通の要因となってしまったのかもしれない。
床には割れた天狗の仮面(鼻部分がディルドとなっており、この部分で陰部や肛門部を刺激する)が転がっている。
THE・カラテの余りに激しい戦闘のせいで、男たちの弾け飛んだ骨がぶつかって割れてしまったのだ。
「感電した人を見つけたら触ったりせずに、ドロップキックして感電元から離してやれってネットのまとめサイトで見ましたよ」
これで居てまとめサイト住人でもあるハマオが言う。
「あ、ああッ…。俺もそれを見て…そうっ、手でふれたら、ビリビリと…危ないらしい…」
歳三が頷きながらいう。どこか嬉しそうだ。
これでいて根が帰属意識が高すぎる孤独中年男性である所の歳三なので、いかにも陽キャであるハマオが自分と同じ様にネットの住民である事がちょっと嬉しかったりする。
"兎丸アンバー01" (774,500円)
探索者の皆様、日々の厳しいダンジョン探索において、信頼できる装備は必須ですよね。安心と安全は足元から!
桜花征機が誇る探索シューズ、"兎丸アンバー01" をご紹介します。
Ⅰ.色彩美の調和
深い森の緑と黒の影、そして桜の花びらのような淡いピンクのアクセント。このシューズはただ機能的であるだけでなく、美しいデザインにもこだわりました。探索者の皆様の足元を美しく、そして力強く彩ります。
Ⅱ. 頑強な素材
このシューズはダンジョン素材から作られており、通常の素材とは一線を画す耐久性を誇ります。どんな過酷な状況でも皆様の足元をしっかりと支えます。その耐久性を証明するために、私たちはややハードな耐用実験を行いました。
活火山の火口にシューズを落とす実験: "兎丸アンバー01" を活火山の火口へ投げ込み、耐熱・耐火性のテストをしました。結果は驚くべきもので、シューズは溶岩の中でも175秒間形を保ち続けました。
TNT火薬100キロでの爆破耐用実験: シューズに対して100キロのTNT火薬を使用し、爆発の衝撃に耐えるかを検証しました。これは10m離れた距離からでも鉄筋コンクリートのビルを損傷させるほどの破壊力を有します。これを至近で爆発させた所、シューズ表面に中程度の破れや痛みが見られましたが、まだ十分履く事ができました。
高速銃弾の直撃テスト: 銃種はM4カービン、使用弾薬は5.56x45mm NATO弾を使用しました。シューズに対して複数回の射撃を行いましたが、弾丸はシューズの表面を薄く傷つけるに留まりました。
これらの実験は、"兎丸アンバー01" がどれほど頑強で信頼性が高いかを証明しています。探索者の皆様、次回のダンジョン探索に向けて、この信頼のシューズをぜひお試しください。
Ⅲ.軽さと快適性
頑強でありながらも片足720gと驚くほどの軽量化に成功!例えばヒマラヤ8000m級の登山に使う登山靴などは、片足1300gするものも珍しくはありません。それを考慮に入れると"兎丸アンバー01" がどれ程軽量なのかを実感していただけると思います。"兎丸アンバー01" は長時間の探索でも足への負担を軽減し、快適な履き心地を提供します。
Ⅳ.信頼のブランド
桜花征機は、探索者の皆様に信頼される製品を提供するために、常に最高の技術とデザインに努めています。
探索者の皆様、次の探索に向けて、新しい一歩を踏み出す準備はできていますか?桜花征機の探索シューズで、未知のダンジョンを自信を持って探索しましょう。このシューズが皆様の新たな冒険の最良のパートナーとなることをお約束します。




