表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
しょうもなおじさん、ダンジョンに行く  作者: 埴輪庭


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

280/280

しょうもなおじさん、異世界に行く

 ◆


 歳三は地べたに腰を下ろし、ズボンのポケットからタバコを取り出した。


 人差し指と親指をすり合わせる。


 ぽう、と小さな炎が生まれ、煙草に火をつけた。


 ふかく煙を吸い込んでみるが、ほとんど味がしない。


 タバコなど百害あって一利なしというのは、歳三だって知っている。


 それが脳を一時的に冴えさせたり心を慰めたりするのは、ただニコチンの作用が離脱症状を緩和しているだけだ。


 だが、今の歳三にはその一瞬の作用で十分だった。


 少しでも冴えた頭で考えたい事があったのだ。


 思えば、歳三はいつだって衝動的に物事を決めてきた。


 けれど今回ばかりはやけに悩んでいる。


 ──どうしたモンかなぁ


 手癖というか体癖というか、ぐるりと左肩を回そうとして歳三は「ああ……」と小さく漏らした。


 回すべき肩は、もう無い。


 苦笑が漏れる。


 放っておけば切断面から因果が徐々に消失して、やがて歳三自身も消えるだろう。


 けれど、それ自体は実のところ大したことではない。


 その気になれば傷は治るからだ。


 歳三はつい先ほど見た白昼夢のことを思い出した。


 寂滅観音の顔面を叩き潰した瞬間に視えた“何か”。


 会話もない、素性もわからない、“それ”。


 だが“それ”は、歳三に直接イメージを叩き込んできた。


 すなわち、それは歳三への“ご褒美”なのだという。


 “それ”を知覚できるほどに高めた階梯、超えてきた山──その功績に対しての褒美。(「それとソレと神と」参照)


 ひとつは歳三が消えた後でも彼を知る人間の記憶を固定化すること。


 完全に消えてしまっても、歳三を知る者の記憶から歳三が喪われる事はない。


 更に歳三がしたことは大々的に公表され、国民的英雄として讃えられるだろう。


 もうひとつは、生き延びるということ。


 ただし、ここではないどこかで。


 だが、“それ”の力を以てしてもこの星での因果を再生することはできないため、“それ”は別の世界に歳三の因果の種を埋め直すと言う。


 歳三は静かに煙を吐いた。


 ──そうだなぁ……


 生きる事を苦に思う歳三である。


 やれることはやった、そんな満足感があった。


 だから最初のご褒美を選ぶのもいい──そう思った歳三ではあるが。


 ふと脳裏をよぎったのは、今まで出逢った人々の顔だった。


 ここで消えることを選ぶというのは、何か違うような気がする。


 ──俺は馬鹿だからよくわかんねぇけどよ


 言語化できない何か尊いものを穢すような行いであるような気がする。


 それに、今ならもしかしたらこれまでよりもう少しうまく生きられるような気がするのだ。


 生きる事は変わらず息苦しいだろう、だが、どうしようもなくなったら周囲に救いを求めても良いかもしれない──そんな風に思えなくもない。


 ならば二番目の褒美か、と歳三は思うがしかし。


 ──“向こう”にも、ダンジョンはあるのかねえ


 生活ができなかったらどうしようという、この期に及んでなんというかしょうもない漠然とした不安もある。


 すると、頭のどこかから、ぽこりと『是』という意志が湧いてきた。


 ──じゃあ、“ご褒美”もあるのかねぇ


 再び『是』という意志が返る。


 ──それなら“ご褒美”で帰ってくることも? 


 三度目の『是』。


 それだけ聞けば十分だと、歳三は煙草を深く吸い込み、胸に満たした。


 ──だったら


 歳三はどうするかを決めた。


 その瞬間、ぽとりとタバコが地面に落ちる。


 びゅうと風が吹き、転がった煙草の火が静かに消えた。


(了)

まあ気まぐれにその後の話は投稿しますが、本編終了です。

次回はハイファンタジー。

この作品に第一話を投稿する形にして、第二話以降は別で作品立てる感じです。

長らくお疲れさまでした!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20250508現在、最近書いたやつ


最新異世界恋愛。ただテンプレは若干外して、父親を裏主人公としました。裏ではヤクザみたいなことしてるパパ。
完結済『毒蛇の巣』


先日、こちら完結しました。47歳となるおじさんはしょうもないおじさんだ。でもおじさんはしょうもなくないおじさんになりたかった。過日の過ちを認め、社会に再び居場所を作るべく努力する。
しょうもなおじさん、ダンジョンに行く



女の子、二人。お互いに抱くのは好きという気持ち。でもその形は互いに少し違っていて
完結済『好きのカタチ』

男は似非霊能力者のはずなのに、なぜかバンバン除霊を成功させてしまう
完結済 GHOST FAKER~似非霊能者なのに何故か除霊してしまう男~

他の連載作


現代ダンジョンもの。もなおじは余りメインキャラが死なないが、こちらはバシバシ死ぬ
【屍の塔~恋人を生き返らせる為、俺は100のダンジョンに挑む】

愛する母に格好いい姿を見せたいがために努力を重ねた天才──悪役令息ハインのマザコン無双伝
悪役令息はママがちゅき

戦場の空に描かれた死の円に、青年は過日の思い出を見る。その瞬間、青年の心に火が点った
相死の円、相愛の環(短編恋愛)

過労死寸前の青年はなぜか死なない。ナニカに護られているからだ…
しんどい君(短編ホラー)

夜更かし癖が治らない少年は母親からこんな話を聞いた。それ以来奇妙な夢を見る
おおめだま(短編ホラー)

街灯が少ない田舎町に引っ越してきた少女。夜道で色々なモノに出遭う
おくらいさん(短編ホラー)

彼は彼女を護ると約束した
約束(短編ホラー)

ニコニコ静画・コミックウォーカーなどでコミカライズ連載中。無料なのでぜひ。ダークファンタジー風味のハイファン。術師の青年が大陸を旅する
イマドキのサバサバ冒険者

前世で過労死した青年のハートは完全にブレイクした。100円ライターの様に使い捨てられくたばるのはもうごめんだ。今世では必要とされ、惜しまれながら"死にたい"
Memento Mori~希死念慮冒険者の死に場所探し~

SF日常系。「君」はろくでなしのクソッタレだ。しかしなぜか憎めない。借金のカタに危険なサイバネ手術を受け、惑星調査で金を稼ぐ
★★ろくでなしSpace Journey★★(連載版)

ハイファン中編。完結済み。"酔いどれ騎士" サイラスは亡国の騎士だ。大切なモノは全て失った。護るべき国は無く、守るべき家族も亡い。そんな彼はある時、やはり自身と同じ様に全てを失った少女と出会う。
継ぐ人

ハイファン、ウィザードリィ風。ダンジョンに「君」の人生がある
ダンジョン仕草

ローファン、バトルホラー。鈴木よしおは霊能者である。怒りこそがよしおの除霊の根源である。そして彼が怒りを忘れる事は決してない。なぜなら彼の元妻は既に浮気相手の子供を出産しているからだ。しかも浮気相手は彼が信頼していた元上司であった。よしおは怒り続ける。「――憎い、憎い、憎い。愛していた元妻が、信頼していた元上司が。そしてなによりも愛と信頼を不変のものだと盲目に信じ込んで、それらを磨き上げる事を怠った自分自身が」
鈴木よしお地獄道



まだまだ沢山書いてますので作者ページからぜひよろしくお願いします。
― 新着の感想 ―
とても面白かったです!ありがとうございました! お疲れ様でした!続編楽しみにしてます!
お疲れ様でした 楽しい作品、ありがとうございました 完結おめでとうございます!
面白かったです! もっと読みたい!この後の物語、そしてそれからの復活、読みたい気持ちで溢れています。 ともかくも、連載ありがとうございました! まだまだ読んでない作品があるので読みながら待ちます! 面…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ