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しょうもなおじさん、ダンジョンに行く  作者: 埴輪庭


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日常81(歳三、金城権太他)

ライブ感でその場で書いてるので、設定ちゃうやろみたいなとこあるかもです。仕方ないことなので見逃してください

 ◆


 ふぐう、と歳三はむせび泣いた。


 これでいて根がノンデリの鈍助(にぶすけ)に出来ている彼だが、特定の感情には非常に敏感だ。


 協会からの「大変でしたね、でも特に問題はありませんのでしばらく休んでくださいね」という優しい対応を受けた歳三は、自分が腫物扱いされている事を敏感に感じ取ったのだ。


 勿論これは思い込み……と言いたい所だが、事実でもある。


 推定甲級ダンジョンのモンスターを斃せる乙級探索者というものは、当然だが多くはない。


 そういった探索者は誇張抜きで日本という国にとって無くてはならない存在だ。


 要するにVIPなのだ。


 だからちょっとしたことで叱責なんてしない。


 協会の「大変でしたね、でも特に問題はありませんのでしばらく休んでくださいね」という対応には特に裏もなにもなく、字面通りの意味でしかない。


 更に言えば、そもそも歳三は失敗なんてしていない。


 最後にちょっとサプライズしようとして、それが失敗して白けさせたくらいなものだろう。


 だが歳三の中ではなぜか失敗となっている。


 なぜか?


 認知が歪んでいるからだ。


 認知が歪んでいる状態というのは、簡単に言えば客観的に物事を見る事ができなくなっている状態を指す。


 傍からみれば理屈が通っている事でも、当人からすれば全然理屈が通っていない様に見えてしまう。


 歳三はまさにその状態にあった。


 そもそも三人のひよっこのやらかしといえば──……


 ・油断をぶっこいて、斃したと思っていたモンスターから反撃を受けそうになった


 ・強力な存在との遭遇という予想外のトラブルに際して、適切な対応を取る事ができなかった


 くらいなものである。


 そして、これらのミスは果たして歳三の責による所なのだろうか?


 答えはNOだ。


 ひよっこたちの予習、心構えが未熟だっただけで歳三には一切の責任はない。


 なのに歳三は自身の指導が失敗したと思い込んでいる。


 協会もその辺は理解しており、だからとりあえず波風立てないようにと歳三に無難に接しているのだが……


 歳三はしっかり叱られたかった。


 激怒されたかった。


 ミスはミスとして、正当に評価されたかったのだ。


 怒られている内が華と言うではないか。


 ──もしや、俺は見捨てられちまったってのか!?


 ……と、この様に歳三はクソメンヘラと化していた。


 普段の歳三ならこの状態をもう少し長く引っ張る。


 しかし今の歳三はちょっと違う。


 昔と比べてちょっとだけ成長している。


 ・

 ・

 ・


 その日は朝から晴れ渡っていたが、吹き荒ぶ風は骨まで染みわたる程に冷たい。


 歳三は窓を開け、あぐらをかいて窓の外の太陽を見上げている。


「良い天気だ」


 歳三が呟く。


 声にはどこかシニカルな響きがあった。


 燦々と輝く太陽はしかし、全く温かみを感じない。


 それでも日を浴びれば多少は温もりを感じるが、日陰に移動するだけでその温もりはたちまちに消え去ってしまう。


 そんな冷たい太陽に、歳三はとあるモノを幻視する。


 それは──……


「社会だ」


 そう、社会である。


 これでいて根が詩人めいた所のある歳三である、彼は冬の太陽に社会を幻視した。


 手を伸ばせど届かない憧れ。キラキラと光を投げかけてくるものの、その光は冷たい。社会とはつまり、離れれば離れるほど寒いものだと歳三は理解した。


 彼の望みはそこに居場所を作る事だ。


 中に入り込んでしまえば温かいに違いない。そんな莫迦な幻想を抱いている。


 ──失敗しちゃならねえ。次は上手くやる。今回は何とか許してもらえたかもしれねえが、甘えちゃだめだ


 もはや歳三の精神は仕事人めいたクールウルフライクなマインドと化していた。


 決して(ツラ)が良いわけではない彼だが、この時ばかりはちょっとかっこよく見えるかもしれない。


 問題は、上手くやるも糞もないという事だろうか。


 歳三の身分は地方公務員の特別職だし、国からさえも必要とされている。歳三はそんな事分かっちゃいないが。


 "認知が歪んでいる" 良い例であった。


 だがまあ、認知が歪んでようとなんだろうと、歳三の精神はようやく再起動した。


 端末を手に取り、連絡を確認する。


 何通かのメッセージが溜まっている。金城権太、鉄騎&鉄衛、飯島比呂から何度か連絡がきており、歳三はそれに丁寧に返信を返す。チャトピィは使わなかった。ティアラから「詐欺かとおもった」とクレームがきたからだ。


 そして……


 ・

 ・

 ・


 夕刻。


 歳三は池袋駅北口を出て、すぐ右手の壁面に寄りかかって人を待っていた。


 北口は大変異前はいかがわしい界隈だったが、大変異以後もいかがわしい。風俗店のネオンが眩しく輝き、飲み屋の看板が行き交う人々に誘いをかけている。


 道行く人々も一般人、探索者が入り乱れ混沌としていた。


 待つ事暫し。


「佐古さん、まだちょっと元気ないですねぇ」


 逞しい野ブタを思わせる声が歳三に投げかけられた。


 金城 権太だ。


 ただでさえ太い彼だが、冬という季節になって更に肥えていた。


 ぷくぷくとした腹はまるで狸の王様の様だ。


 やあやあどうも、という権太の適当な挨拶に、歳三はきりりとした表情を浮かべて応えた。


「そんな事はねぇです、金城さん。俺はやれと言われたら何でもやりますぜ。今日俺を呼び出したのも何か仕事があるからでしょう?どこに行って何をすればいいんですかい?」


「いや、別にそんな大層な話じゃあないですけどね。たまには飲みたいなとおもいましてねぇ。まあ話したい事がないわけじゃあないですが……」


 権太は横を通り過ぎた尻のデカい女にねっとりした視線を注ぎ、でっぷりした顎をしゃくって居酒屋『超都会』へ向けた。


 ◆


『居酒屋超都会』は、池袋北口すぐの所にあるどうにもぱっとしない外見のホテル『サンライズ』の地下一階にある。ホテルの中に入る必要はなく、外から直接階段を下って入店が可能だ。


 大変異前から経営を続けている安居酒屋で、客層はお世辞にも良いとは言えない。


 今のオーナーは3人目で、元探索者の親父である。低級の探索者で実力こそ低かったが、よく気が利く性格でしかも協会に従順だった。ゆえに彼が探索者を引退してセカンドライフを開始する際、協会が退職金めいた餞別をくれてやったのだ。


 親父はその金でホテルごと『超都会』を買い取り、現在に至る。


 ・

 ・

 ・


「相変わらずここのビールは本当にしょうもない味ですなぁ」


 権太が不味そうに愚痴を垂れた。垂れたが、しょうもないビールを飲むのをやめる事は無かった。


 歳三も頷き、顔を顰めながらジョッキを空ける。不味いというわけではなくて "しょうもない" 味なのだ。


 とにかく味が薄い。


 そして妙にぬるい。


「あのね、金ちゃんに歳三よ。俺ァわざと不味くしてるンだよ」


 カウンターの向こうから酒焼けした声が聞こえる。


 (くだん)の元探索者……店の大将のヒシカタだ。


 白髪混じりの短髪を短く刈りあげた小柄な男だ。目つきは悪く、肌は内臓を悪くしているのか黒ずんで見える。左手の小指と薬指がない。


 ヤのつく人だからというわけではなく、戌級のモンスターに食い千切られた戦傷である。再生医療を受ける事もできたのだが、当時のヒシカタは調子コキ麻呂めいており、「向こう傷は男の勲章だぜ」と治さないでいたのだ。


 ヒシカタの探索者としての戦闘能力は非常に低く、身体能力も一般人よりちょっとマシ……拳大の石を握り砕ける程度といった所だろうか。


「餓鬼の小遣いで酒モドキが飲めるンだ、味だって相応のもンじゃなけりゃあならねえ。美味い酒が飲みたければ高い金を支払うこったね」


『超都会』がしょうもない安居酒屋なのは間違いないが、高い金を払えば高い酒も飲める。


 安い酒は不味い酒を、高い酒は美味い酒を──……ヒシカタは『分相応』というポリシーを持っており、良くも悪くもこのポリシーを色々な事にあてはめる所があった。


「おう、歳三。おめぇも稼いでるんだからもっとイイ物を頼めよ。天下の乙級様だろ?あァ?」


 まるでチンピラの様なヒシカタだが、彼もまた歳三や権太と関係が長く、また店の雰囲気も薄汚い所が好みに合うというのもあって、歳三はこの店を長年愛用している。


 だから彼の恫喝モドキにも歳三は凹んだりせずに「頼んでもいいけど味がわからないンだよな……」などと返した。


「それじゃあダメだな」とヒシカタは歳三の前にしょうもないビールが満たされたジョッキをドンと置くなり、別の常連と話にいく。


 ──よう、出所おめでとう!で、次はいつ捕まるんだ?


 ──勘弁してくれ、もうシャブはやめたよ。決めたんだ。まともに生きるってな


 ──4年前も同じ事を聞いた気がするんだけどな……


 ・

 ・

 ・


「ああ、やっと五月蠅いのが行った」


 権太はケッという表情で吐き捨てた。


 別に彼がヒシカタを嫌っているというわけではなく、むしろ関係は良好だ。


 しかし人間関係というものは不思議で、友好的であるにも関わらず悪罵をつき合うという関係もある。


「それでね、ちょっと話がありましてね。来年からの施行って話になると思うんですが、丙級のまあ功績がいい人以上を対象に、専属のオペレーターをつけるって話があるんですよ」


 権太の表情がブスッとしている事から、本意の話ではない様だった。


「オペレーターってのはなんですかい?テレアポとか?」


 権太は仏頂面を崩し、苦笑を浮かべてかぶりを振る、


「いえいえ、まあなんというか……探索支援者、みたいな感じですかねぇ。どこそこのダンジョンにいけ、この依頼を受けろ、それとデータベースにあるモンスターとの交戦時にはリアルタイムでの戦術支援というか助言みたいなかんじですかね、そういうサポートをするわけですよ。探索中、ずっとStermの通信回線を使って接続されます」


「はぁ、そうですかい。なんだか面倒な話だなぁ」


 歳三の反応は薄い。


 自分の事と結びつけて考えていないのだ。


「他人事じゃなくてね、佐古さんにも当てはまるんですよ。だから来年から佐古さんにもオペレーターがつきます。まあそれが他意のない職員ならいいんですがねぇ……」


 権太は含みをもたせる。


「もしかしたら余り佐古さんとは性格が合わない人かもしれません。こればかりは私もまだ情報がつかめなくてねぇ」


「断る事はできないんですかい?」


 歳三が尋ねると、権太は再びかぶりを振る。


「副会長の提案なんですが、これがどうにも押し返せない。まあ暫く協会は荒れるかもしれません。佐古さんにも変なアプローチがくるかもしれませんけど、困ったら相談してくださいね」


 そっかぁ、と歳三は気鬱そうに魚の不味い煮つけを食べた。


先日1/19、イマドキのサバサバ冒険者コミカライズ連載の四話目が更新されました。本編も更新しています。コミカライズ連載につきましてはニコニコ漫画、コミックウォーカーなどで御覧いただければ幸いです。漫画家さんは「終の人」「エゴ・エリス」などの作者、清水 俊先生です。「終の人」はドラマにもなりました。現在は「エゴ・エリス」を連載中で、こちらも是非よろしくお願いいたします。ついでにダンジョン仕草も更新しています。こちらは改稿もして、以前よりは読みやすくなっているとおもいます

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まだまだ沢山書いてますので作者ページからぜひよろしくお願いします。
― 新着の感想 ―
[一言] めんどくさおじさん
[一言] しょうもないビール・・・ 昔の〇ントリーのビールか?
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