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しょうもなおじさん、ダンジョンに行く  作者: 埴輪庭


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蒲田西口商店街ダンジョン⑥

 ■


 一個の命と無数の命が、互いに互いの命を削り切ろうと死闘を始めた。


 シィィと呼吸を絞った歳三は、体勢も構えも糞もない無茶苦茶な打撃、蹴撃を連打した。その速度と勢いはどれだけ打っても全く衰えない。


 一切止まらず打ち続ける歳三は、まるで千の腕を持つという観音の様だった。いや、歳三は猿っぽいので千獣観音だろうか。


 極々短時間で激しい動き…例えば短距離走などを想像してもらえばわかるが、人間は瞬間的に大きな力を出す時、呼吸を止める。

 なぜならば呼吸を止めることで体内の圧力が上昇し、筋肉の緊張が増加するからだ。筋肉はより緊張した状態で収縮することで、より大きなな力を発揮することが出来る。



 大砲による砲撃のような正拳が

 刀による斬撃の様な手刀が

 槍による刺突の様な前蹴りが



 多種多様の打撃が嵐の様に吹き荒れ、宙空に赤い花を咲かせ続ける。花の種は歳三の血肉だったり、"アルジャーノン" の血肉だったりもした。


 歳三の致命の一撃が "アルジャーノン" の肉体を抉るたび、血肉の中に形成された牙や爪が歳三の手足を傷つけるのだ。歳三が身に着けていた "桜花征機" 製のボディアーマーは既に全損し、その辺に放り捨てられている。まあこの辺は問題はない。歳三の生身の方がボディアーマーより強靭である為。


 そう、歳三の肌や肉を傷つける事は非常に困難だ。

 しかしやってやれない事はない。例えば、戦車の複合装甲を容易に嚙み切ったり出来るなら歳三を傷つける事ができるかもしれない。


 たかが鼠には出来ない芸当ではあるが、されど鼠でもある。

 例えばどぶ鼠はコンクリートをかみ砕いてしまうほどに強靭な門歯を持つのだが、それらが無数によりあつまり、一個体に身体能力が集中したのなら?


 "アルジャーノン" の血肉が舞い、抉られた箇所から肉が盛り上がって再び無傷の "アルジャーノン" が生まれる。歳三はこの様を再生していると考えたが、これは少し違っていた。

.

 彼らはその個体すべてが "アルジャーノン" なのだ。

 "アルジャーノン" は鼠の姿をしているが、断じて鼠などではない、もっと悍ましい何かであった。


 ■


 自身と相手の血と肉の雨を浴びながら、歳三は目的地はわかっていてもそこに行く為の経路を割り出すのに苦慮している様な心境に陥っていた。


 戦況的には余り良くない事は歳三も理解している。

 しかし歳三には退くつもりは全くない。

 自身が粘れば粘るほど、二機の逃走時間を稼ぐ事が出来るからだ。


 勿論粘るだけじゃなく、いっそ打倒できればいいのだが、これはどうにも歳三には妙案が思い浮かばない。あれでもない、これでもないと有効そうな技を試しては見るものの、どれもこれも有効ではあるが決定打にはならない。


 歳三は察しが悪いので、相性が悪い相手に対して逆転の一手を捻り出せないのだ。


 それでも時間を稼ぐだけなら出来る。

 だが稼いだ後は?

 逃走しようにも逃がしてくれるかどうか。

 歳三のカンはちょっと逃げ切れないかもな、と考えている。


 なぜなら、歳三は鼠のすばしっこさをよくよく知っているからだ。

 歳三の住まいである東池袋のおんぼろマンションには、しばしばドブネズミが出現するので…。


 ・

 ・

 ・


 果たして如何なる類の干渉なのか。


 眼前で繰り広げられている歳三の危機に於いて、"鉄騎" と "鉄衛" にある種の化学変異…いや、科学変異が発生していた。


 ダンジョン探索者はダンジョンを探索している内に精神干渉を受けるというのは定説だが、AIはどうなのか?


 よくあるB級映画の科学者の様に『そんなことはあり得ませんね』などと破滅、崩壊、死亡フラグを立てる事なく、 "桜花征機" の開発部門は干渉の可能性を考慮した。その一つが仮のマスター登録であり、これは自身よりも、マスター登録された者の意向を優先するという事だ。


 AIに異常が発生し、自律行動規範に歪みが生じてしまったとしてもマスター登録者の命令を遵守すれば、その歪みは表出化しないだろう。ただ、ダンジョンという異常環境ではそういったフェールセーフの仕組みも歪められてしまうらしい。


『"陽炎"起動。全力稼働時間を7分05秒に再計算しました』


 "鉄騎" のコアに内蔵されているクォンタムキャパシタ駆動システム "陽炎" が緊急時に於ける一時的制限解除を適用し、膨大な電力を各部に供給し始めた。


 クォンタムキャパシタ駆動システム "陽炎"は "桜花征機" の前衛的試作機構だ。これは光子の量子効果を利用して電力を生産しているが、供給量が余りにも膨大というのが研究課題となっている。そして、この使用を鉄騎は原則禁止されてもいた。

 現在の鉄騎のボディは大電力に伴う高起動の負荷に耐えられないからだ。


 だがここまではいい。

 マスター登録者である所の歳三は二機に逃走を命じた。

 だから速やかにこの場を離れようと、本来は使用を禁止されている機構を稼働させるというのは理に適っている。


 まあ、緊急事態かどうかという判断を自己判断で行い、それを根拠に緊急機構の使用を決定するというのは非常に怪しい挙動ではあるのだが。


『トウソウ!ルートケンサク!ケンサク!…カンリョウ!』


 "鉄衛"のドームヘッドの頂点からヘリコプターのローター・ブレイドに似たアンテナが生え、くるくると回り出し、あっというまに周辺の索敵を終える。


 そして、喚きたてる "鉄衛" を後目しりめに、"鉄騎" は何やら青白く発光しながら戦場を後に…はしなかった。


 あろうことか、歳三の命令を無視して彼を助けに行こうとでもする様に、戦場…歳三と "アルジャーノン" の死闘の場へ流れ星の様に向かっていった。

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まだまだ沢山書いてますので作者ページからぜひよろしくお願いします。
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