表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
しょうもなおじさん、ダンジョンに行く  作者: 埴輪庭


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

127/280

きょくしんまつり②~車中~

 ■


 キャンピングカーは一定の速度で京都へ向かっていた。運転は自動運転なので一同は思い思いに車中の時間を過ごしていた。


「おーい……なぁ、聞いてる?」


 陽キャが尋ねる。視線の先には陰キャ。陰キャはタブレット型端末にかじりつく様にして何かを操作している。


 他の面々についても各々が自分の世界に没入しているようだ。


 ジャージおじさんは指先で冷えた缶ビールを持ち上げながら、窓の外の風景に目を向けている。空いた方の手を握っては開いて、開いては握って、その度にパキパキと音が鳴っていた。


 その音が少し気になった歳三が軽く目をやると、ジャージおじさんの手がボロボロ……というより、古傷だらけなのが目にとまる。


 特に指先から第二関節辺りまでは変色すらしていた。鍛錬かなにかで傷ついたにせよ、異様な傷の付き方である。


 歳三の視線に気づいたジャージおじさんは、申し訳なさそうに手刀を切って、不意に視線を外して、ビニール袋から缶ビールを取り出し、歳三へ差し出した。まぁジャージおじさんの個人所有物ではなくて冷蔵庫に入っていたビールなのだが……。


 ともあれ歳三もジャージおじさんの満面の笑顔に押され、ビールを受け取ってプルを開けた。そしておじさん二人はエア乾杯をし、ビールを飲み下す。


 スポーツ女はヘッドフォンをつけて音楽を聴いており、体が小刻みに揺れている。時折鼻歌らしきものを歌うのだが、その音がどうにも奇妙で、この音を耳にした陽キャなどはほんのわずかに意識が遠のくような心地を覚えた。スポーツ女の声が意識を遠のかせる程に不快なものだったわけではない。むしろ涼やかで、早春の朝を思わせる爽やかな声だ。


 しかしそこは切り替えの早い陽キャ。気のせいだろうと首を振り、近くに座る陰キャを構い倒す。


 車内の様子としてはこんなものである。


 大会を前に五名の参加者は特に緊張する事もなく、思い思いに時を過ごしていた。なんだったら自己紹介すらしていない。


「おーい、何書いているんだよ。暇なんだ、少し話そうぜ……ええと……毛利(もうり) 真珠郎(しんじゅろう)……ってなんかすげぇ名前だな!? 俺は(つるぎ) 雄馬(ゆうま)だ。よろしくな」


 陽キャがStermを陰キャに翳し、検索をかけた。Stermは協会が保有する探索者のデータベースにアクセスができ、カメラで写した相手の事を名簿検索ができるのだ。勿論個人情報全てがあらわになるという様なものではなく、名前、等級、そして登録支部くらいのものだが。


「ふんふん、丙級ね、まあこれも同じだな。ほ~、群馬に登録してるのか。俺は神奈川だ。横浜生まれ、横浜育ち! ……なぁ、聞いてる?」


 剣 雄馬こと陽キャの言葉を、毛利 真珠郎こと陰キャは完全に黙殺している。タブレットになにやら文章を打ち込んでいるようで、陽キャの言葉などは耳に入らないようだった。


「なぁ、何書いてんの」


 陽キャは陰キャの肩越しにタブレットをのぞき込んだ。


 ・

 ・

 ・


 ──古い古い時計がある。どれだけ古いかもわからない、とにかく古い木製の時計だ。木の表面には年輪のような細かい傷が刻まれている。この深い茶色のパティーナが纏う尊厳は、長い年月の中でしか獲得し得ないものだった。この時計は"星の時計"と呼ばれていた。星の時計は降る星の山という高い山の頂上に置いてあり、世界に流れる時間の流れを……


「……ってなんだこりゃ? 小説か? 何々……"小説家になろう"? 小説投稿サイトか? え、お前小説家なりたいの?」


 陽キャの質問に、陰キャは凄く嫌そうな顔をして答えた。

 体の線は細く、肌は白く、いかにも不健康な陰キャという風情の彼だが、その声は外見に似合わず低くどこかドスが利いているというか、雰囲気がある。


「ねぇ、口に出さないでくれよ。恥ずかしいし。後、話しかけないでくれ。気が散って執筆できないよ。一日一回更新しなきゃ読者が減るじゃないか。あと小説家になりたいわけじゃないよ、趣味なんだ。それに、小説家になんかなれないよ。実家の道場を継がないといけないからね」


 陰キャが陽キャに抗議する。

 そこで陽キャは"あ、そうか、そういえばコイツも空手家? なんだった"と思い至る。


「道場を継ぐってすげぇな! 俺は我流だからなァ。お前、ハマ王って知ってる? 地元の先輩なんだけどよ、すげぇ喧嘩が強かったんだ。俺もあの人みたいに強くなりたくってビルから落っこちてみたり、体に火をつけてみたりしたんだけど……って、あれ? 聞いてる? あ、聞いてない感じ? 忙しそう? ごめんな」


 陰キャは再び執筆作業に戻っていた。

 陰キャの横顔は冷然としており、もはや陽キャの如何なる戯言にも応じないという強い決意すら感じる。


 陽キャは少し落胆しながらも、それ以上陰キャに構うのを諦め、次の獲物を求めて車内を眺めまわした……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20250508現在、最近書いたやつ


最新異世界恋愛。ただテンプレは若干外して、父親を裏主人公としました。裏ではヤクザみたいなことしてるパパ。
完結済『毒蛇の巣』


先日、こちら完結しました。47歳となるおじさんはしょうもないおじさんだ。でもおじさんはしょうもなくないおじさんになりたかった。過日の過ちを認め、社会に再び居場所を作るべく努力する。
しょうもなおじさん、ダンジョンに行く



女の子、二人。お互いに抱くのは好きという気持ち。でもその形は互いに少し違っていて
完結済『好きのカタチ』

男は似非霊能力者のはずなのに、なぜかバンバン除霊を成功させてしまう
完結済 GHOST FAKER~似非霊能者なのに何故か除霊してしまう男~

他の連載作


現代ダンジョンもの。もなおじは余りメインキャラが死なないが、こちらはバシバシ死ぬ
【屍の塔~恋人を生き返らせる為、俺は100のダンジョンに挑む】

愛する母に格好いい姿を見せたいがために努力を重ねた天才──悪役令息ハインのマザコン無双伝
悪役令息はママがちゅき

戦場の空に描かれた死の円に、青年は過日の思い出を見る。その瞬間、青年の心に火が点った
相死の円、相愛の環(短編恋愛)

過労死寸前の青年はなぜか死なない。ナニカに護られているからだ…
しんどい君(短編ホラー)

夜更かし癖が治らない少年は母親からこんな話を聞いた。それ以来奇妙な夢を見る
おおめだま(短編ホラー)

街灯が少ない田舎町に引っ越してきた少女。夜道で色々なモノに出遭う
おくらいさん(短編ホラー)

彼は彼女を護ると約束した
約束(短編ホラー)

ニコニコ静画・コミックウォーカーなどでコミカライズ連載中。無料なのでぜひ。ダークファンタジー風味のハイファン。術師の青年が大陸を旅する
イマドキのサバサバ冒険者

前世で過労死した青年のハートは完全にブレイクした。100円ライターの様に使い捨てられくたばるのはもうごめんだ。今世では必要とされ、惜しまれながら"死にたい"
Memento Mori~希死念慮冒険者の死に場所探し~

SF日常系。「君」はろくでなしのクソッタレだ。しかしなぜか憎めない。借金のカタに危険なサイバネ手術を受け、惑星調査で金を稼ぐ
★★ろくでなしSpace Journey★★(連載版)

ハイファン中編。完結済み。"酔いどれ騎士" サイラスは亡国の騎士だ。大切なモノは全て失った。護るべき国は無く、守るべき家族も亡い。そんな彼はある時、やはり自身と同じ様に全てを失った少女と出会う。
継ぐ人

ハイファン、ウィザードリィ風。ダンジョンに「君」の人生がある
ダンジョン仕草

ローファン、バトルホラー。鈴木よしおは霊能者である。怒りこそがよしおの除霊の根源である。そして彼が怒りを忘れる事は決してない。なぜなら彼の元妻は既に浮気相手の子供を出産しているからだ。しかも浮気相手は彼が信頼していた元上司であった。よしおは怒り続ける。「――憎い、憎い、憎い。愛していた元妻が、信頼していた元上司が。そしてなによりも愛と信頼を不変のものだと盲目に信じ込んで、それらを磨き上げる事を怠った自分自身が」
鈴木よしお地獄道



まだまだ沢山書いてますので作者ページからぜひよろしくお願いします。
― 新着の感想 ―
[良い点] おじさんの手刀すこ
[良い点] まさかの、なろう作家!!wwwwww
[一言] 一日一回更新してくださいw
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ