9 謝罪
「佳世、やっぱり新谷君とバスケ部の子、付き合ってないよ」
「えっ?ほ、ほんと?」
「うん、バスケ部の人たちに聞いてみたんだけど、新谷君、付き合ってる人いないって」
「そ、そう……」
「ね?あんたの早とちりだったでしょ?」
「う、うん……」
「だったら!ちゃんと兵藤先輩と話せるよね?」
「うん」
「よし!ちゃんと謝ってきな!」
「うん、ありがとね?」
「いいって!頑張んなよ!」
そうだったんだ……。
私の早とちりだったんだ……。
よかった……。
よかった、けど……。
兵藤先輩に謝らなきゃ。
「坂本!今日、部活終わったなら一緒に帰ろう」
「あ、は、はい。」
「あ、付き合ってるのに、苗字呼びは変かな?」
「え?いえ、な、名前呼びは恥ずかしいので……」
「そうかな?まあ、慣れて来てからでもいいか」
「そ、そうですね」
「どこか座って話せるところにでも寄って行こうか?」
「あ、それじゃあ、あそこの公園で話しませんか?」
「公園?どこかの店とかじゃなくて?」
「はい、あの……ちょっとお話があるんです……」
「そう?まあ、どこでもいいけどね」
「はい、すいません……」
「ほんとにごめんなさい!!!!」
「……」
「あの時はちょっと冷静じゃなくて……」
「……」
「そういうワケなので、先輩とは付き合えません……」
「……あの時の彼が?」
「……はい」
「……そう」
「ご、ごめんなさい!」
「……一つだけいいかな?」
「……はい」
「僕は、ずっと坂本の事が好きだった。坂本が入部して来た時から」
「……はい」
「坂本の幼馴染だったっけ?」
「……はい」
「僕よりもずっと一緒に居たのに、何も行動しなかったのか?」
「……怖かったんです……。関係が壊れるのが……」
「僕が怖くなかったとでも?」
「あっ……」
「僕だって怖かったよ?坂本に振られたら、もう関われなくなる」
「はい……」
「坂本は彼との付き合いが長いから、僕よりも怖さは強いかもしれないけどね」
「……」
「……一度だけでいい。僕に思い出をくれないか?」
「えっ?」
「僕と一度だけ、キスして欲しい」
「そ!それは!」
「……一度だけでいい」
「で、でも……」
「イヤなら突き飛ばしてくれ」
そう言って、兵藤先輩は私の肩を掴んだ。
ど、どうしよう……。
今回の事は、私が一方的に悪い。
だけど……。
どうしようか迷っていると、兵藤先輩の顔が近づいてくる。
早く突き放さないと!
と、兵藤先輩の肩の向こうに瞬の姿が見えた。
え!?な、何で瞬が!?
あ、こんなトコ見られたら……。
瞬がこっちを見た。
目が合った。
「あっ」
小さく声が出たが、瞬から目が離せずに固まってしまった。
兵藤先輩の顔が目の前に。
キス……してしまった……。
そして……瞬に……見られた……。




