5 俺と相原千尋
えっ?相原が、俺を……?
ちょ、ちょっと待ってくれ!
今は何が何だか……。
「ご、ごめん!いきなりこんな事言われても困るよね?」
「あ、いや……」
「でも!ズルいかもしれないけど……どうしても新谷君と仲良くなりたいの!」
「ど、どうして、俺?」
「あ、それは、その……いつもバスケしてる新谷君、かっこいいなって思って……」
「か、かっこいいヤツなんて他にいくらでもいるだろ?」
「そんなことない!!遅刻して先輩から怒られたときも、不貞腐れたりしないで、ちゃんと真面目に掃除してたり、練習に手を抜かないところとか、あとは……」
「わ、わかった!うん、わかったから……」
「あ、うん。そ、それで、急だったのはわかってるし、坂本さんの事があったばっかりだから、返事は今じゃなくてもいいの」
「あ、ああ」
「だけど、考えて欲しいの。坂本さんは兵藤先輩と付き合うみたいだし……」
「う……」
「あ!ごめん!つらいよね?で、でも、今までは私も半分諦めてたんだ……相手は坂本さんだし。でも今なら私にも少しはチャンスあるのかなって……」
相原の表情は真剣そのものだった。
真剣というより、必死……。
俺は、佳世に対してそこまで必死になった事があっただろうか?
ただなんとなく、いつか告白しようと思っていただけだ。
こんな気持ちになるんだったら、もっと早く告白するべきだった。
その覚悟が無かった俺は、こうなるのは当然だったのか?
相原のように、相手に好きな人がいるとわかってて行動するなんてこと、俺に出来るか?
俺の気持ちはその程度だったのだろうか。
「……」
「あっ……やっぱり私みたいな女はイヤ……?」
「えっ?い、いや、そうじゃなくて……相原は凄いなって思っただけだよ」
「え?私が?」
「ああ。……あれ?ってことは、今日の従兄の誕プレって……」
「あ!ううん!その話は本当なんだけど、新谷君を誘ったのは、少しでも新谷君と仲良くなりたいって思ってたから……」
「そ、そうなのか」
「ご、ごめんね?」
「いや、相原が謝ることじゃないよ」
「そう?あ、ご飯、どうする?食べれる?」
「あ、そっか。ああ、少しなら……」
「うん!じゃあ、注文しよう?」
「ああ」
まだ相原が一緒で良かったのかもしれない。
俺一人だったら、佳世の事で頭がいっぱいで、何も考えられなかったかもしれない。
いつもの食欲はなかったものの、少な目ではあるが、メシは食えた。
終始相原は、俺に気を使いながらだったから、俺と同様、味はわからなかったんじゃないかな。
相原には悪いことをしたな。
俺の失恋のテンションに付き合わせてしまった。
「あ、あの……今日は大変だったね?わ、私で良かったら、遊びとか付き合うよ?新谷君には元気出して欲しいから……」
「ああ、ありがとな。そうさせてもらうかもしれないな」
「あ、じゃあ、連絡先交換しよう?」
「あ、わ、わかったよ……」
「私からも連絡していい?」
「ああ、構わないよ」
「新谷君からも連絡してくれたら嬉しいな!」
「う、うん」
笑顔で相原は帰って行った。
明日から、俺と佳世はどうなるんだろう。
もう、あまり関わらない方が良いんだろうな。
俺の、初恋は……。
これで終わりなのか。




