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続・残念だったな。うちの婚約者はそんなことしない。  作者: 雪椿
影も踊った新月 ★残酷描写あり
110/173

6★

 巨大なゴールデンキングビートルに負けず劣らず大きな黒い影が立ちはだかる。不気味な黒い影に突っ込むにはお守りだけでは頼りない。

 退魔グッズもない状態、仕方なく足を止めた魔導具に今がチャンスと数人が呪いを従えて飛び出してきた。


「これ以上の邪魔だてはさせんぞー!」


「強欲な売女めっ! 天誅じゃー!」


「チッ。お嬢様、こちらへ」


 舌打ちをするとジオーネはイザンバを引き寄せた。そして、そのまま敵に向かって発砲する。

 ジオーネは器用な事に右腕でイザンバの顔面を胸元に収め、左手で銃を構え人ならば通常弾を、呪いや死霊ならば銀の弾丸をと相手によって右手に持つ銃と素早く持ち替えて撃っている。

 しかし、いくら素早いとはいえタイムロスがある。その度に大きな黒い影に隠れられて弾が通らず苛立ちを募らせた。

 その様子を傍観していたマゼランがふと声をかけた。


「ねぇねぇ、メイドちゃん」


「今忙しい! 邪魔をするなら殺すぞ!」


「うん。それは分かってるんだけど……婚約者ちゃんが死にそう」


 そう言われてハッ! とした。ジオーネは目の前の敵に集中するあまりすっかり力んでいたようだ。

 最初は視界を隠す程度だったのに、今やイザンバの顔面は胸に埋まっている。

 すぐにイザンバから腕を離すと彼女は乳圧により止められていた呼吸を再開した。


「ぷはっ!」


「申し訳ございません! つい離すまいと力がこもってしまい!」


「だい、じょぶ、です……。私は、今……世の男性が、夢見る、楽園を……みてきた、だけですから……」


 荒い呼吸を繰り返しながら、新鮮な酸素を肺に送る。

 さて、空気を読まないマゼランは気になっていたもう一点について尋ねた。


「ねぇ、さっきから銃持ち替えて撃ってるよね?」


「霊魂に効く銀の弾丸と人用の通常弾を使い分けているだけだ。銀の弾丸には限りがある」


「ふーん。じゃあさ、このお守り持って撃ってみてよ」


 はい、と返されたジオーネのお守り。疑いの眼差しを向ける彼女にマゼランは自身の見解を述べた。


「さっきもオレがお守り持った手で触れただけでしっかり効いてたし、メイドちゃんなら婚約者ちゃんを守る気で撃てば大丈夫だと思うんだよね!」


「お前、こんな時にそんな不確かなことを……」


「ダメだったら貴様の脳天を撃ち抜く」


 止めようとするクロウに被せて、ジオーネはその提案に乗った。

 例えばこれが彼の知的好奇心を満たす為であっても、効果があるのならば御の字だ。ダメならば——マゼランの頭に風穴が開くだけである。


「アハハ! オッケー! 帽子脱いでおでこ開けとくね!」


「いや、笑い事か! てか、メイドさんも流石に同僚を目の前で撃つのはやめてください!」


 クロウの懇願を二人はサラリと流す。ハラハラとしながらも見守るイザンバを背に庇い、お守りと銃を重ねて向かってくる呪いに試しに一発。

 するとどうだろう。通常弾は淡い紫銀を纏い、銀の弾丸と同じく呪いを祓った。目を見張る三人、マゼランは一人検証結果にホクホクだ。

 そして、ジオーネはニッとその口角を上げた。


「お嬢様、ありがとうございます。これならすぐに終わらせられます」


「え?」


 そう言ってジオーネが谷間から取り出したのはサブマシンガン。そんなモノも入ってるのか、と感心したイザンバは谷間の収納力にすっかり慣れたようだ。

 しかし、この二人はそうではない。あんぐりと口を開けるクロウの隣で、取り出す瞬間を見たマゼランの瞳がキラキラと輝いた。


「ねぇねぇ! それどうなってんの⁉︎ 明らかに胸と銃の大きさとか合ってないじゃん! ちょっと頭突っ込んで確かめていい⁉︎」


「いいわけあるか! 羨ましいこと言うな!」


 おっと、やはり谷間にはロマンが詰まっているようだ。

 うんうんと頷いているイザンバだが、果たしてマゼランのいう収納力に対してか、それとも常識的なクロウの発言にか。

 右手にお守り、銃と重ねるとジオーネはイザンバに向かって告げた。


「目を瞑ってください」


 それは彼女なりの気遣いで。どうしてうちの暗殺者(ごえい)はこんなにも優しいんだ、とイザンバが困ったように、嬉しさを堪えるように眉を下げた。


「大丈夫。ちゃんと見届けます。だから、ジオーネも遠慮しないでください」


「かしこまりました」


 互いにその想いを汲んで。

 ギラリと紅茶色の瞳を光らせて、ジオーネは人も呪いも死霊も次々と撃ち抜いていく。

 蜂の巣のように穴が開く人の体。そこから流れていくアカを、消滅する死霊を、震える体を抱きしめながらイザンバは目を逸らさずに見つめた。

 そして、最後に残った大きな黒い影。さてどうするのかと全員が見守っていると、谷間から新たな武器が取り出された。


「……えぇぇぇぇええっ!!!???」


 三人から驚きの声が上がるのも仕方がない。取り出されたのはサブマシンガンよりも大きなバズーカ砲だ。


「ねぇー!! ほんとソコどうなってんの!!?? 脱いで見せて!」


「マゼラン様アウトー!」


「アウトだー! 逮捕だー! 馬鹿野郎ー!」


 大興奮のマゼランは今にもジオーネに飛びつきそうだ。

 腕で大きくバツを作ったイザンバと発言者を羽交締めにしたクロウが続けてツッコむ羽目になったではないか。


 騒がしい外野に無視を決め込んで、噛み付く獲物を定めた口元は一人愉しげに弧を描く。

 発射された砲弾は紫銀と共に黒い影に食らいつき、あたりに爆破音という名の咆哮を轟かせる。強烈に、甚大に。

 大きな音に耳を塞いでいたイザンバの前にジオーネは跪いた。


「お嬢様、あなたはやはり普通でも平凡でもありません。ただの弾にこのように退魔の力を付与されたのですから」


 紅茶色の瞳は尊敬を讃えて。


「ご主人様の唯一。どうかその地位に、力に、知識に、胸をお張りください」


 小さく縮こまる彼女の自尊心に呼びかける。

 じわりと温まる心に、けれどもまだ大きく頷くには自信が足りなくて。


「……——努力、します」


 それでも瞳を揺らしながら、イザンバは初めて前向きな言葉を口にした。




 イザンバたちが広場に到着すると、ちょうどヴィーシャも追い付いた。

 いつもは明るく楽しい広場が物々しい雰囲気なのは、この霧のせいか、それとも多くの騎士がいるからか。

 しかし、空気の重さもこの男には関係ない。


「あ、首席ー!」


「マゼラン、どうなされた?」


「面白い事あったんだけど聞きますー⁉︎」


「お聞かせくだされ!」


 ファブリスを見つけて話し出した。実に楽しそうである。緊張感? 二人の好奇心の前では無力なのだ。


「あの二人はほっといて行きましょう」


 ゆるい雰囲気に呆気に取られた女性三人をクロウが促した。そこからすぐに目についた一際存在感のある騎士の姿。


「イザンバ嬢」


「スルーマ将軍様。ごきげんよう」


「うむ……。か弱きあなたに頼らざるを得ない我々の不甲斐なさを許して欲しい。そして、感謝を。あなたのお守りのおかげで我らは民を守ることが出来ている」


 そう言ってグランが敬礼すると、他の騎士たちもそれに倣った。

 お守りの数は少ない。この場にあるのは護衛たちの分を除けば騎士団長、魔術師団長、防衛局長のものだけ。

 たった三つ。それでも呪いや死霊に対して指を咥えて見ているだけでなくなったのだから有り難い、とグランは思う。

 ちなみにゴットフリートのものがここにある理由は以下の通り。


「お前は自力で祓えるだろう。民を守る騎士に貸し出せ」


 とグランが脅し、もとい借り受けたからだ。

 ゴットフリートも義娘からの贈り物だからと渋ったが、民のためならば仕方なし。泣く泣く「汚すな、破るな、失くすな」と脅し返した。

 そして、グランも自らお守りを持って王都を走り回り、残りの二つは順に騎士たちの手を渡り、呪いや死霊と相対していたのだ。


「……イザンバ嬢……」


 大勢の騎士に敬礼され、身を固くしていたイザンバの背後からまるで幽鬼の如き声をかけられ、彼女の肩が大きく揺れた。

 恐る恐る振り向けばそこには以前とはすっかり変わり果てた姿のこのお人。


「デヤンレ元帥様……?」


 髪肌に艶はなく華々しさは枯れ、目の下には濃い隈を作った今にも倒れそうな魔術師団長だ。


「ごきげんよう。元帥様はその、随分とお疲れのようですが……」


「ふふふふふふ、大丈夫だよ。ちょっと魔力使いっぱなしで三徹しただけだから」


「それは大丈夫とは言えないと思うのですが。あの、魔力回復薬飲まれますか?」


「あははは、ありがとう。でも…………今は瓶すら見たくないかな」


 レオナルドは弱々しい笑みを引っ込め、そっと視線を遠くへやった。そして、その気持ちにイザンバはしみじみと返す。


「それは……分かります」


 なにせ三徹だ。一体何本飲んだのか。

 疲労と睡魔でふらふらと揺れるレオナルドの体をグランが首根っこを掴んで支えた。


「お前はもういいから寝ろ」


「……説明と、発動を、見届けないと……私が、寝るわけには……」


「寝ろ。邪魔だ」


「いやだ……」


「絞め落とされて運ばれるか、自分で歩いて寝に行くか。今すぐ選べ」


「チッ、脳筋が……」


 しかし、グランはふんと鼻を鳴らすだけでいつものように相手にしない。折れたのはレオナルドだ。


「分かった……向こうで座る」


 自身の副官に目配せをすると彼は心得たようにレオナルドに付き添った。

 その道すがらにイザンバがあるモノをみつけた。

 それは極彩色の見事な神輿で、その奥には破り捨てられた刺繍。そして、褐色の肌に群青の髪の痩せた女性が座り込んでいた。

 彼女は神輿にもたれ、その目はぼんやりと中空に向けられている。


「ああ……アレは器だ。だが、イザンバ嬢は気にするな。アレはこちらで処分する」


 グランは何でもないように言うが、イザンバとしてはなんとも返答に窮する。

 だが、気にするなと言われたのならば彼女は無理矢理にでもそこから視線を引き剥がすしかない。


「イザンバ様、ごきげんよう」


 次いでかけられた声の方を向けば、一人の女性騎士様がいらっしゃるではないか。軍服を纏い騎士の礼をする彼女にイザンバは淑女の礼(カーテシー)を。


「ビルダ様、ごきげんよう」


「元帥に代わり私が説明させていただきますわ。さぁ、こちらへ」


 軍服姿のビルダはそれは凛々しく、イザンバはつい見惚れてしまった。お嬢様、とヴィーシャに突かれ、慌ててビルダの後に続く。

 そして、案内された場所には八芒星の魔法陣が刺繍された二メートル四方の布が置かれていた。

 ビルダはイザンバを魔法陣の前に誘う。


「さぁ、この魔法陣の上へ。これは中心に立った者の魔力を増幅・拡散させる術式ですので安心なさいませ。同じものが王都を囲うように八つ設置してあり、起点であるこの魔法陣に共鳴いたします。そして、聖なる浄化の炎で王都を覆いますわ」


 イザンバも護衛たちも静かに魔法陣を見つめてビルダの言葉に耳を傾ける。


「防衛局の魔術師たちが大急ぎで用意したものです。元帥をご覧になってお分かりかと思いますが、今は魔術師が全員魔力を使い果たした状態なんですの」


 成る程、マゼランが言ったミイラとは言い得て妙である。

 魔術師団総出で古の手法に倣い魔力を込めて不慣れな刺繍をし続けたのだ。しかも九枚も。

 書き込まれた術式の一文字でも間違えれば意味を成さないのだから、それはレオナルドと同じく精魂尽きた事だろう。よくよく見れば広場の隅っこで横たわる魔術師が何人かいるのだから。

 これが防衛局からのサポート。そして……。


「イザンバ様ー!」


 騎士の合間を縫い、駆け寄ってきた大小の影。


「……どうしてここに……」


「今は僕たちも護衛だよ。ここからが本番だしね」


「イザンバ様。どうぞご自身を、そして主の思いを信じてください」


 普段は別の仕事をしているリアンとファウストまでも護衛として合流した。

 ほら、コージャイサンは守るとの言葉通り、たくさんの手助けを用意してくれている。


 ——だから、大丈夫。


 イザンバは周囲の人に淑女の礼(カーテシー)をすると、背筋を伸ばして一歩を踏み出した。

 中心で膝をついたイザンバの魔力を感知した魔法陣と繋がった縁。彼女は胸の前で手を組み目を瞑る。


 ——祈るように、(こいねが)うように、心を鎮めて


 魔法陣の影響なのだろうか。まだ呪文も唱えていないうちからその清廉な空気と温かな光が溢れ出た。

 神聖な空気に誘われるように向けられる騎士たちの視線。

 けれども、それは彼らだけではない。暗闇の中に浮かぶ光にぼんやりとしていた群青の瞳も引かれた。

 光は心を刺激する。それは内側に秘めた生きる力であり、そして欲望である。


「…………妾の……モノだ。…………権力(くに)も、財宝(かね)も、人間(あい)も…………すべて…………全て……妾のモノだっ!」


 最初は本当に小さな声だった。だが、呟くうちにギラギラと群青は欲を滾らせた。

 そして——欲は呪詛(ねがい)を呼ぶ。どこから引き寄せられてきたのか大小の様々な呪い。

 食い合い、(まじ)り合い、麻薬と呪詛に侵された体に取り込まれて一つになったものをなんと呼ぼうか。

 歪に曲がった角、三対の腕、蛇のような尾。広場に大きく影を落とすそれは獣とも魔獣とも違う(おぞ)ましく、禍々しい悪意、害意、敵意の塊だ。


 呪いは異形となったが、悪意を増幅された願い主も死霊も同じく光に釣られてくる。

 広場は一気に緊張感に包まれた。


 最初に動いたのは異形だ。右側にある腕の全てを大きく振りきり、空気を激しく割いた。

 その手は魔法陣の中にいたイザンバには光が結界となり届かなかったが、風圧だけで多くの騎士を、そして護衛たちを薙ぎ払ってしまう。

 目の前で散り散りに飛ばされた様子に乱れる心。溢れていた光は消え、懐に入れた相手を失うほどの脅威にヘーゼルが恐怖に揺れた。


「みんな……っ!」


 無事を確かめたい思いから今にも駆け寄って来そうな彼女を。


「————集中っ!!!」


 ヴィーシャが一喝する。


「人の心配してる場合ちゃうやろ! あんたがせなあかん事は何や!」


「慌てるな! 敵はあたしたちが止める!」


 ジオーネも。


「大丈夫! 僕たちはイザンバ様より強いから!」


 リアンも。


「自分達に構わずお勤めを果たしなされ!」


 ファウストも。


 傷つこうが、倒れようが、立ち上がる。ただ主命を全うする、その為に。

 そんな彼らの姿にイザンバは自らの両頬を叩き気合を入れた。自分だって、と。ここで踏ん張らなけば女が廃る!


「ん……ええ顔や」


 それを見て護衛たちは満足気に頷いた。

 そして、それぞれの瞳が敵を捉える。腕と尾を振る異形に光を求めて彷徨う死霊。そして、悪意に囚われた願い主。潰す敵を何と気前よく放出してくれるのか。


 スカートが破れたせいで珍しく素肌を見せるヴィーシャと谷間から新たな拳銃を二丁取り出したジオーネが背を合わせた。


「ジオーネ、そっちは任せたで」


「ああ、言われなくても。ヴィーシャ、お守りを鞭と一緒に持てば呪いも死霊も倒せるぞ」


「なんそれ。ええこと聞いたわ」


「だろう? よし、行くぞ!」


 獣は嗤う。その顎門(あぎと)を大きく開いて。

 女性陣が地を蹴った頃。拳を鳴らすファウストと最硬度の鋼線(ワイヤー)を袖から垂らすリアンは横に並んでイザンバへの進路(みち)を塞ぐ。


「控えおろう。イザンバ様がお役目の最中だ」


「無理矢理通るならその首、僕らが貰うからね。って言ってもその頭じゃ理解できないよねー」


「それでは仕方がないな、リアン」


「そうだね、ファウスト。全部まとめて狩り取るよ!」


 鬼は嗤う。底なしの(くら)がりから手を伸ばして。

 もちろん騎士たちも応戦する。悪意に呑まれたとはいえ元は只人。鍛え抜かれた騎士が制するのに困る相手ではない。


 イザンバは一人、祈りの形を取る。


 ——集中。集中。集中……。


 そう思えば思うほど、周りの音が気になってしょうがない。

 漂う血の、死の匂いに体震えてしょうがない。

 それでもゆっくりと呼吸を繰り返し一点を目指す。そう、本を読んでいるときのように、お守りを作ったときのように。

 彼女の心は徐々に静けさを取り戻し、再び魔法陣から光が灯った。

 しかし、それは同時に敵方にイザンバの位置を伝える事になる。異形は再びその矛先を彼女に定め、全ての腕で潰しにかかった。


「させるかぁぁぁ!!」


 だが、それをお守りを持つ者たちが防いだ。

 とは言え異形の見た目に比例した一撃は大層重く、地を抉り、小さき者を弾き飛ばす。手応えのなさに異形の口元が愉しげに歪む。

 けれども、拳二つ——持っていかれた。

 その位置に立っていたのはファウストとグランだ。追撃に備えた二人は鬼気迫る表情で、異形は拳を修復しながらも無事な四本を振り下ろした。


「ふんっ!!」


 二倍になった攻撃の重い音。足元が陥没してもファウストは拳で、グランは剣で、筋力を最大限に引き出し踏ん張った。


「っ……この程度で」


「潰せると思うなっ!」


 だが、大きな衝撃は周りの騎士たちの足場も揺らす。彼らの注意が散ったその隙を突かれた。


「我らの宿願のため!」


「その首、討ち取ったりぃぃい!!!」


 騎士の防衛網を掻い潜った残党がイザンバ目掛けてその凶刃を振るったのだ。


「お嬢様っ!!」

「イザンバ様っ!!」


 耳に届く焦りの声に、けれどもイザンバの体は動かない。


 ——あ……。なんか、ゆっくり?


 死が迫るとスローモーションに見えるんだな、なんて呑気に考えて。

 なす術のないままでいると、迫ってきた凶刃が突然止まった——肌を刺すほどの冷気と氷の中に。

 余波で凍った空気中の水分がまるでキラキラと星のように舞う。数瞬、世界から音が消えたように感じたのは緊張感と冷気による錯覚だろうか。

 近づいてきた馬の嘶きにイザンバは顔をそちらへと向けた。


「悪い。遅くなった」


 その声だけで、ああ——、と胸がいっぱいになる。

 込み上げる熱さに目の縁を濡らしたヘーゼルが、何よりも綺麗な翡翠を見つけた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 流石はコージャインサン様ヒーローはヒロインの危機に 駆けつけるのですね 此れから二人で無双してください しかしジオーネさんあなたのお胸は某猫型ロボットのポケットですか!
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