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第四章:祝! 人間化!!2


「……まさか、こんなことがあるなんてね」


 それからいい加減しびれを切らしたのか、女性はわざわざ呼びに戻って来てくれた。


 だが、そこにいたのはリルと全裸の少女が一人という構図。


 女性は驚きのあまりに状況を冷静に理解しようとしてくれて、今に至る。


 通された家の中、そのリビングに当たる場所に招かれた。


 艶のある木目調の丸いテーブル、それを囲うように用意された三つの椅子。それぞれが席に着くも、これといった会話はない。


「今さらだけど自己紹介は必要かね」


 ここの家主である女性からの視線に、無言で首を縦に振る。声が発せないというのもあったが、意思の疎通がとれるだけでも良好だった。


 特にリル。


「じぃ~」


(……あ~見られてる)


 距離をとるように椅子の背に隠れ、こちらをジッと観察している。


 そのことに女性も気づいているのだろうが、あえて触れずに話を進めていく。


「あたしの名前はアークエル、見ての通りこんな辺境の地に住む魔女さ。至る所では【雪原の魔女】なんて名前が独り歩きしているけど、好きに呼んでくれて構わないよ」


 これで終わりと女性――アークエルは背凭れに深く腰を落ち着かせる。


「ほら、嬢ちゃんの番だよ」


 アークエルは視線をリルに向けるも、まるで気づいていない。


「じゃあ、そっちの嬢ちゃんといきたいところだけど……」


 嘆息したアークエルからの視線だったが、残念なことに言葉が発せないというのも知ってもらっている。


 そうなると、これ以上の話が無くなってしまう。


「まあいい、あたしは少しやることができたから失礼するよ」


 おもむろに席を立ったアークエルは、気だるげな雰囲気を隠さず視線だけを向けてくる。


(……やっぱり何か)


 明らかに向けられる興味と好奇心。


 リルの幼さとは違った、大人びた知性を含ませた様々な感情。そこはかとない身の危険をヒシヒシとだが、悪意というものは感じられない。


「あとの事はこの子らに任せるから、好きなだけここにいるといい」


 そういって、アークエルはリビングを後に出て行ってしまった。


 残されたのは、リルと胴の細長い数匹の魔物。


 ただ座り続けているのも状況の進展どころか、第一に再確認しておくことがあった。


(……アークエルさんの魔物だし、リルを襲ったりしないよね?)


 リビングにリルを残すことに気がかりだったが、玄関先にあった姿見鏡の前に向かった。


(これが、私……?)


 この姿、アークエルから投げて渡された懐中時計のようなモノに触れてからの今。


 どこからどうみても人間の姿をしている。


 リルのように幼くはなく、アークエルのような大人びた雰囲気はない。


 どちらかといえばリルとアークエルの要素を掛け合わせ、割ったかのような少女の姿をしていた。


 頭髪は毛色と似た白銀色をしていて、襟足部分が少し長めなウルフヘアとでもいうのか。吊り上がった目じりに、金色の双眸。ほっそりとした両手足、他から覗く肌はやけに白く感じる。


 だからといって身体的な支障はなさそうだ。


 この姿になってから何も着ていなかったのもあって、アークエルが用意してくれた黒のワンピース。


 そして、首から下げた懐中時計のようなモノ。


 アークエル曰く、肌身離さず所持していないと元の――狼の姿に戻ってしまうらしい。


 ただ、頭部にはえた三角の耳と、臀部からの尻尾は隠せていない。特に意識していないが、尻尾は左右によく揺れる。


(……リル?)


 姿見鏡越しとはいえ、リビングの扉を少しだけ開けて様子を窺っているリル。こちらをジッと見ていることが伝わるほどの熱量が、翠眼の瞳に宿っていた。


(アークエルといい、やっぱり珍しいのかな)


 どうしたものかと悩みつつ、姿見鏡で全身を確認する素振りをとった。


 するとどうしたものか、リルの視線が左右に揺れて何かを追っている。


(……もしかして?)


 何となくという直感が、今のリルが興味を注いでいる対象がわかった気がした。


 それを確信に変えるため、尻尾を意識的に左右に振る。


 ゆっくりと、時には激しく、右にと思わせての左に。


(ああ、やっぱり)


 そんな尻尾の動きに合わせてリルの視線が動き、いつしかリビングの扉に隠れていたことすら忘れていた。


(このタイミングなら警戒されないかな)


 姿や経緯はどうあれ、しばらくの間リルと行動を共にしてきた。


 特に危険だったかといえばそうでもなく、あてもなく【雪原の魔女】を探すというだけのもの。


 言葉が通じないながらも、いつも屈託なく呼びかけてくれた。


『ワンちゃん』


 という、リルの声が耳に残っている。


 それが今となっては【雪原の魔女】を探すことが叶い、何故か人間の姿を手に入れた。


 そのせいで生じた物理的な距離感に、少しだけ心が痛む。


 いきなりだったというのもあるだろうが、リルが受け入れていたのは元のいち魔物だった狼の姿。


 こうして姿が変わってしまっても、リルの中ではそのままでいてほしかった。


 首から下げた懐中時計のようなモノの表面に触れ、覚悟を決めて振り返る。


「あっ」


 急に振り返った瞬間の、リルの驚いた表情。


 まるで悪さがバレたような、なんとも予想通りの反応に頬が緩む。


 リビングに逃げだすかもしれなかったが、リルは少しだけ顔を俯かせたまま立ち尽くす。


(こんな時、声がでればな……)


 喉元に手を触れたところで、生憎と言葉を発してくれない。


 魔物の姿をしていた時は、何となくだが意思の疎通がとれていた気がする。


 けどそれが、今となってはできないことに歯痒さがあった。


 再び沈黙という間。


 かと思いきや、リルの恐る恐るといった様子で視線を向けてくる。


「……ワンちゃん、なの?」


 そんな問いかけに、大きく瞼を見開いて首を縦に振った。


「ワンちゃん」


 それだけで良かったのか、リルが再び呼びかけてきた。


 それにただ、首を縦に振る。


(そっか、リルは確信が持ててなかったんだ)


 駆け寄ってくるリルと視線の高さを合わせるようにしゃがみ込む。


「ワンちゃん」


 そう呼びかけてくるので、再び首を縦に振る。


「ワンちゃん?」


 けど次は、リルが小首を傾げて呼びかけてくる。


「ワンちゃんはワンちゃんだけど、今の姿はワンちゃんじゃないからどうしよう」


(……確かに)


 至極真っ当な意見に感心してしまう。


 いくら幼いとはいえ、その辺はしっかりと考えられる年頃なのだろう。


 とはいえ、いい案があるわけでも、言葉を発せないからどうしようもできない。


「むぅ~」


 考え込むように腕を組むリルの姿に、目を細めて見つめ続ける。


(……何だろう。魔物の姿だった時以上に距離が近いかも)


 気づけば身体が、両腕が動いていた。


「……ワ、ワンちゃん?」


 リルの事を抱き締めていた。


 華奢とまではいわないが、幼く未発達なリルの身体。背中に回した両腕に少しでも力を込めたら背骨を折ってしまいそうで、添える程度に抱き締める。


 急だったのもあって最初は戸惑っていたリルの様子だったが、何事もなかったかのように距離を詰めてきた。


「ワンちゃん」


 耳朶を打つ、リルの包み込むような優しい声音。


 たったそれだけで、ついさっきまで感じていた気持ちが吹き飛ばされていく。


 魔物だった頃は足もとでピョコピョコと元気が良く、小さくて無邪気な存在として見守ってきた。


 けどこうして人間の姿を手にして、明らかに距離が縮まっただろう。


「けど、ワンちゃんって呼び方は考えないとね」


 困ったようなリルの声音に頷くしかなかった。


 しばらくそうしていても良かったが、なんともタイミングが悪い三大欲求。


 グゥ~。


 不意にお腹が鳴った。


 その主がリルではないという恥ずかしさ。


「お腹、空いたの?」


 誤魔化しようのない事実に、首を縦に振るしかなかった。


 いつもだったら魔物を探して狩ればいいのだが、生憎と周囲一帯にそういった存在を確認できない。


「キュキュ」


「……どうかしたの?」


 そう。


 この魔物のような、胴の細長い存在は該当しない。


 甲高い鳴き声を発しながらリルの足もとをチョロチョロと動き回り、何かを必死に訴えてくる。


(……なんだろう。あんまりリルに馴れ馴れしくしないでほしいな)


「なに、なに? どうしたのってば」


「キュキュ」


 腕の中にすっぽりと納まっていたリルが離れていき、割って入ってきた魔物のような存在にモヤッとしてしまう。


 リルを揶揄って困らせたいわけでも、遊んでほしいからじゃれついている様子じゃない。


 ただ素早い動きでリルの手から逃れ続ける。


「もぉ、もぉお! 待って」


 それを躍起になって捕まえようと、リルは夢中になり始める。


 その姿は無邪気ではあったが、さらにモヤっとした気持ちを増していく。


「んっ!」


 気づけばリルと同様に捕まえようと手が出ていた。


「キュキュ」


 だけど捕まえることはできず、むしろ見上げるように甲高く鳴いてくる。


(これ、煽られたよね……)


 妙な闘争心が内側から湧き上がってきたが、魔物のような存在はリビングの方へと走って行ってしまう。


「な、なんだったんだろうね?」


 嵐のように訪れ、すぐに去っていく。


 首を傾げるリルと顔を見合わせ、同じ動作をした。


(あの時アークエルも『相手にするほどじゃない』って言ってたな……)


 お陰で一つ、明らかにあの存在とは馬が合わない確信だけは得られた。


 グゥ。


 そして再びお腹が鳴ってしまった。


「そうだね、何か食べないと」


 咄嗟にお腹を押さえたが、さすがに誤魔化せない距離にリルがいる。


 だからといって揶揄ってくるわけでもなく、真剣な様子で考えてくれた。


 あくまでここは他人の、アークエルの住まいだ。


『好きなだけいるといい』


 と言われたが、勝手に食べ物を漁るのは失礼どころか、非常識な気がした。


「キュキュ」


 するとまた、魔物のような存在がリビングの方から姿をみせた。


 今度はリルに近づくどころか、リビングの扉前から動かない。


「やっぱりなにかあるのかな?」


 視線を向けてくるリルに、どうしたものかと悩んで立ち上がった。


(リルに被害を与えるわけじゃなさそうだけど、こういった時は前に立ってあげないと)


 置いていくわけじゃないという意志を伝えようと、リルの手に触れる。


「うん、いこっか!」


 言葉を発せなくとも、行動で察して伝わってくれる。


 それがこの人間になってからではなく、魔物だった時とは変わらない。


 ほっそりとしたリルの小さな手に握られる。


 そんな小さな存在を導くように、リビングへと向かった。


「うわぁ」


 リビングの扉を開いた瞬間、驚くリルと同様に大きく目を見開いてしまう。


(……いつの間にこんな準備をしたんだろう)


 アークエルを含めた顔合わせをした時は、テーブルに人数分の飲み物が注がれたカップしかなかった。


 けど今は、目を疑うほどの料理が並べられている。


 メインともいえるテーブルの中央には、こんがりと表面が焼かれたお肉の塊。それを胴長の魔物のような存在が器用にナイフとフォークを持ち切り分けていく。そこから覗いたのは、綺麗な紅い断面。


 それだけで空腹をそそるのだが、他にも料理がある。


「キュキュ」


「食べていいの?」


 胴長の魔物のような存在の内、一匹がテーブルの上に後ろ脚で座って手招きしてくる。


 空腹というのもあって願ってもなかった。


 ただ、安易に飛びついていいモノか。


 本能とでもいうべきか、自然と生きていく上で身についた警戒心が発動してしまう。


「ん~美味しいよ!」


 だが気づけば、リルはするりと手から離れて席に着いている。


 しかも頬をパンッパンに膨らませ、これでもかというほど美味しさを身体で表現していた。挙句の果てには口元はソースで汚れていて、食べる手も止めようとしない。


(……リルって、こういう娘だったよね)


 ついさっきまで抱いた警戒心がバカバカしく思えるほど、リルは清々しい食べっぷりを繰り広げていく。


「ねえねえ、一緒に食べようよ!」


 リル用に切り分けられたはずの取り皿を手渡そうとする勢いに、申し訳なかったが首を横に振ってしまった。


 それを見て目を丸くするリルだったが、次の行動に表情が華やいだ。


 丸いテーブルというのもあって、向かい合うことはできなかったが席に着く。


「美味しいね!」


 テーブルから身を乗りだしてくるリルの勢いに、自然と頬が緩んでしまった。


(さて、何から食べようかな)


 よく食べるリルにかかりっきりの、胴長の魔物のような存在が数匹。小柄な見た目から動きも素早いが、かなり世話焼なのか気配りも細かい。


 テーブル中央に置かれる肉の塊は、リルの小さな口でも食べやすく切り分け。最初に使っていた大き目のナイフとフォークが、一回り小さくなっている。取り分けで汚れた皿の交換もマメで、次にリルが食べようとする料理を察して先回りした用意と。


 ただひたすら食べることに専念しているリル。


 立場が逆の、餌付けに近い構図だった。


(作った? 側としては、リルの食べっぷりは気持ちいいんだろうな)


 そんな微笑ましい光景を目の当たりにしつつ、近くで控えている一匹に視線を向ける。


(なのにコイツときたら……)


 視線に気づいた一匹は、ヤレヤレといった様子で動きだした。


 ついさっきまでテーブルの上で横になり、寝ていたのではないだろうか。


 ようやく起き上がって、視線を向けてくる。


(……指差せば取り分けてくれるのかな)


 言葉が発せないというのと、頼み方の勝手がわからない。


 リルの世話を焼く数匹のように動いてくれれば楽なのだが、見上げてくるだけ。


(てか、さっき玄関先で煽ったヤツか?)


 睨みつけるように視線を向け、しばらく膠着状態が続いた。


 すると、ようやく向こうが動いてくれた。


(って、皿ごと!?)


 ご丁寧にも、目の前に置かれていた取り皿を下げてくれた。


 だからといって肉の塊を乗せた一皿を引きずってくるのは、予想どころか取り分ける気を感じない。


 最終的には後ろ脚で座って腕を組み、食べろと言わんばかりの態度を示してくる。


(コイツ、絶対見下してるだろう……)


 あまりの対応に掴みかかろうかと思ったが、鼻腔を擽る美味しい匂いに意識が引っ張られてしまう。


(……ま、まあ、料理を準備してくれたし)


 どこか釈然としない気持ちを抱きながら、肉の塊をひと齧り――。


「キュキュ!」


「んっ!?」


 といきたかったが、小さな躯体で顔面に体当たりされた。


「キュキュ! キュキュ!!」


(……なんだろう、怒ってるのはわかるけど)


 テーブルの上で短い後ろ脚で地団太を踏む一匹だったが、生憎と何を伝えたいのかハッキリとしない。


(確かに勢いよく齧りついたけど、食べ方に問題でもあったのかな?)


 口の周りに付いたソースを手の甲で拭いながら、怒り狂う一匹を見つめ続ける。


「キュキュ! キュキュキュキュキュ!!」


「……?」


「キュキュウッ~~~!!」


 さっきまで怠けていたとは思えない怒りっぷりだったが、最終的には伝わってこないので小首を傾げてしまう。


 それが更なる火種をなったようで、リルの世話を焼いていた数匹も集まってきた。


「……どうかしたの?」


 リルの食べる手を止めて視線を向けてくる。


 テーブルの上では怒る一匹を宥めているのか、数匹がかりで取り押さえていく。


 そんなちょっとしたじゃれ合いのような光景を目の当たりにしつつ、置かれている肉の塊に齧り付こうとした。


「メッ、だよ!!」


「っ!?」


 まさかのリルが声を荒げたことに、瞳を丸くさせる。


「食べる時はナイフとフォークを使うの」


(あ~そういう事か)


 歯形が残った肉の塊を見下ろす。


 見た目に反した柔らかいお肉は、一口齧れば肉汁が溢れてきた。そのまま二口、三口と食べ進められる美味しさ。上からかけられたソースも相まって、脂っこくすぎなかった。


 感想としては、平凡ながらもそう伝える事しかできない。


 だが、食べ方に問題があったようだ。


(とはいえ、ついさっきまで魔物の姿だったんだよなぁ……)


 仕方ないといえばそうなのだが、非常に申し訳なく感じる。


 未だに怒り狂う魔物のような存在は、確かに取り皿だけを下げた。そこに直接肉の塊が乗った皿を持ってきて、偉そうにも食べろといった態度。


 ただ、ナイフとフォークは下げていないのだ。


 それを使って食べるのが当たり前だったのだろう。


 そこでまさかの、手を使わずに齧り付く食べ方が癇に障ったようだ。


 チラチラと、リルの世話を焼いていた数匹からの視線も刺さる。


(……なんか、ごめんなさい)


 リルとの対応差に不満を感じなくもなかったが、内心で謝りながら恐る恐るナイフとフォークを手にした。


 不慣れというぎこちない動作で、肉の塊にフォークを刺してナイフで切っていく。


 リビング内は、その所作を見守るためか静寂が保たれていた。


(ひ、一苦労だな)


 たったそれだけの妙な疲労感を抱えながら、不格好ながらも切り分けることに成功した。


 それを大きなひと口で頬張る。


 一口噛み締めるたびに肉汁と脂身が広がっていき、最初の感想と美味しさは変わらない。


「キュキュ」


 ただ、一気に対応が変わった。


 ついさっきまで怒り狂っていた一匹が、偉そうな態度で腕を組みながらも見上げてくる。


(ま、まだ、どこかお気に召しませんか……?)


 何かを伝えてくるような視線に眉根を寄せると、肉の塊が乗った皿の縁を鼻先で指示してくる。


「キュキュ」


 その次に肉の塊へと視線を向け、再び見上げてきた。


 そんな一連の動作に思考を巡らせ、相手が伝えてこようとした意図を汲み取る。


(そういうことか?)


 複数の視線に晒されながら、切り分けた肉の切れ端を液体に浸して頬張った。


「っ!?」


 口いっぱいに広がる肉汁と脂身だったが、指示された液体が合わさったことで変化が生じた。


 肉全体の触感は変わらずとも、液体が肉汁と脂身のくどさを感じさせない。


 それが余計に食欲を、いくらでも食べられる気にしてくれる。


「キュキュ」


 最初は気に入らないと感じていた一匹だったが、皿を前にドヤッとしている姿に無言で頷く。


(ナイフとフォークを使わなかったら、この味を知らないままだったんだな)


 気づけば二口、三口と味を変えながら食べ進めていく。


「ねぇねぇ、リルの分も残してよ!」


 そう言われても、食べる手が止まらない。


「キュキュ」


「……?」


 せっかく頬張っていた肉の塊が乗る皿を下げようとされ、視線を向けると別の皿が用意されていた。


「キュキュ」


(……これも食べろと?)


 テーブルの上に乗る料理は、何もこの肉の塊だけではない。


 ただ最初に口にした一品が美味しすぎたのもあり、少しだけ名残惜しさもあった。


 今度は一匹の魚を丸々と焼いたのか、なんとも豪快な料理が続く。


「もしかしたらその子、自分が作った料理だから美味しく食べて欲しかったんじゃないのかな」


(……そう、なのか?)


 切り分けられた肉の塊を頬張るリルは、美味しさを小さな身体で目いっぱい表現する。


 そんなリルの様子に、目の前にいる一匹は尻尾を左右に振っていた。


(なんかわかりやすっ)


 なんだか人間染みた素振りをする、魔物のような存在にどこか既視感を抱いてしまう。


「キュキュ」


「キュキュキュ」


(な、な、なんだ……)


 さっきまでリルに世話を焼いていた数匹も、次々と料理を食べさせようと運んでくる。


「なんか気に入られたみたいだね」


(そ、そうなのかな……)


 急に騒がしくなる食卓風景に、リルは嬉しそうに微笑む。


 けど、一つ問題はあった。


 目の前に運ばれる料理の数々だったが、どれもそのまま。


(せめて切り分けてくれると嬉しんだけどな……)


 所狭しと置かれていた料理の皿が、テーブルの上で渋滞を起こしていく。


 どれもこれも美味しく一口では止められず、結局すべての料理を平らげてしばらく間は動くこともままならなかった。

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