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ショートショート9月~3回目

相性が悪い

作者: たかさば

 ……フフ、大好き、だよ

 ……ずっと、キミを、探してたんだよ


 甘い甘い香りがする、キミの事を


 グレープフルーツの香りが大好きな、私


 爽やかで、酸味を感じさせる、少し苦味のある、瑞々しい……、グレープフルーツの香りを、ずっと求めていた


 シャンプー、石鹸、コロン、アロマオイル、入浴剤、リップクリーム

 グミ、ラムネ、消しゴム、カラーペン、鉛筆、折り紙、本物


 どの香りも、私が求めるものとは違っていた

 どの香りも、確かにグレープフルーツだけれど、私は満足できなかった


 とある銭湯のお土産コーナーで、たまたま見つけた……キミ


 銀色の小さなケースに入った、練り香水

 サンプルのふたを開けた時、運命を感じた


 この、爽やかな甘酸っぱい香りの中にほんのり感じる苦味……


 これこそが、私が捜し求めていたグレープフルーツの香り!!!


 薬指の腹で固形の練り香水をくるくると撫でると、ふわりと香るのは、甘い甘い、グレープフルーツの香り


 手首に、耳の後ろにそっと塗りこみ……ひがな香りを楽しむ私


 ……フフ、大好き、だよ

 ……ずっと、キミを、探してた

 ……キミに出会えて、本当によかった


 朝起きて、香りを身につけ

 昼、ご飯を食べて、香りを身につけ

 夜、汗を流して、香りを身につけ


 ……フフ、大好き、だよ?

 ……ずっと、キミを、探してたんだもの

 ……キミに出会えて、本当によかったと思ってる


 私は、ずっとキミの香りを身につけて、幸せな時間を過ごしていくつもりだった


 ……大好き、だけど

 ……キミを、愛してやまないけれど

 ……キミに出会ってから、毎日満たされていたけれど


 私の体は、キミを受け入れるつもりはないみたい


 かさつく手首

 ただれる耳の後ろ

 皮がめくれた薬指


 こんなにいい香りなのに

 こんなにすばらしい香りなのに

 こんなに捜し求めていた香りなのに


 お肌よわよわな私は、キミを受けとめるだけの肉体を持ち合わせていなかった……


 銀色のふたを開けて、毎朝香りを楽しんで

 蜂蜜色の練り香水に爪楊枝をさして、香りを楽しんで


 ……大好きな香りだったはずなのに


 少し、香りが薄くなったような

 ずいぶん、見た目が悪くなったような


 こんな香りだったかな

 こんな色だったかな


 不信感が生まれるようになった


 こんなニオイじゃなかったよね

 こんなのもういらないよね


 最後の最後で、欲が出た


 アロマポットに入れたら、香りが楽しめるかもしれない


 お皿に練り香水を盛り付けて、ろうそくに火をつけて

 炎で炙られて溶け出した……キミの、最後の、勇士を……


「……?!うわ、なにこれ?!くさっ!!!」


 爽やか?!微塵も感じない不愉快な油っぽいニオイ!!

 甘酸っぱい?!むしろ私の胃袋から酸っぱいものがこみ上げてくる!!

 苦味を感じる?!苦虫を噛み潰したような顔でティッシュを丸めて皿を拭う、私!!


 ああ……このニオイは……、確実に体に悪い成分だ!!


 そりゃ、耳の後ろもただれるわなあ……

 そりゃ、手首もかゆかゆのカサカサになるわなあ……

 そりゃ、指先の皮もめくれあがりますわなあ……


 近所のスーパー銭湯に行けば、あの練り香水は売れ残っているのだけれども


 買うのか、買わざるべきなのか……

 買いたいのか、買いたくないのか……

 買って良いのか、買わない方がいいのか……


 今日も私は、かさつく肌をボリボリとかきながら、悩んで、いる


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― 新着の感想 ―
[一言] 切実な悩みなのに「くさっ」の所で笑っちゃいました。 ……ごめんなさい。
[一言] ……なんとも残念でしたm(_ _;)m
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