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テストした

「え……? な、なんで……? さっきそこで、槍みたいなのに刺さって……」


 そう言いながら後ずさるケンジをタケルはちらっと見て、その後タケルは、ヒロユキ、そしてさっきまで喜んでいたその他のクラスメート達を見回し、そしてニヤッと笑った。


「うん、確かに刺さったね。で、僕の死ぬ演技、どうだった? 上手く出来てたかな?」


「え……演技?」


 アヤカが、震える声でそう尋ねるのに、タケルは首を縦に振り、それを肯定した。


「そうだよ、アヤカさん。何かさっき、だいぶ喜んでいたみたいだけど、あれは僕の見間違いじゃないよね? アヤカさんから告白されちゃったのはつい最近だったと思うけど、その間に心変わりしたのかな?」


「そ……それは……」


 それ以上、アヤカは何も言えなかった。


「ねえ、ちょっと……一体どういう事? 私、まだ何が何だか分かんないんだけど……?」


 絵里が困惑した顔でそう尋ねると、タケルは微笑みながら絵里に答えた。


「ああ、これはね……ちょっとテストしてみたんだ。もし僕が何者かに倒されたら、みんなはどうするかな……ってね」


 そう言いながらタケルが黒服の男二人に手を向けると、彼等はタケルの手に吸い込まれるように、すうっと色が薄くなりながら消えていった。


「思った以上に残念な結果で、僕もちょっと内心苦笑いだったよ。こんなに喜ばれちゃうなんて、僕も人望無いんだなあ……ってね」


「要するに……ドッキリを仕掛けたって事なのね……」


 絵里が少し呆れたようにそう言うと、タケルはふふっと笑ってそれ以上は何も言わなかった。


「テ……テスト……」


 そうボツりといったナツミの表情は、何やら少し嬉しそうに絵里には見えたが、タケルはナツミにはもう興味が無いようで、彼はヒロユキの方を向き直ると、棒立ちで口を開けて呆然としているヒロユキに向かって、ため息をついた。


「ヒロユキ君……。『死にやがった』なーんて言われてそこまで喜ばれちゃうと、僕もちょっと落ち込んじゃうな……。お仕置きは、ちょっと厳しめにならざるを得ないよね……」


「あっ……ああっ……し、死んでなかった……って……そんな……」


 ヒロユキは、そう小さい声で言った後、力が抜けたようにがっくりと膝を床に突けた。


「うっ……ううっ、うわあああっ! 嫌だあっ! 嫌だああっ! あああっ! ごめんなさいごめんなさい! タケルさんすいませんでしたあっ! もう喜びませんもう絶対喜びませんからあっ!」


 錯乱するあまり、少しばかり変な事を叫びながら、ヒロユキは両手で頭を掻きむしったあと、その両手も床に付け、土下座のような体勢になった。


「いやあ……許せないなあ……。喜んだ人達全員、生徒も先生もだよ? その度合いに合わせてこれからお仕置きだなあ。まだまだ忠誠心が足りないよ、みんな」


 ついさっきまで喜んでいた生徒達や校長達を見ながらタケルがそう言うと、彼らには絶望の表情が広がった。


「ああっ……すいませんでしたぁ、タケル様ぁ!」


「ごめんなさい! お願いだから痛いのだけはぁ!」


 口々に謝罪の言葉や、赦しを求める言葉を情けなく叫ぶ生徒や教師達を見ながら、タケルはちょっと意地悪っぽく笑ってこう言った。


「ああ、それからね、これからもこういうテストはしょっちゅうやるから、みんな気を付けるようにね?」


『まだやるんだ……」


 絵里がそうつぶやくと、その横で、いさぎよいリョウがそれに合わせてつぶやいた。


「へっ……全く……うちの大将はこういう所、容赦ないぜ……」


 ナツミとリョウは、タケルの死を目の当たりにしても喜んだ訳ではなかったので、今回は特に罰を受けることは無かった。


 その外の者達は、それぞれある者は痛い目に、ある者は苦しい目にあわされ、タケルに対し、改めて忠誠を誓わされたのであった。


 そして、月日はゆっくりと流れていった。

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