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何かあったの?

「タケル君というその人物……彼には、悪い霊が取り付いている」


 黒服の男は、ヒロユキにそう語った。


「もう悪霊と彼は一体化していて、助ける事はできない。タケル君ごと、やつを倒さなければならない」


 もう一人の男も、そう言った。


「えっ……? い、一体どうゆう事……?」


 訳のわからない展開にヒロユキが混乱していると、黒服の二人のうち、一人がヒロユキに頭を下げ、そして口を開いた。


「急な事で混乱しているのは分かる……だが、事態は急を要する。明日、私達は学校に侵入して彼を倒す。その時に学校内に手引きを頼む」


 続いて、もう一人の男が口を開いた。


「我々と、朝一緒に学校に入って欲しい。我々の事を関係者であると言ってくれ。良いだろうか?」


 訳も分からず、取り敢えずヒロユキが「あ……は、はい」と答えると、二人の男は「じゃ、また明日の朝に」と言い残して、ヒロユキの働いているコンビニを後にした。


 レジでまたぼーっと立ちながら、ヒロユキは考えた。


 あの二人は、一体何なんだ? タケルの敵って事か?


 タケルを倒すって、どうやって倒すっていうんだ?


 事態が急を要するって言ってたけど、だったら何で今すぐタケルの家に行って倒さないんだ? 何でわざわざ学校に侵入してタケルと戦うんだ?


 色々な事がぐるぐるヒロユキの頭の中を回っていたが、やがて深夜の客が来て対応しているうち、ヒロユキはそんな事を考えるのはやめにした。


 どうせ、明日になれば分かる事……そう思ったヒロユキは、もうさっきの奇妙な二人のことは気にしない事にした。


 そして、次の日の朝。


 深夜のバイトが明けたあと、仮眠で少し寝ただけのヒロユキは、眠いのを我慢しながらも学校に向かおうと、自宅の小さな借家を出て、自転車に乗って出発した。


 そして、学校の近くにまで来たとき、ヒロユキは急に声を掛けられた。


 聞き覚えのあった、その声のした方をヒロユキが振り向くと、そこには果たして、先日の夜にコンビニに来たあの二人が居た。


「ヒロユキ君、よく来てくれた。じゃあ早速、我々を学校内に手引きしてくれ」


「え……あ、はい……」


 よく分からないが、とりあえずタケルを倒してくれるなら……と思ったヒロユキは、守衛に二人を関係者であると説明し、その二人と一緒に学校に入った。


「ヒロユキ君、ありがとう。私達はまず、学校の関係者全員に話をするから、一旦ここで別れよう。タケル君に取り憑いた悪霊は、その後に倒す」


 二人のうちの一人がヒロユキにそう言い残すと、彼等は足早に立ち去って行った。


「あ……」


 ヒロユキが彼らの言葉に返事をする間もなく、彼等は職員室の方へと向かって行った。


 彼らの後ろ姿を眺めながら、ヒロユキは、「……?」と、頭から疑問符が付いて離れなかった。


 そして、その日の昼休みが始まったその時、事件は起こった。


 いざタケルが食事を済まそうとして、カバンから弁当を取ろうとしたその時、急にあの黒服の二人が、タケルのいる教室に侵入してきたのである。


 その二人の後ろには、校長、教頭、その他大勢の職員が野次馬のように付いてきていた。


「悪霊め! お前を退治してやる! 覚悟しろ!」


 黒服たちがそう叫ぶと、タケルは慌てたように席を立ち、彼らを睨んで身構えた。


「お……お前達は……何故ここに……!」


「問答無用だ!」


 黒服のうちの一人がそう叫ぶと、彼は手で印のようなものを結び、何かを念じた。


 すると急に、タケルは苦しみ始めた。


「うわっ……?! 何だ?」


「えっ? な、何? 何なの?」


 いきなりの事で、何が起こっているのか訳がわからないクラスメート達に、黒服のうちの印を結んでいないほうが叫んだ。


「彼は悪霊に取り憑かれている! みんな、彼から離れて!」


「えっ?! 悪霊?」


「た、タケルさんが?!」


 まだよく分からないながらも、とりあえずタケルから離れていくクラスメート達をタケルは苦しそうに見ると、次いでタケルは黒服の二人を睨みつけ、彼らに向けて攻撃しようとした。


「……!」


 しかし、見えない何かが、彼ら二人の周りを囲むバリヤーみたいなものに弾かれ、バチッという音と火花が出ただけで、黒服の二人は何ともなかった。


「こ、攻撃が……効かない……!」


 タケルが苦しみながら驚いていると、黒服の一人が叫んだ。


「私達には、お前の力は通じない! 行くぞ!」


 印を結んで居た黒服とは別の一人が、そう言って何か呪文のような言葉ををつぶやき始めると、空中に何やらオレンジ色の、長さ一メートルほど、まるで槍のような形をした何かが出現した。


「むんっ!」


 黒服がそう叫んで手をタケルの方に向けると、そのオレンジ色の槍のような何かがものすごい速さでタケルに向かって飛んでゆき、胸に突き刺さった。


「うっ……ぐうっ……ううっ!」


 苦しそうにタケルはうめき声をあげると、その場にばったりと倒れ込み、動かなくなった。


「浄化!」


 次いで、槍のようなものを放った黒服の男がそう叫ぶと、タケルの倒れた体から、まるで何か化学反応でも起きたかのように光が漏れ始め……そしてその光はだんだん強くなり……そして、光が消えた時、そこにタケルの姿はもう無かった。


「ふう……。終わったな」


 黒服の男の一人がそう言って、その場にいた皆に向かって叫んだ。


「皆さん! ご安心下さい! 悪霊は浄化されました! もう大丈夫です!」


「えっ……?」


「ど……どういう事?」


 その場にいた生徒や教師から、困惑したような声が上がる。


「タケル……死んだって事?」


 その一部始終を見ていた絵里が、黒服の男にそう尋ねると、男は「彼は、もうあの状態では助けられませんでした……」と、タケルが倒れていた方向を見ながら、そう答えた。


「えっ……? タケルさん……死んだ?」


 周りの人間たちは、少しずつ事態を飲み込み始めた。


「えっ……? じ、じゃあ、また以前と同じに戻るって事なのか?」


 そう言いながら、不安な顔をしたのは義雄であった。


 タケルから許されていた者たちにとって、タケルは強力な味方であり、そのタケルが居なくなれば、このクラスが確実に彼等にとって悪い方に動く事は確実であった。


「へっ……せっかく腹を括って、償いとやらをするところだったのによ……死んじまったのかよ……」


 そう言って複雑な表情を浮かべたのは、いさぎよいリョウである。


「えっ……タケル様……死んじゃったんなら、私これからどうすれば……」


 そう言ってオロオロしているのは、タケルに精神的に依存し始めていた、ナツミであった。


 そんな中、大多数のクラスメート達は……


「し、し、死んだ……? 本当に死んだのか!」


「と、と言うことは、もうタケルにビビらなくても良いのか?」


「や、やった……! やった!」


 徐々に教室の雰囲気が、驚きから喜びに変わり始めていた。


「お、おお……! やった……やったのか!」


「校長……! これで我が校も普通の高校に戻れますっ……!」


 校長も教頭も、表情がだんだんと明るくなってきている。


 そして、ヒロユキは……


「はっ、ははっ、や……やった! あいつ死にやがった! 死にやがったああっ! ざまあみろ! ざまあみろタケル! 地獄に落ちやがれ!」


 彼は、そう叫んでガッツポーズをし、喜びを全身で表現していた。


 そうやってクラスの殆どの者たちが喜ぶ中、一人の男子生徒が教室の扉を開けて入ってきたが、誰もそっちには気付くこともなく、めいめい叫んだり喜んだりしていた。


「あれ? 何かあったの?」


「あ!? 何かって、あのタケルが死ん…… !」


 入って来た男子生徒にそう聞かれ、近くにいたヒロユキが振り返りながらその男子生徒に説明しようとしたが、その生徒の顔を見た途端、ヒロユキは途中で説明が止まってしまった。


「あ……えっ……? な、なんで……?」


 そこには、ニコニコと微笑むタケルの姿があった。

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