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とある一日の事

 新学期から、一週間、二週間と、時は流れた。


 多くの者がバイト先を見つけ、そしてある者は朝、ある者は夜に働き始めた。


 ナツミもまた、夜の居酒屋のアルバイト先を見つけ、そこで働き始めた。


 朝、少し早めに起きたナツミは、てきぱきと身支度をして学校に向かう。遅刻するわけにはいかないからだ。


 朝食も、以前は食べたり食べなかったりであったが、今は毎日きちんと食べるようにしている。体調は自分の責任でしっかり管理しておかないと、風邪を引いたりしても学校を休めず、苦しい思いをするのは自分自身なのだから。体力は、しっかりつけておかなければならない。


 学校に到着すると、タケルにまず挨拶に行く。そして、そこでタケルから、毎日の事ではあるが、心の中を見られる。


 ここで、タケルに対して何らかの悪感情がある者は見抜かれてしまい、タケルから"軽く"痛い目にあわされる。


 自分で自分に、言い聞かせなければならない。


 このくらいで済んで、有り難く思わなければならない、と。


 償う機会を与えてもらい、感謝しよう、と。


 学校での授業は、普通に受ける事が出来る。


 ただ、生活態度はタケルから監視されており、悪い言葉遣い、態度があれば、タケルからこれまた痛い目にあわされた。


 クラス内では、極力争いの無いように努めなければならない。


 だいぶ精神的に疲れはするが、何とか今日一日の学校の時間を終えると、ナツミは急いで家に帰り、着替えてアルバイト先へと向かう。


 午後六時から十時までのシフトに、ナツミは入っている。居酒屋でのこの時間のアルバイトは時給もそれなりに高く、土曜日の夜もしっかり出れば、かなり稼げるはずだ。


 できるだけ稼いで、賠償金の支払いが遅れないようにしないといけない。親から助けを得ることはできないので、自分の金は自分でしっかり管理しないといけないのた。


 アルバイトが終わると、ナツミは再び家へと急ぎ、手短に入浴を済ませる。以前はゆっくりと湯船でのんびり過ごしたものだが、今はそのような事は言っていられない。時間が無いのだ。


 食事は居酒屋でまかないを食べて済ませているので、入浴を終えたナツミはそのまますぐ自室の机に向かう。


 学校で渡された宿題を急いで仕上げなければならないので、寸暇を惜しんでナツミはそれに取り組む。宿題が出来ていない者はタケルから罰を受けてしまうので、時間がなくてもやらなければならない。


 何とか勉強を終えた時には、時刻は十一時を過ぎていた。


 ほっ……とため息を付き、ナツミはふと考える。


 何で、こんな事になったんだろう……と。


 明日もきちんと起きないといけないので、机に向かった後はすぐにベッドに潜り込むナツミには、もうスマホで友達とおしゃべりしたり、遊びに行ったりする時間の余裕は無い。また明日も、今日と同じ様な一日が待っている。


 潜り込んだベッドの中で、いじめなんかしなければ良かった……と思いながら、疲れ切ったナツミはすぐに眠りに落ちてしまうのであった。


 ヒロユキはというと、彼は深夜のコンビニで働く事になった。


 本来なら高校生は深夜のアルバイトが出来ないが、タケルに許可をもらって、親の知り合いがやってるコンビニで働けるようになったのである。


 人手が足りてなかったそのコンビニは、ヒロユキを喜んで迎え入れ、月、水、金の深夜のシフトを充てた。


 ヒロユキは学校から帰るとまず食事、入浴、宿題を済ませ、少しの仮眠を取ると、コンビニに行って働くようになった。


 土曜日の夜と日曜日は、毎週、今までの悪事を謝るための謝罪の旅をする日になった。ある時はすぐ近くの元同級生に、ある時は少し離れたところにいる別の学校の生徒に、ヒロユキは謝りに行った。


 そんな時のヒロユキの表情からは、既に感情は消えており、ヒロユキはまるで囚人のように、黙ってタケルから言われたとおりに動いた。


 そんな日々が始まった、とある日。


 深夜のコンビニでレジに立ち、少しばかりボーッとしていたヒロユキの店に、ある男が入って来た。


 その男は、サングラスを掛け、髪は短く揃え、黒のスーツで身を固めていた。


 近くでお通夜でもやってるのか……? とヒロユキがその男を見ながらぼんやりと考えていると、その男とヒロユキは目が合った。


 ツカツカと靴の音を立てて近付いて来るその男の後ろからは、さらにもう一人、同じような出で立ちの男が続いてやって来た。


 その二人は、レジに立つヒロユキの前までやって来ると、そのうちの一人が、彼に向かってこう言った。


「君……ヒロユキ君だね。私達は、君を助けにやって来たんだ……タケルという人物を倒して、君を助ける……そのためにね」


 いきなりそんな事を言うサングラスの男にヒロユキは驚き、改めてその男の顔を、まじまじと見つめたのであった。

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