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そう……全部ね

 ここから先、「何だこれ?」とか、「お前ヤバイやつだろ」とか、「サイコパスか」とか感想に書かれるのがちょっと怖いので、もし何か感想をもらってもあえて感想欄は見ず、書き切ってから見たいと思います。なので返信遅れます。ごめんなさい。

 新学期が始まり、はや一週間が過ぎ去った。


 タケルは、その一週間の間に、クラス、学校、いじめっ子とその親達、全てを掌握してしまった。


 タケルの周りの世界が、いままさにタケルを中心に回り始めていた。

 

 そして、月曜日の朝。


 朝礼の終わった後、カマタがいなくなったタケルのクラスでは、ざわめきが起こっていた。


「ぜ……全部……?」


「今までの……全部って……?」


 ざわめきは、タケルの周りから起こっていた。


「そう……。全部ね。まあ、あんまり細かい事はお互い様って事で気にしなくてもいいけど……」


 ざわめきの中心では、タケルが皆に話をしていた。


「皆が、今までやってきたいじめや、その他の悪事、いたずら、悪口……。僕以外にも誰かにそんな事ををしていたなら、全部その人達に謝って、そして償ってきてもらおうと思ってる」


「い、いや! しかし、タケルさん!」


 そう言って慌てた口調で答えたのは、ケンジだった。先週タケルから折られた手のギプスが、いまだ痛々しい。


「そんな事を言っても、小さい時のいじめやいたずらなんか、俺達だってまだ何も分かってなかったんだし! それはどうしようもないのでは?」


「そ……それに!」


 続けて口を開いたのは、理事を父にもつサキであった。


「今までにやった悪い事を謝って来いって、そんな事言われても私、中学まで別の県に居たから、遠すぎるし、もう相手がどこにいるか分からないわ!」


 そんな抗議の声に、タケルは笑って答えた。


「うん、そうだね……。じゃあケンジ君、君の意見は一理あるから、小学校に入るまでのいたずらは許してあげようか? それとも……うん、じゃあ分かった。小学校低学年までの分は特別に不問にしてあげるよ。でも、それ以降の分は駄目だなあ。何かいじめやいたずら、暴力でも何でも、何か悪い事をしてたら、僕以外の人にも全員に謝ってきてもらう。万引きとかも駄目だよ? ちゃんとお店に謝ってきてね?」


 そして、タケルは今度はサキに向かって言った。


「サキさんの不安については、心配はいらないよ。僕が場所を教えてあげよう。そうだなあ……。特別に、もし交通費がかかったら、その分僕に支払う慰謝料を後回しにしても良いよ?」


 そう言って無邪気に笑うタケルは、なおも言葉を続けた。


「今、君達は僕の力のせいで、過去の自分の行いをすべて思い出してるはず……。誰に、何をしたのか、はっきり頭の中に浮かんでるでしょ? それを一つずつ、解決させていくんだ……。弁償が必要なら、それもちゃんとする事。分かったかい?」


「タ、タケルさん! しかし、いくら何でもそれは……っ!」


 次に口を開いたのは、ヒロユキだった。


「お、俺なんか、今までケンカもいっぱいしたし、万引きもカツアゲもやってきた! もう数え切れない! それを今から全部謝って償えって……! そんな、そんな事ッ……!」


「出来ない……とでも言いたい?」


 わがままな子供に接する大人のようにタケルはヒロユキに微笑み、ヒロユキの狼狽している顔を眺めた。


「そうか……ふふっ、じゃあ特別に、相手から何か仕返しされていたら、もうそれでチャラにしようか。それでかなり相手の数は減ったんじゃない?」


「む……無理だっ! それでも無理だっ!」


 ヒロユキを始め、今まで多くの人に悪い事をしていたであろう数人は、タケルに抗議した。


「何人も……! それこそ何人もいて……数え切れないっ! その全員に借りを返すなんて……出来ない! 出来るわけ無い!」


「いやあ、できるでしょ。どれどれ……」


 そう言ってヒロユキの顔を覗き込んだタケルは、嬉しそうにヒロユキに教えた。


「なんだ、ヒロユキ君、多いって言ってもせいぜい300人程度じゃないか。数え切れないなんて大げさだよね。ねえ絵里さん?」


 タケルに急に振られた絵里は、こんな事にもだんだん慣れてきたのか、落ち着いてタケルに答えた。


「いや、300人って普通に多いわよ……。全員に謝って、弁償が必要な相手には金も払うんでしょ? それって、終わるまでに何年かかるか……」


「うん、まあそれはその分頑張って長生きすれば良いんじゃない?」


 気楽にそんなコトを口にするタケルに、ヒロユキの体は震えていた。


「そ……そんな! そんな無茶な! タケルにだって賠償しないといけないのに、それに加えて他の奴にもって、そんなの……そんなの出来ねえっ!」


 そんなヒロユキたちを見て、タケルは少しがっかりした顔をした。


「ふう……。甘えてもらっちゃ困るなあ」


 タケルがそう言って指をならすと、さっきまで抗議していた生徒たちを見えない攻撃が襲い、ヒロユキ達は殴られ、蹴られ、痛みの叫び声をあげた。


「いいかい? これは命令なんだよ……。出来ないと思ってはならない。出来ると思わなければならない。しかも心の底から……。そして、喜んで取り組まなければならないんだ……。さ、分かったら言うんだ。出来る……と。そして、喜んでやりますと言うんだ」


「うっ! ぐうっ、わ、分かりました! 分かりましたぁ! 出来ます! 出来ますぅ!」


 たまらずヒロユキ達、抗議して痛めつけられた生徒たちがそう叫ぶと、タケルはその生徒たちをじっと見て……再び攻撃を加え始めた。


「ぶっ! ううっ、な、何で!」


 そう泣き叫ぶヒロユキ達に、タケルは静かに優しく教えてあげた。


「いやあ……まだ駄目だよ。心の中でまだ出来ないと思ってるんだもの」


 そう言って攻撃を続けるタケルに、ヒロユキ達は必死に叫んだ。


「ううっ! ご、ごめんなさいぃ! 思います! 思いますからぁ! 出来ると思いますっ! 出来ます! うう……っ」


 そう言われてもう一度ヒロユキたちを見たタケルは、軽くため息をついて、ようやく攻撃を止めた。


「うーん……まだまだ気持ちが弱いけど、まあ良いか……。じゃあ、早速今週から各自、自分に与えられた"課題"に取り組むようにね? あと、みんな今月中にバイトも見つけて、働き始める事。分かったかな?」


 暗い顔で頷くクラスメート達に、タケルは笑顔で呼び掛けた。


「みんな! 出来ると思って! さあ前向きに頑張ろうよ! 僕がついてるじゃないか! さあ、みんな心から言うんだ! 『喜んでやらせて頂きます!』って! じゃあいくよ! さん、はい!」


 まるで、幼い子供に言って聞かせるように楽しげに語るタケルの前で、これから償いをしないといけないクラスメート達は、立って狂ったように叫んだ。


「……よ、喜んで、やらせて頂きます!!」


 その言葉を聞いたタケルは、満足そうにニッコリと笑った。


「よーし、じゃあみんな、頑張っていこうか! ああそうそう、君の親たちで、償いの手伝いをしたい人がいたら、こっちの方は手伝っても良いし、お金を援助して、賠償金を肩代わりするのも有りにしてあげるよ! ただし……」


 そう言って、タケルはヒロユキ達、先程タケルに抗議した生徒たちを見た。


「君たちは駄目た。反抗的だったからね。親の助けを借りる事は許可しない。自分でやるんだ。良いね?」


うっ……ひぐっ……は、はいっ……。喜んで……やらせて頂きまずっ……」


 ヒロユキは、暴力団事務所のあの時のような、涙と鼻水で汚れた顔でタケルに返事をした。


 クラスメート達がそれぞれの席に戻る中、クラスの後ろの方では、自分の席に戻ったナツミがぶつぶつと小さな声でつぶやいていた。


「出来る……。出来る……。私は出来る……。喜んで頑張ろう……」


 更にまた別の席では、男子生徒が席に突っ伏し、頭を抱えていた。


「思わないと……思わないといけない……タケル様は全てお見通しなんだから……」


 小さな声を出しながら、そうブツブツ言っているその生徒を見ていた絵里は、今度はタケルに視線を移し、そして思った。


(タケル……。あんた……みんなを一体、どうするつもりなの……?)


 絵里のそんな視線をよそに、タケルは楽しそうに一時間目の準備を始めるのであった。

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