うん。ちょっと待って?
タケルは、カゲヤマにこう切り出した。
「カゲヤマさん、あなたが今見るとおり、僕には特別な力があります。それで、僕はこの力でいじめっ子たちに仕返しをし始めたんです」
カゲヤマはタケルの話を聞き、そりゃそうだろうなと言わんばかりにうなずいた。
「僕の力のおかげで、誰も警察に僕の仕返しを訴え出ることは出来ません。でも、僕の仕返しを見ていた人が、警察に通報するっていう事もあるとは思います。それで……」
タケルは、顔を少しばかりカゲヤマに近付けた。
「もし誰かが僕の事を警察に通報してきたとしても、見過ごして欲しいんです……。僕の訴えをそうしたように」
タケルからそう言われ、カゲヤマは困ったような、申し訳ないような、それらが入り混じったような微妙な表情になった。
傍から見ると、それはまるでタケルからカゲヤマがクレームを付けられているように見えなくもない。
(カゲヤマさんも、いろいろ忙しいよな……)
窓口の近くで仕事をしていた、最初にタケルたちに応対した若い警官は、そんなカゲヤマをちらっと見てそう思った。
「うーん……。それは、ちょっと……立場上分かったとは言えないけど……。あの、仕返しって、具体的にどんな事するの?」
カゲヤマの質問に、タケルは素直に答えた。
「そうですね……。痛めつけたり、自由を奪ったり……あとは、そうそう、殺して紙に封じ込めたり……あ、それから、暴力団の人はもう何人か殺しちゃいました」
「ええ……」
タケルの答えには、カゲヤマもなんと言えばよいかすぐには思い付かなかった。
「殺した」と言うキーワードに反応した窓口の近くの若い警官が、ハッとした顔で窓口の方を見たが、一見普通に話しているカゲヤマとタケルを見て、彼は気のせいかという顔をしたあと、また机の方に顔を戻した。
「まあ、基本的には、償いをさせようと思っています。殺して紙に封じ込めてる一人も、後で適当な時に生き返らせてあげるつもりです」
「うん。ちょっと待ってね? 頭を整理するからちょっと待って?」
カゲヤマは頭を乱暴にガシガシと掻いたあと、改めてタケルに尋ねた。
「えっと……タケル君……? 君は、人を紙に封じ込める事が、出来る?」
さっき言ったよと言わんばかりに、タケルは当然の様に答えた。
「はい。出来ますけど、何か?」
「うん、うん、ちょっと待ってね? まだ僕が君に追いつけていないみたいだから……えーと、人は紙の中に入れる……と」
微妙に違う解釈をしつつあるカゲヤマだが、タケルは特に訂正する気もない様子でカゲヤマを見ている。
「で、さっきこうも言ってたよね……? あとで生き返らせる……って。それも……出来るのかい?」
そのカゲヤマの質問にも、タケルはさも当たり前だといわんばかりに答えた。
「はい、もちろん出来ますけど。基本的に、僕は何でもありなんです」
「何でも……あり……」
カゲヤマは、頭の整理がまだ出来ていない様子で、しかし理解はなんとか出来ているようであったが、その場に呆然と立ち尽くした。
「で……? 見過ごしてもらえますか? 僕の仕返しを」
タケルからそう言われて、やっとカゲヤマは我に返った。
「え……ええと……ぼ、暴力団の人たちは……? 何人か殺したって言ってたけど……」
そのカゲヤマの質問には、タケルは笑って答えた。
「うん、もう興味ないから、生き返らせるつもりはありません。心の中を見たけど、かなり悪いことしてる人達だったし、僕や母も殺されそうになりましたし」
「な、なるほど……。と、と言う事は……正当防衛……? かな……?」
カゲヤマも、短い時間の中で、段々とタケルにある意味追いつき始めていた。
「うん、まあそうですね。で、結論は? カゲヤマさん」
タケルに促され、カゲヤマはすこし考えてから喋り始めた。
「うん……。もうね、色々と分からないことはあるけど……まあ、あれだ。君を止めようとしても無駄だという事はよく分かったよ。それに……」
カゲヤマは、更に言葉を続けた。
「僕もね……。そんなにいい人間でも無いけど、悪い奴が何もお咎め無しでのさばってるのを見て、何とも思わないほどの悪徳警官でも無いんだよね。いじめなんて、大嫌いだし……だから、口では言えないけど……ねえ君、僕の心の中、もう見えてるよね?」
そう言ってニヤッと笑うカゲヤマに、タケルも微笑み返す。
「ええ、見えてますよ……影山さん……。構わないからやっちまえ、ってね……」
「ははっ……本当、凄いね君……」
微笑み合う二人の姿は、見る人によっては、なぜか越後屋と悪代官の様な悪巧みの雰囲気すら感じさせた。
その時、ちょうど窓口の近くの若い警官がまた頭を上げると、二人がお互い微笑み合ってたので、彼はこう思った。
(ああ、結構長い話になってたみたいだけど、クレームは上手く処理できたみたいだな……さすが、影山先輩だ)
そう思った彼は、安心してまた机に視線を落としたのであった。
カゲヤマは、味方になった!
味方になったので、カゲヤマ→影山と表記が変更になります。




