生活安全課 カゲヤマ
「どうしたの? 今日は何かあるの? まさか、デートって訳でも無いよね……?」
呼び出されてやって来た絵里は、急な事で少し驚きながらも、一体タケルが何をするつもりなのか、多少の興味と不安の気持ちを抱えながら、おずおずと尋ねてみた。
私服のワンピースを着て、少し急ぎ気味にやって来た絵里を見て微笑んだタケルは、首を横に振って、絵里の疑問に答えた。
「ふふっ……そうだね、いつか楽しく遊べる日も来ればいいかも知れないけど、今日はそうじゃないよ、絵里さん。今から出かける所があるから、そこで起こる事を見届けておいて欲しいんだ」
「出かける……? って、どこに?」
絵里は、そう尋ねながらタケルを見た。今日のタケルは、休日と言う事でもちろん学生服ではなく、Tシャツに短パン、サンダル姿だ。まだ暑い九月の上旬に合った格好ではあるが、お世辞にもデートに行く格好とは言いにくい姿である。
「うん。今日は警察署に行こうと思ってる」
タケルのその返事に、絵里は以前、タケルが言った言葉を思い出していた。
「……そう言えば、タケル、『警察も罰する』って言ってたね……。もしかして、今からそれを始めるの?」
絵里がそう尋ねるのに、タケルは首を少しひねって、笑いながら答えを返した。
「うーん……そう思ってたんだけどね……。正直、迷ってるんだ。どうしようかなあ……ってね。だから、行って話をしてから決めようと思ってる」
タケルはそう言うと、「じゃ、行こっか」と言って絵里に微笑み、先に歩き出した。
「あっ、ちょっと待って……」
少し遅れて後から追いかけた絵里は、絵里が追いつけるようにゆっくり歩いていた、タケルの横まですぐに追いついた。
「話をしてから……って、それからどうするか決めるっていう事? 罰するか、罰しないかを?」
歩きながら、横から聞いてくる絵里。
そして、その絵里の質問に、時々少し考えながら答える、タケル。
そんな、一見するとまるで長く付き合ってるカップルのように見えなくもない二人は、ゆっくりと歩いて話しながら、近くの警察署に向かった。
警察署へは、10分程歩けば行ける距離であったが、話しながら少しゆっくり歩いた二人は、15分程してようやく目的地に到着した。
「ふう……。着いたわね」
警察署の自動ドアを開けて中に入った絵里は、そう言って一息ついた。
まだ午前中とはいえ、それなりに暑くなってきた中を歩いて来た絵里には、警察署の弱い冷房でも、それなりに涼しく感じられた。
「ふふっ……。絵里さん、歩いてちょっと疲れた? 少し椅子で休む?」
署内の長椅子を見ながらそう言うタケルに、絵里は首を横に振って答えた。
「いや……いいわ、大丈夫。行きましょ。で……警察署のどこに行くの?」
絵里にそう言われたタケルは、階段の方を見てそれを指さした。
「二階の生活安全課に、カゲヤマさんという人が居てね……。今日はその人に会いに来たんだよ。その人は僕の被害届を捜査した人なんだ」
「そうなんだ……。分かったわ。じゃ、行こ」
そう言って二人は階段を上がり、そのカゲヤマという人物を訪ねて行った。
生活安全課の前の受付に来たタケルはあたりを見渡し、そして目あての人物を見つけると、静かにつぶやいた。
「さて……どうしたものかな……」
そこには、忙しそうにパソコンの前で格闘する、若い警官の姿があった。
悪いのか悪くないのか微妙な人には、どうしたものか……
昨日残業だったので、今日の更新は短め。




