4日目の木曜日、そして5日目の金曜日
学校も掌握したタケルは、いじめっ子たちの親をも次々に掌握した。
帰宅する生徒たちのうちで許さなかった者に、一人だけの例外を除き、タケルは分身を付き添わせ、一緒に帰らせたのだ。
親達に今までのいじめを話し、子供であるクラスメート達をこれから支配し、償いをさせる事を伝え、自らの力を見せた上で、親に逆らうことのないよう言ったのである。
もちろん、親達は反発したが、タケルの力の前に沈黙した。
「もし学校を休むような事があれば、親であるあなた達にもその責任を負わせるからね?」
「へっ、へい! すいません! 絶対休ませないようにしますんで、どうか俺達はご勘弁を!」
親たちの反応は様々で、中にはこのように自ら子を差し出すタイプもいた。
あくまでも逆らおうとして、暴れる親もいた。
金を親が代わりに出して、解決しようとする親もいた。
逆に、子供のことを怒り、タケルに同調する親もわずかながらいた。彼らは、自分の子供のいじめについて実情を知らなかった者たちであって、校長たち教師と、いじめの加害者であるヒロユキたち、そして一部の悪意ある親たちの言葉に騙されていた者たちであった。
「タケル君、すまなかった。うちの子がこんなに酷いことをしていたとは知らなかった。厳正な罰を与えてやってくれ。いいな、リョウ」
「へっ……。親父に言われなくっても、そのつもりだぜ……」
「リョウ君、潔いね……。君がその覚悟なら、いじめ返しはやめにして、普通に賠償させるだけにしても良いかなぁ……」
タケルは、反発する親たちには分身を留まらせるようにして、生徒達にしたように、時間をかけて支配する事にした。
また、子の罪を代わりに肩代わりする事は、認めはしなかった。あくまでも本人に対して、タケルは償いを求めた。
「あなたは、人の子……つまり、僕がいじめられているのを知っていた。実情も多少は分かっていた。それでも何もしなかったのだから、今度は僕がやり返すとしても、あなたはそれを黙って見ている事しか許しません。手を貸せば、子の罰をかえって増やします。良いですね?」
親が悲しんでも、泣いて許しを求めても、タケルはそんな親には興味がない様子で何も認めなかったが、少なくとも子の罪を認めた親には、タケルは多少の敬意を示し、敬語を使った。
警察や行政、他の親戚に助けを求めようとする親も多かったが、もちろん無駄であった。理事を務めるサキの親も、その一人であった。
「なっ……! い、言えない……?! これはどういう事だ……?」
子と同じ事で驚くサキの親に、タケル――正確には、タケルの分身であるが――は、多少微笑ましく思いつつも、助けを求めても無駄である事を説明したのであった。
「まあ、ある程度時間をかければみんな従うでしょ……クラスのみんなみたいにね」
「まあ、従わざるを得ないでしょうね……。どうしようも無いんだし」
タケルと絵里がこんな会話をしている新学期の5日目、金曜日の午後には、かなりの親がタケルの支配を受け入れるようになっていた。
「ねえ、タケル」
絵里も、タケルのやる事を止めては行けない事は充分よく分かっている。しかし、質問する事は自由に出来たので、疑問があれば質問をする様にしていた。
「親たちの件、どこにも行かないで分身たちにやらせたよね……。もしかして、親にはあまり興味が無かったの?」
タケルは、興味がある相手には自ら赴き、直接手を下していた。ところが今回、タケルは自分では動こうとはせず、分身に全て任せたのである。
「うん……。まあ、そうだね。あんまり興味も無かったし、関わり合いたくもないと言うか……顔を見たくなかった」
「そうなんだ……。やっぱり、警察に訴えたあの時の事のせいで?」
絵里は、その時のことを思い出していた。
タケルは、絵里の問に優しく笑い、静かに答えた。
「うん、あの時の親たちの僕やお母さんに対する態度や言い方、客観的に見ても、とても褒められるようなものじゃあ無かった……。あることない事言われてね……。何か、僕は多分、ああいうのが嫌いなんだろうね」
「そう……」
かつて、タケルとその母親が、暴力を奮った生徒たちを警察に訴えたあの時、ある親は無知からくる子を思う気持ちから、ある親は大したことないのに警察沙汰にされたという思いから、またある親は子のした事を分かっていて、何とかもみ消してやろうという思いから、心無い言葉によってタケル親子を苦しめたのであった。
「子を思う気持ちも分かるけどね……」
タケルは、優しく……しかし、少し考え込むような目をしながら、言葉を続けた。
「でも、やっぱり、親は子が悪い事をしないように教えるべきだし、悪い事をしたら罰するべきだし、法を犯すなら、法に引き渡すべきだ……。いろいろ考えは有るだろうけど、僕はそう思うな」
そう言ったタケルの目は、いつもの優しい、しかし何を考えているのか分からない、あの目に戻った。
「……それを放棄するなら、それなら仕方ない、もう僕が裁くよ……。だから僕は、みんなの親が今さら僕のやる事を邪魔してくるのは許さない。そう決めてるよ」
そうして金曜日は過ぎてゆき、そして土曜日の朝。
学校が休みだった絵里は、何故かタケルから呼び出されたのであった。
ちょっと駆け足でこの辺りは進めます。




