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二度も

「言ったはずだよね……。学校を休んだら許さないって」


 タケルの言葉に、恐ろしさでまた腰が抜けてしまい立ち上がれなくなったシュウイチは、座り込んだまま叫んだ。


「ご、ごめんなさい! 今から、今から行くから! 学校に行くから! お願いだから、痛いのはやめて!」


 そんな情けない言葉を吐きながら、必死にタケルから離れようとするシュウイチであったが、金縛りにあった状態ではどうする事も出来ず、ただ体が震えるだけであった。


「……駄目だなぁ。シュウイチ君も……。すぐにそうやって、"取引"しようとして……。そんなのは謝るうちには入らないなあ……」


 少しつまらなさそうな表情をちらりと見せたタケルは、シュウイチをそっと見つめた。


「ぐっ……む、胸が、ぐるじい……っ」


 するとその途端、シュウイチは苦しみ始めた。もがく事もできず、ただ体を震わせ、或いは痙攣させて苦悶の表情を浮かべるシュウイチに、タケルは素っ気なく告げた。


「君は心を改める気も無いし、僕に従う気持ちも弱い。だったらもう死んでもらうよ」


 そう言いながら見つめ続けるタケルの前で、シュウイチの苦しみは増していった。


「ぐっ……かっ、はあっ……」


 その口からは、息と共に血も出てきた。顎を伝わってこぼれ落ちる血の雫を見て、シュウイチの両親は嘆願の叫びをあげた。


「ああっ! お、お願い、もうやめてあげて!」


「な、何も命まで取らなくても! もう勘弁してくれ!」


「……僕が死んでもおかしくない程の事をした、そして逃げようとして、その上に更に積み重ねた彼の罪には、死という罰がちょうどいいよ……」


 タケルの目は、両親の嘆願にもお構い無しで、苦しむシュウイチに注がれ続ける。


「がはっ……」


 そして、シュウイチは口から大量の血を吐くと、がっくりと頭を垂れた。金縛りも解けたのか、そのままその場に彼は倒れ込んだ。


「あっ! ああっ! シ、シュウイチ!」


「シュウイチ! おいっ! シュウイチ!」


 自身も顔の怪我で出血が続いているにも関わらず、シュウイチの両親は彼に駆け寄り、体を起こそうとした。


 しかし、吐いた血にまみれていたシュウイチは、二人が助け起こそうとした時には、既に息をしていなかった。


「うっ……ううっ……。ひ、酷い……。目の前で殺すなんて……」


 死体の前で、泣き崩れる母親。


「な……なんて事を! お前、自分がどうなるか分かってるのか!?」


 叫ぶ父親に、たたずむタケルは穏やかに答えた。


「どうもならないよ……? どうなるって言うの? 警察にでも僕が捕まる? 何をしたから? シュウイチ君が目の前で血を吐いて倒れたから、僕が捕まる? そんなわけ無いよね。それともあなた達、『コイツが奇妙な力で子供を殺しました』とでも言う気?」


 そう言ってタケルは、静かに笑った。


「まあ、それで仮に警察が僕を捕まえようとしたとしても、僕は捕まってはあげないけどね」


「うっ……ううっ……」


 どうしようもない事を理解したのか、シュウイチの母親は、子供の死体に取りすがって泣いていた。


「く、くそおっ! 返せ! 子供を返せ! ちくしょうっ!!」


 シュウイチの父親は、そう叫んでタケルに掴みかかろうとしたが、目に見えない何かに弾き飛ばされ、却って自分の方が床に倒れこむ事になった。


「ううっ……か、返せ……子供を返せえっ……もう一度会わせてくれえっ……」


 そう言いながら下を向き、床に這いつくばって涙声になる父親に、タケルは優しく声をかけた。


「ふふっ……。そんなに会いたいんだね……。なら、良いよ?」


 タケルのその言葉に、両親は二人とも、「えっ?」という表情になり、顔を上げてタケルを見た。


「はい、っと……」


 タケルがそう言って指をパチンと鳴らすと、シュウイチの体が大きく咳をした。


「ゴホッ! ゴホッ……。あっ、お、俺は……!?」


 生き返ったシュウイチに、二人は驚きの表情を見せた。


「シ、シュウイチが! い、生き返った!」


「おおっ! シュウイチ! 大丈夫か!」


 シュウイチを抱き締め、歓喜の声を上げて涙を流す二人を、タケルはそばでしばらく見ていた。


 が、やがてタケルはゆっくりと三人に近寄ると、シュウイチの方を指差した。


「ぐっ……? ううっ……」


「えっ? ど、どうしたのシュウイチ!」


「な、何だ? シュウイチ、おいシュウイチ!」


 再び急に苦しみ始めるシュウイチに、さっきまで喜んでいた両親には困惑の表情が浮かんだ。


 その二人の後ろから、顔を覗き込むようにしながら、タケルは二人に声を掛けた。


「さあ、もう良いよね? また会えたんだから」


 タケルの言葉と共に、シュウイチはまたがっくりと首を垂れ、動かなくなってしまったのである。


「あ……」


 目の前で何が起こっているのかまだ理解できていないでいる両親の二人の横で、タケルはシュウイチの方を見ながら静かにつぶやいた。


「シュウイチ君も親不孝だなあ……。2度も、親より早く死んじゃうなんてね……。僕に従ってれば、まだ良かったんだけどね……」

シュウイチは、二度殺されました。

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